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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第2章 金の魔導士
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第6話 模擬戦

 リコの屋敷はファリーナの城壁の中には無い。広大な敷地を確保する為に城壁内では収まらず、城壁外の森を開拓して建設されている。

 リコが言うには、危険な魔法や魔導具の実験をするのに広い敷地が必要で、人が少ない郊外なことも都合がいいらしい。

 人が少ないのが都合がいいって一体何をしてるんだろうな、我が師匠は。


 今俺はというと、屋敷の敷地内にある戦闘魔法実験棟へやって来ていた。

 ここは元々リコが自分で開発した戦闘用の魔法を試射する為の建物で、魔法が逸れて周囲を破壊しないようにかなり頑丈な結界で広いスペースを覆っている。物理攻撃にも対応している為、鍛練するのにうってつけなのだ。

 なので、鍛練場としても利用しており、前に居候していた時はよくここでリコから稽古をつけてもらったりしていた。


 昨日、ミクの身体の秘密について説明を受けた後、今日から本格的な鍛練をするからこっちに来るようにとリコから話があったんだが、リコ自身は血魔石の研究で忙しくなるだろうし、一体どんな鍛練をするんだろうな。

 というか、この屋敷に来てから1週間、体力の限界まで搾り取られるような鍛練をしていた訳だが、アレは本格的な鍛練ではなかったらしい。今から何をさせられるかと思うと少し恐ろしい気がするわ。


 そうこう考えているうちに誰かが鍛練場にやってくる気配がしたため、出入り口の方に視線を向けると、ちょうど長身の耳長族が扉を開けるところだった。

 彼女は物珍しそうにその満月色の瞳をあちこちに向けながらこちらへ歩いてくる。

 全面対魔法対物理強化ガラス張りの鍛練場の天井から降り注ぐ陽光をその銀色の髪に反射させ、俺の目の前に現れたのは、そう、ミクだった。


「ミク。何でこんな所に?」

 髪型と服装がいつものポニーテールに黒いレザージャケットに戻っていたミクは俺のセリフに怪訝な顔をした。

「リコ殿から聞いてないのか?私はノールと模擬戦をする様にと言われているのだが。」

 ・・・いや、聞いてないし。


「では、行くぞ!」

 ミクの掛け声で俺は剣を構えてミクと対峙をする。ミクといえば最初のシルバーデビルから助けてもらった時の印象が強い。

 あの時は剣筋がほとんど見えていなかった訳で、ひょっとしたら瞬殺されるのではと頭の片隅で考える。


 ウェポンブレイクを発動すれば対抗できると思うが、模擬戦の条件についてリコから伝言があり、俺はウェポンブレイクの発動を禁止されているのだ。

 素の実力を高めれば飛躍的に強くなるよ、というリコの話は分かるのだが、この模擬戦まともな勝負になるのかね。


 俺とミクは間合いを測りながら、お互いにジリジリと距離を詰めていく。ミクの方はだいぶ俺を警戒しているらしく、距離を詰める毎にその緊張感が増していくのが感じられた。

 そうして、残り300メルくらいまで近づいた時。変化が起きる。身体がぶれたかと思った次の瞬間には間近までミクが迫っており、上段に構えた刀を物凄い速さで振り下ろしてくる。そう。()()()()()、でだ。


 前は全く見えていなかったのに、速く感じはするものの、今はその太刀筋が見えていた。だから身体が反応する。

 俺とミクの剣と刀がぶつかり合い、ギィンっと音を立てる。ミクは次々と刀を振るい、俺達は一合、二合、三合とどんどん斬り結ぶんでいく。

 ミクの細い身体の何処にそんなパワーがあるのか。速くてしかも重い斬撃に俺の腕は悲鳴をあげそうになるが、痺れて動かなくなる前に渾身の力を込めた斬り上げを防御させる事に成功し、ミクの身体を後ろに跳ね飛ばすことで、強制的に距離を取ることに成功した。


「流石ノールだな。私の斬撃をこうも簡単に捌ききるとは。正面から切り結んで、ここまで防がれたことは最近ではなかったのだが。」

「これでも何年もハンターやってるしな。ミクこそ刀の扱いは独学なんだろ。よくそれだけ使いこなせてるな。」

 何故かやや嬉しそうに語りかけてくるミクに、俺は前から疑問に思っていた事を尋ねてみる。・・・姑息だが、体力回復も兼ねた時間稼ぎでもあるが。


「基本的な動きは研究施設を襲ってきた鬼人族、この刀の持ち主のを真似したものだ。後は研究施設を逃げ出してからの1年間の実戦だな。何度も大怪我をしたが。」

「普通は見よう見真似で、しかもそんなに短い期間でここまで扱える様にはならないと思うぞ。」

「ふふ。お世辞でも嬉しく思うぞ。」

 そう言って微笑むミクの顔を見つつ、俺は1人冷や汗をかく。お世辞でも何でもない。教えられたわけでもなくたった1年でここまで刀を扱えるようになる人種はそうはいないだろう。いわゆる天才というやつかも知れない。


