第10話 守る決意
アウグスト王との謁見が終わった後、俺達はハンターズのアディト支部に立ち寄っていた。
フィノ山の坑道調査はフォディーナ王家からハンターズへ依頼を出しているらしく、アウグスト王がまだ把握していないような最新情報がハンターズにはあるかもしれないし、坑道を探索する上での有益な情報が得られるかもしれないからだ。
ハンターズの支部は大体どこも同じ構造をしているらしいが、アディト支部は流石酒好きな小人族の国にあるハンターズ支部というべきか、受付カウンターがある大広間に酒場も併設されていた。
ただ坑道調査を進めることができず、鉱石の採掘が出来ていないという緊急事態にある現在は酒場の利用者も余りおらず盛り上がりに欠けているようであった。
そんな暗い雰囲気の大広間を受付カウンター目指して突っ切る。勢いよくやってくる俺達に多少驚いた様子の受付嬢に、俺は自分のハンターズカードとアウグスト王から貰った支部長宛の紹介状を提示する。更には俺の隣にやってきたミクもにこにこの笑顔を浮かべてハンターズカードを提示した。
所属外のハンターズ支部に行った時にはハンターズカードを提示するようにはなっているが、パーティーの代表が提示すればいいからミクのカードは本来提示する必要はない。ファリーナでは使う機会が無いせいか、嬉しそうにカードを提示するミクを見ていると、わざわざ注意する気にもならないが。
王印が入った紹介状を見た小人族の受付嬢、名札にサブリナと記載されている、は「しばらくお待ち下さい」と言った後に、やや慌てた様子で短い金髪を揺らしながら奥の方へと引っ込んで行った。
待ったのはほんの2〜3分程度だろうか。すぐに戻ってきたサブリナが声を掛けてくる。
「支部長がお会いになられるそうです。どうぞ私の後に付いてきてください。」
「・・・よろしく頼む。」
短く会話した後、サブリナに連れられて受付カウンターの中に入り、奥にある階段を登っていく。途中にある扉を無視してまっすぐ進んでいくと、突き当たりに緻密な彫刻が施された大きな木製の扉が現れた。
「支部長。ノール様達をお連れしました。」
「ああ。入ってもらってくれ。サブリナも一緒に頼む。」
サブリナがノックをしながら言うと、中から低い男性の声が響いてくる。返事を聞いたサブリナが、どうぞ、と扉を開けて入室を勧めたため、俺達は支部長室へ入室した。
「わざわざ支部長室まで来てもらって悪かったな。儂がハンターズアディト支部長のムクルスじゃ。」
執務机の側に置かれていた応接机のソファに腰を下ろし、俺達はムクルスと話を始める。
ムクルスは小人族の男性で、髪や髭が真っ白な事、顔に無数のシワが刻まれている事からかなりの高齢と思われた。そのムクルスの背後にはピンと背を伸ばしたミランダが、まるで秘書の様にして控えている。
「儂の方から行っても良かったんじゃが、大広間でするような話でもなくてな。だから来てもらったんじゃ。」
そこで紅茶を一口飲むと、ムクルスは一瞬物足りない様な顔をした。先程、ミランダにブランデー入りの紅茶を淹れるように指示をしていたのに、普通の紅茶だったからだろう。ブランデーが入ってなくても十分に美味しい物だと思うが。
「さて、もう知っているとは思うが、約2週間前からになるがフィノ山の坑道から坑夫が帰って来なくなっていての。今まで無かった事態じゃ。事態を把握するために儂は幾つかのゴールドランクパーティーに即座に坑道の調査を依頼した。・・・だが、依頼から数日経っても誰一人帰って来なかった。」
ムクルスは僅かに手を震わせたが、感情を押し殺すかの様に淡々と話を続ける。
「そこで、儂は神都で最高のハンターである『鋼の心』に坑道調査を依頼した。『鋼の心』は儂が手塩にかけて育てたパーティーでな。ハンターになれる14歳の頃から面倒を見てた奴らで、それこそ儂の弟子と言ってもいいじゃろう。孫の様にも思っておる。」
