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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第1章 銀の少女
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第3話 ニル

 状況からして、目の前の人物がシルバーデビルにやられそうになった俺を助けてくれたのだと思う。身長は大体170メルくらいだろうか。


 背中に垂れる長い銀髪、ノースリーブの黒いレザージャケットから覗く白く細い腕、黒いレザーショートパンツからはしなやかな脚がすらりと伸びる。

 くびれたウェストと合わせて全体的に華奢で丸みを帯びた身体は、明らかに女性のものだ。

 そしてもっとも特徴的なのはピンと横に伸びた大きな尖った耳。それは普通は人里離れた森の中に集団で暮らしている耳長族の象徴だった。


「そこの人族。何を呆けている。戦いの邪魔だからさっさと消えろ!」

 シルバーデビルを警戒する為だろう。俺の方を振り向かないままに、彼女は高く冷たい声で言い放った。


『グルァアア!』

 言葉を発したことで意識が逸れたと思ったのか、ジッと隙を窺っていたシルバーデビルが彼女に飛びかかった。

「あぶな・・・!」

 死にかけて感覚が鋭くなったのか、シルバーデビルが怪我をして動きが鈍っているのか、今度は飛び掛かるその姿が俺にもはっきりと見える。


 シルバーデビルは勢いよく地面を蹴って接近すると、残った右腕を彼女に向かって打ち落とす。だが、その拳が到達する事は無かった。

『ギィヤアァァァァア!』

 右腕も肘から上を切り飛ばされたからだ。シルバーデビルの絶叫が響き渡る中、俺は戦慄する。


 ・・・全く動きが見えなかった!

 彼女が持つ刀の切先が地面を向いていたのが、右斜上の空に向けられていること、刀に纏わりつく赤黒い血の量が増えたことで何か動いた事は分かるが、その軌道については全くだ。


「向かって来なければ良かったものを。」

 彼女がそう呟くと、逃げようとしたシルバーデビルの両脚が真横から切断され、更なる追撃で断末魔をあげる間もなく頭の中心から縦に真っ二つにされた。


 ゴールドランク上位の魔物であるシルバーデビルのあまりにもあっけない最期に、俺は言葉を失い立ち竦む。

 そんな俺の存在を気にする事なく、銀髪の耳長族は刀に纏わり付いた血を振り落とすように地面に向かって軽く刀を振うと、左腰の細かな細工が施された優美な鞘に刀を納める。

 そして、真っ二つになったシルバーデビルの左半身の胸の辺りにその華奢な右腕を突っ込み、ずるりと何かを取り出す。おそらく心臓の辺りにある魔石を取り出したのだろう。


「・・・ん?まだ居たのか、貴様は。」

 そう言って彼女がようやく俺の方に振り向いた。初めて見ることができたその顔に、俺は見惚れてしまう。


 満月のような金色の瞳をした切れ長の目に、筋の通った上品な鼻、鮮やかな赤い色をした瑞々しい唇、肩より少し下まで伸びたさらさらと艶のある銀髪は月明かりを纏ってより一層に煌めいて神々しいくらいだ。

 耳長族は元々端正な顔立ちの者が多いと言われているし、俺も耳長族には多少知り合いがいるが、ある1人を除いて彼女は正に別格だった。


「・・・何をジロジロ見ている。私の言葉は聞こえているのか?」

 不機嫌そうに言葉を続けた彼女に、俺は慌てて返事をする。

「っと!すまねぇ。・・・色々衝撃的でな。先ずは危ない所を助けてくれて感謝する。俺はノール。あんた、名前は?」

 眉間にシワを寄せながらも、彼女は答えてくれた。

「ニルだ。貴様が助かったのは全くの偶然だがな。私はこの猿を倒したかっただけだ。」


 ・・・ニルは古代語で無とかゼロとかいう意味の言葉だったはず。見た目は16歳くらいの少女だし、正直、性差に関わらず人につける様な名前では無い。

 しかも、耳長族は風習として、例え平民だろうと名字を持つから、明らかな偽名か。


「俺はシルバーランクのハンターで、ファリーナを拠点にしているんだが、お前さんもその腕前ならハンターなんだろ。この辺りでは珍しい耳長族のようだが?」

「・・・私は北の方から来た。拠点を置かない流れのハンターだ。ランクは確かアイアンだったか。」

「なっ!アレでアイアンとか有り得ねぇだろ!!あの強さなら、ニルは最低でもミスリルランクかと思ったんだが。」

 驚愕の余り詰め寄る俺に、ニルの態度はそっけないものだった。

「余り近寄るな。むさ苦しい。私はランクなど興味がないが、ハンターズの職員は何やらレベルが足りないとか言っていたような気がするな。」


 最低ランクのブロンズからアイアンへ昇格は、アイアンランク以上の魔獣の魔石をハンターズの神具へ奉納する、と言った条件の為、魂の強化段階=レベルは関係がない。

 アイアンからシルバーへの昇格はレベル15以上が条件だったか。


「・・・まあ、何にしろ貴様には関係ない事だ。では、さらばだ。」

 ニルはそう言って何処かに立ち去ろうとする。

「ちょっと待ってくれ!俺もハンターの端くれとして、命を救ってくれたのをありがとうってだけで済ませられねぇ。それに、さっき倒したシルバーデビルの死体から素材を回収しないのか?そこそこ金になると思うが。」

「ふん。そんな馬鹿でかい死体など運んでいく方が面倒だ。私は魔石があればいい。」

「なら、さっき俺が倒したそっちのシルバーデビルの魔石を持って行ってくれ。」


 俺がウェポンブレイクで首を跳ね飛ばしたシルバーデビルを指差しながら言うと、その死体を見てニルは怪訝な顔をする。

「・・・一振りで首を綺麗に跳ね飛ばしているな。これ程の腕があれば、私が斬ったシルバーデビルも倒せたのではないか?」

「はは。ちょうどコイツを倒した時に手持ちの武器が壊れてな。・・・と、解体用のナイフも壊れたんだった。どうやって魔石を取り出すか。」


 そう呟いた瞬間、チンっと音がしたかと思うと、シルバーデビルの股間から首先が、下から真っ二つにさけて地面にドシャっと崩れ落ちる。

 ニルが豪奢な細工が施された黒鞘に左手を添え、刀の柄に右手を添えている様子を見るに、どうやら居合斬りと呼ばれる武技を繰り出したらしい。相変わらず太刀筋が見えないが。


「斬ればいいのだろう?貴様が助かったのは偶々だが、ありがたく魔石は頂こう。」

 ニルはそう言って、崩れ落ちた左半身に手を入れ、4メル程度の魔石を取り出し懐にしまった。

「では、今度こそさらばだ。残った死体は好きにするがいい。馴れ馴れしい人族よ。」

「死体は金になるし、貰うと借りを返した事にならねぇぞ、ニル!」

 俺の呼び掛けにニルは反応する事なく、まるで幻のように、森の暗闇に音もなく消えていった。


 俺とニルの初めての出会いはこれで終了した。

 名前すら呼ばれる事もない素っ気なさに、もう会う事もないかもしれないとは思ったが、再会の時は意外と早く訪れることになるのを、この時の俺は知らなかった。

一章は書き上げてますので、しばらくは毎日投稿していきます。

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