保護→観察対象
「はぁ、はぁ」
「ふぅ、結構走ったな。ここで良かったよな?」
「そう、ここ、…はぁ、はぁ」
「あんた、足遅くてビックリした」
いえ、一般的な女性の脚力なんてこんなものですよ、私が特に足が遅いわけじゃないもん。
と、言い返したかったのだけど、流石に体力が無さすぎた。追手に追いつかれそうになるや、彼は私をお姫様抱っこしてここまで走って逃げてきたのだ。私、意外と重いはずなのに、軽々と運ぶ彼のフィジカルどうなってるの!?
ちなみに私が息を切らしているのは、お姫様抱っこに緊張しすぎて、息を止めちゃってたからだ。
「ごめんなさい、重かったでしょ?」
「重い?いや、全然軽いし余裕だぜ。ってか、なんか体調いい」
「隊長良くてもたいへんだったでしょ、人1人運ぶの」
「途中からしがみついてくれたから、抱きやすかったぜ」
ってニヤって笑われた。うぅ、恥ずかしい。
「そ、そろそろ…下ろして…」
「あぁ…」
と、今気がついたかのように、でも名残惜しそうに優しく下ろしてくれた。うん、地面に足がついてるって、安心だ。
「で、ここは結局なんなんだ?」
と、またキョロキョロする彼に
「ここは、私の自宅件研究所」
「あ?」
「だから、私の自宅も併設している、国立研究所!そして、今後あなたが住む家でもあるわね」
「俺の、家?」
「ええ、そうよ。だからここで自由に過ごしてちょうだいね!」
「……うん」
そう素直に返事をしたレオは、少し昂揚しているように見えた。
それから早くも1週間がたった。
最初こそ
「は?ヘアアイロンがないだと?」
「じゃあヘアスプレーは!?」
「毎日風呂入んねぇとかマジかよ!!???」
「紙!トイレットペーパぁ!ナニでケツ拭くんだよおぉ〜」
と困惑しているようだったが、今ではもうすっかり馴染んだ。
私にとっても、彼……もといレオが居る生活にとても助けられている。
早起きの彼は朝日と共に起床する。その後、水汲み、薪割りなど力仕事を行う。初日にびっくりしてちょっとお礼を言ったら、なんだか毎日率先してやってくれるようになった。特に薪割りは楽しそうにやってる。
それだけではなく力仕事はどんとこいなんて言う。理由は分からないけど、元の世界にいた時より、遥かに体力が上がったというのだ。
正直なところ、私は体力がないので本当に助かる。頼りになりすぎる。
また、保護動物たちへの餌やり、世話掃除も自ら進んでやってくれる。不思議なことに、餌やふん尿、寝床の作り方も、何一つ教えてない。それなのに完璧に仕事をしてくれるのだ。まるで、動物達と会話でもしてるかのように。
あまりに完璧にこなすので、『すごい!天才!えらい!』と褒めたてたら、真っ赤な顔をしてプンスカ怒ったけど、次の日からはより一層仕事に励んでくれるようになった。レオはルンルンしてる。
こんなにも仕事をこなしてるのに、もっと仕事ないの?って嬉しそうに言う。『もう充分に働いてくれてるよ!』って返事をしたら、『じゃあ、仕事増えたら言えよな!』って汗をキラキラさせながら楽しそうに体を動かしてる。その姿に私も影響される。もっと頑張らなきゃっ!て。凄くいい相乗効果だ。
それから、服装もあまりにも目立っていたので、こちらのものを用意した。最初こそ抵抗があるようだったが、いつの間にか着こなしていた。おかげで、初日のあのギラギラしたナンパ師っぷりはどこへ行ったのか、今はすっかり爽やかだ。爽やかイケメンだ。
そう、爽やかイケメンになった理由はもう1つあった。こちらの服を着るようになってから、あのバケットヘアーを辞めたようだ。
あの髪型には長い髪の毛が必要なようで、真っ直ぐにとかすと顎まである長髪だった。
彼は長い髪の毛を持て余したのか、楽しそうに毎日違う髪型に挑戦している。
たらしたり、頭に布を巻いてみたり。ただ縛るだけでも、高く縛ったり、低く縛ったり、上半分だけ縛ったりとバリエーション豊富だ。お下げちゃんヘアーには笑ったけど、その後に細かい編み込みを後ろでまとめた髪型は、カッコよくって困った。髪型で印象ってだいぶ変わるんだね。
