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書類不備で差し戻されました

 あれから1週間。

 少し馬車のスピードを上げ、予定通りに王都に入った。


 王都に近づくたびに町は街へとなり、どんどん栄えて人口も増えていった。それを新鮮な顔で驚きながら、レオは楽しんでいるようだった。私にピッタリと離れる事なく寄り添って。動きづらいと文句を言ったら


「また誘拐されたら命がすり減るわ」


「俺の世界じゃさ、ヨチヨチ歩きの赤ちゃんが遠くに行かないように紐つけんだよ」



 と言って長いリボンを買ってきて、私を縛った。

 その固く縛った紐の先を握ってピンと張るくらいに引っ張って


「うん。これが俺の最大の譲歩」


 ってニッコリ笑った。

 これがホントの束縛彼氏か……。

 それとも私は犬なのか……。と思ったけど、出会った頃、私もレオを保護動物扱いしてたからおあいこだ。


 それから時々紐の出番があったけど、ピンと張った紐が張り詰めるたびに『何があった!?』と引き寄せるレオをみて、

(あ、これ犬のリードじゃないわ。釣り糸だ)

 と、釣り上げられた魚の気分を体感した。

 釣られる度に思いっきり抱きしめられる苦しさは、急に空気中に釣り上げられた魚と同じ苦しさだろう。ぐぇ。



 今日もチラホラと雪が降っていた。へんぴな領地と違い、王都では降った雪はあっという間に溶けて石畳を湿らせ溜まっていく。そんな水溜まりを馬車の車輪は跳ね飛ばしながら進んだ。

 王宮の門をくぐると、弟と父と義母が揃って出迎えてくれた。


「姉上、義兄上、お久しぶりです!遠いところをありがとうございます!」


 ヘルムフリートはキチンと出迎えてくれた。あの心を病んでいた時の弱々しさは消え、堂々とした『王の風格』まで漂わせて。


「おう、弟クン。久しぶり。王位継承オメデトな」


 と、レオがヘルムフリートの頭をワシャワシャなでたから、後ろに控えていた親衛隊たちが剣を構えかけた。

 それを父が諌め、レオに手を伸ばした。

 その手を掴み、ガッチリと握手を交わすと


「お、オトウサン」


 と、真っ赤な顔で父を呼んだ。


「ふむ。男子、三日会わざれば刮目して見よ。だな。何があった?」

「そりゃ、色々!そうだな、まずは」

「僕も聞きたいです!」

「ははは、そうだな。こんなところで立ち話で済ますには勿体ない。まずは部屋に戻って身なりを整えてきなさい。時間はたっぷりあるのだから」


 と、私たちを暖かい王宮へと招き入れてくれた。

 前回来た時とはまったく違って、忙しいけれど平穏な空気を漂わせる王宮へと。



 どっぷりと日が暮れようとする頃、ようやく私の身支度が終わった。

 侍女たち5人の手によって、入浴、エステ、コルセット、着付け、メイク、ヘアメイクと、たっぷりと時間を掛けて行われた。うぅ、この時間が無駄で苦手だったのよね、昔から。

 侍女の中には、幼い頃から私の面倒を見てくれていた顔もあった。彼女らは、『こんに立派になられて』と、涙を流す者もいた。


 レオは着替えて髪を後ろに結くだけだったので、あっという間に終わってしまった。ずるい。絶対暇だったろうにと思ってたけど、私がアレコレされるのを、興味津々で眺めてた。馴染み深い彼女たちの存在を、憧憬の目で見ていたようだ。


