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空の上、土の下

 相変わらず私にだけは『ブッコロス』と言ってくれないまま、3週間が経った。

 季節は夏へと移り、暑い日差しにじっとりと汗をかく、日陰が恋しい季節になった。


 レオは、すっかりこの土地に馴染み、ひとりで町へと買い物に出掛けられるようになった。滅多に行かないけど。

 町に潜む護衛の報告によれば、出掛けた時には相変わらず気軽に『ブッコロス』を連発しているらしい。

 オカシイ。ナゼダ。ナゼワタシニダケ愛ヲササヤカナイ。

 あ、ちょっと泣けてきた。

実際、言われたら言われたでちょっと恥ずかしすぎるかもだけど。


 そうそう、レオは、いつもの世話だけでなくそれぞれの散歩も日課に加わえたようだ。

 一緒に空を飛び、大地を駆け、草原で大の字になった。

 それだけじゃなく、それぞれの魔獣や動物たちが、それぞれの仲間たちを紹介しているようで、散歩時にはかなりの数になる。圧巻の迫力だ。

 圧巻で済んでいればまだ良かった。太陽の光を遮り、真っ暗になるほどの大群で空を飛び回っているその様子は、『この世の終わりか』と町人たちを怯えさせた。タチが悪い。


 町人といえば、妊娠ラッシュが起こった。というか、町どころか王国中で妊娠ラッシュを迎えていた。第1次ベビーブームと言ってもいいくらいの妊娠ラッシュらしい。それがどーもレオが関係しているという噂を聞いた。

 いったいどのよーに関係してるのだろうか……。

 ………………。

 考えるとモヤモヤする。

 あの端正な顔で、愛の言葉を駆使し、相手を籠絡させるのだろうか。やっぱりヤツはとんでもないナンパ師だ。スケコマシだ。女の敵だ。レオのヤツめ。

 とはいえ、国民の多数を失った我が王国としては、非常にありがたい話だ。無事出産しスクスクと育っていただき、15年後には1人前の大人となって国を盛り上げて貰いたい。

 そう思うと、とてもありがたいのだ。もしかしたら、国力を上げる種まきマシーンとして、この世界に呼ばれたのかしら?

なんて考えても、どうしようも無いムカムカがどうしても抑えきれない。

 ぐぬぬぬぬ。


 そんな私の心境を知ってか知らずか、レオは爽やかな笑顔で空の旅から戻ってきた。


「パティ!ただいま!」


 レオは私を見つけると、グリフォンの背中からすらりと飛び降り、満面の笑顔で駆け寄ってきた。ぐぞぅ。やっぱり可愛いなぁ。


「あれ?なんか悪いものでも食ったのか?眉間にシワよってるぜ?」


 と、人差し指でツンツンと眉間をつついてきた。


「ちょ、やめてよ!シワなんてよってないもん!」


 と、慌てておでこごと隠す。


「じゃあなんだよ?機嫌でも悪いのか?」

「機嫌なんて悪くないわよ!ただちょっと嫉妬してただけ!」

「嫉妬??」

「あっ」

「へー。パティが?何に嫉妬してるって?」


 と、ニヤニヤしながら見下ろしてくる。


「やー……別に?」

「別にじゃないだろ?俺に教えろよ」

「そんな、ワザワザ教える程の事じゃ」

「いや、俺にとっては大事な事だ」


 と、ジリジリ詰め寄られて、しまいには壁ドンの体勢になった。


「べ、べつに。前にも言ったじゃない。レオとグリフォンのことよ!」

「へ?」

「私が、10年かけてやっと仲良くなったのに。鳥笛をつかってようやく呼び出して、なんとか背中にのせて貰える程度なのに。レオってばやすやすと空を飛び回って!」

「あぁ、そーゆーコト」

「羨ましいなんてレベルじゃないわ。嫉妬よ、嫉妬!」

「そうかー。俺とグリちゃんの関係に嫉妬してたのかー」

「そ、そうよ」


 なんとか誤魔化せた。ホッ。それなのにレオってば。


「んー。じゃあ、乗ってみる?俺のせ・な・かv」


 なんて言うから吹き出した。


「ほらほら、遠慮はいらないぜ?早く乗れよ!」


 なんて言いながら背中を向けて、押しつけててきた。むにゅっと音を立てて潰される胸。く、苦しい。


「ゴフッ。ちょ、レオ、苦しっ」


 って言ってるのに、レオは固まってしまった。


「もしもーし、レオさん、苦しいんでどいてくださーい!私じゃ魚拓はとれませんよー!」


 と、レオをいくら押してもビクともしない。


「レオ、本当に苦しいってば!」


 と、全身を捩りながら、押し返し、ドンドンと殴りつけてやっとレオが我に返ってきた。


「はっ!ご、ごめん。オレ、パティがたわわなものをお持ちなのは知ってたけど、こんなに柔らかくてむにむにでヒンヤリ冷えてキモチイなんて思わなくて、全神経が背中に……?ご、ごめ……」


