第19話 地鎧竜アダマンティスマトゥラ
剣使いに槍使い、それから魔法士と3体のクグツを倒した後、俺とトリスは少し離れたところから聞こえる戦闘音の方向に向かって走っていた。
だが、もうすぐ音が発生する場所に辿り着こうかという時になって、ドガァンという轟音が響き渡り戦闘音は止まってしまう。
建物の間の路地を駆け抜け、建物がない広場に出た俺の目に映ったのは、全身に傷を負い血塗れになりながらも肩で息をしているミクの姿だった。
その側にはクロが居たし、少し離れたところに居るエリの元にトリスが駆け寄っていく姿が視界には入っていたが、ミクの痛々しい姿しか目に入らなくなり、俺は頭が真っ白になる。
「ミク!大丈夫か!」
「ああ。大丈夫だ。」
俺の問いかけに、ミクは何故か穏やかな笑みで答えてくる。よく見れば身体中の傷はいずれも軽傷のようで、疲労した様子ではあるものの、大丈夫のようであった。
「おやおや。結局誰も倒せなかったわけか。割と自信があったのだがね?」
俺がホッとしたのも束の間。聞き覚えのあるデノデラの陰湿そうな声が聞こえてくる。声の方を見ると、金属製らしき人形の生首があり、その口に当たる部分がデノデラの声がする度にカクカクと動いていた。
「・・・私が斬ったのは人形だったというのか。」
「ご名答。残念であったな。とはいっても吾輩の人形とクグツを同時に相手をして勝利するとは賞賛に値する。ミク・シロガネだったか。その名前、覚えておくとしよう。」
そう言って嘲笑うかのように人形はカタカタと音を立てる。
「ここ2週間ほど、亜人どもを使って思う存分研究が出来たのだ。おかげで吾輩の研究も目処がついたところである。やって来たハンター共も素材に使わせてもらったが、誰も帰らないとなると今度は高ランクのハンターが来るかもしれぬ。だから吾輩はこの実験場から退避させてもらったのだ。ふふ。諸君らのような魅力的な研究素材がやってくるのであれば、もう少し残るべきだったかもしれんがな。」
他の人種をやはり物としてしか見ていないデノデラに俺は怒りを覚える。
「テメェの下らない実験のために、『鋼の心』や他のハンター達、沢山の鉱夫が犠牲になったかと思うと反吐がでるぜ!」
「下らないとは失敬な。ふむ、『鋼の心』か。それなりの強さではあったが、折角吾輩が強化してあげたというのに、誰1人仕留めることが出来ないとは役立たずもいいところである。」
「この野郎!誰もあんな風になりたくてなったわけじゃねぇだろ!!」
そう。誰1人あんな風に操り人形のようになることを望んだ人種はいないはずだ。勝手に改造して勝手に役立たずと切り捨てるデノデラに対してさらに怒りが募る。
更に言葉を重ねようとしたその時、突如地響きがして地面が揺れ出した。
「ふむ。準備が出来たようであるな。名残惜しいが吾輩はそろそろ帝国に帰国させてもらおう。ちょっとした置き土産を用意させて貰ったので楽しんでくれたまえ。」
「デノデラ!貴様、何をした?」
「吾輩の実験の失敗作を残ったクグツ共を犠牲にして目覚めさせたのだよ。制御も何も出来なかった故の失敗作であるが、能力には申し分ない。魔力に飢えたヤツは当面止まらぬであろうな。それではさらばだ。フォディーナ王国ごと滅びなければ、今度あった時には吾輩の研究素材にしてくれよう。」
ミクの問いかけに、不穏な返事をしたっきり、人形は全く反応を示さなくなる。そう考えている間にも何か巨大なものがドシンドシンと地面を揺らし、ガラガラと建物を壊しながらこちらの方へ近づいてくる。
「一体何が来るっていうの?」
「お嬢様。私の後ろに下がってください。」
ガシャンと広場の端にある建物を盛大に壊して現れたのは1匹の巨大な魔物だった。高さは300〜400メルくらいだが、その全長はおそらく1500メルくらいはあるだろう。
身体はゴツゴツとした甲羅に覆われており、そこから伸びた手足や首、尻尾に至るまで装甲のような鱗に覆われており、まるで全身鎧を着込んでいるようにも見える。
特徴的な身体についている頭はトカゲを思わせるような容貌で、爬虫類特有の獰猛な瞳がその長い首を伸ばして俺達を見下ろしていた。・・・この魔物、心当たりがある。
「あれは、アダマンティスマトゥラか!」
俺が装備している魔法鎧の素材はミスリルランクの魔物であるアダマンティスの甲羅で出来ている。
アダマンティスはミスリルランクの中では圧倒的な防御力を誇る巨大な亀のような魔物で、アダマンティスマトゥラはその異常種になるんだが・・・。
「亀というよりも竜だな、ありゃ。」
異常種が通常の魔物と比べて、まるで別種のように見た目が大きく異なるのはいつもの事だが、アダマンティスマトゥラも同様に最早亀のような見た目とは言い難くなっている。
甲羅はあるものの亀のように楕円形ではなく細長い形状をしているし、顔は爬虫類だ。飛ばない竜のような魔物と言った方が近いだろう。通称、地鎧竜とも呼ばれていたはずだしな。
そして竜といえば・・・
「ブレスが来るぞ。避けろ!」
クロの緊迫した声と共に各人が回避行動をとる。地鎧竜の口から吐き出された緑色のブレスは誰に当たることもなく地面を撫でると、それに巻き込まれたデノデラの人形が一瞬にして腐れて崩れ落ちていく。
ブレスはブレスでも腐食ブレスかよ!厄介な。
『フレイムランス』
青色の炎を纏った巨槍をトリスが放って地鎧竜を貫こうとするが、魔力による多重障壁に阻まれて、それを突き破る事なく消え去ってしまう。
「ルイン」
俺はウーツ鋼製の大剣を取り出し、ルインを発動した状態で斬り掛かるが、魔力障壁を何枚か斬り裂いただけでその刃はやはり止まってしまう。
ミクも居合斬りを仕掛けていたが、結果は俺と同じようだ。分かっていたが硬い!
