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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第1章 銀の少女
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第19話 小さな英雄

「ハンターズファリーナ支部に所属する諸君。今回のグリフォントゥルスの襲撃、よく防いでくれたね!初めましての人も居るだろうから一応自己紹介をしておこうかな。僕がファリーナ支部長のリコ・キサラギだよ。」


 グリフォントゥルスを倒した翌日のこと。ファリーナ支部のロビーいっぱいに集められた俺を含めたハンター達の前でリコは楽しげに話し始めた。

 ちなみにミクは身体は動くものの、大怪我の直後で本調子ではないため、欠席している。


「それはそうとして、コリンズ副支部長を通して伝えていたよね。僕が帰るまでにグリフォントゥルスを片付けていなかったら、血反吐を吐くまで鍛え直すと・・・。」

 神妙な顔をして言葉を切るリコを固唾を飲んで見守るハンター達。

「ふふ。見事に僕が到着する前に()()()()()()()()()()討伐されていたよ。」

 言葉にトゲがあるのは黒装束の男の事を言っているのだろうか。だが、周りのハンター達は血反吐を吐く事にならなくて済むのを理解したためか、ホッとした安堵の表情を浮かべている。


「それでね。グリフォントゥルスの討伐が間に合わなかったら罰を用意してたのに、成功しても何もご褒美が無いのはフェアじゃないと思ったんだ。」

 そこまで言って、リコはニヤリと笑った。

「つまり、祝勝会を開催するよ!今日に限ってはハンターズ内の酒場は何を飲み食いしても全部僕からの奢りさ。浴びるほど飲んで、腹がはち切れるまで食べることだね。」

『ウオオォォオオオオ!』

 リコの奢る宣言を聞いたハンター達の野太い声がロビー内を揺るがした。それと同時に、早い者勝ちだと言わんばかりに酒場がある商業区への出入り口にハンター達が殺到する。


『反射壁』

 聞き慣れない言語で力ある言葉をリコが発すると、ロビーを出ようとしたハンター達が見えない壁に阻まれて、次々と弾かれてロビー内へ逆戻りになっていく。

「お店は逃げないんだから君達も落ち着きなよ。・・・やれやれ。まだ話の途中だったんだけどね。祝勝会の話は後にすれば良かったかな。最後まで話を聞くように。」

 そう呆れたように呟くリコに、ハンター達の視線が再び集中する。


「ノール君。ちょっと僕の隣まで来てもらえるかな?」

 その他大勢のハンター達に紛れていた俺だったが、指名されたのであればリコの所に行かざるを得ない。リコの隣までやって来た俺に対して、ハンター達の視線が突き刺さる。ざわざわとした雰囲気に俺は居心地の悪さを感じた。


「リコ様から大事なお話です。お静かに!」

 コリンズの声と同時にリコから大量の魔力が放射される。強烈な魔力に当てられて静まり返ったロビーを見渡したリコは話を続けた。

「みんなも知っての通り、今回のグリフォントゥルスを倒したのは、ここに居るノール君になる。ノール君はつい先日ゴールドランクになったばかりだから少々異例ではあるけど、今回のグリフォントゥルス討伐の功績をもってミスリルランクに昇格する事が決定しました。はい、拍手ー。」


 パチパチとリコが拍手する乾いた音が静かになったロビーに響き渡る。ゴールドランク以上は世間的には上位のハンターという事になる。街や小さな都市ならゴールドランクが最上位のハンターでもおかしくはないくらいだ。

 ミスリルランクならそれこそ大都市以外の大抵の場所で最上位になるだろう。そのランクに武技を覚えていない戦士系ハンターがなることは前代未聞のように思えた。


 俺がミスリルランクになる事について、一緒にグリフォントゥルスと戦ったハンター達、ゴールドランク以上のハンターは何ら異議はないようだが、シルバーランク以下のハンター達には否定的な者もそれなりに居るようだった。

 数の上では低ランクのハンターの数がもちろん多いため、静かだったロビーが徐々に騒がしくなっていく。それも、俺の昇格に否定的な方向で。


 リコの目つきが徐々に険しくなり、その魔力が高まりかけたその時

「お前ら!グダグダ文句を言うのはヤメねぇか!」

 ロビーに野太い声が響き渡った。

 その声のした方を見れば、短いアゴ髭を生やした目付きの鋭い30代前半くらいの人族の男性が壁際に佇んでいた。

 再び静まり返ったロビーをコツコツと歩いてその男が近づいてくる。

「・・・ノール。あの時はすまなかった。」

 そして、こう言ったのだが・・・。

 んー・・・・。誰だ?このオッサン。顔に全く見覚えがない。


「誰だ、コイツって顔をしているな。俺はゴールドランクのゲオルグってもんだ。」

 苦笑しながらオッサン、ゲオルグが名乗ったのだが・・・。名前を聞いても記憶に何も引っかからない。マジで分からないんだが。

 俺が頭を悩ませているその時、今思い出したと言わんばかりにコリンズが口を開いた。


「ああ。貴方はグリフォントゥルスの作戦会議をしている時に、ノール君が攻撃役をする事に反対されてた方でしたか。」

「ああ。そうだ。・・・実はグリフォントゥルス戦の時、俺は先頭集団近くに居てな。グリフォントゥルスと戦うノールの姿がよく見えたんだ。翼と脚を斬り落とした動きは本当に見事だった。武技で言えば飛空斬と回転円舞斬に見えたが、何というか、武技を使うよりも綺麗な、強力な攻撃だった。・・・つまり、何が言いたいって言うとだな・・・。」

