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報復

「ふむ。美しいな。ワシを睨みつけるその碧の瞳も気に入った。さぞかし良い声で啼くことだろう。期待しておるぞ」


 連れ込まれた奥のテントは、床1面に絨毯と布団がひかれ、『その為』だけに用意された場所だと理解できた。


 その床にまたも転がされ、縛られていた拘束は、足だけ自由にされた。


「キミは処女だと聞いていたから面倒だったのだが、経験を積んだのなら遠慮はいらないな?」


 そういうと、北西国王は、ポロンとナニをこぼした。

 ちょっと待って。いきなり入れようとしている?!

 レオは、そんな事しない。ゆっくりとした時間の中で、お互いがお互いを確認するかのように触れ合って、泣きそうなほど幸せそうな顔をして、沢山『大好き』って言ってくれて……。

 それがこの男はどうだ。

 まるで虫けらを見るような目で私を見下している。女とは、子を産むためだけの道具だ。そう言っているようにしか見えない。


 外では、激しい太鼓の音と、ダンスをするような音が聞こえてきた。

 私を籠絡することで、我が国を乗っ取る計画でも立てているのだろう。まるでお祭り騒ぎだ。


「あぁ、あの囃子が気になるか?あれは我が国の伝統でな。婚姻を結ぶ夜を祝うものだよ。シャーマンの祈りが、キミを懐妊しやすくするのだ」


 婚姻?懐妊?嘘でしょ?

 嫌だ。

 こんな男に抱かれるなんていやだ。

 手と口は拘束されたままだけど、自由になった足でなんとか逃げようとしても、下半身を丸出しにした男は、ジリジリとにじり寄ってくる。

 いや、嫌だ!怖い!助けて!レオ!!!

 ぎゅっと体を縮こませて体を許すまいと抵抗をした。


「くくくっ。無駄な足掻きも実にかわいいものだな。あの忌々しい国が、キミに子種をひとつ植え付けるだけで、我がものになるとは」

「……?」

「キミはね、売られたのだよ。この国に。『キミに受胎させれば、マクスウェル王国を乗っ取れる』という入れ知恵と共にな!」

「!?」

「我々としても、武力で制圧出来ないのは不満だよ」

「……」

「だがまぁ、子を1人増やせば楽に乗っ取れるのであれば、それも面白いというものだ。ちょうど今の女共にも飽きていたところだ」

「(飽きた?)」

「キミはあのマクスウェル国王の寵愛を一身に受けていると噂で聞いた。あの王に一泡吹かせられるなら、小気味いい」

「……」

「ふはは!そうだよ、だから無駄な抵抗は諦めてさっさと抱かれるがいい」

「(そこに、私の気持ちはないのですか?)」


自身の話に酔いながら、都合の良い事ばかりをいう北西王を睨みつけた。だが、王はそれを気にもとめなかった。


「睨んでも怖くないよ?キミの国は政略結婚が盛んな国なのだろう?そこに恋愛が絡むのかね?」

「……!」

「それに、どうせ抵抗など出来んのだ。2~3発殴れば抵抗の無意味さも分かるだろう?どれだけ嫌がろうと2~3回抱かれれば、女は諦めて男にすがるようになる。キミも例外ではあるまい?」

「……!!」

「さぁ、話はおしまいだ。あの国境の領地をひとつ侵略しなと口約束で売られた計り知れないほど高い価値のキミを、せいぜい可愛がってあげよう。その邪魔な布をとりなさい」


 と、ビリビリと服を破られた。

 レオ以外に体を許すくらいなら、国民を危険に晒すくらいなら、いっそ舌を噛み切って死にたい。この猿轡さえ外せれば、死ねると足掻いた。


「なんだ、キミは細すぎて、抱き心地が悪そうだな。骨も、うっかり折ってしまいそうだ」


 と、足を掴まれた。その足には、レオから貰ったアンクレットがキラリと光った。

アンクレットを私の足にはめた時の、嬉しそうなレオの顔が浮かぶ。近くにいなくても、レオは私に勇気をくれる。

お前の思い通りになるものかと キッと国王を睨みつけた。


「急に顔つきが変わったな。悪くない。キミを反抗的にさせたのは、コレかね?」


と、右足を掴まれ、アンクレットに指をかけられた。ソレに、レオに触れないで!

