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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第2章 金の魔導士
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第4話 血魔石

「この魔石は??」

 どこか不吉な気配がする赤黒い魔石を見ながら俺は尋ねる。

「コレはね、ノール君とミクちゃんが倒したシルバーデビルの魔石だよ。ミクちゃんに借りたんだ。・・・君達を痛め付けた黒装束の男によれば、あのシルバーデビル達は進化薬と呼ばれる薬をシーミアに投与して生み出したものらしいね。」


「人工的に異常種(アブノーマル)を作ったのかもしれないって推察はその通りだったわけか。って事は、グリフォントゥルスもか!?」

「そ。グリフォントゥルスもグリフォンから進化させたんだってさ。ただゴールドランク以上の魔物を進化させるのは研究が難航しているらしくて、成功率がかなり低いみたいだね。」


 それは不幸中の幸いだろう。シルバーデビルくらいならまだ対処がし易いが、グリフォントゥルスみたいな化け物がぽんぽん出てくるようになったら、この世界は破滅するかもしれねぇな。


「ん?この魔石とミクの身体の質が変わったのと何の関係があるんだ?」

「僕は大いに関係あると思ってるよ。異常種(アブノーマル)への進化ってさ、魔力はもちろん上がるけど、元の魔物が分からないくらいに()()()()()するよね。そして、進化薬の原料は黒装束君も知らなかったけど、ミクちゃんが埋め込まれたっていう血魔石も、生物を進化させるんじゃなかったっけ?」

「っ!このシルバーデビルの魔石、色合いが血魔石に似ている気がする。血魔石の方がこう、もっと色が濃かったと思うが。」

 ミクがハッとした表情で言った。それってひょっとして・・


「・・進化薬ってのは血魔石を原料にして作られているのか??」

「生物を進化させるっていう特性が同じだし、可能性は結構あるんじゃないかな。ただ色合いと特性以外にも根拠はあるけどね。・・・魔石の属性って知ってるかい?」

「ああ。例えば火に親和性が高い魔物なら赤い魔石、水なら青い魔石って具合に属性毎に出る色があるんだったよな。師匠が教えてくれたんだろ。・・・ん。でも赤黒い色って。」


「そう。そんな色の属性は今まで見つかっていないんだよ。あとあまり知られてない事だけど、属性毎に魔力の波動みたいなのがあってね。その波動も、地、水、火、風、雷、光、無のどれともあっていない。」

 そこまで言ったところでリコはミクに視線を向ける。

「人種は個人個人で発生する魔力の属性が違ってね。その属性って基本的に1種類で、生物は死んだら魂が固まってその属性の魔石になるとも言われている。でも、ミクちゃんを僕の魔法で精密検査したら、二つの魔力波動が感じられたよ。一つは無属性。身体能力強化に向いた剣士向けの属性だと思うよ。もう一つは何の波動か分からなかった。でも・・・この魔石から感じる波動と同じものだったよ。」

「では、もう何年前に埋め込まれたかも分からない血魔石が同化もせずにまだ私の体内に残っているということか!?」


 ミクは驚きの声を上げる。神殿の神具で奉納した時は魔石は魔素に分解されて一瞬で取り込まれるし、いつまでも同化してないとか考えられないわな。

 しかし、ミクから感じる正体不明の魔力波動とシルバーデビル達の魔石から感じる魔力波動が同じということは、進化薬と血魔石の間には強い関連性があるって事で間違いないみたいだな。


「そうなるね。でも、そうじゃないと今のミクちゃんの状態が説明できないんだよ。他の実験体が急激な身体能力の向上と凶暴性の増加、そして死亡に至っているなら、それらの発症が()()()()ミクちゃんは血魔石の影響を受けてない事になるからね。でも・・・」

「しかし、私の身体能力はレベルアップもしていないのに、ここ1年で急激に()()()()()()。」

「そう。ミクちゃんの身体能力は上がっている。・・・血魔石がミクちゃんの身体を侵食しているのかもしれない。」


 不安そうに両肩を自分で抱いて震えるミクに、リコが優しく声をかける。

「だけど、ミクちゃんは凶暴にもなってはいないし、身体的に死に繋がるような部分も見つかってはいない。だから、大丈夫だよ。」

「なんとかならねぇのか、師匠。今は大丈夫でも今後もずっとそうとは限らねぇんだろう?」

 震えるミクを落ち着かせるために背中をさすりながら、俺はリコへ尋ねる。


「そうだね。放っておくと不味いとは思うよ。・・・なぜ今まで血魔石から侵食を受けなかったのか。どうして今侵食をうけているのか。そして、どうやって侵食を止めて、血魔石の影響から脱するのか。実はそれらの目星はある程度付いているんだよ。」

