未来へ
「……」
「……」
「……」
「……」
いまだに私の方を見ないレオ。
それをニコニコと見つめるヘリー。
倒れた貴族たちの介抱をするように使用人に指示を出す父。
なぜレオは私を見ないのだろう。私に会うのが嫌になったのだろうかと、急に不安になる。
「ほらほら義兄上!あれほど姉上に会いたがっておられたではありませんか」
と、ヘリーはレオの手をグイグイ引っ張って私の所に連れてきた。
「よ、よう……」
「うん」
「その……ごめん!」
「え?」
「昨日、パティから貰った手紙を見て、暴走しちまった」
と、一枚の紙をひらつかせた。
それは、私が昨日出した『早く迎えにきて』とだけ書かれた手紙だ。
「パティの国のやつらに、ちゃんと認めさせて堂々と嫁に貰うつもりだったんだ。でも俺……」
「……うん」
「はは、パティに会わせる顔がねぇや」
って久しぶりに見た笑顔は苦笑いだった。
「あんなにカッコつけて出てったのに、俺の辛抱は7ヶ月っぽっちでした。笑ってくれ」
「笑わないよ。だって、私も会いたくて我慢が出来なかったもの」
レオはパッと私を見た。
「笑わない?」
「うん」
「じゃあ、呆れない?」
「うん。むしろ、やっと迎えに来てくれて嬉しいの。」
レオは、だんだんと顔を紅潮させると、ぷるぷると震え、嬉しそうに笑った。
「そか……。あぁパティ!いつも夢見てたパティだ。やっと会えた……!」
「ふふ。レオは随分逞しくなったね」
「そうか?また少し背が伸びたしな。惚れ直した?」
「うん」
「え!?ほんとに? わぁ……。な、なぁパティ。選んでくれ」
「ん?」
「俺と結婚するか、俺にさらわれて嫁になるか」
「……それ、両方同じじゃなくて?」
見つめ合う私たちに、ヘリーはさらりと言った。
「では、ここから北西国まで、結婚パレードをしましょう!」
と。
翌日から慌ただしくパレードの準備が行われた。
婚礼による家具の準備、馬車や荷馬車、パレードの告知、やることはいっぱいだけど、それはヘリーにおまかせして、私とレオはグリフォンで一時的に北西国に向かった。父とヘリーが視察して教えてくれた通り、北西国は急成長し、立派な国になっていた。
宮殿もレオが新しくデザインからつくり建設したらしい。
そして北西国宮殿に入ると、私を抱えたまま、アレコレと指示を出した。そして部下らしき人たちは、レオの指示をしっかりと聞き、即座に対応に走った。
レオの国のほうが、我が国よりも遥かに結束が硬い。この時点で、もはや我が国には勝ち目はないのだと悟った。
レオは、北西国の王城の敷地にグリフォンをとめると、私を抱き抱えて飛び降りた。そして、私を優しく地面に立たせると、城をバックに私の前に跪いた。
「あのさ、やっぱりこういうことは俺の口からちゃんと言いたいからさ」
「うん」
「その……、俺」
「……」
「一生大事にするから、俺と結婚してください!!」
真っ赤な顔をして、真っ直ぐな眼差しで私をみて、右手を差し出したレオは、微かに震えていた。
「この国も、城も、今の俺の立場も、パティのために作り上げたものだ。パティがいなきゃ、なんの意味もねぇんだ。必ず幸せにするから……手を、とってくれ、パティ。愛してる。どうしたらいいか分からなくなるなら、泣かないでくれ」
気がつけば、大粒の涙が滴り落ちていた。でも、レオも私も分かっている。これは悲しくて泣いてるんじゃない。嬉し涙なことを。
「返事、くれよパティ。このまま結婚したら、俺たち政略結婚になっちゃうだろ?他人の思惑じゃなく、俺はパティ自身に俺を選んで欲しいんだよ!」
心が震えた。どうしてこの申し出を断ることが出来るだろう。
「もう、置いていかないって約束してくれるなら」
「ああ!もう二度と離れねぇ!離さねぇよ!!」
「私ね、レオ。15歳のときに、結婚も出産もしないと決めていたの。その決意をあなたのために破るわ」
「それって……?」
「愛してるわ、レオ。そのお申し出、喜んで受け入れます。」
差し出された手に、自分の手を重ねた瞬間、思いっきり抱きしめられた。
「あぁああ!!」
「うん、うん。一緒に幸せになろうね、レオ」
私もレオを抱きしめかえし、そっとレオの背中を摩り続けた。
その後レオは食事もお風呂もトイレすらも私を離さなかった。もちろん夜のベッドも。(ただ抱きしめ合って寝ただけだけど)
そして、翌日、『花嫁を連れて凱旋する。それまでよろしく頼んだ』といい、また私を抱きしめてグリフォンでマクスウェル王国へと戻った。
準備は、レオに(恋愛的な意味で)落とされた貴族諸侯らが全力で行っていた。
白いウェディングドレスと、こちらの様式のレオの正装が用意されていた。
やればこんなに早くできるんじゃないと、内心イラついた。が、頑張って飲み込んだ。
玉座の間には、私がこちらの王国から籍を外す書類が用意されていた。それにサインをするとヘリーが