咄嗟にレオの見よう見まねだけど、掴まれた逆の足で思いっきり顔を蹴飛ばしてやった。


「活きがいいのはいいが、キミにはおしおきが必要なようだ。まずはその足癖の悪い足から切り落とそう」


 ノーダメージだった。王に蹴った方の足を捕まれ、部屋の隅までズルズル引きづられると、端に置かれていた斧を王は手にした。そして斧を振り下ろされたが、上手く防御魔法が発動して、斧を弾き飛ばせた。

 と同時に、テントの外に逃げ出した。


 いつの間にか止んでいた音楽。

 音楽を止めた原因は、影だった。太陽を、大空を覆い尽くすほどの黒い影。そしてテントの周りには、グラシャンを筆頭に、様々な魔獣、動物達が幾重にも囲んでいた。

 そのあまりの光景に北西国の部隊やシャーマンたちが『悪魔が出た!』『この世の終わりだ!』と言いながら神に助けを求めてひれ伏していた。


 その影の正体を私は知っている。

 焼き目の入れてあった手の束縛をとき、猿轡を外し、思い切り息を吸い込んで


「レオ!レオ!!私はここよ!」


 と、私に出せる限りの大声で叫んだ。

 すぐに急接近する大きな影。

 もちろんよく知っているグリフォンだ!