『パティはどの髪型が好き?』って聞かれたから、『似合う?じゃなくて私の好きな髪型なの?』って聞き返したら、真っ赤な顔をされて逆にビックリしちゃって、私が1番好きなのはオールバックだって言いそびれた。オールバックは正装時に貴族諸侯がするからね。見慣れてるんだ。
そうそう、彼の希望で『お風呂』を用意した。毎日使っているようだけど、お風呂上がりは、洗いざらしが定番のようだ。これがまた格好良くてとっても困る。困ってるのに、髪をかき上げる仕草はちょっとセクシーで、いつも『ドキッ』とさせられる。それがバレてるのか、レオは絶対わざとやってるに違いない。だってお風呂上がりにわざわざ私の前に濡れたままやってきて、顔を見てから髪の毛をかきあげて、ニヤッって笑うのだ。なんなんだもう。私で遊ぶなっ!心臓に悪い……。
それから、だんだんと口数が増えてきた。あんなに喋るのが苦手そうだったのに。
「あぁ、腹減った!昼飯食おーぜ!パティの研究が一段落するまで待ってたんだぜ。やっぱパティの顔見ながら飯食わないと、美味さ半減するからな」
「パティの作るご飯最高だ。コンビニじゃ食えないよな。心が暖かくなるっつーか、なんか幸せの味なんだよなぁ」
「あんたさ、あんな軽いのにクルクルよく働くよな。俺の母親とは大違いだ。体力ねぇくせに」
「観察中ってさ、何考えてるの?って観察対象の事か。あんた普段ふにゃってしてるくせに、観察中ってキリッとしててカッコイイよな。……ちょっと妬けるんだけど」
「なぁ、俺、あんたの役に立ってる?もっとなんでも言ってくれよ。俺、あんたの為に動くのメッチャ楽しいんだぜ。こんなの初めてだ」
なんて言うのよ?可愛すぎない?その上
「あぁ、俺、毎日幸せだぁ…。パティの世界に来れてよかった」
って、ニコニコするから、私もついつられてニコニコしちゃう。
「うん、私もレオがこっちに来てくれて嬉しいよ」
「……!そうかよ…」
って顔を真っ赤にして目をそらされた。
そう、最近目が合うとよくそらされるのよね。
今日も午前中の仕事を終え、2人で簡単なご飯を食べながら軽く談笑をする。
談笑してるはずなのに、はたと目が合うとやっぱり目をそらすのだ。
「ねぇ、最近私の事避けてない?」
「バッ!避けてなんかなっ…ちょ、近い近い!」
「目を逸らすからでしょ!こっち見なさい!」
って、両手で頬を掴んでぐぐぐっとこっちを向ける。
「〜〜〜!!」
「こらっ!なんでそんなにめいっぱい目をつぶってるの!」
「察しろ!」
「察しられません!」
「それでも観察者かよ!!」
「会話が通じる相手の心理は、語ってもらうほうが手っ取り早いでしょ!!」
「確かに」
「ほら、目を開けなさい!」
「くうぅー!」
と、パッと目を開けたと同時にばっちり目が合い、みるみる耳まで真っ赤っかになるレオ。
「え、熱っ!熱ある!?」
ガクッと倒れるレオ
「バカ!!ちげぇよ!!お前本当に観察得意なのかよ!!」
と、握った拳で口元を隠して目線を逸らされた。
「失敬な。私はそれでおまんま食べてるのよ」
「その研究結果、怪しすぎる…大丈夫なのかよそれ…」
とブツブツいいながら、レオはガックリ肩を落としてお皿を片し始めた。
一体なんなのよ。もう。
5話目、お読みいただきありがとうございます!
この辺りは元小説部分が多くて、テンポが早くて自分では気に入っていますがどうでしょうか?
小ネタですが、パティは巨乳設定なので、逃げて走るとポヨポヨ揺れます。
それを見てるのが恥ずかしいくて、レオはお姫様抱っこにした。という裏設定があります。
性的な目でまだ見ることが出来ない微妙なお年頃を表現しきれなかった力不足の自分が悔しいです。
イイネ頂けると喜びます。
感想なんて頂けたら飛び上がります。
ひとつ、よろしくお願いいたしますm(_ _)m