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「はい。これ今月分のお給金。たくさん働いてくれて、ありがとう!」


 どっしりと重い小袋を、レオに両手渡しした。


「……マジか……。金までくれんのか」


 と、レオは複雑な顔をした。


「今まで働いてくれた人たちの中で、1番良く働いてくれてるレオに、お給金出さないわけがないよね?」

「っ。なんだよ、そんな苦笑いすんなよ。中学の頃はバイト出来なかったし、金稼ぐなんて初めてなんだから仕方ねぇだろ」


 と、口を尖らせながら頬を染めてそっぽを向くレオ。私より頭一つ分大きくて、逞しいレオがそんな仕草をする。

 最近本当に思う。レオって可愛い!って。

 多分レオは無自覚なんだろうけど、可愛いと格好良いのダブル攻撃を波状砲にして撃ちまくるのだ。

 ……誰にでも。

 本人無自覚だろうし、もちろん、私も攻撃を受けているのだけれど。私はレオの身元保証人だ。この攻撃に倒れる訳にはいかないのだ!


「一応、今までの人よりも色をつけたんだけど……。どうかな?足りるかな?少ないかな?確認してくれる?」

「お、おう」


 と、イソイソと小袋を開ける。慌てているのか、ギュッと縛った袋の紐が、なかなか解けないようだ。

 やっと開いた袋からは、金色のコインと銀色のコイン、そして胴のコインが顔を覗かせた。


「うわぁ……。おれ、金色のカネなんて初めて見た。これってどのくらいの価値があんの?」

「あ、そうか。レオはいつも顔パスで町で買い物してるもんね。お金の価値を教えてなかったね」

「うん、そういや知らなかったな」


 と、コインを手に取って眺めながら、ブツブツ言うレオもやっぱり可愛い。


「な、なぁパティ!」

「ん?」

「あのさ、俺、買い物してみたいんだ。だから、これから町に買い物、一緒に行かねぇ?」


 と、照れた顔を隠しもしないレオからお誘いを受けた。


「うん、実践で学ぶ。いいね!行こう行こう」

「よっしゃ。買い物デートだぜ!」


 とガッツポーズをとるレオ。


「ん?今なんて?」

「何でもねーよ!それより、何時頃いく?俺、もう少しで今日の分の仕事終わるけど。パティは?」

「んー。私ももうちょい。でも、町に降りるなら着替えたいから、少しだけ時間が欲しいかな」

「OK!あ、じゃあさ、せっかくだから町の鐘のところで待ち合わせるのどう?」

「わざわざ待ち合わせるの?一緒にいけばいいじゃない」

「待ち合わせがいいんだよ。だってデートだぜ?」

「レオがそうしたいなら待ち合わせようか。じゃあ、夕刻の鐘がなる頃に鐘の下でどう?」

「おう!じゃあそれで!あ。パティは歩いて町に行くと疲れちゃうから、グリちゃんに背中乗っけて貰えるように言っとくわ」

「やったぁ。グリフォンに乗せてもらうの久しぶり!楽しみ」

「あーあー。そんな無邪気な顔しちゃって。俺とのデートも楽しみって言ってくれよ」

「もちろん、そっちも楽しみよ」

「どーだか。じゃ、俺仕事片付けて先に行ってるな」

「はーい。それじゃまた後で!」


 こうして少し、レオと離れ離れの時間が出来た。

 今までなんとなくお互いが見える距離にいたから、不思議な感覚だ。



 さて。仕事もひと段落し、部屋に戻って服を着替える。

 レオはデートって言ってたから、滅多に着ない少しだけオシャレな服に袖を通す。