「レオ!!」

「パティ!!!」


 レオはグリフォンから飛び降りると、私に駆け寄り力いっぱい抱きしめた。

 そして私の格好を見ると、『プツン』という音を立た。言葉には出さなかったけど、青白い炎をあげて怒っている。怒りがレオの体を包み、まるで黒い悪魔かのように見えた。

今まで見たことがないほどのレオの様子に、私は恐怖を感じて動けなくなった。


「おい。この中で1番エライ奴。出てこいよ」


 すると、テントの中からまだ下半身丸出しの北西国王が出てきた。


「お前か?俺から俺のパティを奪おうとしたやつぁ」

「いかにもワシだが。だとしたらどうだというのだ?」

「お前、パティに何しやがった?」

「もちろん婚姻の儀式だよ。キミが邪魔をするというのなら、キミを殺して続きをするが?」

「ハッ!俺を殺す?テメェごときが?どーやって?そもそも俺らから逃げられると思ってんのかよ。笑わせるぜ!周りをよく見ろや」


 国王は辺りを見回し、この異常事態に気がついた。


「まさか、この異常現象が、キミの仕業だとでもいうのか?」

「かもな?もっとも周りのヤツらはカンケーねぇよ。俺はお前とタイマン勝負でコテンパンにしてぇんだよ」


 ドスの効いた声でレオは吐き捨てると、握りこぶしを作り指を鳴らした。


「人の女に手ぇ出して、無事で済まされると思うなよジジイ!」

「これは驚いた。キミは国家に対して、ひとりでケンカを売ろうとしてるのかね?」

「待って!国家だと言うのなら、私を誘拐したあなたがたは我がマクスウェル国王に戦争の火種を売るという事ですか!?」

「あぁ、姫。我々はそれでも構わないよ。キミは、戦争と、身を売るのと、どっちがいい?」

「……それは……」

「パティ。パティが何かいうと、ソレ、国の代表としての言葉になるんじゃねぇの?」

「レオ……」

「あのさ、俺はパティを『王女』じゃなくて『俺の恋人』として奪い返しにきたの。言いたいことはあるとおもうんだけど、だから、ちっとだけ黙ってて」

「……」


何も言えなかった。確かに、私の一言で戦争が、侵略が始まるかもしれない。それに、あのレオがこんなにも怒り狂ってるのに、それを無理やり抑えているのだ。


「なぁ、オウサマよ!国家?つったよな。女を誘拐するような卑怯モノが国家を語るのか?なら、集まってくれたここに居る仲間とお前の国を全部踏み潰してやってもイイぜ」

「ふはは!それこそマクスウェル国から先に手を出したことになるぞ!」

「バーーーカ!俺は異世界から来たから、マクスウェル王国の人間じゃねぇんだよ!だから、1人の女をかけてタイマン勝負挑んでんだよ!」

「1人の女の為のタイマン?キミはその女の価値を分かって言っているのか?」

「女の価値?」

「あぁ。あの豊かで傲慢な国の未来を左右できる価値を持った女だ。キミは王女に何を求める?まさか、純愛とでもいうのか?」

「当たり前だろ」

「馬鹿な。女など、子供を産ませるためだけのなんの価値もない虫と同じだ!力で制するものだろう?何故に女に心を置くのか」

「……テメェはそんな目でパティを見て、汚そうとしたっつぅ事か?」

「それ以外になんの理由がいるのかね?」

「……もういい。話にならねぇ。なぁ、この国は殴り合いで決める国なんだろ?ならタイマン勝負以外になにがある?やろうぜ?殴り合い」


そう言うと、レオはグリフォンを呼び、私をグリフォンの背中に乗せ避難させた。


「それともタイマンが怖いってか?ならお前ら全員でかかってこいよ!」


 というと、レオは誰彼構わず手当り次第に殴り始めた。集まった獣たちや魔獣たちも、レオの怒りに呼応して雄叫びを上げた。その声はビリビリと振動し、地響きとなってどこまでも響いた。


