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王位継承式

 翌日。

 父は緊急会議を開き、北西国との今後の国際関係について話し合った。

 その途中、北西国の王子とその息子が予定通りに到着した。

 彼らは一時、犯罪者として捕らえられた。

 私を誘拐したからだ。

 だけどレオが『罰は必ず受けさせる。謝罪は別の方向で提示して貰えないか?』と提案したので、北西国からの使者という形にして受け入れることになった。彼らはもう既にレオに心酔し、王位は必ずレオに継承すると書状を提出してきたからだ。

 そして彼らは深々と謝罪し、事の顛末を説明した。山に作ったトンネルや私の旅行の日程や行路の情報を、領主から得て誘拐事件を起こしたと。そしてやはり目的は私に子を産ませ、この国の王と王子を抹殺してからの国の乗っ取りを計画していたと。

 父と臣下たちは驚愕していたが、レオは


『もう終わった話じゃね?』


 と一蹴した。

 すると北西国の王子が、恍惚とした表情でレオの戦う様子を語り出した。レオの戦闘能力、魔獣たちを使役する様子、残虐性。そして、神々しい姿。

それを臣下たちは青ざめた表情で聞いていた。ちなみに父は引いていた。ヘリーはキラキラしていた。そしてレオは、『俺、そんな事したっけ?』って顔をしていた。


「と、とにかく1度、北西国の方とレオン殿には、1度ご退席いただいて……」


 と臣下たちにレオ達が追い出されると、喧々諤々の悲痛な叫び声が上がった。どれも、レオの能力が怖すぎる、(ブッコロスを言われて)自分を見失いたくない、異端者すぎる!この国も攻め込まれたらひとたまりもない。そもそも、王位継承の事も事前相談もなく!王は我々を蔑ろにするのかと。

 レオに対する不信感と、保身に走った事ばかりと、不満と。爆発したように抗議してきた。

 それを父と私でなんとか諌めが、畏怖嫌厭する臣下たちの心までは変えることが出来なかった。


 結局、北西国とは正式に王がすげ変わるまでは現状維持。せっかくお越しいただいた王子とその息子の二方には、表向きには、王位継承式の招待客という形にする事になった。



 継承式の日を迎えた。一抹の不安を残したまま。

 式は、玉座の間で行われた。

 伯爵位以上の全ての貴族が招待され、レオは『異世界転移者』として、特別席に。北西国の2人は隣国の立会人として、北東国、東国と同列の位置に席を設けた。


 そして。


 王座の前に並べられた父用の退位の書類と、その横に用意された王位継承典法にのっとった書類に、父、弟の順で署名を行い、父は王冠を外すと、膝を曲げた弟の頭に被せた。

 そして弟は宣誓した。


「わたしは。国民の前に厳粛かつ誠実に王位を継承されることを確保する諸法令の注意にしたがって、当該諸法令と国民を法に従い私の最善を尽くして擁護、維持することを明言し、断言し、かつ宣言する!」


 まだ10歳の、あどけなささえ残した弟、新国王へルムフリートが誕生したこの瞬間を、割れんばかりの拍手と、褒め称える喝采の声が、玉座の間に響いた。




「お疲れ様、ヘリー。とても立派だったわ!」

「姉上!ありがとうございます!」


 無事王位継承式を終え、その後のパーティーとなり、挨拶をし、一生懸命背筋を伸ばしてレディの方々とダンスをこなし……。と、意欲的にこなしていたヘリーは、人目を盗んで1人バルコニーへと逃れていた。


