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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第1章 銀の少女
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第4話 技無し

 ニルと出会った満月の夜から半日以上が経ち、俺はハンターズのファリーナ支部から呼び出しを受けていた。


 シルバーデビルに襲われそうになった農民がハンターズに助けを求めたらしく、ニルが立ち去った後に応援のハンター達が山のようにやってきたのだ。

 2体のシルバーデビルの死体をどう運ぶか悩んでいた俺はこれ幸いと幾ばくかの報酬と引き換えに彼等にハンターズまでの死体の運搬を依頼したのだが、状況的に俺がシルバーデビルに関わっている事(実際に一体は俺が倒している)は明らかであり、事情聴取の為に呼び出されたのだ。


 まあ、ハンターズに死体を運び込んで解体と素材の買取を依頼するため、どちらにしろ俺はハンターズに行かなければならなかったが。

 シルバーデビルはシーミアと呼ばれる猿のような魔物の異常種(アブノーマル)であり、立て続けに2匹も出現するような魔物ではない。

 その為の事情聴取だろう。異常種(アブノーマル)が出現する原因はハッキリ分かっていないが、稀に自然にできる魔素溜まりの魔素を限界以上に取り込んだ結果、種の限界を超えた進化をするのではないかと言われている。


 俺はファリーナの街の中心部に位置する神殿へとやって来た。

 ハンターズは大体が神殿内に併設されているし、ファリーナ支部もその例外ではないからだ。

 顔見知りの門番に挨拶をしつつ、白い建材を基調とした石造り風の巨大な建物の中へ入る。

 正面の回廊を奥に進み、突き当たりを礼拝堂に続く正面の大きな扉ではなく、右側にある木製のスイングドアを通ると、そこは既にハンターズのスペースだ。


 200人くらいは余裕をもって収容できる半円形の広間には依頼内容毎に分別された掲示板に依頼票が張り出されている。

 ハンターズは元々魔物を狩るハンターの互助組織が発展して出来上がった組織な為か、討伐系の依頼が多いが、他にも素材採取や護衛任務、物品運搬、探し物など様々な依頼がある。


 広間からは打ち合わせをする為の会議室や、主に魔物を狩るの必要な情報を集めた図書室、武具や道具など様々なものを販売する店舗が集まった商業区、魔石を神具に奉納し抽出した魔素で魂を強化する奉納堂、ハンター達が技を磨く訓練所など様々な施設に行く事ができるが、今の俺には用はない。


 依頼を請けるハンター達で混雑するロビーを奥へ突き進み、受付カウンターに進もうとする俺にガラの悪そうな見慣れない男達が行手を塞いできた。薄汚い革鎧を着て、粗雑な剣を携えた髭面の男が6人だ。


「あー。あんた達。見慣れない顔だけど、何か俺に用事か?」

 嫌な予感がしつつも、声を掛けてみる。

「オメェがノールか?昨日の夜、他人が倒した異常種(アブノーマル)の死体を運び込んだんだろ?技無しのオメェよりも俺ら前途有望な若者が使ってやるから、その死体を寄越しな!」

 すると男達の真ん中にいた一際体の大きい人相の悪い男が目眩がするような発言をする。


「一応言っとくが俺はちゃんと倒してるぞ。俺が技無しなのは事実だが、それとお前らに死体を譲るのは別問題だ。見たところアイアンランクか?それなりに歳は食ってるようだし、前途有望じゃなく前途多難の間違いじゃないのか?」

 寝言を言う輩に丁寧な対応をする必要はない。技無しについては気にしていることもあるが、軽く煽ってみる。


 周囲のハンター達は怒声を聞きつけて何事だとこちらに視線を向けて、俺を見た瞬間にほぼ興味を無くし、更に汚らしいゴロツキどもに対して哀れみの視線を送っている。

 ・・・誰か助けてくれてもいいだろうに解せぬ。


「何だと、テメェ!英雄にエコ贔屓されていると思って、丸腰のくせに生意気言ってんじゃねぇぞ、技無しが!」

 煽り耐性が無いのか、すぐに顔を真っ赤にした先頭の男が暴言を吐きつつ、抜刀して俺に斬り掛かってくる。ハンターズ内は抜刀禁止なんだがな。


 先頭のゴロツキが剣を俺に振り下ろす前に、一足に懐まで踏み込んだ俺は、ガラ空きの汚らしい顔面に右拳を程々の力でぶつけ、そのまま振り抜いて奴の頭を白い床へ叩きつける。

 突然の出来事に呆気に取られている取り巻き達には、それぞれ比較的強目の力でボディブローをお見舞いしといた。革鎧を着てるし、ボディブローなら死にはしないだろう。


 あっという間に床に転がるゴミを量産した俺が周囲に目を向けると、やっぱりこうなるか、という白けた空気が漂っていた。

「技無しのシルバーランクはランク詐欺だからな。シルバーランクより遥かに強いって意味で。」

 そう誰かが呟くのが俺の耳に入るが、それを無視して、転がっているゴロツキどもを踏み付けながら、俺は再び受付カウンターに歩いて行った。


 歩きながら考える。ハンターは魔石をハンターズにある神具に奉納し、得られた魔素と呼ばれるエネルギーを使ってレベルを上げる。

 レベルアップしたハンターは人によって覚えるタイミングや内容は違うが、戦士系は武技と呼ばれる武器を使った技を、魔法系は魔力を使った魔法を覚えていく。それが一般的だ。

