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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第2章 金の魔導士
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第3話 ノールの1週間

 リコの屋敷に居候をする事になって1週間。俺はリコの指導に基づいて鍛え直しと言う名の鍛練を行っていた。


「僕が助ける事が出来たからいいけど、放っておいたらノール君は黒装束の男にやられていたよね。それにその前のグリフォントゥルスだって、話を聞く限りではウェポンブレイクの効果時間を見誤ってたでしょ?今回ノール君はよく頑張ったとは思うけど、まだまだ足りない所だらけだよ。」

 そうのたまわったリコが俺に与えた課題はウェポンブレイクを習熟することだった。


 ウェポンブレイクは発動すると武器の耐久力を消耗するわけだが、武器の質に合わせて身体能力も無理矢理引き上げられるため、現在の素の身体能力と引き上げ後の身体能力とに差があればあるほど、負担が重くなり体力を著しく消耗する事になる。

 リコは質の高い武器を用意した上で、ウェポンブレイクを発動した状態を出来るだけ維持して、武技の反復練習を行うように毎朝指示を出していく。


 リコ自身はミクの身体の検査などの用事もあるために指示を出した後は姿を消してしまうので、鍛練をサボろうと思えばサボれはするだろう。

 だが、俺の実力が足りない事は事実であるため、俺は真面目に鍛練を行なった。

 こうして、長時間ウェポンブレイクを使用し続けた結果、俺は体力の限界まで搾り取られるような鍛練を毎日行い、疲労から夜は泥のように眠りにつくという生活を続けることになったのだった。


 リコ曰く、極度の負荷をかける事でレベルアップ以外でも身体能力を鍛える事ができるらしい。

 実際に鍛練開始前からレベルアップしていないのにも関わらず、以前よりも少し身体能力が上がった気がする。

 まあ、武器の消費が激しすぎる為、貧乏性な俺には思いつかない鍛練方法だな。

 だが、グリフォントゥルスと戦った時、もし『竜殺し』にぶっつけ本番でウェポンブレイクを発動するのではなく事前に練習していたとしたら、その後の展開は変わったのではないだろうか。

 グリフォントゥルスの目の前で動けなくなるような醜態を晒す事は無かっただろうし、ウェポンブレイク自体の習熟によって武器の持続時間が長く、体力の消耗も少なくなって、その後の黒装束も圧倒出来たかもしれない。


 そんな日々を過ごしていたある日の朝、リコの研究室に来るように告げられ、俺はウキウキしながら研究室に向かった。

 昔、この屋敷に居候をしていた頃は、研究室には絶対に近づくなと言われていたからだ。

 黒い金属の扉を手でガンガン叩くと

「開いてるから入って来なよ、ノール君。」

 と、中からリコの声がしてくる。声を掛けても居ないのに何故俺と分かったのだろうか。


 研究室の中はかなり広くて、様々な魔道具や器具が置かれた大きな机がまず目に入り、部屋の中央には用途がよくわからない大型の魔道具と診察台、そして奥にある作業机で赤縁のメガネをかけたリコが何やら作業をしていた。

「もうすぐミクちゃんも来るだろうから、その辺に座りなよ。」

 書類を書いているらしいリコは顔も上げずにそう勧めてくる。周囲を見渡すと小さめの応接机と4人掛けの椅子が設置してあったため、そこに座ることにする。


 しばらく研究室の中を観察していると、カンカン、と甲高い音が聞こえてきた。

「ノール君、拳でガンガン叩くんじゃなくて、こうやってノッカーを使いなよ。」

「育ちが悪くてすまねぇな。」

「あれ?6年間君を育てた僕に文句を言ってるのかい?」

「そ、そんなことより返事しなくていいのか?師匠。」

 ほんの少しの怒りの色をみせるリコに俺が慌ててそう返事をすると、リコは肩をすくめた。

「まあ、確かにそうだね。」

『・・・開いてるから入って来てくれないかな。』

 微力の魔力を込めた部分はおそらく部屋の外に声を届ける為だろう。普通に声を出してたら、多分部屋の外まで聞こえないだろうしな。


「いらっしゃい。ミクちゃん。毎日検査ばかりですまないね。」

 リコの声と共にミクの姿が目に入る。ミクは見慣れた黒を基調とした服装から一転して白を基調にしたブラウスに花柄の刺繍が入った白いスカートを身に纏っていた。

 ポニーテールだった髪は下ろされてストレートになったせいか、シルクのような艶のある銀色がより一層際立っていた。元々綺麗だったミクが更に綺麗になっていて、俺は思わず見惚れてしまう。


