第3話 褒賞品
「久しぶりだな、坊主。元気だったか?」
ファリーナ郊外のリコの屋敷、リコの自室で俺はグレゴリウスのおっさんと会っていた。
今は、グリフォントゥルスの襲撃から約4ヶ月、フォディーナ王国での事件から2ヶ月ほど経っており、11の月も半ばを過ぎているのだから、確かに久しぶりと言えるだろう。というか、そんな些細なことより気になることがある。
「確かに久しぶりだがよ。おっさん、なんかデカくなってないか?」
グレゴリウスは以前から筋肉の塊といった身体つきをしていたが、以前見た時よりも一回りか二回りかは身体が大きくなっているように見える。
「お、分かるか?この間のグリフォントゥルスの時は不甲斐なかったからの。レベルを上げるのは難しいだろうから、身体能力を上げるために初めて身体を鍛えてみたら、こうなったってわけだ。」
「グレ爺の身体、確かに前より大きくなってるね。鍛え直しは終わったのかい?」
リコの質問にグレゴリウスはブンブンと首を振る。
「いや、まだだ。この際、100歳頃の全盛期と言われたワシを超えようと思ってな。身体を鍛えるのもそうだが、魔力の方も鍛えようかと思っておる。それに、レベルアップも無理かもしれないが、諦めてはいないぞ?」
そう言ってグレゴリウスはニヤリと笑う。どうやら強くなりたいという意欲に溢れているみたいだ。
前に一緒に戦った時のおっさんは、強くはあったものの、ここまでの貪欲さは全く感じなかったんだけどな。
リコが昔行った魔力についての研究によれば、筋肉と同じように、魔力を枯渇寸前まで使うことを繰り返せば、基本的には魔力の最大値、いわゆる魔力量は増えていくらしい。
ただ増える量はレベルアップに比べれば微々たる物だし、枯渇寸前まで魔力を使用するのは下手をすれば命の危険があること、また、いざという時に魔力枯渇で戦えないこともあって、殆ど普及していない鍛練法だったりする。
まあ、リコの屋敷に居候している今はリコの監視の下、ギリギリまで魔力を絞るような鍛練を俺は毎日のようにやってるわけだが。・・・枯渇寸前まで魔力を絞ると、身体はだるくなるし、高熱が出たみたいに具合が悪くなるんだよな。
そんな過酷な鍛練をやろうとしてるんだから、おっさんの本気が伝わってくるわ。何というか、前より生き生きしてる気がする。
因みに、ミクの場合は血魔石の影響で常に魔力が欠乏している状態だから、俺のような鍛錬は行っていなかったりする。
「あの時は世話になった。グレゴリウス殿。私の事は覚えているだろうか?」
そのミクがいつ間にか、おっさんに話しかけていた。
「おう。覚えているぜ、嬢ちゃん。グリフォントゥルスの件が片付いてから直ぐに鍛練の旅に出たから、そういえばまだ挨拶してなかったな。ワシの名はグレゴリウスだ。よろしくな!」
「・・・私の名前はミク・シロガネだ。こちらこそ、よろしくお願いする。」
そういえばこの2人、挨拶すらしてないんだった。ミクは顔を上気させながら名を名乗っているが、これはグレゴリウスが好きだから。・・・ではなく、自分の名前を名乗る機会があまり無かったのを名乗れたから嬉しいんだろうな。
元々は帝国の人体実験の被験体であるミクには名前が無かった。『出来損ない』として存在を否定され続けた彼女にとって、俺とリコがつけたミク・シロガネという名前は、自分がそこに生きている証明で、大切な宝物になっているらしい。
初めてファリーナの受付でハンターズカードを提示したミクが得意げな顔をしていたので、後で理由を聞いてみた事がある。
「私にとって名前は宝物だ。だから、名前を名乗ったり、名前が書いたハンターズカードを提示したりする時は誇らしい気分になるのだ。・・・放って置いてくれ!」
微笑ましい理由に思わずニヤニヤしていると、恥ずかしくなってきたのか、真っ赤な顔をした涙目のミクにそっぽを向かれてしまい、機嫌が直るのにしばらく時間が掛かったっけ。
普段はクールな印象だからドヤ顔をすると、ギャップで余計に可愛く見えるんだよな、ミクは。
「ところでグレ爺。鍛え直しが終わってないのにわざわざ僕の屋敷に来たんだから、何か用事があったんじゃない?」
「おお。そうだったわい。」
俺が回想している間にリコがグレゴリウスに来訪の理由を尋ねると、グレゴリウスは側に置いていたバックパックを漁り出す。