 と言いながら、レオの視線は私の胸もとをちらりとみて、爆発するかのように真っ赤になった。


「ちょ、俺もうムリ……。少しだけひとりにさせて……。やわわでポヨヨ……」


 と、ブツブツ言いながらフラフラと歩きづらそうに自室へと入っていった。

 なんだ、アレ。

 そういえば、さっきのアレで胸もとが乱れてるなぁ。

 まぁ、誤魔化せたからいいか。




 太陽が地平線に近づき、真っ赤な夕焼けが空1面を染めるころ、私たちは1日の仕事を終える。正確には夜中だろうと付きっきりで看病をすることもあるのだけれど、ひとまず日が落ちる前に一区切りをつける。

 レオは随分とスッキリした顔で、夜ご飯の準備を手伝ってくれていた。

 そしてご飯が出来ると、一緒にご飯を食べる。これがこの3週間毎日欠かさないルーティンだ。

 最近はだいぶ口数が多くなったはずなのに、今日はまた久しぶりに目を合わせてくれなくて、何を話しかけても照れくさそーな、申し訳なさそーな顔をしながらおざなりの返事を返してくる。

 熟練夫婦か。

 最近のもっぱらの話題は、『空の散歩がお気に入り』って事。グリフォンの事をグリちゃんと呼び、大空を四方八方、上空高くまで飛んでいるらしい。憧れの『バイク』とやらよりも絶対気持ちイイはずだ!と力説していた。

 なんでも、太陽により近いはずの上空の方が、涼しいらしく、ヒヤリとした風を感じると、スッと汗がひくとか。

 私のお願いじゃ、そこまで飛んでくれないし、細かい指示も伝わらないのに。

 本当に羨ましい限りです。


「ねぇ、今日の空の散歩はどうだったの?」

「え?」

「だから、空の散歩!」

「あぁ……。今日は超低空飛行もしてみたっけ」

「超低空飛行?」

「ああ。地面スレスレを、高速スピードでビューンって!」

「それは怖いね」

「いやいや、あんなスピードで、揺れもなく飛ぶなんて、ほんとにグリちゃんはすげぇよ!」


 と、だんだん目に輝きが戻ってきた。


「うんうん。本当にレオはグリフォンを乗りこなしてるね。まるで会話でもしてるよう」

「実際会話してんだろ?俺ら」

「ん?会話してるね、私たち」

「ほら。なんの不思議もねぇよな?」

「そうだ、ね??」

「?」

「会話はさておき、随分愛されてるなぁ、とは思うよ」

「そうかな?」


 と、照れながら鼻をかくレオ。


「そうよ。むしろ溺愛よ。レオが見えた途端に魔獣達は擦り寄ってくるじゃない」

「なんだ、魔獣達の話かよ」

「?それ以外になんだと言うの?」

「……。パティが……」

「私が?」

「……」

「?」

「ちっ。なんでも無いデース」


 レオは時々こうして分からんことを言う。


「そういやさ、昨日は上空からどこまで飛べるか挑戦してみたんだ。したら、あっという間に山を超えちゃってさ。そしたら、軍事練習っぽいことやってるのが見えたっけ。平時こそ訓練ってヤツなのかねぇ」

「軍事……練習?」

「あぁ。そうだ、他にも野生動物とかの交流も増えたんだぜ。蛇みたいなのとか、モグラ見たいなのとかさ。それとキラキラ光る蝶も居たんだぜ。世の中色んなイキモンがいるもんだな!新しい仲間が増えると、俺の力も強くなる気がするんだよな」

「えっ!モグラ?」

「あぁ。グラシャンのグラちゃんと草原を走ってたらさ、『蹄の音がうるさいっ』って文句つけてきてさ。で、地中から顔を出したら太陽まぶしってなって苦しみ出してさ!」

「あはは、ちょっとドジっ子なモグラさんなんだね」

「ドジもドジだよな。大きな穴掘ってたらしいんだけど、グラちゃんに踏み固められちゃってさ。それにしても、モグラですらデッカイのな!ビックリしたよ。あんなでかいのが地下に穴掘ってるとかまじウケる」


 と、ケタケタと楽しそうにレオは笑っていたけれど、私の心は山の向こうの軍事練習という言葉が引っかかり、話半分でしか聞いていられなかった。

 夜レオが寝静まったら、門兵の護衛に伝言を頼もう。

 北西国の動きは、どうしてもこの国にとっては気になる。 どれだけ心配しても、過ぎる事はない。むしろ警戒が無駄であれば良いと、一抹の不安を感じたのであった。


6話目、お読みいただきありがとうございます!


レオは女に興味無いね!って硬派なヤンキーを気取っていたのですが、さすがに今回は無理そうでした。


恋の初期→中期→後期

の変化が上手く書けるといいなと思ってます。


イイネを頂けると喜びます。

感想なんて頂けたら飛び跳ねて喜びます。

ひとつ、よろしくお願い致します

m(_ _)m

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