第12話 敵陣突破の先に
グリフォントゥルスの雷撃、極太の紫光の杭がファリーナに突き刺さる。
ドゴォオオオオオン!!
内臓まで震わせる程の大音響とともに、ファリーナごと振動させるほどの衝撃が走り、西門側に集中的に展開していた魔法障壁が一枚残らずパリンパリンと割れていく。
1射目から2時間と少し、2射目の雷撃が発射されたが、西門が多少傷ついたくらいで、コリンズの読み通りにファリーナには損害はなかった。
雷撃を防ぎきった後、待機していた偵察隊からの報告によれば、1射目と同じくグリフォントゥルスは眠りについたらしく、作戦通りにすぐに出撃する事が決まった。
「野郎ども!余裕ぶっこいて眠りこけてる鳥野郎に一撃入れに行くぞ!雑魚魔物どもを蹴散らせぇ!」
グレゴリウスの掛け声と共に西門が開け放たれ、ゴールドランク以上のハンター達が夕日を背景にグリフォントゥルスを目指して突進していく。当然、攻撃役を拝命した俺も先頭集団に混じって駆け出すのだった。
ファリーナの正門から突き進むこと10分少々。ハンター達はグリフォントゥルスの周囲に展開している魔物の第一陣と接敵した。
ゴールドランク以上のハンターで構成された精鋭は、常人とはかけ離れた体力を誇っており、少々の走行では息を乱すこともなく、勢いそのままに魔物達に襲いかかっていく。
俺も目の前に現れた身長120メル程度の粗末な武具で武装した緑色の人型、いわゆるゴブリンの群れにバックパックから取り出したスティールソードを片手に切り掛かる。
ウェポンブレイクは既に発動した状態であり、剣をひと薙ぎするとゴブリン達が構えていた錆びだらけの武器ごと胴体を両断していく。
ズシャッと崩れ落ちる身体を見ることなく駆け抜けると、隣を並走していたグレゴリウスが感嘆の声をあげた。
「ゴブリンとは言え、武器と防具ごと両断するとは中々やるじゃねぇか!さすがはリコの弟子だな!」
そう言いながら、グレゴリウスは盾を構えながらレプスの群れに正面から突進していく。
鈍色の全身鎧に身を包んだグレゴリウスは同じく鈍色の巨大なタワーシールドを持っており、重そうですねと聞いたところ、その鎧と盾には重量操作の魔法が付与されているらしい。
装備者は重さを感じず、敵対者には逆に本来よりも重くなる魔法だ。巨大な鉄の塊がアダマンタイトランクの身体能力にまかせて突進するようなものであり、暴走する馬車に跳ね飛ばされた小動物のように、レプスの群れは群れごと跳ね飛ばされる。
レプス相手とはいえ、あまりの威力に引きながら、俺は思わず呟いた。
「・・・とんでもない威力ですね。」
「ありがとうよ。だが、坊主のさっきの攻撃も、その貧弱な武器とは思えない威力だったぜ。ワイドスラッシュに似た動きだったが・・・。」
ワイドスラッシュとは、比較的広範囲の敵に斬撃を加える初歩の武技だが、余りにも高い威力に疑問が湧いたらしい。
会話をする間にも多種多様な魔物の群れが襲ってくる。
トンボが巨大化したような魔物リベルラ、体長100メルほどのアリに酷似したフォルミカなど、いずれも低ランクの弱い魔物を俺は剣の一振りで、グレゴリウスはショルダータックルやナックルで次々と薙ぎ倒しながら進んでいく。
3、4振りするごとにひび割れて光る粉となって消えていく剣を見たグレゴリウスは一瞬目を見開いて驚いた様に見えたが、妙に納得した様子でバシバシと俺の背中を叩いて
「今日は改めてよろしく頼むぜ、坊主!」
とニヤっと笑った。どうやらギフトのことを察したらしい。
リコが旅立ってから、目立った依頼は請けてはいないが、大量の武器を貰った俺はウェポンブレイクを習熟する為に積極的に使用していた。
その結果、全くの自動で動いていた身体をある程度自分の意思で動かせるようになり、武器の持ちが長く、体力の消費が少なくなったのだ。体力についてはアダマンティスの魔法鎧に付与された体力増強、体力回復の付与魔法の影響も大きいが。