「ほれ、アウグスト王からの届け物だ。」
そう言って、グレゴリウスは次々と武具を取り出していく。リコの自室は広大な敷地を誇る屋敷の主人の部屋であり、屋敷の個室の中では1番大きく、かなりの広さがある。ハンターズファリーナ支部の支部長室の2倍くらいはあるんじゃないだろうか。
リコは研究者になるくらい好奇心が旺盛なため、俺から見ればガラクタにしか見えないような古代文明の遺物などの大量の私物を所持しているが、そういった類のものは全て研究室の方に置いてあり、自室は広さの割にかなり物が少なく、余ったスペースがかなりあった。
その余ったスペースに、グレゴリウスは所狭しと武具を並べたのだった。
「こいつは凄え!」
大量に並べられた武器や防具だが、俺が普段使っている物とは明らかに格が違う出来栄えだ。ひと目で分かるその威容に俺は思わず声が漏れる。
周囲を見ればリコは興味深そうに眺め、ミクはその満月色の瞳を輝かせていた。
まず目を引いたの武具とは関係無さそうなネックレスだ。おそらく魔力の通りがいいミスリル銀で作られた台座は何かの花を模した美麗なもので、その中心と四隅に大粒の真珠のような珠が嵌まっている。一流の職人が作った宝飾品の様にしか見えない。
「そいつはアダマンティスマトゥラの鱗の核を使ったネックレスだな。魔力を通すことによって魔力障壁を展開できるらしいぞ。武器や防具を希望しなかった魔導士の嬢ちゃんへの品だそうだ。」
つまりトリス用の魔導具っことか。地鎧竜の魔力障壁を張れるなら、かなりの防御力が期待できるな。というか、トリスの火力に地鎧竜の防御力ってヤバくないか?
次に目についたのは艶のある漆黒色の手甲だ。ゴツゴツした突起物が所々についたソレはまさに凶器そのもので、少し小さいが何というか凄みがある。こんな物で殴られたら、大抵の魔物はあっさり殺られるんじゃないだろうか。
「そいつはナックル使いの嬢ちゃん用らしい。アダマンティスマトゥラの甲羅とアダマンタイトを混ぜてわせて作った合金で出来てるんだってよ。単純に硬くて丈夫だし、特殊なギミックもつけてるらしいが。・・・ところで、格好がいつもメイド服ってのは本当か?」
「本当だ。・・・理由は知らねぇ。」
エリ用の手甲らしい。服装については本当にいつもメイド服なんだよな。生地が厚くなったり、薄くなったり、何種類かあるみたいなんだが。
なぜそこまでメイド服に拘るのか謎ではあるが、理由は聞けていない。フォディーナ王国を出る頃には何故かエリから妙に警戒されて始めたからなんだが、なんでだよ。
「防具の類も用意してるぜ。坊主にはコレだな。」
そう言ってグレゴリウスが指差したのは、エリの手甲よりも色は薄いが全体的に黒い色をしたチェストプレートだった。突起物はないが所々に金色のラインが入っており、妙に高級感が漂っている。
「アダマンティスマトゥラの甲羅とミスリルを繋ぎ合わせて作ったらしいがワシには詳しいことは分からん。だが、見た目よりかなり軽くて頑丈らしい。そっちの小手と脛当てもセットだな。」
多分これ、アダマンティスの魔法鎧なんか目じゃないくらい高いんだろうな。防御力は大幅に上がりそうだが、高級品過ぎて身に纏うのが怖いわ。
「それからこっちの黒い服はグリフォントゥルスの羽を糸して作ったもので、鎧の下に着る為の下着だが、並の鎧より遥かに防御力があるってよ。同じ糸でミクの嬢ちゃんの装備も作ってるから、後で試してくれ。・・・戦闘用メイド服もあるがな。」
超高級であろう糸を贅沢に使った服がズラリと並ぶ。その境遇の為か、自分の持ち物をあまり持っていないミクは嬉しそうに服を触っている。しかし、戦闘用メイド服って一体なんだよ。
「で、コイツが最後だな。」
一通り武具を紹介した後に、グレゴリウスは再びバックパックを漁り出す。そうして取り出したのは、刃渡り130メル程の大きな刀が3本、それより少し小さめの刃渡り110メル程度の刀が1本だった。
「これは?」
「大きい方は坊主、お前の刀だ。受け取れ。」
差し出された刀を3本とも受け取り、その内の1本を武骨な黒塗りの鞘から抜いてみる。
全体的に薄っすらと紫がかっているのは多分グリフォントゥルスの角を素材として使った影響だろう。燃え盛る炎のような刃紋が際立っており、一目で業物と分かる出来だ。