何かを思い出しているのだろうか。どこか遠いところを見るようにムクルス語り続ける。
「1人1人はアダマンタイトランクには及ばないが、6人揃えばアダマンタイトランクの魔物すら相手にできる。もうすぐアダマンタイトランクのパーティーになるはず。そんな奴らじゃったよ。だが、『鋼の心』も誰一人帰って来なかった。」
そこで言葉を切ったムクルスは急に鋭い眼光を俺に向ける。
「ノールと言ったな。お主達のパーティー『暁の明星』はそんな『鋼の心』が手掛かりすら掴めなかったこの事態を解決できると言うのか?ミスリルランクがたった1人のパーティーで何が出来るというのじゃ!?」
ムクルスがそう言うのも無理はないと思ってしまう。俺達『暁の明星』はパーティーを結成したばかりで、パーティーとしての活動実績はまだ無い。しかもミスリルランクとはいっても、唯一のミスリルランクハンターは昇格したての若造なわけだし。気持ちはわかる。だが・・・
「ムクルスさん。俺達は確かに頼りないかもしれない。だが、俺は守る為にハンターになったんだ。この間はグレゴリウスのおっさんの助けがあったとはいえ、命懸けでグリフォントゥルスからファリーナを守り切れた。」
ムクルスの目を真っ向から見据えながら俺は言葉を続けた。
「俺達が依頼を請けるきっかけは武具製作や神具の借り受けの為かもしれない。けど、そこに誰かの危機があるのなら。全力でフィノ山の坑道調査に当たらせてもらう。・・・それじゃ駄目か?」
アウグスト王に話を聞いた時は俺達に解決出来るのかと思った。ここに来た時点では気後れしていたわけだ。
だが、俺は誰かを守る為にハンターになったのだ。俺達に出来る出来ないは関係ない。そこに危機が迫っている人達が居るのなら、助けに行かなければならない。先ずは全力を尽くすべきだろう。
ムクルスはしばらく俺の目をじっと見つめてから、
「・・・いや。それでいい。試す様な真似をしてすまなかったな、ノールよ。先程までは何処か気が抜けていた様に感じたからの。だが、今はいい目をしておる。」
穏やかな口調でそう言った。実際少し気が抜けていたのは確かだし、なんか恥ずかしいな。
「・・・まあ、師匠がどこまで知っていて俺達をアディトに来させたのかは分からないけど、この依頼を請けるように言ってるってことは、師匠は俺達なら出来るって判断したということだし。・・・出来ないことをやらせる様な人種じゃないわけで。」
言いながら少し考えてしまう。確かにリコは不可能な事をやれという人種ではないが、本人がなんでも出来るためか『出来る』の判断基準がかなり厳しい。つまり、今回のこの依頼もとんでもない難易度の可能性もあるわけだ。
「ふ。そうか。リコが弟子を取ったと聞いた時は、アヤツに師など務まるのかと思ったものじゃが。存外いい師になったようじゃな。」
「私も師事を受けているが、リコ殿は素晴らしい指導者だと思うぞ!」
そう明るく話すミクに、そうかそうかと優しく微笑むムクルス。だが、騙されてはいけない。凡人の俺からすればリコがミクに教えている事はとんでもなく難しい事なのに、ミクは基本的に天才肌で、一度教えられた事はすぐに習得してしまうのだ。普通なら時間ばかりかかって何も覚えられないんじゃないだろうか。
リコは万人向けの指導者ではない気はするが、なんだかんだでミクは急激に強くなっているし、ミクにとってはリコは素晴らしい指導者と言えるのかもしれないな。
「さて。あまり悠長にもできん。儂からも改めてお願いしよう。『暁の明星』よ。フィノ山の坑道調査を。そして願わくばこの異常事態の解決を。引き受けてくれるか?」
「ああ。出来るだけのことはさせてもらう。任せてくれ。」
そうして俺とムクルスは固い握手を交わし、俺達は支部長室を後にするのであった。