 俺の場合は、レベルの上がりが人より遅かった上に、戦士系であるのにも関わらず、何故か武技を何一つ覚えられなかったのだ。


 それが俺が技無しと蔑まれる理由であり、ゴールドランクに昇格できない理由でもある。

 武技は神具に魔石を奉納した結果、神から与えられると言われており、それを与えられない俺は神々から呪われているのだろうと、陰口を叩かれていることが多いのだ。

 まあ、その代わりか分からないが、レベルアップ時の身体能力の上がり具合は圧倒的に高くなっているようだ。


 ・・・俺はどう言われてもいいが、俺なんかを弟子として扱ってくれたあの人も、無駄に忌み子を育てたと言われている事については、腑が煮えくりかえる思いだ。

 陰口を言う奴、武技を覚えられない自分、その両方に対して怒りを覚える。


 気がつくと受付カウンターに辿り着いていたが、両隣の受付カウンターは混雑しているのに、俺の居る受付カウンターにはハンターが誰もいない。

 見覚えのある受付嬢、名前はミランダだったか、に声をかけた。


「シルバーランクのノールだ。呼び出しを受けたんだが。それから、昨日持ち込んだ魔物の査定は終わってるか?」

「先程はお疲れ様でした。ノールさん。お久しぶりですね。支部長がお待ちですので、今から支部長室まで案内しますね。それから査定については今急いでやってますので、支部長との話が終わったら買取カウンターまでお越し下さい。」

「ありがとう、ミランダ。よろしく頼むよ」

 俺が名前を呼ぶと、ミランダはくりくりとした愛らしい茶色の目を一瞬見開いてニッコリと笑い、スッと立ち上がって、こちらへどうぞ、と受付カウンターの奥にある支部長室へ続く階段へと先導をする。


 立ち上がったミランダは120メル程度の身長しかなく、ハンターズ職員の青い制服と受付嬢の証である帽子を被った姿は、大人の仕事を背伸びして手伝う子供にしか見えなかったが、それは人族基準であり、彼女は既に成人した小人族の立派な大人である。


 さらさらと小刻みに揺れるミランダの金髪をみながら、階段を登り切りしばらく奥に進むと高級そうな落ち着いた色合いの木の扉が現れる。ミランダはノックをして呼び掛ける。


「支部長。呼び出しをしていたノールさんをお連れしました」

「そのまま中に入ってもらって。ミランダは受付に戻りなさい。」

「かしこまりました。では、ノールさん。中へどうぞ。私は失礼します。」

 中から聞こえた年若い声にミランダは答え、俺に一礼をして立ち去って行く。

 俺は改めてコンコンとノックをすると

「失礼します」と言って中に入っていく。


 支部長室は長方形をしており、入り口から奥まで1500メルはあるだろうか。幅も1000メルくらいはあり、かなり広い。

 複雑な幾何学模様が描かれた柔らかい絨毯が全面にしかれ、正面の壁際には重厚感のある大きな執務机が鎮座し、その上には書類が山の様に積まれていた。


 黒革の高そうな椅子に座った壮年の人族の男性が、一心不乱に執務机に向かって書類をチェックし、書き、判子を押し決裁をしていく。かなりのスピードだ。

 こちらを見向きもせず机に齧り付くその姿には疲労感が滲み出ており、非常に哀愁が漂っていた。

 その男性、副支部長のコリンズをかわいそうにと思っていると

「よく来たね。ノール君。君が異常種(アブノーマル)と2匹も遭遇したって聞いたからさ。細かい話を聞きたくてわざわざ来てもらったんだよ。まあ、僕が君に久々に会いたいっていうのもあったけど。」

 と、能天気な声が執務机の横から聞こえてくる。


 声の方に目を向ければ、執務机脇の来客用のソファーに深々と腰を下ろし、生い茂る夏の木々を思わせるような緑を基調とした、可愛らしくも動きやすそうな服を着た耳長族の女性が優雅にお茶を飲んでいた。

 隣の執務机のデスマーチと比べればすごい落差だ。


「お久しぶりです。支部長。」

 俺はその女性、リコ・キサラギに向かって挨拶をする。

 するとリコは片眉をぴくりあげて、翡翠色をした瞳で不機嫌そうにジトっとこちらを見てくる。

「よそよそしい態度はやめてくれないかな?僕は君のなんだったっけ?」

「・・・お久しぶりで。師匠。公的な場では支部長っ呼ばなきゃじゃなかったか?」

「呼び出し自体は公的なものだけど、ここは身内しかいないし、別にいいよ。取り敢えずソファーに座りなよ。」


 そう朗らかに言うリコの横で、コリンズが「私が居ますけど」と呟いたのだが、彼女の耳には届かなかったらしく、翡翠色の目を細め、楽しそうに微笑んでいる。

 そう、リコは俺の師匠と言える人だった。

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