「グリフォントゥルスの角とオリハルコン、不死鳥の羽を混ぜ合わせた特別製だとよ。リコのリクエストで攻撃力より耐久性を重視したらしいが・・・。攻撃力も普通のオリハルコン製の武器より強そうだがな。」
耐久性重視とは言っても、今まで扱ってきた武器に比べれば攻撃力は圧倒的に上だろう。
硬さや耐久性ならアダマンタイトが、魔力の伝導率や増幅ならミスリルがオリハルコンを上回っているらしいが、オリハルコンは最高の魔法金属と言われている。
それは耐久性や魔力の伝導率の双方をハイレベルで備えていることと、混ぜ合わせる素材の特性を最大限に引き出す効果があると言われているからだ。
つまりグリフォントゥルスと不死鳥の羽の特性が引き出される事になる。・・・って、不死鳥の羽って渡した覚えがないんだが。
「ちょっとした考えがあって耐久力重視にさせてもらったよ。不死鳥の羽もその為に僕が提供したんだけどね。」
俺が手にした刀を満足げに見ていたリコからそんな声が掛かった。
「師匠。ちょっとした考えって何なんだ?」
「君のギフトについて少し実験をしたくてね。まあ、また後で説明するよ。それより、ミクちゃんが最後の刀を見たくてウズウズしてるみたいだけど?」
実験の一言には嫌な予感しかしないが、ふとミクの方を見ればグレゴリウスが持つ最後の刀を期待に満ちた眼差しでじっと見つめていた。アレは多分、ミクの為に打たれた刀だろうしな。
「待たせたな、ミクの嬢ちゃん。これがアウグスト王・・・世界最高の鍛治士であるワシの弟の最高傑作とも言える一本。銘は『雷帝』だ。」
誇らしげにそう言ったグレゴリウスは、青みがかった黒色の鞘を握ってミクに刀を手渡す。鞘には銀色の花が数輪あしらわれており、上品な雰囲気を醸し出していた。
ミクは丁寧な手つきで刀を受け取ると、ゆっくりと鞘から抜いていく。芸術品のような鞘から現れたのは俺の刀よりも紫の色がやや濃ゆい地肌に、雷のような刃紋が走る、実に優美な刀身だった。しかも美しいだけではなく、何というか武器としての凄みも感じるな。
「・・・これは凄いね。素晴らしい出来栄えだと思うよ。しかも銘が付いてるって事は創神クリスタリウスに認められた品ってことだし、中々あることじゃない。」
珍しく驚いたように呟くリコ。
あらゆる道具を作り沢山の神具を創ったと伝わっている創神クリスタリウスは、この世界で作られた品で特に気に入った物には名付けをすると言われており、その名前を銘と呼んでいる。
銘が入れられた物は劇的に性能が向上し、特殊な効果を発揮することが多い。人種でいうギフトのような物だな。
この為、ありとあらゆる職人が銘入りの物を作ることを目指しているが、一流の職人でも銘入りは一生に一度あるかどうからしく、非常にレアな代物だ。
そんなものを世界最高の鍛治士が作った武器で引き当てるなんてミクは強運だわ。
「・・・手に持つだけで凄さが伝わってくるようだ。実際に使って模擬戦をしたいのだが、良いだろうか?」
感嘆とした声をあげたミクはワクワクした様子を隠し切れずに、探る様な目でリコを見る。新しい武器の試し斬りをしたいんだろうな。気持ちは分かるが、この場合、相手にするのは俺なんだよな。
鍛練場では死ぬことはなくても感触は残るわけで、あんな凄い刀で攻撃されたくは無いんだが。
「駄目だよ。その刀も含めて、その武具全部に今夜から僕の魔法を付与するんだからね。」
首を振るリコにあからさまに残念がるミク。その様子はまるで、散歩を拒絶された忠犬みたいだ。ミクには無いはずの尻尾が垂れ下がるのが見えた気がするわ。
「・・・ミクちゃんは仕方のない娘だね。出来る限り急ぐから明日まで待ってくれるかい?」
「本当か、リコ殿!感謝する!」
ため息を吐きながら妥協案を提案したリコの言葉に、ミクの笑顔が弾ける。
垂れ下がっていた尻尾がブンブンと振られる様を幻視した俺は、明日の模擬戦の事を考えるとやや憂鬱になるのであった。
ようやくアウグスト王が約束した装備品の数々が届きました。細かな能力については、また後ほど物語の中で出していきますので、その時まで楽しみにしておいて下さい。
なお、クロの装備品については尺の都合上、省略されてますが、ちゃんとあります(笑)




