第10話 ファリーナ襲撃
ファリーナの街は他の多くの都市と同じように、魔物の侵入を防ぐ為の外壁に囲まれている。ただ大都市であること、交易都市であることもあって、外郭に他の都市にはない大きな特徴が2つある。
一つ目は単純に外壁が巨大であること。普通の都市であれば外壁は高さ500メル程度だろうか。ファリーナの外壁は高さ1,000メルを超えている上に分厚くて非常に頑丈に出来ている。
二つ目は巨大な堀に囲まれていること。交易都市として海上交通が発達しているファリーナは側を流れるプルウィン川を街まで引き込んで都市内の貨物運送に利用しているが、外敵を阻むための幅3000メルの巨大な堀も併せて建造されているのだ。
この堀については、創世神話よろしく、リコが魔法で創り出した物らしいが。
一地方都市としては破格の防御設備を誇るファリーナであったが、リコが王都リーディアルガへ旅立ってちょうど2週間。そろそろリコが王都に着くであろう時期に、ソレは現れた。
ウーーー!ウーーー!ウーーー!
今日も1日が何事も無く過ぎ去って行くかと思われた昼下がりの午後。突如として魔物の襲来を知らせるサイレンがファリーナの街中に響き渡った。
ちょっとした魔物の1匹や2匹がファリーナに近づいた程度ではこのサイレンはならない。ファリーナの存続に危機が及ぶような存在が現れた時だけになるものだ。
リコが予言した襲撃も起きず、どこかのんびりと構えていた俺は、サイレンを聞いて慌てて外壁の上まで駆け上がり、異変は何処かと見渡した。すると西門のはるか向こうの空に、巨大な魔物が羽ばたいているのが見える。
「なんだありゃ?」
その魔物をジッと見つめていると、2本の角が紫色に輝き出し、バチバチと音を立てて火花を散らすのが遠くからでも確認できた。かなり距離があるが、膨大な魔力が2本の角に集まっていくのが感じられる。
つい先程まで晴れていたファリーナの空が途端に黒い雲に覆われて、薄暗くなっていく中、2本の紫色の光はますます強くなり、極限までその輝きが増した時、溜め込まれた魔力が解放された。
ドッカァアアアン!!
轟音と共に、一条の光となって紫電がファリーナを直撃し、大地を揺るがした。
どれほどの被害が出たのか。激しく揺れ動く地面にバランスをとりながら、雷光が直撃した西門のあたりをみると全くの無傷で、半透明の魔力障壁が展開しているのが見えた。
規模の大きい街や都市になると、外壁に魔力障壁を発生させる装置が備え付けられている事がほとんどである為、ファリーナにもそれが設置されていたのだろう。
まあ、通常はあれ程の攻撃を防げるものではないから、リコが何かしたのだろうけど。
攻撃をした化け物の様子を伺うと、ファリーナから離れた草原に横たわり、身体を休めている様に見えた。攻撃に多量の魔力を使用したため休憩が必要になったのだろう。今すぐの追撃は無さそうだと判断した俺は、情報を集める為にハンターズへ向かった。
「緊急招集です!ゴールドランク以上のハンターの皆様は至急会議室に集まって下さい。ファリーナに攻撃を仕掛けきた魔物について、対策会議を行います!」
ハンターズに到着した途端、小さな身体の割にはよく通る大きな声で受付嬢のアマンダが懸命に呼び掛けている姿が目に入る。
「シルバーランク以下の方はロビーでしばらく待機をお願い致します!」
つい先日までシルバーランクだった俺としてはロビーに留まりそうになったが、そういえばゴールドランクに昇格していた事を思い出し、会議室に足を踏み入れる。
そうして、成り立てのゴールドランクである俺も参加した上で、コリンズ副支部長が司会となり情報共有と対策について会議が始まった。
「急な召集にも関わらず、沢山のご参加をいただきありがとうございます。副支部長のコリンズです。早速ですが、現在分かっていることを手短にお話しします。まずは今回ファリーナに攻撃を仕掛けてきた魔物ですが、グリフォンの異常種、アダマンタイトランクのグリフォントゥルスかと思われます。」
その言葉に会議室がざわついた。ファリーナの街にいるハンターのランクは最高でミスリルランクだからだ。
アダマンタイトランクはミスリルランクの一つ上だが、一般にランクが一つ下の者が束になってかかったとしても、ランクが一つ上の魔物には敵わないとされている。
ファリーナにはミスリルランクですら10人程度しかいない。ゴールドランクだと100人くらいだろうか。
「・・・お静かに。そのグリフォントゥルスが放った雷撃ですが、リコ様が強化していた魔力障壁によって防ぐ事が出来たため、被害はありませんでした。」
被害は無かったとの説明にハンター達はほっとした様子を見せる。
「・・・ただし、あれ程の攻撃は何度も防ぐ事は不可能です。既に装置に負荷がかかっている為、あと一回防ぐのが限界でしょう。つまりあの雷撃の3発目が発射される前にどうにかする必要があります。」
緊張した面持ちで黙って話を聞くハンター達を見渡して、コリンズは話を続けた。
「先程偵察隊から報告がありましたが、グリフォントゥルスは魔力を回復させる為に睡眠に入ったようですね。どれぐらいの間隔かは分かりませんが、幸にしてあの雷撃は連発出来ないようです。ですが、最初の攻撃から既に1時間が経っていますし、あまり余裕があるわけでは無いでしょう。それから、これは悪い知らせですが・・・。」
不吉な台詞にハンター達の緊張感が高まる。
「寝入っているグリフォントゥルスを守るかの様に大量の魔物が出現しました。シーミアやレプス、ゴブリンといったブロンズからアイアンの弱い魔物が数多く。数は少ないですがオーク、オーガ、グリフォンといったシルバーからゴールドの比較的強い魔物もいます。数は全体で2〜3千といったところでしょう。アダマンタイトランク以上の魔物は格下の魔物を操ることもあるらしいので、それなのでしょうね。最悪なことに。」
正直なところ、グリフォントゥルスの相手をするだけでも今のファリーナの戦力では厳しいものがあるが、低ランクが多いとはいえ、それ以外の魔物もついてくるとなると戦力差は絶望的に思えた。




