クライマックス!
「ただいま姉上!」
「意味が……、意味が分からない……」
元気に窓から帰城したヘリーと、すっかり頭を抱え込んでしまった父。
2人はレオの招待をうけ、北西国へと向かった。
こちらからの馬車での3日。国境を越えた先が3日。帰路で6日。国中を視察するのに2日。親交に2日。予備で2日の計2週間の日程で視察期間を設けていた。
ところが、レオは手紙の返事を受け取ると、グリフォンを送ってきたのだ。一言『この方が速いから!』と手紙を添えて。
人間を乗せることにすっかり慣れたグリフォンは、6時間ほどであちらの都市部にたどり着き、レオは空中から町中、国中を案内した。そのどこの場所でもレオは大人気だったと言う。
「信じられない。北西国は国とは名ばかりの話し合いの出来ない野蛮な民族だったのに……。規模こそ小さいが、確かな基盤が完成していた」
と、驚いていた。
父と現国王のヘリーの視察結果をうけ、会議が行われた。
北西国の女性たちがつむぎ出す見事な織物、毛皮の装飾品、豚肉で作った加工食品や味わい深い酸味を伴う赤い料理。その上山から鉱石や金まで掘り出して、対等な国交関係を築くに十分な国に発展したと認めざるを得ないところまで成長したと父、ヘリー2人の見解が共有された。
だけど、臣下たちは『王たちの偏見』と聞く耳を持たなった。
2週間掛りの視察が、たったの3日で帰ってきたからだ。信ぴょう性がない、我らを騙すおつもりか。と聞く耳すら持たなかった。
ならば自分たちの目で確かめよと父が言っても、あんな恐ろしいところはごめんだと、誰1人として動こうとしなかったのだ。
「パティすまない。こんなに我が国の重臣たちが頑なだとは……」
「……」
「姉上、僕の責任です。責められるべきは臣下たちをまとめられなれない非力な僕です」
「……いいえ、違う。多分彼らの頭には、はなから『北西国と親交を持つ』気がないのだわ」
「……そうだな。あれほどの急成長は、私も自らの目で見なければ信じられん。魔獣のチカラとは、これ程とは。かつて災害と恐れられた魔獣たちのチカラを人のために活かすその手腕だけでも素晴らしいというのに」
「ええ。その通りだと私も思います」
「その義兄上を上手くコントロールする姉上は、魔獣遣い遣いですね」
とヘリーが言った。
父はそれを聞いて『うんうん』と頷いた。
「それで、レオの様子はどうでした?」
「義兄上は、それはもうお元気そうでした!髪の毛が半分黒くなっていましたよ」
「それに、更に逞しくなっていたな。装いも国王として相応しく、威厳すら漂わせていた」
「そうですか!」
レオの様子にほっと肩を撫で下ろしても、早く会いたいと言う気持ちが大きくなるだけだった。
さらに1ヶ月が過ぎ、レオと初めて出会ってから1年が経とうとしていた。
レオからの手紙は、1日に5通、6通、7通と数が増えるのと反比例するように文字数が少なくなり、『今俺は○○してる。パティは?』という内容と、『絶対待ってて』『俺のこと忘れてない?』『パティがくれた肖像画と一緒に寝てる』『会いたい』と締めくくられるようになった。
レオから貰った手紙に日付けとナンバリングをし、宝物のようにしまっては広げて読み返し、を繰り返した。手紙に向かって『私もだよ!』と返事を返しても、手紙は何も語ってくれなかった。
自分でも、少し病んでいる気がする。
それもこれもこの王宮では、やることが何も無い。そのことが私をより追い込んだ。
せめて研究所にいたい。魔獣のお世話や観察をしていれば気が紛れるはずだ。
だけど、あの研究所のあった領地の領主は既に打首となり、魔獣は全てレオが北西国に連れ帰り、後に残されたのは朽ちつつある建物だけだった。
北西国は、魔獣の力を最大限に利用して、もはや立派な国家になっていた。隣国と対等に渡り合えるだけの工業品や物品を新しく作り、北国と好意的な国交も始めた。
特に外貨を稼いでいるのが『武力』だった。レオに鍛えられた武人たちは、『カラテ』や『ジュウドウ』『ケンドウ』を仕込まれ、たった1人でも十数人力の武力を持つと噂され、彼らを多く雇うことが貴族のステータスにまでなった。我が国の貴族も、彼らをたくさん雇い入れた。
それなのに我が国は一体なにが不満なのか。
未だに私が北西国に嫁ぐことをよしとしなかったのだ。
ブチギレる父とヘリー。後押しをしてくれるエディの夫。味方はそれだけだった。
『なぜ、なぜなの』
その疑問は、ある日簡単に明かされた。廊下の片隅にあつまり、ヒソヒソと話す重臣たちによって。
「パトリシア王女殿下は、我ら三家のどこかに嫁いで頂く」
と密談していた。
「なん……ですって?」
「おやおや、これは王女殿下。ご機嫌麗しゅうございますな」
「いつも変わらずお美しい」
「うちの息子も、王女殿下にベタ惚れで、ぜひ今度遊びに来ていただきたい」
などと口々にする。
「御三家の皆様こそご機嫌麗しゅう。ですが、わたくしは機嫌が地に落ちましてよ。ですのでわたくしはこのまま、きっと女の幸せというものを知らないまま一生を終えることになるのでしょうね!」
誰が、浅はかなオマエたちの家になど嫁ぐか!