 髪型も、レオの真似をして、少しはオシャレにしてみるか、と三つ編みを作ってアップにする。

 うーん。若い子と違って似合わないかなぁ?まぁ、いいか。

 それから、たまにしか使わない化粧箱を取り出した。

 デ、デートなのだ。お化粧くらいしっかりしないと、レオに失礼なのだ。

 ってか、デート!デート!?デートなのだ。

 今更『デート』という響きに緊張がはしる。

 デートなんて、どれくらいぶりだろう。

 婚約者が居た頃に、お茶したぶりだろうか。

 わ、わ、わ。町ブラデートなんて、初めてかもしれない。

 なんて、10コ近く年下の男の子相手の軽口を、本気にとったら失礼だわと気がついて、『スン』となった自分がいた。

 冷静になれて良かった。危なく変な恥かくところだった……。



 グリフォンに乗って飛ぶと、ここから街の門までは5分とかからない。

 とはいえ、結局身支度にだいぶ時間をかけてしまって門から鐘まで全力で走った。

 鐘にたどり着いた時、『リンゴーン』と、ちょうど夕方を知らせる鐘が鳴り響いた。


「はぁ、はぁ。ま、待った?」

「ん、全然。バカだな、アンタ体力ないのに走ってきたの?」

「せっかく走ってきたのに、ちゃんと間に合ったのに、バカって言った……」

「だってバカじゃん。俺、パティのためならいくらでも待つのに」


口ではバカにされてるけど、レオの顔には嬉しそうな優しい笑顔が浮かんでた。


「はぁ、はぁ。そうですか……」

「パティ、なんかメッチャ可愛い。いつもと違う」

「あ、気が付いてくれた?褒めてくれてありがとう。嬉しい」

「そりゃ気がつくだろ。こんなに可愛くしちゃってさ。もしかしなくても俺のために頑張ってくれた?」

「そ、そう。ちょっと似合わないかな〜と思ったんだけど……」

「そんな事ない。メチャ似合ってる。普段のパティも凛として美人だけど、今のパティは可愛さ倍増!町の男が全員振り向くかもしれない。へへ。俺のための可愛いパティ。メッチャクチャ嬉しいぜ!」

「や、褒め殺しやめて」

「褒めてねぇ。事実しか言ってねぇもん。俺」

「サイデスカ」

「まぁ振り向く程度なら許すけどな。パティに近寄ろうとしたやつはもれなくブッコロスわ」

『ギュン』

 っと胸が高鳴る。思考も停止しかける。

 でも意識を保てるのは、私に向けて言った言葉じゃないからだろう。

 はぁ。レオは本当に男の人まで好きなんだなぁと溜息が出た。


「何その反応」

「別に。私だけ愛されてないなーって言うだけの話よ」

「逆だろ、ソレ」

「うーん」

「そんなことよりさ、早くしないと店閉まっちゃうじゃん!」


 と、レオが手をのばしてきた。


「手!繋ご。領主のトコから逃げてきた時以来じゃん」


 と、レオは無理やり私の手を取って走り始めた。

 そのレオの手は燃えてるかのように熱くてビックリした。

 若いと新陳代謝がいいのね……と、改めて歳の違いを感じるわ、なんて余計な事を考えていた私は、レオが耳まで真っ赤なことを見逃していた。


 走って着いた先は、この町唯一のアクセサリーショップだった。


「いや、金の単位が分かるためには、ソコソコ高いものじゃねぇと価値わかんねーじゃん?」


だって。

 お店に置かれた商品のほとんどは女性もので、レオに似合いそうな装飾品といえば、シンプルな指輪か、ずしっと重そうなネックレスか、髪を縛る時に使う紐くらいなものだったから、それをじっと、物色していた。