「・・・ミク。随分と久しぶりな気がするな。その格好はどうしたんだ?」

「ああ。ノール。この屋敷に来て以来だな。・・コレはその。この屋敷のメイド達に着せられてだな。」

「・・・まあ、なんだ。よく似合ってると思う。それこそ眩しいくらいに。」

 褒めようと思ったのにロクな言葉が出てこずに、ミクに感想を伝えたが、ミクは嬉しそうにしているので、まあ問題ないだろう。

 その直後、ミクがリコに揶揄われて顔を赤くしていたのだが、会話を聞いていてもその原因は俺にはさっぱり分からない。

 分かったのはミクの身体についてリコが調べて分かった事を一緒に聞くということだ。


 俺とリコ、ミクの3人が応接机そばの椅子にそれぞれ座ったところで、リコが話を始めた。

「それじゃ、何から話そうかな。先ずミクちゃんの驚異的な生命力と身体能力について話をしようか。前にレベルアップのことを、魔素を取り込んで魂が強化され、それに合わせて肉体も強化されることだって感じの話をした思うんだけど、覚えているかい?」

「ああ、覚えてるぜ。」

「じゃあ、魂が強化されれば、なぜ肉体が強化されるか分かるかい?」

「いや、分からねぇな。考えたことも無かったわ。」


「それは魂が強化されれば生み出される魔力が増えて、その一部が身体能力の強化に回されているからと僕は考えているよ。例えば魂の強化をしなくても肉体的な負荷を掛ければ筋肉がついて、少しかもしれないけど身体能力が高くなるよね。」

「そうだな。現に俺はレベルアップしてなくても、ここのところの鍛練で身体能力が上がった気がするしな。」

 ここ数日間の地獄ともいえる鍛練が頭をよぎる。

「魂の強化、つまり魔力の増加による身体能力の強化の方が遥かに効率がいいだけであって、魔力の増加だろうが筋肉の増加だろうが身体能力は伸びる。それで考えたんだ。ミクちゃんはレベルアップしてないけど身体能力がかなり伸びている。つまり、筋肉の増加みたいな肉体的な変化が何かあるんじゃないかってね。」


 ふと近くに座るミクを覗き見るが、タイトな服を着こなすミクの姿はスレンダーであり、全くもって筋肉質な部分がない。

「けど、ミクの身体は筋肉質って感じじゃなさそうだがな。」

「あ、あまりジロジロ見ないでくれ!」

「すまんすまん。」

 恥ずかしそうに肩を抱くミクに、一言謝罪をしておく。

「確かに筋肉量があるって感じはしないよね。だから僕は量じゃなくて、筋肉の質が違うんじゃないかと思ったんだ。ミクちゃんの髪や唾液、血なんかを少し拝借して魔法で筋組織を培養してみたところ、ミクちゃんの細胞から作った筋組織は普通の耳長族の筋組織の10倍以上出力があることが判明したよ。驚異的だよね。」

「何故そのように私の身体は質が変わったのだろうか?」

「いい質問だね!」


 ミクの質問にリコはニコニコと答えた。説明をしているうちにテンションが上がっているのだろう。その翡翠色の瞳が爛々と輝き始めた。

「筋肉の出力が上がったり、異常な程の生命力があったり。身体の質が明らかに変わっているのは、たぶんコレのせいだと思うよ。」


 そう言ってリコは空間魔法で虚空から4〜5メルくらいの魔石を二つ取り出して、ゴロンと机の上に転がす。

 普通、魔石は透明な物が多いがその魔石は違って、全体的に赤黒く変色している。それは見れば見るほど心を掻き立てる、どこか不気味な色合いをしていた。

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