「・・・私が出来る最高の技を使わせてもらう。ノール。貴方は受け切れるか?」

 言葉と共にミクは刀身を鞘に納めて腰を捻りつつ左手を鞘に添え、右手で柄を握る。おそらく居合い斬りを使うつもりなのだろう。ただでさえ速いミクの斬撃がより速くより重くなって俺に襲いかかってくる事を想像して寒気がしてくる。


 ミクが持っている刀は詳しく見たことはないが、グリフォントゥルスの攻撃を防御しても折れないし、その後に角を綺麗に斬り落とした事からも分かるように相当な業物と思われた。

 そんな業物がミクの全力で振るわれるのだ。俺が今使っているロングソードは、ミスリルやアダマンタイトといった魔法金属を除いた通常金属では最高峰のウーツ鋼を使用した高品質のものではあるものの、まともに受ければ剣ごと斬られてしまうだろう。


 かといって間合いを外す為に距離を取ろうとしたとしても、最初にやられたように一瞬で距離を詰められて、やはり斬られてしまうだろうしな。

 そうなると居合い斬りによる斬撃をどうにか迎え撃って返し技を決める必要があるんだが、今までの攻防でも割とギリギリの反応だったのにやれるのか、俺?・・・いや、鍛練だし逃げてもしょうがない。やるしか無いか!


「来い!ミク!!」

 俺がそう声を上げると、微かに笑ったミクが動き出す。柄を握っていた右腕が動いたと思った瞬間には俺の首筋を目掛けて、すぐそこにその銀光が迫っていた。

 普通なら反応すら出来ない速度。その刃を認識したのは首筋の僅か20〜30メルの距離まで迫った時だ。そのまま首を斬られるしかない状況の筈であった。しかし


「なっ!」

 会心の一撃だったのだろう。防がれるとは思っていなかったミクの顔が驚愕の色に染まる。

 そう。俺の持つウーツ鋼の剣はミクの居合い斬りを下から掬い上げて、甲高い音と共に空中へとミクが持つ刀を撥ね飛ばしていた。刀を撥ね飛ばされて大きく体勢を崩していたミクに剣の切先を向けて勝負アリだ!


「参った。やはり今の私ではノールに敵わなかった。」

 肩を落としながら少し悔しそうな表情をするミク。

「でも、最後の居合い斬りはまぐれで弾き返せただけだぞ。斬撃そのものはほぼ見えていなかったしな。」

 ミクに声を掛けながら先程のシーンを思い出す。あの時俺は居合い斬りにほとんど反応出来ていなかった。とても見てから反応できる様な速度の攻撃ではない。


 俺がミクの刀を撥ね飛ばすことが出来たのは予測が当たったに過ぎない。

 ミクの目線の先、腕の角度、身体の向きで斬撃の軌道を、体内の魔力の高まり具合で攻撃のタイミングを、それぞれ予測し今回は見事に当たったというわけだ。そう毎回成功するものでは無い。


 元々はリコから教えられていた防御技術ではあるが、習得は出来ていなかった。

 それがここの所の格上との連戦続きと、ウェポンブレイクの連続使用による鍛練で俺も成長したということなのだろう。


 因みに、模擬戦なのにミクが躊躇なく俺の首を狙ってきたのは、俺がミクに殺したいほど嫌われているから、などでは無く、この鍛練場のみで効果がある特殊な魔導具を装着しているからだ。


 それぞれの右腕につけられたそれは大きな魔石が特徴的な腕輪で、その効果は致命傷の一撃を無効化するというものだ。

 昔リコが倒したギフテッドの中にどんな攻撃が受けても全く死なない不死身(イモータル)のギフト持ちがいて、その能力を解析した結果出来たのがこの不死の魔導具らしい。

 鍛練場に隠して描いてある魔法陣と組み合わせて初めて効果を発揮するため外では使えないらしいが。


 リコは不死身(イモータル)をどうやって倒したのかって?余裕ぶった態度が気に食わなくて、喋るのを無視して殺し続けていたら動かなくなったらしい。黙々と殺し続けるって我が師匠ながら怖いんですけど。


「・・ノール?ノール!聞いているか?」

「あぁ。すまねぇ。ちょっと考え事をしてた。どうかしたか?」

 少し考え込み過ぎたらしく、いつの間にかミクが声を掛けてきていた。

「しっかりしてくれ、ノール。・・・リコ殿から聞いていないか?模擬戦は限界がくるまでやり続ける様に言われているのだが。」


 いや、だから聞いてないって。そう言ったミクが持つ四次元収納機能(アイテムボックス)付の袋の中を確認すると、体力や魔力の回復薬に加え、大量の不死の魔道具が入っている。この魔導具、作るのが大変とか言ってなかったか?

 一体何回、神経を擦り減らす真剣勝負をしなければならないのか。リコがやれと言うのであればやらざるを得ないが、考えるだけで気が遠くなる俺だった。


 因みにこの日の勝率は俺が6割だったため、体面は保たれたと言っていいだろう。

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