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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第1章 銀の少女
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幕間その3 或る少女の救済

「ノール。私を殺してくれ。」

 気がつけば私はそう口に出していた。ノールは驚いた顔をしており、リコ殿は俯いて何事か考えている様子だった。


 おそらく生体兵器として創られた私は、その戦闘能力の低さから『出来損ない』と呼ばれていた無価値な存在だ。識別番号(ナンバー)すら無く、当然名前もない。私という存在を証明するものが何もなかったのだ。


 研究施設を逃げ出してしばらく経ってからそれに気付いた私は、自分の価値を、存在を証明する為に強くなる事を決意した。

 それからは、がむしゃらだった。研究施設を逃げ出す時に手に入れた刀を使って、どんなに傷つこうとも多くの魔物を討伐した。

 刀を扱った事などなかったが、何度も死にそうになりながらも扱いを覚えていった。腕が千切れようとも、心臓を貫かれようとも、腹に穴が開こうとも、私は死ぬことはなかった。私が普通の人種であればとっくの昔に死んでいただろう。


 いくら魔石を奉納してもレベルが上がる事はなかったが、不思議と身体能力は格段に向上していった。魔力は相変わらず使う事が出来なかったが。戦う術を知らなかった私はこの1年間で格段に強くなった。・・・そのはずだった。

 だが、私が手に入れた強さは偽物で、やはり私は何の価値も無い存在だったのだ。その事に改めて気づいた時、私は生きる希望を見出せなくなってしまっていた。


「そうか。・・・分かった。」

 ノールがそう言った時、私を殺すことに同意をしてくれたと思った。私は目を瞑り、彼が仕事をやりやすい様に頭を少し下げる。私の身体は強靭な生命力と回復力を持っているが、流石に首を落とされれば死んでしまうだろう。


 私という存在がこの世に居たという証を残せなかった事には未練があるが、無価値の私にそれは分不相応というものだ。

 いつまでも来ないその時を待ちながら考える。そうだな。ノールを助けたこと。それが私が産まれ、生きてきた意味なのかもしれない。そのノールの手にかかって死ぬのであれば、それが私の運命なのだろうな。


 そう考えていたのに

「アンタが何も分かってない事が分かったぜ!アンタを殺せ?俺がそんな事するわけねぇだろ。」

 ノールはそんな事を言ってくる。何故ノールがそう言うのか、私には理解できなかった。混乱する私に対して、ノールはその後も様々な理由を述べて私の要求を拒否してきた。


「何度でも言ってやる。化け物?師匠に比べれば可愛いもんだし、俺はアンタを恐れない。数年での死亡に暴走?原因を探って治療すりゃ問題ないだろ。何なら俺も協力する。無価値?強さだけで考えんな。誰が何と言おうがアンタには価値があるし、死なれたら俺が困る。・・・なあ。それでもアンタは死ぬって言うのか?」


 私は自分が化け物だと思っていた。

 私は自分が死ぬものだと思っていた。

 私は自分が無価値だと思っていた。

 だが、彼はその全てを否定する。あまつさえ、私が死んだら彼は困ると言う。私は。・・・私は。


「・・・私は生きていてもいいというのか。」

 そう自然と呟いていた。つい先程までは確かに死にたいと思っていたのに。だが、一度生きていてもいいと言う事を認識すると、途端に死にたく無くなってくるのだから不思議なものだ。

 こうして、私はノールの言葉一つ一つに背中を押され、生きるのにあがく事を決意したのだった。


「私に・・・名前??」

 ノールがまた信じられないことを言ってきた。私に名前を考えてくれたのだと言う。ほんの短い付き合いだが、ノールは不器用そうだし、言葉選びのセンスがあるとは思えなかったから、つい怖気づいてしまったが。彼とリコが考えた名字とを合わせて出来上がったのが・・・

「・・・・・ミク・シロガネ。」

 自分でもポツリと口にする。不思議と昔から自分に馴染んだもののように感じられた。

 『出来損ない』のような蔑称ではなく、私のことを思って付けられた、私だけの名前。

 未来を見失っていた私を、未来まで導いてくれるような名前。新たに付けられた名前に、私は胸が熱くなる。


「気に入らなかったか??」

 ノールが心配そうな顔をして尋ねてきた。

「いや。私は、そのままがいい。ノールやリコが考えてくれた名前がいい。」

 私は早口で返事をする。ノールはきっと理解できていないのだろうと思う。私にとって名前がどれほど大事なのかを。


 私は私という存在がこの世に居たことを証明する為に強さを手に入れようとした。結局はその証を手にすることは無かったが。

 だが、私が勝手に付けた偽名(ニル)ではなく、ノールとリコの2人は本物の名前(ミク・シロガネ)を付けてくれるという。


 思えば私はノールから与えられてばかりだ。

 グリフォントゥルスから命を救ってくれたこと。

 絶望に染まった私を元気づけ、生きる勇気を与えてくれたこと。

 名前をつける事によって、私という存在がこの世界に居ることをいとも簡単に証明してくれたこと。

 様々な思いが溢れ出る中で、ふと私は自分の視界が歪んでいる事に気づいた。


 ・・・いつの間にか泣いている?だが、何かが辛い訳ではない。むしろ・・・私は、嬉しくて泣いているのか??