 しばし沈黙した後、ゲオルグは俺に向かっていきなり頭を下げる。


「本当にすまなかった!『技無しには無理だろ!』と言って。」

「な、何してんだ。俺が『技無し』なんてのは、いつも言われてたことだし、大して気にして無いんだが。」

 どうやら、技無しと言った事に対して謝罪をしたいらしい。気恥ずかしくて慌てて返事をする。


「俺はファリーナの出身でな。ファリーナには妻に子供もいるし、命を賭けてでもファリーナを守らないとって思ったんだ。それなのにゴールドランクに成り立てのノールがアダマンタイトランクの魔物を倒せるわけが無い。ファリーナを守らないと行けないのに副支部長は何を血迷った事を言ってるんだ。そう思った。だからあんな事を言った。」

「俺がアンタでもそう思うし、気にしなくてもいいぞ。ゲオルグ。」


 普通はゴールドランクのハンターにアダマンタイトランクの魔物を倒せるはずが無いし、ゲオルグがそう思うのも無理はない。

「実際に間近でグリフォントゥルスを見て、恐怖するのと同時に、例え俺が何人居ようとも、いくら命を賭けたとしても奴には全く敵わない事が確信できた。だが・・・。」

 そこで一旦言葉を区切り、先程俺の昇格に文句を言っていたハンター達の方に向き直りながら、ゲオルグは言葉を続けた。


「お前等に出来るか?自分より2ランク上の化け物の前に立って戦う事が。そして、その化け物に勝利する事が出来るか?・・・『技無し』だろうが何だろうが、ノールはな、それを成し遂げたんだよ。それでも文句を言うっていうなら、俺が相手になってやる。」

 ゲオルグの問いかけられたハンター達は俯いたまま、誰も何も言い返す事が出来なかった。


「という訳で、俺は、ノール。アンタの昇格を心から祝うぜ。それから、あの化け物を倒してくれたアンタは誰が何と俺の中では『英雄』だ。・・・おっと。世界的な英雄様が隣にいるからアンタは『小さな英雄』ってとこか。身体はデカいが。」

「違いねぇ!大きな『小さな英雄』の誕生だな。ガハハ!」

 それまで黙って成り行きを見守っていたグレゴリウスが大きな声で笑う。すると場の空気が一気に明るくなった気がした。


「さて。誰も異議は無いようだね。まあ、昇格は決定事項ではあるのだけど。今回のグリフォントゥルス討伐にかかる報酬は今計算中だから、数日後に結果を発表するよ。じゃあ、難しい話は終わり。祝勝会の開始だよ!『解除』。」

 リコの耳慣れない言語と共に商業区への扉に張られていた見えない壁が解除されると、ハンター達は今日のタダ飯、タダ酒を逃すまいとあっという間に商業区の酒場へと消えっていった。


 すっかり人影がまばらになったロビーでリコが話しかけてくる。

「さて、大きくて『小さな英雄』さん。僕たちも勝利の美酒を味わいに行かないかい?」

「小さくて『大きな英雄』様の命令には従うさ。さあ、行こうか。」


 軽口にリコからの物理的に重すぎるツッコミを受けながら、俺とリコの2人はその足を酒場の方へと向ける。

 そうして行く先々で「『小さな英雄』に乾杯。」と歓迎を受けながら飲む酒は、恥ずかしいながらも今まで飲んだ酒の中で一番美味しい味がしたように感じたのだった。



 こうしてファリーナ襲撃事件は幕を閉じ、俺は一時の平穏を取り戻した上に、『小さな英雄』というちょっとした名声も手にする事になったのだった。

 しかし、この事件は今から起きる大事件のほんの始まりでしか無く、俺とミクはこの後、大陸中を駆け回り、様々な経験をする事になるのだが、この時の俺はまだ知る由もなかった。

この話で、1章本編は終了です。ここまでお話に付き合っていただいた方、ありがとうございます。

この後は小話をいくつか投稿した後に、『第2章 金の魔導士』に続いて行く事になります。

と言っても、第2章はまだ書いていないので、ある程度書き上げてからの更新になります。


また、少しだけ別のお話を書いています。そのうち公開しますが、よければそちらもご覧下さい。テイストは大分変わりますけれど。


今後ともよろしくお願いします。

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