 怒り狂ったレオは、殴るどころではない。蹴り、殴り、投げ飛ばし、捻り上げて関節を外し、飛び蹴りをし、相手の骨から破裂音を出させた。

 まさに鬼だ。悪魔だ。レオが怒りに身を任せ、ここは阿鼻叫喚の地獄になった。人だけでは無い。楽器や飾り道具、触れるもの、見えるもの、全てなぎ倒して破壊していく。


「ちっ」

「逃げんのかよ!」


 王は舌打ちをし、テントへと戻った。それを追いかけてレオもテントへと入ると、王は手に斧を構えていた。


「ココは……。ヤリ部屋か?」

「あぁそうだ。キミの女とやらは、ここで良い声で鳴いてよがったよ」

「はっ。そりゃ嘘だ。パティの甘い香りがしねぇもん。さてはジジイインポだな?役たたずジジイ」

「なん、だと?」

「そうじゃなきゃ、あんな細腕のパティに抵抗されてヤレなかった、激弱ジジイだな。みっともねぇ」


 と、見下すように悪い笑いを浮かべた。


「くっ。貴様ごとき若造が、ワシの相手になると思うなよ!」


逆ギレして斧を振り下ろしたけど、レオは素早くそれを避け


「そりゃ、寝言か?」


 と、レオはデコピンした。


「それとも、妄想か?」


 斧を持った右腕を叩き落とした。


「あぁ、ただの耄碌か」


 左膝にローキックが入ると、関節がおかしな方へ曲がった。


「こりゃ見せかけだけの張り子の虎だな」


 みぞおちに重いフックが入ると、国王は体をくの字に曲げ崩れ落ち、吐いた。


「おーおー。ゲボゲボボケボケ老人は、シモにも注意ってな」


 と、むき出しのナニを、グリグリと踏みつけ、それは『パキョッ』と音を立てた。北西国王のこの世の終わりのような悲鳴が響きわる。


「はー。俺みてぇなガキ相手に武器まで使ってさ。情けねぇ。武力国家を名乗る一国の国王たる男が、勝負すら受けられねぇの?」


「それとも、ジジイは耳が遠いのか?」


「あー。ボケちゃって、理解出来ないんだなっと!」


「あー、年取ると足腰弱くなるって言うもんな」


「なぁ?いつになったらタイマン勝負してくれんの?ジジイがやり返してくれないと、コレただの公開リンチになっちゃうんだわ」


「なーなー。俺の事どうするっつったっけ?言ったからにはやってみろよ。口先だけの老害がよ」


「嘘しか付けない舌ならいらねぇよな?て思ったけど、まだ喋れなくしちゃったらダメか。じゃあ背骨でいっか」


「これでも俺、我慢してんだぜ?パティの肌みたその目ん玉も、えぐり出してぶっ潰してぇんだよ」


一言事に、国王の腕に、足に、腰に、耳にと怪我を負わせ、血しぶきを浴びるレオ。

北西国王は汚い悲鳴をあげ続けたが、レオは躊躇もせず、今度は右手を捕まえると、1本ずつ丁寧に折り始めながら、黒い笑みを浮かべた。


 ボロボロだ。見るも無惨な赤く染ったぼろ雑巾だ。

 これを、あのレオがやったのか。恐ろしい程に怒り狂ったレオのその行為は、公開リンチは止まらない。レオはキレて真っ黒に見えるほどの怒りを隠そうともしない。

 やられながらも国王は、『殺せ、いっそひと思いに殺せ!』と喚いている。

 あんな男に、陵辱されかけたのかと思うと情けない。だけど、あそこまで見るも無残な姿に、胸のすく思いどころか、同情してしまった。あそこまでされて生きていくのと、スパッと殺されるのなら、どちらが残酷なのだろう。


「いいか、ジジイ。生かしてやったんだ。よく聞けよ」


 震える国王の頭を掴み、レオは耳元で囁いた。


「俺に寝盗られ趣味はねぇ。パティに手を出そうとしたら、未遂でもこーゆー目に合わせるからな。何度でも、何度でも、ゆっくり時間を掛けて処刑してやるよ。それを身をもって知れたんだから、ちゃーんと後世に残してくれよ?」


 ガクガクと震えながら、コクコクと頷く国王。


「ほんじゃ、この場のナンバー2いるか?出来ればこのジジイの後継者」

「息子なら私だ」


1歩前に出てきたのは、父より少し年上の、これまた筋骨隆々な体つきをした北西国の王子だった。


「オーケー。アンタは俺とタイマンする?それとも、魔獣らに国ごと踏み潰される方を選ぶ?」

「我々も武力を自慢とする民族だ。国の代表としてのタイマンなら、ウケてたつ」

「国の代表ね。じゃあ、俺が勝ったらパティに二度と手をだすな。アンタが勝ったら、俺は国を踏み潰すのやめてやる。それでいいか?」

「構わん」

「おっ。イイネ。親子ほど年の離れた俺に、無抵抗のままやられるなんて無様な真似はしてくれるなよっ!と」

 

 と、顔面に一発拳を入れただけでKOしてしまった。


「……はぁ。少しは手応えあるかと期待したんだけどよ。武力国家って名前ばっかじゃん。お前ら、トップがこんな弱くていいの?」


 それまでレオにKOされて倒れていた男たちが、レオを見た。

国王の血族を倒す強い男。魔獣を引き連れる悪魔のような能力を持つ男。その徹底した残忍さ。

その時、空を覆い尽くしていた鳥達が地上に降り立ち、血塗られたレオに後光が差し込み、風が吹いた。

身内目で見ても端正な顔立ちのレオ。この時のレオはいやしくも神々しく見えた。

その姿に心酔、陶酔していく北西国の彼ら。

次の瞬間、誰もが打ち震えて土下座をし、懇願した。

 強い男こそが王。自分たちの王になって欲しいと。


「いや、国を潰したいとは思ったけど、欲しいワケじゃねぇんだよな」


と、レオは私をチラリとみた。


「んー。じゃあまぁ、あれだ。アンタらの婚姻の儀式っつうの、俺とパティのためにやってくれる?そこのヤリ部屋借りるわ」


 彼らと対比して、軽いノリのレオは、私を担いでテントに入った。

 楽器こそさっきレオが破壊していたせいで音楽はなかったけど、外の男たちは懸命に歌い、踊り、祈っていた。

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