地鎧竜はアダマンタイトランクに認定されているが、その防御力は同ランク内でずば抜けて高く、並のオリハルコンランクの魔物よりも防御力が高いとされている。
巨大な甲羅と全身にびっしり生えた鱗はそれ自体が強固な防具のようなものだが、強力な魔力障壁を発生させる装置でもあるらしく、多重に展開される魔力障壁を打ち破る攻撃力が無い時点で地鎧竜を倒す事は不可能となる。
つまりもっと威力の高い攻撃を出せなければ、俺達に地鎧竜は倒せないってことだ。
「全然効いてないわね、あのトカゲ。」
「防御力だけなら並のオリハルコンランクの魔物より高いって言われてるしな。あの魔力障壁をぶち破る威力のある攻撃が出せないと倒せないんだわ。」
忌々しそうに呟くトリスに返事をしながら地鎧竜の方を見ると、腐食ブレスで汚染された地面の向こう側で長い首を伸ばして何かを貪り食っていた。
・・・食われているあれは人種か?地鎧竜の体内魔力量が増えていく??
「今食われたのは、私が倒した弓使いのクグツか?」
ミクのその台詞で俺は理解した。デノデラは去り際に『失敗作をクグツを犠牲にして目覚めさせた』と言っていた。
おそらく地鎧竜の魔力を何らかの方法で極限までに減らして動けないようにしていたのを、クグツを食べさせて魔力を回復させて解き放ったということだろう。
地鎧竜は同ランクの魔物と比べても攻撃力が低いわけではない。仮に俺が地鎧竜の攻撃をまともに喰らえば即死するだろう。
それなのにオリハルコンランクではなくアダマンタイトランクなのは、もとになったアダマンティスと同じく攻撃を加えないと襲ってこない凶暴性の低さも加味されているかららしい。
つまり準オリハルコンランクとも言える魔物なわけだ。で、凶暴性が低いはずの地鎧竜は今、つまみ食いが終わってギラついた目で俺達を見ている。これは餌として見られている気がするわ。
『クァアアア!』
地鎧竜の咆哮に合わせて優に百を超える石が浮かび上がる。・・・土魔法、ストーンバレットか!
「全員通路へ逃げ込め!コイツの巨体じゃ通路は通れない筈だ!!」
クロの声と同時に彼が投げたらしき球体が爆発して目眩しのためなのか煙幕が発生する。
煙幕で視界が塞がれているはずだが、そんな事はお構いなしに発射された石礫を回避しつつ、俺達全員がおそらく第三野営地跡地に繋がる通路へ逃げ込む事に成功する。逃げ込む寸前に石礫がギリギリ俺の顔を掠めて、地面に突き刺さったのは危なかったわ。
頬に垂れた血を拭いながら通路の出口を見れば、地鎧竜は出入口の縁に身体が引っかかってココには入って来れないらしく、ジタバタもがいていた。
「助かったぜ、クロ。ありがとな。」
「気にするな。だが、今からどうする?」
地鎧竜を倒さないと鉱石を採掘する事は出来ないだろう。だが、さっき攻撃した感触では生半可な攻撃では倒す事は出来そうにない。
このまま第四野営地に閉じ込めて魔力の枯渇を狙う手もあるかもしれないが、それだと時間がかかり過ぎる。ふと地鎧竜の方を見れば少しずつ通路の方へ入ってきていた。引っかかってたんじゃねぇのか?
「これは・・・通路の壁面がドロドロになってきています。アダマンティスマトゥラが土魔法で操作してるかもしれません。」
エリが壁を触るとさっきまで固かったはずの壁面が泥のように液状化して柔らかくなっていた。しかも通路の泥化が段々と早くなっている。土魔法が最適化されていってるってことか?
このままだと通路の幅に関係なく俺達を追いかけて来るようになるだろう。この通路に引き篭もれる時間は長くなさそうだな。どうしたもんか。
「ねぇ、ノール。もっと威力のある攻撃を当てればあのトカゲを倒せるのよね?」
考え込んでいるとトリスが話しかけてきた。
「ああ。さっきのトリスのフレイムランスも何枚か魔力障壁を破っていたから、アレの数倍威力がある攻撃を当てれれば倒せる可能性はあるな。」
そう返事をすると少し考える仕草をしたトリスは、おもむろに懐から取り出したポーションを一気に煽ってから口を開く。
「今魔力を満タンまで回復させたわ。アタシの全魔力を使った魔法を当てれば多分ヤレると思う。坑道みたいな閉鎖空間でその魔法を使ったら威力があり過ぎてみんな焼け死んじゃうし、外でやっても制御に失敗したら周囲にどんな被害がでるか分からないけどね。」
そう言って俺の顔を覗きこんだトリスは自信に満ち溢れていて、その藍玉色の瞳はキラキラと輝いていた。
アダマンティスマトゥラさんの登場です。
第2章も後数話で完結しますが、自分の遅筆ぶりに絶望する今日この頃です。
楽しんでもらえたら幸いなのですが、取り敢えずエタらないように頑張りますので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。




