第7話 フォディーナ王国へ
フォディーナ王国。アエルニタス大陸の中央を横断しているヴノソス山脈の西部、つまり大陸中西部に位置する小人族達の国だ。ファリーナから見れば北北西の方に位置する。
フォディーナ王国というより、その首都アディトは古い歴史を持つ都市で、その興りはなんと神話時代までに遡る。
地上から神界に行く事になった小人族達の祖である創神クリスタリウスは地上に取り残される眷属達を憐れんで、ヴノソス山脈の中でも特に鉱物資源が豊富なフィノ山の存在を示し、そこに都市を築くように啓示したと言われているのだ。
その様な経緯で建設された都市であるため、アディトは小人族のどの王朝であっても首都であり続けたし、神に啓示されし都市として、通称『神都』とも呼ばれている。
因みに、神話時代繋がりでいうとヴノソス山脈はこの世界を創って眠りについた神様が山になった姿だと言われている。
アエルニタス大陸というベッドを、正に横たわる様にして南北に両断している巨大な山脈なので、それが神様と言われてもどこか頷けるものがあった。
なんで俺が神都の話をしているかというと、正に今、神都に到着したからだ。メンバーは俺、ミク、それからリコの部下として紹介されたクロ。・・・クロってペットの名前じゃあるまいし明らかな偽名だろ。
クロは身長170メル後半くらいの人族の男性で、短い黒髪に黒い瞳。顔立ちはどこにでも居そうな普通の顔だ。
だが、服の隙間から時折覗くその身体は無駄な肉が全く付いていない細身ながらも引き締まったもので、足運びや所々に散見される所作からおそらく何らかの訓練をきちんと受けた人物だと思われた。
見た感じ年齢は30代前半くらいと思うんだが、いかんせんいつも妙に疲れた顔をしているので、俺の見立てが正確なものかは分からない。・・・なんかどこかで会ったことがある気がするんだよな。この人。
それはともかく。じゃあ、なぜファリーナから歩いて10日ほどの距離にある神都に来ているかというと、その理由は約2週間前までに遡る。
「2人とも呼びつけてすまなかったね。」
リコの屋敷に居候を始めて1ヶ月以上経過した頃、リコから呼び出された俺はリコの自室に来ていた。ミクも呼ばれていたようで、途中で合流した俺達は2人一緒に部屋の中へ入り、リコから労いの言葉を受ける。
「そう堅苦しい話でもないし、お茶でも飲みながら話をしようか。」
そう言ったリコは鮮やかな手つきで紅茶を淹れると、俺とリコに椅子へ座るように促す。
緑を基調とした落ち着いた雰囲気の部屋で、柔らかな椅子に座りながら、リコが淹れた紅茶を啜る。研究室で紅茶を飲んで以来、時々ご馳走にはなっているのだが、本当に美味しい。
「呼んだのは少し頼みたい事があってね。君達、フォディーナ王国って知ってるかい?」
「・・・私は知らない。」
物心が付いた時には既に研究施設にいたミクははっきり言って色々と常識に欠けているところがある。境遇からすれば仕方ないことだと思うのだが、ミクは申し訳なさそうに答えていた。
「ファリーナの北の方にある小人族達の国だったよな。首都のアディトは神都とも呼ばれてるんだっけ。」
「その通り。僕の教育の賜物かな。」
確かにリコから色々な教育を受けているから、賜物と言えば賜物だが・・・。
どこかスッキリしない気持ちで胸を張るリコをじっとみる。すると、何か文句があるのかい?、と翡翠色の瞳が語ってきた。はい、なんでもないです。
「小人族達は神話にもあるように様々な道具を作れるくらいに器用でね。僕は魔法の付与については誰にも負けない自信があるんだけど、武具の製作については彼等に遠く及ばないんだよ。」
「フォディーナ王国は武具製作が盛んな国だったよな。それがどうしたんだ?」
「君達がこの間倒したグリフォントゥルスの角なんだけど、素材としては極上の物でね。雷撃発射直前にミクちゃんが斬り落としたから、豊富に魔力が残留していたこともあって、ただ角を斬っただけよりも遥かに品質がいいんだ。オリハルコンランクの素材には流石に劣るんだけど、そんなのは滅多にいないからね。」
そこまで喋ったところで、リコは紅茶を一口啜る。
「つまり、これを使った武器製作を依頼する為に君達にはフォディーナ王国に行って欲しいんだ。」