 着替えが終わり、鏡の前で最終確認をし、レオに向かってくるりと回って見せた。


「どう?」

「うん……。綺麗だ……」


 って、ギュッて抱きしめられた。


「あぁ、俺の女神。どうかその唇に触れる栄光を俺に恵んでくれ」

「え、お化粧崩れるからダメだよね?」

「じゃあ、脱がせてもいい?」


 と言うから、コツンと叩いた。


「あー、痛くないコツン、サイコー」


 って、せっかく気取ってたレオは、すっかり素に戻ってた。




 夕食時。

 相変わらずの堅苦しい食事を覚悟していた。

 でも、食事にと案内された部屋は、厨房近くの小さめの部屋だった。まさにファミリールームだ。


 8人は座れそうなテーブルに、5人分の椅子が用意され、父を上座に右側に母とへルムフリート。左側に私、レオの順番で着座した。


「すまんな、れおん君。君はまだパティの連れだから、パティの下座にさせてもらったよ。他意はないから許してくれ」

「よくわかんねぇけど、気を使ってもらってありがとうございます」

「……?言葉遣いから角が取れて洗練されてきたね。さぁ、君たちの話を聞かせておくれ」

「ウッス」




「……いやはや、なんと言うべきか……」


 一通り話をすると、父もへルムフリートも、言葉を失っていた。義母は父の顔をみてキョトンとしていた。

 レオは、父たちの言葉を、照れつつニコニコしながら待っていた。


「……えっと、兄上は、北西国の王に就任、つまり」

「おうよ。下剋上だな!」

「……どちらかというと、乗っ取りの方が近いかもしれん」

「何でもイイっす!どっちにしろぶっ潰したかったんで!」

「……父上、国って脆いものなのですね」

「それは違うよ、ヘリー。彼の能力が桁違いなのだ。まさに神憑りだ」

「そうなのですね!さすが義兄上!!」


 と、キラキラした眼差しでレオを見るへルムフリート。


「へへ。まぁな!なぁ、俺もヘリーって呼んでいいか?」

「あ、私も!」

「わぁ、嬉しいです。ぜひ!」

「お。じゃあ早速」

「「ヘリー」」

「はい!義兄上!姉上!」


 その場の全員ニコニコだ。


「国を乗っ取るのか、王位を譲られるのかは分からないが、我が国は君を支援するだろう。君は今後どうしていきたいのだ?」

「そうッスね。俺はパティと居られれば何でもイイんスけど……」


 と、チラリと私をみるレオ。


「パティはやりたいことがあると思うんで、それに合わせます」


 と、胸を張った。


「え、私?」

「そ。実際、俺は『王様』なんてキャラじゃねぇだろ?」

「それは……うーん」

「正直にいえよ。国なんてデカイ単位、俺にはちょっと広すぎて手に余るんスよね」

「ふむ。では国の方針はその国の家臣たちに任せるということかね?」

「それは嫌ッスね。パティとのハネムーンをここまでしながらボヤっと考えてたんスけど、北西国って武力国家?武闘派民族の集まりらしいから、俺向きではあるかもしんねッスけど。でも、あの国を原住民みたいなままにはしたくねッス。パティの話じゃ、女の人の地位が低すぎるらしいんスよね。だから、男も女も対等にしたいッス。あとは出来ればマクスウェル王国から技術とか家畜とか作物とか、そーゆーのも輸入させてもらって生活水準を向上させてやりたいてぇ」

「ほう」

「あと、パティが今やってる研究所も存続させてやりたいッス。だから、魔獣とか、そういうのを全部向こうの国に引き連れて共存して行きたいっス」

「レオ……!」

「ふ。ははは!なんだ、なかなかにしっかりと考えているではないか!その方針なら安心だよ。君を全面的に支援する方向で会議にかけよう」

「うす」

「では、その君は、我が国との友好の証として、パティを妻に望むかね?」

「あ、それはもう済んでるっス」

「「「?」」」

「俺たちー。あちらの方法でー婚姻の儀式をしてきたんでーv」


 と、だらしなくデレデレと笑いながら、私の肩を引き寄せて、ピースするレオ。苦笑いする私。


「義兄上、おめでとうございます!」

「まぁ、それは素敵ね」

「……」


 脂汗をかきながら、父に助けを求める私。私と視線があい、コクリと頷く父。


「あー、れおんくん……。パティはこの国に籍を置く第一王女だからね。北西国での儀式では、『結婚した』と認められないんだよ」

「えぇー!!そんなぁ……」


 ガックリと肩を落とし、机に突っ伏すレオ。それをオロオロと見守るヘリー。コロコロと笑う義母。


 まぁ、そうなるとは思ってたよ……。

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