ヘルムフリート2
「それで、どうしたんだね?ヘリー」
「は、はい!社会見学を兼ねて、北西国に遊学に行きたいのです!」
「ふむ。見聞を広げるのは良いが、パティのお産と重ならないか?本当は初孫の顔を見たいし、コチラに里帰りをして欲しいくらいなのだが……」
「義兄上がそれを許しますかね?」
と、苦笑い。あんなに逞しく威厳のある義兄上は、姉上と一緒だとぴったりくっついて絶対に離れない。姉上の、人型のマントなのかな?と思うレベルです。
「……許さないだろうな」
「では、僕が医療チームを率いて、姉上のお見舞いに行くのはどうでしょう?」
「良い提案だ。早速れおん君に連絡を取ってくれ」
そう言うと、父はポイッと僕を部屋から追い出した。
父は40歳、母は36歳。もしかしたら、僕にも弟か妹が出来るかもしれないってふふって笑いながら、義兄上に連絡をした。
「おぅヘリーよく来てくれたな!元気してたか?」
「はい!義兄上もお元気そうで何よりです!」
義兄上に連絡すると、すぐにグリフォンを寄越してくれた。なので、僕はグリフォンで空の旅。医師団は馬車で6日後に到着する予定です。
そして、僕は北西国で歓迎を受けました。
そりゃ、僕も義兄上も若いけど、国王同士なのですから、国を上げて大歓迎してくれました。歌、踊り、料理、全て目新しく、二国の今後の和平と栄光を願うシャーマンの祈りと、マクスウェル王国とは全く趣向の異なる歓迎は刺激的で楽しかったです。今までの国交関係が嘘のようです。
そして義兄上は、相変わらず人前で、姉上にべたーっと引っ付いています。本当に人型マントか、姉上専用背もたれシートのようです。すっかり見慣れた光景です。周りの臣下や護衛たちも、特に驚きもしません。姉上も、嫌がる様子も……。あ、今注意してます。ですよね、姉上。
歓迎の宴が終わり夜になると、僕は義兄上たちのプライベート空間に招待されました。
王宮の裏に、広い牧場のような敷地があり、そこに姉上達が暮らしていた建物ごと全部引っ越してきたらしいのです。
その敷地に入った途端、義兄上は姉上からパッと離れました。
衝撃です!僕は今まで2人を、磁石のS極N極だと思っていましたから!あ、離れられるんだ!って驚きました。
義兄上は姉上に何かを言うと、ロッキングチェアに姉上を座らせ、僕に
「ほんじゃヘリー、魔獣を紹介してやるよ」
とニカッと笑ったのでした。
「これが、あの時父上に幻を見せた妖精なのですね!」
「ああ。あの時は本当に肝が冷えたぜ」
魔獣達を一通り紹介されて、最後に妖精の前に来ました。妖精は出入り自由な鳥かごの中で、ふわっと浮いて会釈をしてくれました。うっすらと光ってとても綺麗です。
「あの時のことは、今でも鮮明に覚えています。僕も肝が冷えました」
「だよな!上手くいったから良かったものの、どうなる事かと思ったぜ」
兄上は、背もたれ付きの椅子に前後ろ逆に座ると、背もたれに両手を回しました。あ、多分アレ、姉上の代わりにしてる。
やっぱり離れても手元が寂しいのですね、と笑ってしまいました。僕。
「それにしても、今回の姉上のご懐妊、おめでとうございます」
「お、おぅ、おうよ!どぅもだぜ」
兄上は意表を突かれたのか、急に背筋をピーンと伸ばし、照れて赤くなられたのでした。
「お2人は本当に仲がよろしいので、すぐにご懐妊されるだろうとみんなが噂していましたが……。念願やっと叶いましたね?」
「……まーな」
「?もしかして、喧嘩でもなさっていたのですか?」
「はぁ?俺がパティと喧嘩なんかする訳ねぇじゃん」
「ですよね」
「姉上と、いかなかったのですか?」
「は!?急になに?イヤイヤ、俺はパティが許す限りは毎日いかせてたよ!!??」
「そうなのですね。キャベツ畑、毎日行くのも大変そうなのに、見つけるのにご苦労されたのですね」
「ぶっ」
義兄上は滑り落ちた
「あ、ごめんなさい、僕の勘違いですか?義兄上たちは、飛ぶ方ですか?」
「え、今度は何!?俺は外に飛ばさずにちゃんと……って何言わせるの!?」
「コウノトリに飛んできて貰う方ですよね?」
義兄上は今度は床にうつ伏せに倒れた。
「さ、さすがパティの弟……。王宮の性教育どうなってるの……。培養かなんかなのかよ……」
と、ブツブツと仰っていた。
「実際さ、俺も翌月には授かるかな、2人の時間をもっと楽しんでもいいのかなって思った時期があったんだよね。」
「2人の時間」
「おぅ。イチャイチャラブラブの時間」
「は、恥ずかしいですね」
「しょーがねーじゃん。俺、ヘリーの姉ちゃんにベタ惚れなんだから」
「よく知ってます」
「隠してねぇもん、俺」
「僕にとってお2人の関係は、憧れそのものですよ」
「……そぅかよ。」
って、義兄上は照れながら僕の頭をクシャクシャっと撫でた。
「パティがさ、城を出てた時、あんだろ?10年くらい」
「はい、僕のために申し訳なかったです」
「いや、それがなきゃ俺はパティと会えなかったから、俺からしたらヘリーに礼を言いたいくらいなんだよな」
「あ、そうですね。どこで何が役に立つか分からないものですね」
「おぅ。だからヘリーはもう二度と悪いとか思うなよ?」
「はい!」
「そんでな、その間に、パティは自分の血を残さないって決めてたらしいんだよ。後継者争いを起こさないためにって」
「そこまで考えてくれていたのですね」
「妹ちゃんにお子が出来りゃ同じなのにな」
「確かに」
「パティは意外と頑固だから、そりゃ自分の体に無意識で呪いをかけちゃうくらい強い決意だったんだよな、不妊の」
「え?」
「そんなの俺には気がつけなくてさ。出来るまで3年かかったの」
「……」
「最初にパティのこと気がついてくれたのは、すっごい年寄りのシャーマンばーちゃんでさ。そっから祈ったり、俺が山に籠ったり、そりゃぁもう色々手を尽くしたんだぜ」
「なんと。キャベツ畑どころではなかったんですね」
「おぅよ。1番辛かったのは、1ヶ月我慢だった……。気を抑えて抑えて押さえ込んで、爆発させて呪いを打ち破れ!とかってさ。いやぁ、そのあとは燃えた燃えた」
「爆発とか、燃えるとか、危険すぎますね……」
「うん、そのうち分かれ」
「はい!」
「で、結局、もう諦めようってなった時に、パティがさ『あなたの子供なら私も欲しい』って、自分で鍵を開けてくれたの。分かる!?その時のパティの聖女っぷり」
兄上は嬉しそうにバンバン机を叩きました。
「はぁ、やっぱダメだ、今すぐ会いたい。抱きしめたい、パティ成分が減ってきた」
「義兄上は、堪え性が少なめですね」
「なんとでも言ってくれ。俺の生きる理由なんだから仕方ねぇの。さ、パティの所に戻ろうぜ」
そう言うと、義兄上は姉上の所に駆け出しました。
姉上に義兄上が飛びつくと、姉上も嬉しそうに義兄上を抱きしめて、2人で笑いあっていて……。
僕も近い将来に伴侶を迎えるのであれば、あのような関係を築きたい。そう思うのでした。