 だけどレオは


「違う違う、こっちこっち!」


 と、女物のアクセサリーを指差していた。


 なるほど、上級ナンパ師は、女性への贈り物にも余念が無いのねと、妙に納得しながらアクセサリーを見る。

 ネックレス、指輪、ピアス、アンクルレッド、ヘアアクセ、ブレスレットと、女性ものはたくさんあった。

 こういうものは、同じ宝石で揃えて着飾ったことしかなかったので、新鮮だ。


「で、パティの好きなのって、どんな感じ?」


 と、レオは真剣に商品を眺めてる。


「うーん。アクセサリーは、あまり興味がなくて」

「マジか。そんな女もいるのか」

「うっ。色気がなくて、すみませんね。だって、ネックレスは餌やりの時に引っかかると首が締まって危ないし……。指輪も草とか泥触るとどうしても汚れるし……」

「あーね。察したわ。ほいじゃ、これなんてどう?」


 と、レオが指さしたのは、決して大きすぎない髪飾りだった。髪の毛を縛った紐を隠す、バレッタだ。


「あ、それイイかも。可愛い」

「そうか。じゃあ、色はどうする?」

「うーん、色々あって悩むね」

「色だけにな。パティの緑色に映える色は、黄色とか、オレンジとかも良さそうだけど。やっぱりパティが好きな色を選ぼうぜ。パティが好きな色も知りたいし」


と、私の髪をひと房手に取って撫でた。


「うーん。好きな色?考えたこともなかったわ」

「マジかぁ。飯にも執着ねぇし、アクセも興味ねぇし、アンタ、何なら興味あるの?」

「そりゃ、ウチの子たちかな」

「サイデスカ。そりゃ太刀打ちできねーわ」

「ウチの子って、あなたも含むわよ?レオ」


 パッとこっちを見て、真っ赤になるレオ。


「サイデスカ。マジサイデスカ」


 と、カタコトの言葉になりながらも、ニヤニヤデレデレとだらしない顔で照れてた。


「あー。俺はね。興味以上だから」

「うん。仲良しだもんね、レオは」

「おうよ。だから、俺のって印つけたいの。あ、これなんてどう?」


 と、レオが指さしたのは、黒地に緑色と黄色の石が着いた、シンプルなデザインのバレッタだった。


「黒?渋いね」

「そう。俺の色」

「レオの色?学ランの色かな?」

「いや……。まぁ、いいや。それじゃどうしようか」

「レオが選んだ、さっきのバレッタでいいんじゃない?」

「いや、そもそもパティが喜んでくれなきゃ意味無いんだわ」

「そうなのか。じゃあどうしようかな」

「本当は、お揃いの指輪とか買いたいんだけど。パティは指輪は邪魔なんだろ?」


 と、ちょっぴりむくれ顔。


「邪魔というか……。ん?私にくれようとしてるの?」

「逆に、アンタ以外の誰にあげりゃいいんだよ」

「お食事処のおじさんとか、領主?」

「……やめてくれ、吐き気するわ……」


 と、右手でおでこを抑えながら、左手をヒラヒラされた。

 あ、想像しちゃったんだね。

 でも、2人ともレオに好意的だと思うんだけどなぁ。


「で、パティは?パティはどれなら貰ったら嬉しい?」

「いや、悪いよ。せっかくのお小遣いなんだから、自分のことにつかいなよ」

「だから、自分のコトに使ってるつーの」

「本当にー?」

「本当だっちゅーの。男の甲斐性つーやつを見せたいの」

「どゆこと?」

「……まぁ、アンタから貰った金だから、甲斐性もなにもねえんだけど。あげたいんだから仕方ないじゃん。初デートの記念に貰ってよ」

「初デー……。う、うん。じゃあ、そうか。どうしようかな」


ショーケースの前に2人で並んで、レオの指さす先をみる。なんだろう。これだけでカップル気分になるから不思議だ。


「うん。ネックレスとか、指輪とか、束縛男の象徴だよな」

「ふふ。レオは束縛したいの?」

「おっ、俺は束縛したいんじゃなくて、独占したいの!」

「違いが分からないよ」

「……そうだな。そもそも、まだ付き合ってもないし、気持ちが全然伝わってねぇからなぁ」

「片思いの時が一番楽しいらしいよ。恋愛って」

「マジかよ。俺はどっちかっつーとまどろっこしいわ。両思いになりてーし、付き合いたいし。イチャイチャもしてみてぇ」

「ふーん。レオにはそんな相手がいるんだね」

「おうよ。目の前に居る」

