私たち、結婚しました?
「へへ、へへへ……。」
1晩明け、鳴り止まない外の喧騒の中、やっと意識を取り戻した私の前には、だらしなくデレーっと笑うレオが居た。
「レオ……、今までに見たことがないくらいすごい顔してるよ」
「今日ばっかはしょうがねぇよ。それに、もう逃げられねぇんだから、カッコ悪いとこ見られても問題ねぇ。時間はいくらでもあるんだから、挽回すりゃいいんだもん。」
と、デレデレと上機嫌だ。
そんなに良かったんだね……? 良かったね……。
「……うん、そうなんだね……。でも、さすがにその笑い方はすこし変態っポイよ……。」
「あー……。俺変態になっちゃったかー。」
「受け入れるんだ!?」
「もー、世界が薔薇色って、こういうことじゃん?はぁ、生きてたよかった。幸せの絶頂……!」
ウットリとしながらプルプル震えていたけど、クルッとこちらを向いて抱きしめてきた。
「あぁ、パティ。俺の嫁!好きが留まらない。愛してる、ハニー!!!」
昨日のあの混乱ぶりはどこへやら。大興奮のレオだ。
「レオ、苦しいよ。落ち着いて?」
「逆になんでアンタはそんな冷静なの」
「だってもなにも……。それと落ち着かないよ。見られてないとはいえ、こんなに大勢の人の中で」
そう。レオ単体の個人戦力で、隣国の1部隊を全力で叩き潰したレオ。なんたるフィジカル。戦闘民族である彼らは、レオの強さにすっかり心酔してしまった。そして、レオの望み通り、ああやって歌い踊り狂っているのだ。
「祝ってくれてんだろ?結婚式を。だったら多い方がよくね?」
「は……?」
キョトンとする私。私を見てキョトンとするレオ。
「結婚式?」
「そうだろ。婚姻の儀式って、そういう事だろ?」
「あ。」
「だから、俺たち結婚したんだよな!くううぅ。これが喜ばずにいられるか?デレずにいられるか??ああぁ、ダメだ笑いが止まんねぇ!!!」
私を抱きしめる力がだんだんと強くなる。ぐえぇ。
「れ、レオ。折れる、折れる。」
「わ、ごめん!」
と、パッと離れて。それから見つめあって、ゆっくりと唇を重ねた。
「俺と夫婦になってくれて、ありがとう。」
「うん……。」
「幸せになろうな。」
「うん。」
「あ、言っとくけど、俺は勝手に幸せの絶頂に登りつめちゃってるから。だからあとはパティが幸せになれるように頑張るからな」
と笑った。
「ねぇ?」
「ん?」
「絶頂ってことは、いつか転がり落ちるのかな?」
「ハッ。そんなこと心配するか?」
「……うん。」
「まったく。うちの嫁さんは心配性だな。俺は毎日頂点の記録更新し続けてるっつーの。」
「そうなんだ。」
「違う顔が見れると、新鮮で嬉しいし、いつもの顔が見られると、想いを重ねて厚みが増すし。はー。たまらん。」
「そんな風に見てたんだ?」
「おう!いつもずっとみてるぜ!何しててもよ。」
「その言い方はストーカーっぽいよ。」
「苦笑いでも可愛いのが不思議だよなぁ。実際さ、一緒に住んでなかったら、俺ただのストーカーになってたかもだし。素質あるかもしんねぇな。」
「コワッ」
「ふふふ。そうだぜ。俺って怖いんだぜ。」
「うふふ。もー、レオったら。」
「あー、可愛い。あー愛おしい。そんな顔して笑うと、マジで襲われるぜ。がおっ。」
って、狼のようなのような仕草をした。
可愛いのは私じゃなくてレオだよ。
「あー、可愛いすぎて食べちまいてぇ。パティ、ぶっころしてもいい?」
「〜〜〜っ!!」
「わ、パティ!倒れるな!ごめっ!俺が悪かった!頼むから起きてくれ〜!」
レオってば。すっかりこの国の風習が体に馴染んでるんだな、なんて意識の端でおもいつつ、体が痺れて動けない。
それを察したレオは、そばにあった毛布でクルクルと私を包んだ。
それから冷めやらぬ興奮のまま私を抱き抱えて、テントから勢いよく飛び出した。
踊り狂っていた人々は、レオを見かけて動きを止めた。
「うおおおぉー!!!」
と怒号を上げるレオ。
「「「「「「うおおぉー!!!」」」」」」
と呼応する人々の声。ついでに雄叫びを上げる魔獣、野獣。
こういうのを『カリスマ性』って言うんだろうな、と、努力では得られない才能というものを体感した。
「ほんじゃ、俺、パティとホンモンのはねむに戻るから。俺らを王として迎えたかったら、お前らの王宮に戻って準備しとけ。まぁ、準備終わってなかったら、今度こそ踏み潰すだけだけどな。」
と言うと、レオはグリフォンを呼び私を抱えたまま飛び乗った。
北西国の人たちは大歓声を上げて、私たちを見上げた。
「そーそー!国王の息子ちゃん、もしくはお孫ちゃん!パティを誘拐した荷馬車に乗って10日以内にマクスウェル王国の王宮までこい!来なかったらジジイと同じ目に合わせるからな!」
「それと、俺に協力してくれたみんな、冬眠中の眠い中、俺と一緒に怒ってくれてありがとう!いつかお礼するからよ、解散してまた眠りについてくれ」
と言って、1度研究所に戻り、新たな馬車の手配をした。
飛んでいる間、またデレデレ笑いに戻るレオに
『他国での婚姻の儀式は、夫婦として認めれないよ』
なんて、水を差すようなことはとてもとても言えなかった……。