第14話 襲いくる凶刃
「グレゴリウスのおっさん。アンタが雷撃を防ぐんじゃなかったのか?最初からニルに攻撃させるつもりだったんだろ?」
命を預けろとまで言われたのに、結局グリフォントゥルスの雷撃をその巨大な盾で防ぐ事はなかったグレゴリウスに、やや怒りを覚えた俺は不満を口にする。
「坊主。ワシは全力で何とかすると言ったが、一言も防ぐとは言ってないぞ?坊主からは見えなかったかもしれねぇが、途中で耳長族の嬢ちゃんが起き上がるのが見えたからな。鳥野郎の注意を引きつけるのに『全力』を注いだ結果、隙をついた嬢ちゃんが見事に角を切り落としたし、坊主にトドメを刺す役が回ってきただろうよ?」
「ぐっ。」
全く悪びれずに反論してくるグレゴリウスの台詞に俺は言葉を詰まらせた。よくよく思い返してみると、確かに防ぐとは言ってないし、言う通りの結果になっているからだ。
「あぁー!納得いかねぇ!!」
「ガッハハハ!まあ、仮に嬢ちゃんが失敗したら、ワシが防ぐつもりだったし。そう怒るなよ、坊主。」
モヤモヤして頭を抱える俺の背中を、笑いながらグレゴリウスがバンバンと叩いた。
「・・・そんなことより、坊主。嬢ちゃんとは話をしないのか?」
そう言ってグレゴリウスが目線をやった先を見ると、石に腰掛けて俯いているニルの姿があった。
ノースリーブのジャケットから覗く肩や、ハーフパンツから伸びた脚には、グリフォントゥルスに突き飛ばされて地面を転がった際に出来たと思われる大小様々な擦り傷があり、その姿はひどく痛々しく感じられる。
俯いているため、その表情は見えないが、かなり体力を消耗している様子で、肩で息をしながら休息しているようだった。
「まあ、せっかく助けた姫さんだ。周りのハンター達は手こずってるみてぇだし、ワシは周囲の魔物を片付けてくるからよ。あとは若い者同士で話をしな。」
「だからそんなんじゃねぇって言ってるだろ!」
抗議の声を上げる俺を無視すると、グレゴリウスは周囲で戦っているハンター達の応援をするべく、背を向けて手を振りながらスタスタと立ち去って行った。
そんなグレゴリウスの背中にため息をつきながら視線をニルの方へ戻すと、いつの間に顔を上げていたのか、彼女と目が合った。綺麗な満月色の瞳だ。
「・・・あーっと。久しぶりだな、ニル。さっきはグリフォントゥルスにふっ飛ばされてたけど、身体は大丈夫なのか?」
「ああ。不覚をとったが大丈夫だ。」
なんとなく気まずくなって俺が早口で尋ねると、ニルからは淡々とした声が返ってくる。
「・・・ノールと言ったな。」
「おう!覚えててくれたのか。正直忘れられているかと思ってたぜ!」
なぜか鋭い眼光で睨んでくるニルに俺は内心ビクビクしながら陽気にこたえてみる。
「・・・感謝している。私を助けてくれたことに。」
そうポツリと言ったニルの眼差しは少し柔らかくなった様な気がした。
「あの化け物の攻撃を受けた時。私は威力を受け流しきれずに気絶してしまった。その後にノール。貴方がグリフォントゥルスの足と翼を斬り飛ばしたのだろう?それで貴方が標的にならなければ私は死んでいただろう。」
「シルバーデビルの時の借りがあるし気にしなくていいぞ、ニル。」
「あれは貴方を助けるためではなく、シルバーデビルの魔石を私が欲しかったから倒しただけだ。」
「それなら俺だって、ファリーナを救うためにはグリフォントゥルスを倒す必要があっただけだ。」
何故か言い合いになり、しばらく無言で睨み合う俺とニル。
「まあ、俺の場合はさっきの鳥野郎の雷撃からニルに助けてもらってるけどな。ニルなら首を斬り落とせただろうに、何で角をわざわざ斬り落としたんだ?」
「そ、それは!・・・角の方が私から近かったから!!」
「ニルは鳥野郎の背後から跳んできただろ。当然首は角より後ろにあるから、その理由は成り立たないんじゃないか?」
「くっ!」
俺の冷静なツッコミに対して、ニルは俺からそっと目を逸らす。
「それに今気付いたが、シルバーデビルの時も首を斬り落とせたよな?俺を助けるつもりがないなら、最初に腕を斬り落とさなくても・・・。」
「ど、どこを攻撃しようが私の勝手だ!どうせ敵は倒すのだ。倒すのならついでに人助けしても構わないだろ!」
尖った耳の先まで真っ赤にしながら俯くニルの反応を見る限り、実は人助けをしていた事がバレて恥ずかしいのだろうか。
人を寄せ付けないような冷たい態度を装っているが、根は優しい子なのかも知れない。
「じゃあ、どこを攻撃して誰を助けようが俺の自由だよな、ニル?」
「勝手にしろ!!」
吐き捨てるように言うニルが可愛らしくて俺は思わず苦笑した。
「許可をありがとう。まあ、シルバーデビルやグリフォントゥルスの件が無くても、ニルを助けただろうけどな。」
何故か頬を赤く染めたニルに俺がそう言うと、ニルの表情が急に固くなるのが分かった。
「ノール。ほとんど面識がない私になぜそんなに優しいのだ?・・・私は。私には。命を賭けて守る程の価値など無いというのに。」
「急に怖い顔をしてどうした?ニル。目の前に死にそうな人が居たら俺は助けるぞ。それが命の恩人なら尚更だし。それに・・・」
絞り出すように声を上げたニルに対して、俺は最後までその台詞を言う事は出来なかった。何故なら
「がはっ!」
突如出現した黒装束の人物に、ニルはその華奢な身体を背後から短剣で貫かれ、吐血して膝から崩れ落ちたからだ。
1章も終わりが近づいて来ました。楽しんでいただけてるでしょうか??
明日から更新時間を22時に変更しますので、この場でお知らせいたします。