魔物を倒し続けていくと、低ランクの魔物ばかりだったのが、豚の顔をした人型で200メルの巨体を誇るオークや全長300メルを超える巨大な猪で牙が異様に発達した魔物スース、巨人族とも呼ばれる400メル超の人型で全身の筋肉が発達し粗末な腰蓑を身につけたオーガ、グリフォンなど高ランクの魔物が次第に出現し始めた。グリフォントゥルスに近づくほどに魔物が強くなるようだ。
ゴールドランクあたりの魔物になると、流石にひとまとめに撫で斬りには出来ないものの、俺もグレゴリウスも一撃で倒していく。 突進してくるスースはその勢いを利用して頭から尻まで真横に両断し、棍棒を振り下ろしてくるオーガには、紙一重で攻撃をかわした上で股下から頭までをかち割る。
「はっはー!ゴールドランクの攻撃じゃねぇな!坊主がゴールドランクとか詐欺だろ。実はアダマンタイトクラスじゃねぇのか?」
グレゴリウスは愉快そうに笑いながら、オークの巨体に盾をぶつけて吹き飛ばし、クチバシで突こうとするグリフォンには攻撃をわざと受けつつ、何のダメージも無い様子で隙だらけの翼を掴んで地面に数回叩きつけるように振り回して投げ飛ばす。
吹き飛ばされたオークも、放り投げられたグリフォンもぴくりとも動かない。他のハンター達の殲滅速度が急激に落ちる中、俺とグレゴリウスが進む速度は然程変わらず、遂に魔物の最終防衛ラインを突破する事が出来た。
予定通りに俺とグレゴリウスでグリフォントゥルスに攻撃を仕掛け、周囲の魔物がその戦いに乱入しないように、ミスリルランクパーティーの『白金の盾』を筆頭とした俺たち以外のハンターたちが、足止めを行う事となる。
魔物達の包囲を突破した先は何も無い草原が広がっており、いつの間にか夕陽が沈んで姿を現した満月の光の下、遠くに奴の姿がポツンと見えた。
グリフォントゥルス。グリフォンの異常種。最高ランクであるオリハルコンランクの一つ下であるアダマンタイトランクに位置付けられている怪鳥である。
通常のグリフォンは四足歩行の獣の胴体に猛禽類の頭と翼を掛け合わせた全長400メル程度の凶暴な魔物で、口からの炎のブレスや、風魔法、クチバシや鋭い爪による物理攻撃、更には飛行可能であるなど多彩な能力を持っているのだが、他の異常種の例に漏れず、グリフォントゥルスも元になったグリフォンとは全く異なる姿、能力となっている。
まず単純にでかい。全長2,000メル、体高1,000メル程度はあるだろうか。翼や尻尾をいれればもっと大きいだろう。
また、青みがかった灰色の鎧羽根と呼ばれる特殊な羽根で全身が覆われており、ドラゴンの鱗の様に硬質なそれのせいで、並の攻撃では傷一つつける事ができないらしい。それこそ普通のゴールドランクのハンターの攻撃など無意味だろう。・・・俺は成りたてのゴールドランクだが。
一番特徴的なのは体格相応に大きな猛禽類の頭から前方に伸びる2本の大きな角だろうか。水晶のように半透明で薄紫色をした角はわずかに帯電しており、時折りバチバチと火花を散らしている。この2本の角に魔力を集束させて、あの雷撃が放たれるのだろう。
まあ、目の前にソイツが居るわけだが、どういう訳か既に誰かが戦っていた。
魔物達はファリーナ側に何層にもわたって壁を作るような陣形を展開していたが、ファリーナの反対側にはその壁は全くなかった。
グリフォントゥルスの雷撃さえなければ、魔物を迂回して攻撃できたが、3射目の雷撃までにはとても間に合わない為、最短距離で突撃する事になったのだ。
そして、俺とグレゴリウスはその先頭にいて、たった今到着したため、今グリフォントゥルスと戦っているのはファリーナ以外から来た人物という事になる。
一瞬リコかと思ったが、遠目から見えたのがスレンダーなシルエットだった為、違うのがすぐに分かった。いずれにせよグリフォントゥルスを撃退するか討伐しなければならない俺達は近寄るしかない。
近寄ったところで見えたのは風に靡く銀色のポニーテール。右手には大きく反り返った刀を持ち、上下は黒革のレザージャケット、レザーパンツを着込んだ耳長族の女性。つまり
「・・・ニル!こんなところで何をしてんだ!?」
そう。ニルだった。




