第11話 力ある者の義務
フィノ山は神話時代から採掘されている。さすがに最初に掘り始めたところからずっと掘り進めているわけではなく、数百年に一度は別の方向に新たな坑道を掘り進めており、その入り口は優に100個以上はある為、全容を把握している者は皆無らしい。
部外者には今掘り進めている坑道への入り口すら分かりにくい事から、サブリナやムクルスが言うにはフィノ山の坑道に入るなら案内役が必要なんだとか。
そんなわけで、支部長室でムクルスと話をした後、俺達は案内役を募集しようと大広間がある一階へと階段を降りてきたんだが・・・。
「アンタたち。情けないわねぇ!それでもハンターなの!ビビってんじゃないわよ!!」
「何だと!このクソ女!!事情も知らねぇくせにしゃしゃり出てくるんじゃねぇ!!」
目に映ったのは見覚えのある金髪の魔導士が、小人族のハンター達と睨み合ってる光景だった。
「事情とか関係ないわ!こんな小さな子供が必死にお願いしているのに、何で誰一人依頼を受けようとしないのよ!」
そう声を張り上げるトリスの背後には背筋をピンと伸ばして静かに佇んでいるエリと、トリスに庇われる様にしてその背後にいる小人族の女性がいた。そう、女性だ。
トリスは勘違いしているようだが、小人族の成人女性は身長が120〜130メルくらいまでしか育たない為、人族から見れば子供に見えても、立派な大人だったりする。小人族を見慣れていないのだろうか?
「・・・あの、私は別に子ど・・。」
「いいから、お姉さんに任せなさい。話をつけてあげるわ!」
オロオロした様子で何事か話そうとした小人族の女性の言葉を遮り、トリスが元気よく返事をする。
「で。アンタたちはなんでこの子の坑道で行方不明になった父親を探して欲しいって依頼を請けないのよ?」
「あの『鋼の心』ですら、坑道調査に行って誰も帰ってきてねぇんだぞ?俺達程度が依頼を請けても成功するとは思えねぇ・・・。何も出来ないことについてはすまないと思っている。」
受け答えをする小人族のハンターは先程までの勢いが明らかに萎れていく。この人なりに葛藤があったんだろうな。
「アタシは神都に来たばかりだから、『鋼の心』がなんなのかは分からないけど、アンタたちの態度は気に食わないわ。」
「な、なんだと!」
「助けを求める人が今ここに居るのに、何故最初から無理だと諦めているの?この状況をどうにかしようともせずに何故昼間から酒場で酒を飲んでいるの?坑道内に行けないとしても、自分達に何が出来るのかちゃんと検討はしたの?アンタたちもそれなりに経験があって力のあるハンターなんでしょ?力ある者として、弱き者を助ける義務を果たしなさい!」
烈火の如く怒り、感情の赴くままにハンター達に厳しい言葉を投げかけるトリス。だが、図星の部分があるのかあれだけ騒がしかった小人族達は押し黙ってしまう。
しかし、トリスは魔力の制御が甘いのか、感情の昂りに合わせて結構な量の魔力がだだ漏れしているな。まるで魔力で威圧をしているみたいで、小人族達が黙った要因の一つになってる気がするわ。まあ、魔力が漏れるくらいには魔力量が豊富ってこと何だろうが。
「・・・そこまで言うなら、お前は何かするのかよ?」
シィンと静まっていた小人族の中から一人のハンターがトリスに質問をぶつける。
「もちろん、アタシがこの子の依頼を請けるわ!」
トリスはそう高らかに宣言した。
「お、お前みたいな小娘が『鋼の心』すら帰って来れなかった坑道に行って無事でいられるはずがねぇだろ!」
「だから『鋼の心』は知らないしこの際関係ないの。出来るかどうかなんてここに居ても分からない。行ってみなくちゃ分からないでしょうが!ここでこの子を見て見ぬふりをしたら、アタシはきっとなぜ行かなかったかって後悔する。だから行くわ!」
決意の宿る碧玉色の瞳に問いかけていた小人族の男は後退る。そんなトリスの背後から語りかける一人のメイド。そして口を開こうとして発言を遮られる小人族の女性。
「お嬢様。一つ問題がございます。」
「なによ、エリ。まさかアンタ、依頼を請けるのに反対するって言うの?」
「いえ。そういう訳ではございません。私達は今からハンター登録をするため、ランク不足でその女性の依頼を請けることは出来ないのではないでしょうか。」
「な、何ですって!」
エリの台詞に驚くトリス。一方、あそこまで啖呵を切っていたトリスがハンター登録すらしていなかったことに騒つく周囲の小人族達。トリスの背後の女性は話の展開についていけずオロオロとしている。
「我がて・・じゃなくて国では、魔導士は最低ミスリルランク以上の待遇になるんじゃなかったの!?」
「お嬢様。それは我が国だけの取扱いでございます。」
ニコリと微笑むエリ。
「じゃあ、どうしたらいいのよ!!」
昂る感情と共にまたもや魔力が漏れ出したトリス。放っておくとロクなことにならない予感がした俺は、取り敢えず声を掛けることにした。
「・・・ちょっといいか。トリス。」
「・・・アンタは!ノールとか言ったわね。」
元々怒っていたからか、トリスは藍玉色の瞳で俺の方をキッと睨んでくる。なかなかの威圧感だ。だが、リコに比べればどうということは無い。
「後ろの人の依頼を請けたいんだよな?トリスは。」
「・・・そうだけど、アンタに何か関係あるの?」
「いや、そこの彼女の依頼、俺が請けようと思ってな。俺達は今から坑道調査に行くことになったから、そのついでってわけだ。」
言いながら俺はゆっくりとトリスの方へと近づき、トリスの後ろに居る小人族の女性の側まで行くとしゃがみ込んで話しかける。身長差があり過ぎて、こうでもしないと目を見て話せないんだよな。
「俺の名前はノール。ファリーナから来た。これでもミスリルランクのハンターだ。『暁の明星』のリーダーもしている。君の名前は?」
「私、マゼンダっていいます。」
「マゼンダさん。さっきの話、聞こえていたと思うが、俺達は今から坑道調査に行くんだ。そのついでに君のお父さんを探そうと思うんだが、どうかな?」
「是非お願いします!依頼料はそんなに出せませんが、私に出来ることはなんでもしますので!」
必死な表情で頼み込んでくるマゼンダに俺は一つお願い事をすることにした。
「じゃあ、一つお願いがあるんだけど、いいかな?」
「は、はい。」
緊張した様子で身構えるマゼンダ。
「ちょっと、ノール。変なことをさせるんじゃないでしょうね!」
そして、失礼なことを言ってくるトリス。コイツは俺を何だと思ってるんだ。
「今採掘されてる坑道の入り口まで案内してくれないか?部外者には分かりにくいらしいしな。あぁ。それと案内を依頼料の代わりにするから、依頼料はいらない。あくまでも坑道調査のついでだからな。」
「あ、ありがとうございます!」
深々とお辞儀をするマゼンダ。
「アタシが最初に依頼を請けようとしたのに。」
トリスは不満そうな顔をしている。・・・入都審査の時はあっさり魔法を斬れたがアレが本気では無いはずだ。トリスは魔導士だし、戦力になるだろう。
それに尻込みして誰もやろうとしなかった依頼を請けようとする決断力と優しさは見習うべきところがあるし、好ましく思えた。
「なあ、トリス。トリスも『暁の明星』に入って一緒に坑道に行くか?」
だから誘ってみたのだが、
「・・・へ?」
そんな俺の提案に、金髪の魔導士は口をぽかんと開けて呆けた顔をしていた。




