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ロストデウス〜神去りし地にて〜  作者: 北乃ロバ
第1章 銀の少女
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第18話 『彼女』の名前

「・・・アンタはそれでいいのか?」

 『彼女』の唐突で無茶な要求に頭が真っ白になった俺は、そう返すのが精一杯だった。

「構わない。私はいつ暴走するともしれない人のカタチをした化け物だ。それに、何もしなくても私は数年の内に死亡する。私には元々未来がないし、もはや生きている価値がないのだから。」

 淡々と語る『彼女』には生気が感じられなかった。その言葉の通りに生きる意味や希望を無くしているのだろう。


「そうか。・・・分かった。」

 俺がそう言うと、ここを斬れと言わんばかりに頭を下げて頸を晒し、『彼女』は目を瞑る。

 気持ちはわからなくもない。今まで目標にしていた事が、生きる目的が、『彼女』の中では無くなってしまったのだから。

 だが死を選ぶという結論は決定的に間違っているし、俺のことを、殺してくれと言われて、はいそうですかと殺すような人種だと思っているのにも腹が立つ。受け取った刀を思わず握りしめて、『彼女』に思いを伝える為に俺は声を張り上げた。


「アンタが何も分かってない事が分かったぜ!アンタを殺せ?俺がそんな事するわけねぇだろ。」

「・・・どういうことだ?」

「大体アンタの結論は決定的に間違ってる。人のカタチをした化け物?はは。いいジョークだな。多分大陸最強のヒトガタの化け物が俺の隣にいる師匠なんだが、本当の化け物ってのはこの人みたいなのを言うんだぜ。」

「ノール君、君ねー。」

 ジト目で見てくるリコが怖いが、今はそれを無視して話を続ける。


「数年で死亡する?100%死亡するって研究員が言っていた??俺ならそんな怪しげな奴らの言う事は信じねぇし、死亡する可能性があるにしても、何で治療する手段を探さねぇんだ。」

「それは、私には生きている価値が・・・。」

「ほほぅ。弱いから価値がないと?アンタの強さ以下が無価値なら、世の中の殆どの人種は無価値ってことになるが流石に違うんじゃねぇか?大体、アンタは俺の命をシルバーデビルの時や、グリフォントゥルスの時に救ってくれた。今死なれたら俺は恩を返す『人種』がいなくなるんだぜ?俺にとってはアンタは価値がある重要な人種だ。」


 満月色の瞳を見開いて驚いている『彼女』に俺は畳み掛ける。

「何度でも言ってやる。化け物?師匠に比べれば可愛いもんだし、俺はアンタを恐れない。数年での死亡に暴走?原因を探って治療すりゃ問題ないだろ。何なら俺も協力する。無価値?強さだけで考えんな。誰が何と言おうがアンタには価値があるし、死なれたら俺が困る。・・・なあ。それでもアンタは死ぬって言うのか?」


 俺の言葉に『彼女』はしばらく沈黙した後で絞り出すように呟いた。

「・・・私は生きていてもいいというのか。」

「生きる事に誰の許可なんていらないと思うがな。そういえば黒装束の野郎が出てきて言いそびれてたけどよ。命を助けてもらった恩とかに関係なく、アンタの事、俺は結構気に入ってるんだ。だから、まあ、何というか。生きるのにあがいて欲しいし、死んで欲しくないんだが。」

「・・・分かった。善処しよう。」

 そう短く返事をした『彼女』のその満月色の瞳は嬉しそう笑っていて、綺麗な輝きを取り戻していた。


「話はついたようだね。良かったよ。僕も貴女には大切な弟子を2回も助けてもらった恩があるからね。最大限の協力をさせてもらうよ。これでも僕はちょっとは名の知れた生物学の研究者だからね。貴女の身体の精密検査すれば、死亡や凶暴になる可能性、その他諸々を調べられるんじゃないかなって思うんだけど。」

 ちょっとどころか、世界的に有名な研究者でもあるリコがニコニコと微笑みながらそう提案すると

「リコ殿、よろしくお願いする。」

『彼女』もそう言って頷いた。しかし、何故かリコは不満顔になる。


「さっきから思ってたんだけど、リコ殿、とかその喋り方、堅すぎるんじゃない?僕としてはもっと砕けた口調がいいんだけど。あと、いつまでも名前が無いのは不便だよね。ノール君、ちゃんと考えたのかい?」

 どうやらリコは他人行儀な口調が気に入らないらしい。そんなリコから名前についての言及があった。

 実のところ、この病室で話をする前から『彼女』に名前がないであろう事は分かっていた。だから


「なあ。師匠の言うとおり、名前が無いのは何かと不便だと思うんだ。いつまでもアンタ呼びじゃ格好がつかないしな。で、名前を考えたんだけど聞いてくれるか?」

 俺がそう提案すると

「私に・・・名前??」

 彼女は信じられないものを見るように俺を見つめてくる。

「今からずっと生きていくんだから、いつまでも名無しじゃ都合悪いだろ。まあ、俺が考えた名前でいいのかって感じはするが。」

「そ、そんな事はない!・・と思う。」

 ベッドで上半身を起こした状態の『彼女』は落ち着かない様子でそわそわし始めた。と思う、と付け加えられたあたりに、俺のセンスを信用されてない気がしてやや気分が悪い。まあ、いい。


「ミクってのはどうだ?さっき言ってたよな。私には未来がないって。ミクって言葉は耳長族の言葉で未来って意味なんだ。生きる事に決めたんだ。未来がないんじゃなくて、未来があるようにって意味でつけたんだが。」

「ノール君にはしては、いい名前なんじゃないかな。まあ、耳長族は名字があるのが普通だから、名前だけだと目立つし、僕からは名字を贈るよ。そうだね。シロガネはどうかな?耳長族の言葉で銀色って意味なんだけど、貴女の綺麗な銀色の髪を表わしてて、いいと思うんだけどな。」

「合わせると、ミク・シロガネ、か。俺には良さそうに思えるけど、どうだ?」


「・・・・・ミク・シロガネ。」

 一言名前を呟いて『彼女』は俯いてしまう。その為、表情は見えず、名前が気に入っているのかどうかは分からなかった。

「気に入らなかったか??」

なんの返事もなかった為、俺が尋ねた瞬間

「いや。私は、そのままがいい。ノールやリコが考えてくれた名前がいい。」

 すばやく返事をしてくる『ミク』。そのミクの満月色の瞳は、涙に溢れてゆらゆら揺れていた。やがて溢れた涙は頬を流れる雫となって、布団の白いシーツにポツポツとシミを作っていく。


「・・・二人とも、本当にありがとう。」

 辛うじて聞き取れるぐらいのか細い声でそう言うと、ミクは大粒の涙をボロボロと流し、そのまま泣き続けたのだった。


 私の拙いお話にお付き合いいただきありがとうございます。第1章本編も残すところ後1話になりました。最後までお付き合いいただけたら幸いです。


 それはそうと、昨日どなたからか、またブックマーク登録をいただきました。非常に嬉しいです。ポケモン風に言えば


北乃ロバは やる気が ぐーんとあがった。


と言ったところです。今後とも皆様に評価していただけるように頑張ります。

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