今度こそ危機のようです。
両手足を縛られて、猿轡をはめられる経験数なら、この国のTOP10に入れると思う。
だから、冷静なんだな、私は。
粗雑な荷馬車に乗せられ、既に溝ができている雪道は、私たちが馬車で進むスピードよりもはるかに早かった。
襲われる気配はないから、浮気にはならないよね、おしおきされないよね?と、一度おしおきされたことがある私はそっちを心配していた。
向かっているのはどこだろう。
それよりなにより、寒い。
誘拐するにしても、もっと若くて可愛い子がいるだろうにと、誘拐犯たちの見るの目の無さを残念に感じた。
逆を言えば、若い女の子に怖い思いをさせずに済んだと、苦笑いした。
それにしても、王女である私を誘拐なんてしたら、彼らは捕まったあと極刑になるだろう。国力を増やしたい私が、私のせいで処刑される風景を見届けなければならないのは、本当に皮肉だ。
偶然あんな所にいた女が、まさか王女だなんて思わないよね、紛らわしくてごめんね。
2時間ほどたったのだろうか。太陽がだいぶ高い場所に登った。
今はいつも見る風景に似てる場所を走っていた。というよりもそのものの景色。そして、町をすり抜け、山に向かっているようだ。
急に嫌な予感がした。
山に向かっているのに、全く落ちないスピード。
彼らは、誰も知らないはずの、かつて密偵が使ったトンネルを使って、国境の向こうへと進んだ。
(まずい。このままだと)
私は北西国に誘拐される。婚姻による平和条約は破棄されたというのに、今更なぜ私を誘拐しようというのか。あちらの国王の慰みものにされるのか。それとも、国家間の人質として利用されるのか。
戴冠式間近のこの忙しいときに、なんて事してくれるのだう。
北西国にとって、私は大事な人質のはずだ。そうそう雑には扱われないだろう。ならば下手に抵抗するより相手の出方を見てから考えよう。脱出準備として、火魔法で手の縄だけは、焼け目を入れておいた。
チャンスはいつ来るか分からないからね。
乗り心地の悪い荷馬車に拘束されたまま転がされた私は、アチコチアザだらけになった。
そして、山に掘られたトンネルを越え、少し進んだ平地につくと、ようやく荷馬車が止まった。これ以上は関節が限界だったから助かったわ……。
案の定、引き渡されたのは北西国の王だった。王は後ろに武装した数十人の男たちを引き連れていた。
荷馬車から引きずるように降ろされると、その男の足元に拘束されたまま転がされる。人質の扱い、雑すぎませんか……。
王は、虎の毛皮で作ったマントを身に纏い、白髪を結い上げた白ひげの老人だが、戦闘民族の首領らしい逞しい体つきをしていた。そして、私を見下ろす目線は冷ややかで、レオとは対象的な印象だった。
「ふむ。噂には聞いていたが、これほど極上だとは。さては、男を知って色気が増したな?」
私を見定めそう言うと、周りの男たちがいやらしくバカ笑いをした。悔しい。猿轡さえ取れれば少しでも言い返してやるのに。
「それでは姫。早速だがワシと床入りをしよう。この国での床入りは、すなわち婚姻を意味する。女なんて価値はないが、姫には特別に、高い地位をくれてやろう。さぁ、その貧相な服を脱げ!卑しい女へと調教してやろう」
そういうと、まるで荷物のように私を肩にのせ、奥のテントへと向かっていった。
集団の男どもの罵声をBGMに。
ちなみに、誘拐されたうちの2回は、王宮に帰ってこさせようとした父王によるものでした。