ブチ切れたまま私室へと戻り、あまりの悔しさにベッドに飛び込んだ。
悔しい。悔しい!
北西国の元国王もだが、私を道具としか見ていないのは、この国の重臣たちも同じだ。私は道具じゃない!権力の象徴をぶら下げた餌ではない!!
悔しくて、悔しくて、怒りをそのままレオへの返信の手紙にぶつけた。
「早く迎えにきて!」
と。
翌日。
王宮は喧騒を極めていた。
あの憎らしい御三家も、他の重臣、臣下たちまで、玉座の間のヘリーや父に真っ青な顔をして縋り寄っていた。
「一体どうしたというのです」
「あぁ、パトリシア王女!お願いです!助けてください!!もう、あなたを蔑ろにしたりしません!」
「どこへなりとも行かれるがよろしい、そうですな、皆々様!」
「「「「そうです!」」」」
「ですから、なにがあって急に手のひらを返すような」
「彼らの雇っていた北西国の兵が、一斉に彼らの家族を人質にとったと言うのだよ、パティ」
「なんですって?」
「アレだけ憎らしい態度だったのだ。いっそ清々しい落ちっぷりだな、みなのもの」
と、父は豪快に笑った。
「そんな、我らの家族を見捨てるのですか!?ヘルムフリート王!」
「それはあなたがたではありませんか?僕の家族である姉上を蔑ろにしたのはどなたです?」
ヘリーが冷ややかに笑った。
その時、玉座の間の扉が開き、護衛兵が駆け込み叫んだ。
「大変です!城門の前に北西国国王を名のる男が!それと、王都の周りは魔獣に囲まれています!」
と。
「さて、ここに集まった我が国の諸侯たち。ここに北西王のご来訪を拒むものはいますか?」
「ふむ。拒めば即座に家族は斬り殺されよう」
「また国民が減るのですね。とはいえ、新しい時代を迎えるのには、首をすげ替えるのも悪くありませんよ、お父様。ヘリー」
それを聞いて、怯えた貴族諸侯の全員が、北西王の来城に賛成をした。
「はやく北西国王に、お越しいただくのじゃああ!」
と。
玉座の間の扉が厳かに開かれる。
そこには、若さと猛々しさと美しさに威厳を持ち合わせた北西国の国王が入ってきた。
会いたくて、会いたくて、会えることを切望し続け、夢にまでみた私のレオだ。
レオは私には一切目を向けず、オロオロと怯える貴族たちをギロリと睨み、威圧した。
「これはマクスウェル王国の諸侯の皆様。どうかされたか?」
「何を白々しい」
「貴様のせいで私の家族が」
「本来ならこの場はお前のようなものが来る場所ではないわ!」
相手が独りだとわかった瞬間、口々に文句を言い、罵る醜い貴族たち。もう吐き気しかない。
それはレオも同じだったのか、耳の穴をほじっていた。
「言いたいことはそれだけか?」
「なんだと?」
「おっさんらは、自分が可愛いだけなんだろ?」
「なんだその口の聞き方は!」
「あんたらのそんなカッコ悪い姿を見せつけられりゃあ、こっちもカッコつけるのがバカバカしくもなんだろ」
「なんと無礼な!」
一人の男がレオに飛びかかった。が、レオはその男の顔面を掴んで持ち上げた。
「いいか。俺はあんたらが望むように北西国の王におさまり、国を育てた。そして、この国の王は、俺との深い親交関係を望んでいる。そうだよな?ヘリー」
「はい!義兄上!」
「ならもう、文句は言わせねぇ。つーか、文句があるやつは、俺に面と向かって言え。いつでも相手してやるぜ」
「なんと野蛮な!王!このようなものと交流などなりませんぞ!」
「黙れ!俺に文句のあるやつは『ブッコロス』!!」
その瞬間、飛び散る花びら。煌めく瞳。恋する少女化するオッサンたちは、全員腰砕けになった。幾度となくみた、大の男どもが変態化する瞬間だ。
ニコニコと見守るヘリー。
くっくと笑いが止まらない父。
そして私は
(この光景、久しぶりに見たな)
と、逆に冷静になっていた……。
次回最終話予定です。
応援よろしくお願い致します。
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