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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第2章 金の魔導士
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第15話 トリスの信頼

 第二野営地跡地に着いた俺達の前に現れたのはやはりゾンビだった。だが、先程遭遇した鉱夫姿のゾンビとは様子が違った。

 剣や槍、弓などの武器や、盾、金属鎧、革鎧などの防具で武装していたのだ。その数は20体くらいはいるだろうか。

 完全武装の集団がそれだけいれば、それなりに圧力を感じるな。こちらはトリスと2人だけだし。


『吾輩の実験場へようこそ。なかなか遅かったではないか。』

 どこからともなく、陰湿な男の声が聞こえてくる。

「誰だ!?」

 声はすれども気配は感じない。周りを見渡すがゾンビ以外に人影は無かった。野営地跡地はどこも障害物が全く無く見通しはかなりいいため、見逃しているという事はないだろう。

『聞きたいなら答えてやろう。吾輩の名はデノデラ。栄えあるセプトアストルム帝国の生命科学研究所の所長の座と男爵位を陛下より拝命しておる。』


「・・・デノデラ男爵は陛下から引き立てられて今の地位についているけど、違法な人体実験を繰り返していた(マッド)科学者(サイエンティスト)として帝国内でも昔は指名手配されてた人種よ。あと、魔導士としても有名ね。」

 小声でトリスがそんな事を伝えてくる。・・・なんでそんなヤバい奴がこんなとこにいるんだよ。というか、今回の異常は絶対コイツが原因だろ。


「その帝国貴族様がこんな坑道の中で何をしてんだ?」

『ちょっとした実験をさせてもらっておる。君達の目の前に居るのは実験の成れの果て。まあ、失敗作だな。』

 失敗作と言われたゾンビ達をじっと観察しているとある事に気付いた。装備している武具に統一感がない。

 大抵のハンター達は自前で装備を調達する為に同じパーティーと言えどもその装備に統一感は無い事が殆どだ。

 そして質的にはゴールドランクのハンターが使うような武具を装備している。つまりこのゾンビ達は・・・

「もしかして、このゾンビ達は坑道調査に来たゴールドランクパーティーか!?」

『ご名答。普通のゾンビは生前と比べてやや能力が落ちるが、吾輩が作ったこのゾンビ達は特別製でね。生前よりも強くなっているはずだ。役に立たない穀潰しのハンターが、研究素材として吾輩の役に立ったわけだから、素晴らしいと思わないかね?』

 な、なんて野郎だ。人種の命を何とも思ってねぇ。ただの素材として扱ってやがる!

「この野郎!命を何だと思ってやがる!!」

『やれやれ。先程も『出来損ない』から似たような事を言われたが、この吾輩の役に立つのだから寧ろ光栄と思ってほしいものだね。』

 ・・・出来損ない、だと?ミクの事か。コイツ、ミクに何かしやがったのか。

『君がグリフォントゥルスを倒したハンターなのだろう?性能チェックの相手としては申し分ない。さあ、吾輩の実験に付き合ってもらおうか!』

 デノデラがそう言うと、元ゴールドランクのゾンビ達は一斉に襲い掛かってきた。


「トリス。俺は防御に徹する。さっき言った通り、オマエの事は必ず守るから安心しろ。その間にトリスの魔法でゾンビどもを倒してくれ!」

「分かったわ。っていうか今からやる!『フレイムランス』って、ひゃぁ!」

 弓使いのゾンビがトリス目がけて放ってきた矢に驚いたのだろう。今まさに放たれようとしていたフレイムランスは、その軌道が大幅に逸れて中央の天井辺りを貫く。


 通路を崩落させた時と違って一本だけだが、遥かに太くて長大なフレイムランスはその威力も桁違いなのだろう。天井に設置してあった魔道具らしき複数の黒い箱をまとめて破壊し、大量の瓦礫を落下させて数体のゾンビがそれに巻き込まれていた。