「行くのは構わないが、何で俺達はなんだ?依頼するだけなら、他の人種でもいいんじゃないか?」
リコには返しきれないくらいの恩義があるし、フォディーナ王国に行くのは全然構わない。たぶん、ミクも同じだろう。だが、なぜ俺達なのかが分からなかったので、素直に尋ねてみる。
「なぜって、作るのはノール君達の武器だからに決まってるじゃないか。オーダーメイドの武器を作るなら、使い手も行くのが普通だよね。」
なぜ当然のことを聞くのか分からない、といった感じのたまわるリコ。その顔は呆れている。
「は?」
「・・・なぜ私の武器になるのだ。リコ殿。」
予想外の答えに惚ける俺と、困惑気味に尋ねるミク。
「グリフォントゥルスは君達が倒したんだから、その素材を使うのは当然君達じゃないか。加工費とかは掛かるけど、そこはかわいい弟子達のパーティー『暁の明星』結成記念として僕が奢るからさ。」
ここ1ヶ月程、俺は主にミクと模擬戦を繰り返していたが、時折現れるリコとも模擬戦をしていた。
もちろんミクもリコと模擬戦をしており、いつの間にかリコの中で、ミクは弟子扱いになっていたらしい。
因みにパーティーは2人以上のハンターで結成される集まりで、固定メンバーでクエストを行うことで個人のランクとは別に、パーティーでのランクを上げることができるのだ。
ランクが上がれば受けれる依頼の幅も広がる為、大抵のハンターはパーティーを組んでいる。個人よりもパーティーの方がランクを上げやすいしな。
パーティーに人数制限はないが、報酬の面で揉めやすくなるため、大抵は5〜6人くらいで落ち着くパーティーが多い。
先日俺はミスリルランクに昇格したが、ソロでのミスリルランクは非常に珍しく、扱いとしてはミスリルランクパーティーと同等って事になる。
んで、この間、ミクからパーティーを組んでほしいと言われてから随分と時間は経ったが、つい先日ようやく正式にパーティー登録をしたってわけだ。俺とミクのたった2人のパーティーになる。パーティーリーダーはミスリルランクのハンターである俺だ。
メンバーのミクはゴールドランクのハンターとして正式に登録されていたりする。
リコが自分の遠縁の親戚扱いにして職権濫用をしまくった結果らしい。まあ、ミクの実力はゴールドランクを遥かに凌駕すると思うし、別にいいとは思うが。
「・・・リコ殿。私の身体を調べてもらったり、居候をさせてもらっていて、私は貴女に甘え過ぎていると思うのだが。」
「これくらい大したことないし、今まで辛い思いをしたんだから、ミクちゃんはもっと甘えた方がいいと思うんだけどね。僕はノール君を助けて貰った恩をまだまだ返せていないとも思ってるし。それに、ついでに御使いを頼むからさ。加工費はその代金と思えばいいよ。」
「御使いって何のことだ?」
「ちょっと借りてきて欲しいものがあるんだ。神都アディトはその歴史のせいか、創神クリスタリウスが作ったと言われている神具が結構残ってるみたいでね。フォディーナ王家が保管しているはずだから、ちょっと交渉してきてくれないかな?」
んん?今王家と言ったか??
「ちょっと待て!一介のハンターが王様に会えるわけないだろ!?」
「大丈夫大丈夫。フォディーナ王家は僕に借りがあるし、そもそもフォディーナ王国最高の鍛治士はフォディーナ王だからね。最高の武器製作を依頼するなら、どちらにしろ会うことになるよ。」
「王族向けのマナーとかさっぱり分からないんだが。」
「今のフォディーナ王はマナーとか気にする人じゃないし大丈夫だよ。それにちゃんと手紙は書くからさ。」
リコの態度を見る限り逃げ道はないらしい。小市民な俺としては王族に会うとか勘弁してほしいんだけどな。
こうして、俺とミクはフォディーナ王国に向かって出発する事になったのだった。旅の準備に4日ほど使い、ファリーナを立った俺達は、途中いくつもの街や村を経由して、ようやく神都に辿り着いたという訳である。
因みに、クロについては出立の前日にリコから呼び出されて連れて行くように言われている。
その時に紹介もされたんだが、クロはリコの事をかなり恐れている様に見えたんだよな。一体何があったんだか。
ようやくフォディーナ王国に舞台が移りました。2章完結に向けて頑張っていきます。
評価していただけるように、もっと面白いお話を書きたいものです。