「おぅ。俺、痺れたぜ。自分も頑張らなきゃって、刺激バリバリ来たぜ。お前、すげぇな!」

「義兄上!お恥ずかしい限りですが、ヘリーは義兄上と対等に国を盛り上げて行くために頑張りました!お褒めに預かり光栄です!」


 と、2人ともニコニコだ。

 3人で休憩しながら談話し、またホールへと3人で戻った。

 レオは私から離れなかったし、ずっと私としかダンスをしなかった。結果、貴族たちからのヘイトをより募らせてしまった。

 それをレオにも注意したんだけど


「嫌なものは嫌だから。これだけは譲れない」

「だったら、大人になんかならなくていい」

「そんなにパティが綺麗なのが悪いの!嫉妬で気が狂いそうになるから!逆にこの場にいる全員の為なの!!本当は見せるのも嫌なの!!!」


 って、ふくれっ面から不機嫌顔になり、真剣に怒り始めたから注意するのは諦めた。

 諸侯たちは、敬遠しながら蔑むように見ていた。





「だから、そうじゃないのよレオ!」

「そういうコトだろ!」

「落ち着いてください、義兄上!」

「違うわ、ヘリー。一方的にこの男が悪いのでしてよ!」


 王位継承の儀式の後、祝いのパーティーも縁もたけなわと締めくくり、私たち兄弟は私の部屋に集まり話し合いをしていた。


「あーあー!どうせ俺が悪いよ!ワルモノだよ!それでいいだろ!」

「義兄上、それは開き直りです」

「そうですわ!あなたは本当に短絡的すぎて今後が不安でしてよ!」

「あんだと?人が黙ってりゃコイツラっ!」

「レオ!」

「だってよぉ」

「レオは、私がどのような男とでも踊るのは嫌だという気持ちは充分に分かった。だから、私は父ともヘリーとすらも踊らなかった。そうよね」

「……おぅ」

「私は公式の場で、私の立場を悪くしようとも、諸侯たちの機嫌を損ねようとも、あなたを尊重したわ。それは分かってくれる?」

「……うん」

「それじゃあ、私の話くらい聞いてくれてもいいよね?」

「……ん。ごめん」


 レオはやっと落ち着いて大人しくなった。

 あぁ、猛獣が懐いたみたいで可愛い。

 とにかく、公式の場では、みんな自分のメンツがあるからそれを潰すようなことをしてはいけない。余計な敵を作ることはなるべく避けようと諭した。


「……。そのために、パティがいやらしい目つきをした野郎共の胸に収まるのを見てろってか?」

「レオ……」

「まだ言うのですの?」

「義兄上は、情熱的ですね。僕もそれほどの恋愛をいつか出来たらいいなぁ」

「あなたは……。そうね、出来たらいいですわね、ヘリー」

「ヘリー。そりゃ生涯を燃やし捧げてもいいっちゅーくらいの女と出会わねぇとな。俺なんか、転移してきたのはパティと会うためだったと思ってる」

「「「え?」」」

「本気も本気だぜ?運命ってこーゆーもんだってな。異世界に行かなきゃなんねぇほどの出会いをした。その為に、元の世界のものは、全部諦めた。それなのに、パティと一瞬でも離れなきゃいけない意味がわかんねぇよ」

「だからあなたはダメなのだと、あれほど言ったのですわ!いいですこと?新国王となったヘリーとお姉様がダンスをしなかったと言うことは、『私はあなたを認めません』ってことですのよ!」

「は?だってパティが立てた計画じゃん」

「そうね。でも、その場に居なかった人にはそれが分からないわ。だから、披露宴で広く意向を示す必要があるのよ」

「……じゃあ、オレのせいでパティが、謀反を起こすかもって思われたってことかよ?」

「そう捉える諸侯もいるでしょうね」

「マジか……。そういうことか。ごめん……」

「いいのよ、分かってくれたなら大丈夫。いくらでも挽回してみせるから」

「さすがお姉様ですわ!」

「でも、でもよ。やっぱダンスだけは……」


 ガリッと唇を噛むレオ。


「男の目線からみると、バッチリ見えるんだよ、谷間が……!」


 というから、私は谷間をぱっと隠した。

 レオは悔しそうに机を叩いた。


「それでは僕が大きくなっても、姉上とダンス出来ないのですね……」

「逆に今が1番ダメだ!弟クンの身長だと、ちょうど目の前だ!あんな魅惑的な爆弾を目の前にして何ともならん男はおらん!!」

「いい加減になさい!」


 とレオはエディに扇子ではたかれていた。



 翌日。

 私だけが会議に呼ばれた。

 議会では、私の結婚は国でのことだから、ポッと出のレオとは結婚させられないとの事だった。兎にも角にも、レオが北西国をちゃんと支配しすること。それからだ。と。

 貴重な『転移者』であること、天才的な『テイマー』であること、戦争から国を守ったことを訴えても、

「起こりもしなかったことに国への貢献などない」

 というのだ。

 では彼らは、戦争になって、レオが真の英雄にでもならなければ彼を認めないと言うのだろうか。保身ばかりを言うくせに、自領地が戦火に巻き込まれなければ分からないのか。

 いや、違う。彼らは、疲弊して後継者を失い存続が危ぶまれる領地の吸収に忙しいのだ。どこまでも利己的なのだ。

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