 それを自覚した途端、涙が止まらなくなり、私の頬を次々と大粒涙がこぼれ落ちていく。

 視界の端で大泣きする私を見たノールがオロオロするのにおかしさを感じながら、嬉しさに心を支配された私は、心の赴くままに涙を流すのだった。


 目が覚めると病室は暗くなっていた。私が眠るベッドの脇にある小窓から月明かりが差し込んでおり、その月光だけが部屋の中を薄っすらと照らしている。どうやら泣いていたら、いつの間にか寝てしまったらしい。

 記憶の限りでは人前であの様に泣きじゃくったのは初めてのことだ。その様な無様な姿をノールに見られたのかと思うと、何だろう。胸がもやもやするような・・・。


 取り留めのないことを考えていたら完全に目が覚めた私は、しかし動き回る気にもなれずに、ジタバタしながらベッドの上でそのもやもやについて考えていたのだが・・・。

 コンコンコン。ノックの音が静かな部屋に響き渡る。それと同時に

「ミクちゃん。ひょっとして起きてるかい?もし起きてたらちょっと話したい事があるんだけど。」

 飄々としたリコの声が聞こえてきた。


「すまないね。こんな夜更けに。病室の前を通り掛かったら、部屋の中で人が起きている気配がしたからさ。」

「何の問題ない、リコ殿。ちょうど目が覚めて眠れなかったところだから。」

 私がそう言うと、リコはその形の良い眉をひそめてしまう。

「その『リコ殿』は堅苦しいからやめて欲しいって言ったと思うんだけどね。」

「リコ殿は恩人だし、呼び捨てにするわけにはいかないからな。申し訳ないが。」

「・・・ふーん。もっと恩がありそうなノール君は呼び捨てなのに、なんで僕はダメなのかな?」


 ニヤニヤしながら質問してくるリコの翡翠色の瞳は爛々と輝いていた。

「そ、そんなことより!私に何か用事があったのではないか?リコ殿!」

 そういえば、私は何故ノールの事を呼び捨てにしているのだろうか。わざわざ指摘されると急に気恥ずかしくなって頬が熱くなった気がした。


「まあ、いいけどさ。そうそう、ミクちゃんの身体なんだけど、この際ちゃんと調べようと思ってね。簡易的には僕の魔法だけでも調べられるんだけど、精密検査のための魔導具を準備中だからちょっと待っててね。」

「ああ。それで構わない、リコ殿。何か予定がある訳でもないしな。」

 生きていくことに決めたが、これから何をするかは全くの白紙だ。まずは身体を調べた結果を見てから、どうするか考えようとは思っているけど。


「ごめんね、ミクちゃん。・・・ああ、そうだ。ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」

「なんだろうか?恩人たるミク殿の願いであれば、出来ることは全部させてもらうが。」

「内容を聞かない内から、そんなことは言わない方がいいと思うよ。僕は。・・・ええとね。ミクちゃんの刀、見せてくれるかな?」

 いつも飄々としているリコがそんな事を真剣な表情で頼んでくる。


「そんな事でいいのか?もちろん構わない。」

 そうして、私はベッドの横に立て掛けてあった刀を手に取り、リコに差し出した。彼女はそれを壊れものを触るかの様な手付きで大切に手に取り、じっくりと検分を始める。

 やがて、眺めていた刀身を名残惜しそうにそっと鞘に収めたリコの顔を見て、私はギョッとした。

 彼女の美しい翡翠色の瞳が潤んで、一筋の涙が右目から流れていたからだ。


「や・・・こ・、し・・・のか・・だ。」

 リコが何事か呟いたが、なんと言っているのかはよく聞こえなかった。

「リコ殿??」

「・・・ああ。ごめんね、ミクちゃん。ちょっと昔を思い出してね。これは返すよ。」

 リコは何かを懐かしむ様な、寂しげな表情をしていたが、涙を拭って刀を私に返す時には、その顔はいつものよう飄々としたものに戻っていた。


「この刀は何処で手に入れたんだい?」

「研究施設を襲撃していた鬼人族の戦士が持っていたものだ。武器が必要と思ったので、申し訳ないとは思いながらも逃げ出す時に拝借させてもらった。」

「そっか。・・・こんな遅い時間にすまなかったね。そろそろ失礼するよ。ミクちゃん。良い夢を。」

「問題ない。リコ殿も良い夢を。」

 そうしてリコは私の病室を出て行った。


 この時リコが流した涙の意味を知るのは、随分と先の話になるのだが、当時の私はそれを知る由も無かったのだった。

 このお話で第1章は完全に終了しました。ここまでご覧頂いた方々に御礼申し上げます。

 さて、今後の更新の話です。『第2章 金の魔導士』については粗方のプロットはまとまっているので、後は書き上げるだけになってます。

 ただ、私は遅筆なものですから、1ヵ月後くらいを目処に更新を再開できたらなぁ、と思っております。ある程度、書き溜まりましたら、更新していきますのでよろしくお願いします。


 また、このお話の他にちょっと思い付いたネタを書いてみたくて、2月12日の20時から『異世界転生したら日本刀でした〜普通はプレイヤーキャラに転生するだろ!?〜』という題名のお話を投稿します。興味があられる方は是非ご覧ください。題名からわかる通り、全く違うテイストのお話になりますが。


 いや、そんなお話はいいから、ロストデウスの続きを早く書けよ!・・・なんて言う奇特な方がいらっしゃいましたら、評価やいいね、感想なんかいただければ、物凄く頑張るかもしれません。それでは、またお会いしましょう。ではでは!

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