「瞼の裏の君ってやつ?向こうの世界の人なの?」

「コレだもん。ホント、いつ報われるの?俺」

「ん?」

「自分の気持ちは自分で語れっつーから、正直に伝えてんのによ」

「?」

「はぁ。いっそ、1度無理やり襲ってみた方が早いかもしれねぇ」

「やめた方がいいよ。それは本当に犯罪だからいくら私でも庇いきれないよ」

「……サイデスカ」

「うん。相手の同意は必ず取ろうね。そしたらなんとでもするから」

「……サイデスカ」

「何その生返事」

「生返事にもなるだろ。てか、じゃあさパティ。今夜襲っていい?」

「嫌です」

「コレだもん」

「当たり前だよね?」

「へーへー。あ、コレは?」


 と、レオが見つけたのはシンプルなデザインのアンクレットだった。


「すみませんー!このアンクレット、2本お揃いでありますかー?」


 と、レオは長いのと、短いのを、2本買った。


「えーっと……。この2本を買うと……」

「あぁ、これなら小さい方の銀のコイン3枚でお釣りがくるかな」

「マジか。じゃあこの金のコインは、何を買ったら出番があるんだよ」

「んー……。それが10枚くらいあれば、その辺の家が買えるかな」

「……ひぇっ。怖っ。アンタなんつー大金を持たせるの」

「レオの働きに対する、正当な評価よ」 「マジかー。それはありがたいわー」

「喜んでくれるなら良かったわ。なんでも好きな物を買ってね」

「サンキュ。そうしたいのは山々なんだけど、1番欲しいのは金で買えそうもないんだよな」

「そっか。苦労して手に入れたら、喜びもひとしおだから、頑張ってね」

「……アンタそれ、分かっててわざと言ってねぇ?」

「なにが?」

「……まぁいいや」


 レオは支払いを済ませてアンクレットを2本受け取ると私を椅子に座らせて、私の前に跪いた。


「さ、足出して」

「え!?今ここで?」

「そう。早く」

「はいはい」


 と、足を出した。


「ん。パティは右足に付けるのな」


 と、レオは私の靴をぬがせると、自分の膝に私の足をのせた。

 そして、不慣れな手つきでアンクレットをはめた。


「よし、うん。似合ってる。パティ、ちょっとだけ目をつぶってて」

「え、こう?」

「ちゅっ」

「なになに?」

「もういいぜ」


 と、私の足に靴を履かせて今度は自分の右足に自分ではめた。


「どーよこれ。オソロのアクセ。完全カップルだろこれ」


 と、大満足そうだった。

 私の細いだけの足首と、ガッチリと逞しいレオの足首に、おそろいのアンクレットがキラリと光って、なんだか不思議な気分だった。


「あっ!コレ、俺の許可なく外すの禁止だからな!」

「えぇ!?」

「当たり前だろ?コレ印なんだから」

「何の印?」

「……。そろそろ本気で察してくれ?」

「うーん……。わかんない」

「……まぁ、デスヨネー」

「せめてなにかヒントを……」

「散々出しまくってるよ、ヒント。そうだ、夕飯いつものおっちゃんの食事処で食って帰ろうぜ!メニューみながら価格の勉強するわ」

「それナイスアイデア!行こう行こう」

「デートだからな!店まで手繋ぎ!ん!」

「はいはい」

「こら。笑うなっつーの」

「はいはい」

「あー、可愛いいぜ、コンチクショウ」


 なんてレオは言うけど、キャッキャウフフと町の中を飛ぶように走ってこそばゆかった。

 手を繋いで、お揃いのアクセサリーをつけて、おじさんのお食事処に入った時、おじさんの視線が生ぬるくて、本当に本当にこそばゆかった……。

 は、恥ずかしい……。

お読み頂きありがとうございます!

(話数カウント諦めた)


パティは、自分だけ『ブッコロス』と言われていないので、レオが自分に好意があるとは一切思ってません。

そんなパティをレオは『鈍感』だから、ドンドン攻めるようになっていきます。


書いててニヤニヤしてしまいますが、確かにこそばゆいですね笑


イイネを頂けるとよろこびます。

感想なんて頂けたら飛び上がって喜びます。


ひとつよろしくお願い致しますm(_ _)m

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