「寂しくなります」
と小さくわらった。
そして私たちは、馬車に乗り込み、北西国へと向かった。
道には、私たちの結婚のお祝いに並んだ数々の国民。その人たちに祝われて、私たちは新しい環境へと旅った。
レオとなら、どこへ行っても大丈夫だ。その先には新しい世界が待っているのだと期待に胸が膨らんだ。
「ああ、そんな事もあったな」
「うふふ。あの時は本当に寂しかったのよ」
今私たちは、レオが作った宮殿で、2人ゆっくりとした時間を過ごしながら、やり取りしていた手紙を見せあっていた。
「俺もだよ。毎日毎日パティを攫いに行こうとする俺と、見栄はって痩せ我慢する俺と、大変だったんだぜ?」
「そっか。同じだね」
「でも、あの時があったから、俺たちは今こうやっていられるんだよな」
「そうだね。あの時があったから」
目をつぶると、様々な思い出が蘇る。
初めてあった時のこと。ご飯を食べさせてくれた事。お誕生日を一緒にお祝いしたこと。
そして壁には、毎年私達の肖像画が1枚ずつふえ、今では3枚の肖像画が飾られている。
「来年の肖像画には、もう1人増えるんだな」
と、レオは私の大きくなったお腹をさすった。
「うん」
「赤ん坊は愛の結晶ってばーちゃん言ってた。早く出てこないかな?どんな顔してるかな?男かな?女かな?」
「うふふ。まだ産まれてきたらダメよ。ちゃんとお腹の中で元気に育てられるまで大きくなってもらわないと」
「そっか。神様からの授かりものって言うけど、俺はパティからの生涯の贈り物だと思ってる」
「私にさずけてくれたのはレオだよ」
「あ……。そうか、そうだよな」
「もう、しっかりして?『お父さん』」
「〜〜〜っ!!」
レオは真っ赤になったけど、一緒にクスクスと笑った。
お腹の子は、きっと私たちの愛情を次の世代へと引き継いでくれる。そしてその次の子もまた。
愛する人を殺して食べるなんて、恐ろしくて悲しい出来事を、この子たちは絶対に繰り返したりしないだろう。魔獣と人間が共存し合える、より良い未来へと繋いでくれるはずだ。
私はそう信じてる。
この愛しい『異世界転移者』のレオと共に愛情いっぱいに育て上げていくのだから。
「ね、私たちもっと幸せになろうね」
「おぅ!なぁパティ?」
「ん?」
「俺さ、昨日夢をみたんだ」
「どんな?」
「俺がさ、こっちの世界に転移して、パティにすぐに拾って貰えなかった話」
「……」
「俺はさ、すっごい苦労するんだけど、魔獣達と知り合う度にHPとかのパラメータが増えてさ。そんで、遠目にみたパティに一目惚れしててさ。旅しながら下克上をして、パティと結ばれるの。」
「ふふ。遠回りだけど、やっぱり私を選んでくれるの?」
「当たり前じゃん。俺の嫁、他に誰がいるの。」
「案外たくさんいるかもよ?」
「パティヒデェ」
「私は妬けるどね。でも作者はそんな話も書いてみたかったでしょうね」
「?」
「あのね、私、レオとのこの恋を後世に残したいの。だから、絵本にしようかなって」
「絵本!?」
「そう。異世界から来た勇者と恋に落ちた姫の、北西国で幸せになる2人の話」
「!勇者って俺?」
「そう。以前の異世界転移者も、伝説として話があるし……ダメかな?」
「ダメじゃない。嬉しい。俺たちの話が、ずっと残るなんてさ。なぁ、パティ。愛してる」
「うん。私も愛してるわ」
「俺の方がずっと好き。どんな世界線でも、パティじゃなきゃヤダ。俺の重い愛を全部受け止めて。パティのためならさ、何でもするから俺をずっと愛し続けて。」
「……うん」
キラキラと光るお互いの瞳に、お互いだけを写し、そっと耳元に口を近づけた。
「パティ」
「レオ」
「「『ブッコロス』」」
ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございます!
多大なる感謝と、お礼の気持ちを伝えさせてください。
この話は元々短編で、そちらはだいぶ逆テイストだったのですが、長編になったらだいぶシリアスかつちょっぴりエロが追加されてしまいました。
また、短編の時は爽やかな終わり方だったのに、長編では何故か不穏に終わりました。
正直、自分の力不足のせいで、後半のテンポが悪く、自分で納得が言ってません。
では何故そんな状態で更新したのかと言うと、物語を一度終え、読者目線で見直して訂正したい、というのもあったからです。
情けない理由ですみません……。
必ず、必ず書き直してより良い作品へと訂正していきますので、ブクマをしていただき、またいつかお立ち寄り頂けましたら幸いです。
最後にもう一度、ここまでお読み頂きありがとうございました。
この作品で、少しでも笑ったり、共感していただいたり、『キュン』として貰えたら幸いです。
2023.12.4 パンターニ