「守るって言っただろう?魔法の制御のことだけ考えろ!」

 最初の矢を含めて次々と迫り来る矢をウーツ鋼製のロングソードで斬り落としながら俺はトリスに言った。


「わ、分かってるわよ!みてなさい。『フレイムピラー』!」

 弓使いのゾンビとそのそばに居た詠唱途中の魔法士らしきゾンビは、トリスの力ある言葉に応えて地面から出現した炎の柱に貫かれてあっさりと消し炭になる。

「やったわ!」

「その調子だ。どんどんやってくれ!」

「了解よ。アンタもしっかり守りなさい!」


 そう言ったトリスは魔法だけに集中する為か戦闘中にも関わらず目を瞑ってしまう。確かに指一本触れさせないとは言ったが、目まで瞑るか?

 どうやら大きな魔法を使うつもりらしく、背中越しでも後ろに居るトリスの中で高まる膨大な魔力が感じられた。

 ・・・ここまで信頼されたら、意地でも守り通さねぇとな!

その信頼がどこか心地よく、俺も気分が高揚していく。

 ふと見ればいつの間にか近くまで寄ってきた3体のゾンビがそれぞれに手に持った槍で俺やトリスを狙って槍を突き立ててくる。3方向から時間差で仕掛けられたその鋭い攻撃は通常の俺なら捌ききれないだろう。だが・・・


「ウェポンブレイク!」

 気合と共に発動したウェポンブレイクが俺の能力を急激に引き上げる。途端にさっきまで鋭く見えていた突きが、緩慢なものに見え始めた。

 先ずは俺の頭を穿とうとする槍の穂先を斬り飛ばす。後ろにトリスが居ないなら躱してるんだがな。

 次に俺の鳩尾をぶち抜いて、トリスまでまとめて串刺しにしようとする槍の先端を身体を半回転させて躱し、真横から柄を叩き斬った。

 最後に横凪にスイングして俺たちをまとめて薙ぎ倒そうとしていた槍を下から跳ね上げる。

 それは時間にして1秒にも満たないであろう攻防だった。


 跳ね飛ばされた槍が空中をくるくると舞って、地面にその穂先がザックリと刺さった時、トリスの準備は完成する。

「待たせたわね。まとめて燃えなさい!『フレイムトルネード』!!」

 カッと藍玉色の瞳を見開いたトリスの力ある言葉に従って、第二野営地全体を覆うほどの巨大な炎の竜巻が発生し、その炎は部屋中を舐めまわし、術者周辺(トリスと俺)以外を焼き尽くした。


「アタシが本気を出せば、ざっとこんなもんよ!」

 胸をそらして偉そうにしているトリスだったが、そうされても納得するくらいの威力が、先程の魔法にはあった。

 トリスと俺が立つ場所以外は全てが炎にさらされ、ゾンビ達は跡形もなく燃え尽きている。ゾンビ達がしていた装備は辛うじて形が分かる程度の残骸しかない。

 そして、第二野営地跡地全体が先程まで無かったガラス質の層に覆われている。この広範囲を土がガラスに変わるほどの高熱で焼き尽くしたという事だろう。凄まじい威力と効果範囲だな。


「ああ。大したもんだ。ここまで広範囲に高威力の魔法が使えるやつはそうはいないだろ。よくやったな。トリス!」

「ありがとう。でも、上手く制御出来たのはアンタのおかげだわ、ノール。ありがと!」

 大魔法の成功に興奮しているのか、頬を紅潮させながらトリスが礼を言ってくる。俺の方を見上げる藍玉色の瞳は一際綺麗に輝いていた。


「同じパーティーだし、気にすんなっての!」

 その輝きに何故か気恥ずかしくなった俺は思わず目を逸らしながら、早口で次の台詞に繋げた。

「それよりも先を急ぐぞ、トリス。デノデラとかいうクソ野郎のことだ。きっとミク達にも何か仕掛けてるに違いねぇ。」

「ええ、そうね。エリが心配だわ。行きましょう!」

 こうして俺とトリスの2人は第四野営地へと足早に進んでいくのであった。

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