 リコの翡翠色の瞳はキラキラと輝いており、その豊満な胸を張りながら、自信満々な表情でそう言い切ったのだった。


「ミクちゃん。落ち着いたかい?」

「ああ、取り乱してすまない。つい先日まで死にたいと願ったはずなのに、この程度のことで動揺してすまない。」

「血魔石から侵食されるってことは、死への階段を登るみたいなもんだろうし、ある意味普通だと思うがな。俺的には生きる事に対して執着が出来たみたいで少し安心したぜ。」

 一度気分を落ち着かせようという事で、リコが手ずから淹れた紅茶を3人で楽しむ。茶葉がいいのか、リコの腕が良いのか、それともその両方か。淹れられた紅茶はすこぶる美味しかった。


「この紅茶美味いな。師匠が紅茶を淹れるとこなんて初めてみたけど。」

「まだ英雄なんて呼ばれる前に、僕の紅茶が美味しいって言ってくれた人がいてね。当時の僕の数少ない特技さ。」

 そう言って微笑んだリコの顔は昔を思い出しているのかどこか遠い目をしていて、少し寂しげだった。


「それで、色々と目星は付いているって話だったよな?」

「ああ。こんなことはどうでもいい話だったね。・・・先ず何故今まで血魔石の侵食を受けなかったのか、だけど。今回僕はミクちゃんの隅々まで調べさせてもらって、色々と検査をしたんだけど、身体に魔力を通してその流れを見た時に、血魔石があると思われる部分に魔力が極端に集中している事が分かったんだ。」


「魔力が集中?」

「全身の魔力のほとんど全てって感じだったよ。ミクちゃんは血魔石を埋め込まれてから魔力を使えなくなったって言ってたよね。それは血魔石のところで魔力をほぼ全て使い切って常に魔力が枯渇状態になってたからだと思うよ。」

 魔力が枯渇していたから魔力を使う事が出来なくなった。なるほど、理にかなってはいるが・・・。


「・・・なぜ魔力を使い切っていたのだろうか。私にはそのような自覚はないのだが。」

「ミクちゃんはレベルアップしていない状態なのに魔力総量はその辺のゴールドランクハンターよりも遥かに多いみたいでさ。おそらく血魔石の侵食から身を守る為に無意識に大量の魔力を消費しているんだと思うよ。ひょっとしたら何かのギフトによる効果かもしれないね。ギフトって大抵のものは魔力消費がえげつないし。」

 俺のウェポンブレイクは魔力の代わりに武器の耐久力と俺の体力を消耗するわけだしな。ミクが何らかのギフト持ちで、それが血魔石の侵食から身を守っている可能性は十分にあるだろう。


「次に、どうして今血魔石の侵食を受けるようになったのか。これはミクちゃんがレベルアップをしようとして、魔素を取り込んだことが原因だと思う。」

 そう言ってリコは空間魔法で銀色に輝く杯を取り出した。それは簡素なデザインながらも、どこか神々しい杯だった。って、コレは・・・


「神殿にある神具じゃねぇか!なんでリコが持ってるんだ?」

「僕はファリーナハンターズ支部長だからね。職権で予備の神具を借りているんだよ。そんなことより・・・」

 職権濫用で神具の私的流用をしている事を、そんなこと扱いするリコ。我が師匠ながらヤバい気がするな。


「コレを使って魔石を魔素にかえて、どんな風に魔素が吸収されるのか観測してみたんだ。そうしたら、血魔石のあるあたりでほとんどの魔素が吸収されていたよ。」

「私のレベルが上がらなかったのは・・・」

「確実にそのせいだろうね。レベルアップに使うべき魔素が届いて無いんだから。その魔素が血魔石を活性化させた結果、血魔石の侵食する力が、ミクちゃんが魔力消費をして得られる耐性を少し上回って侵食が進み、身体能力が急激に上がったんじゃないかな。」


 辻褄はあってる気がする。だが、それが正解だったとして解決する手段ってあるのか?

「なぁ、師匠。血魔石が魔素を吸収するのって止められるのか?」

 俺の質問にリコは翡翠色の瞳をスッと細める。

「まだ血魔石がどんな物か分からないからね。()()出来ないよ。だけど。」

 そこで言葉を切ってリコは不敵に笑う。

「分からないなら研究すればいい。幸い、材料は沢山ある。」

「材料?」


 リコは応接机の上に、10メルを超える赤黒い大きな魔石、赤黒いネットリとした液体が入った数十個の瓶を並べる。

「シルバーデビルの二つの魔石、グリフォントゥルスの魔石。そして黒装束君から回収した高純度の進化薬がたくさん。これだけあれば血魔石の事を分析するには十分さ。必ずミクちゃんを完全に救う道筋を立てて見せるよ。・・・それとも僕のことを信用できないかい?」


 上目遣いに尋ねてくるリコに俺は即答する。

「師匠は出来ない事を出来るとは言わないしな。知らなかったか?俺は世界で1番師匠の事を信じてるんだぜ。」

「ふふ。かわいい弟子にそこまで言われたら頑張らないとね。」

 リコはそう言って満面の笑みを浮かべるのだった。

 リコ姉さんの解説からは漏れていますが、強くなろうと頑張って戦った際に普通なら死ぬ様な怪我を負ったことも血魔石の侵食を早める原因の一つとなっています。怪我を治す為に体内の魔力を消費するからです。

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