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俺のせいで

※2023.12.11に追加しました。

「嘘だろ?」


 弟くんの戴冠式に招待され、向かう途中の馬車道で、俺はすれ違う野生動物たちから忠告を受けていた。

『変なおじさんがついてきてるよ!気をつけて』

 と。

 だから途中途中で馬車を停め、チンタラチンタラ進んだのになかなか正体を表さねぇ。せっかくパティと2人きりで馬車の旅なのに、落ち着かねぇ。

 普段から一緒に居るけどよ、こんな朝から晩までずーーーーっと一緒に居られるなんて、滅多にねぇんだよ。

 パティが、横にいて、笑って、遠くを見て、また俺を見て。

 わかる?このムズムズとした湧き上がる幸せな時間。

 それなのに、イチイチ邪魔されるわけ。

 で、林の中突っ着れば、その分野生動物も増えるワケで、一斉にギャーギャー鳴きながら

『気をつけて!気をつけて!』

 って忠告されるんだ。

 こりゃ異常事態だわと腹括ってパティからちょいと離れたらよ、誘拐されたって軽く言われるんだわ。

 あ、ありえねぇ……。

 俺は林で捕まえた領主を片手でズルズル引きずりながら帰ってきたんだけどよ、それ聞いて言葉を失った俺は、ズドンと領主を落とした。


「いや、本当に嘘だろ?」

「こんな嘘、冗談でも言えませんよ!」

「相手は相当の手馴れでした!町人に扮した格好で近寄り、あっという間に連れ去ったのです!」

「わっ、我らはどうすれば!?」

「……」


 絶句した。

 仮にもただの護衛だったとしても、主人を守りきれない頼りなさと、連れ去られる主人をポカーンと見送るアホさと、それを追いかけない機転の利かなさ……。

 主人の一大事じゃねぇの!?危機的状況じゃねぇの!?これ!

 普段から上からの命令がないと動けないものなのか?それともコイツらから脳みそが逃げてったのか。オロオロとするばかりの護衛兵たち。

 そのアホさ加減にイライラが募る。んで一発ずつ小突いた。


「アンタら……。それでも護衛兵なのかよ!」

「我らは確かに護衛兵だが、近年平穏が続いていたので実践経験がなくてだね……」

「そりゃただの言い訳だろ!」

「その通りだ……」

「そんな事、どうでもいいからなんかマシな情報くれよ!!」

「町人に扮した荷馬車でさらわれた……としか……」

「さっきも聞いたよそれは!」


 イライラが頂点に達しようとした時、尻もちをさすってた領主が『クククッ』と笑った。


「あんだテメェ。何がおかしい?」

「イヤンダーリン、そんなにワシを見つめ ゴフッ」


 気持ち悪さに一発殴った。


「ダーリンの愛情表現は、激しすぎ グハッ」


 嘘ついた。二発殴った。


「愛情表現じゃねぇ。なんだ、何が言いたいのか言ってみろよ、ゴルァ!」


 領主の襟首掴んで思いっきりメンチ切った。


「こんなモノよ、現状の我が国は。みーんな愛してる人食べちゃって、自棄になったりさ。そもそも優秀な人から狙われるから、今の生き残りは燃えカスよ。だから、姫が1人奮闘してんのよ。」

「パティが、『国力国力』って言ってたあれか……」

「それに、ダーリンは、ソイツら攻めるけと、ダーリンだって同罪じゃない?姫誘拐されて、まだココにいるんだから」


 領主のヤロウは、ニヤニヤと笑ってる


「……テメェ、なんか知ってるな?何が言いてぇ?」


 首元を直に締めながら、怒りをなんとか我慢しながら領主を脅す。でも領主のヤロウは、顔を赤らめながら、余計にニヤ〜っと嫌な笑いを浮かべた。


「ずっとね、姫が邪魔だったのよ!ダーリンはワシのもの。それなのに姫がピッタリ横にいてさ!今度こそ北西国王に、引き取って貰ったってワケ!ついでに『姫妊娠させれば、マクスウェル王国乗っ取れますよ!』って一言添えてね!姫も子供出来ちゃえば、アッチから帰って来れないでしょう!?お陰で邪魔者は消えたし、ワシらはずーっと一緒に居られるわ!!」

「……は?」

「姫から行程貰ってたからね!山のトンネルと一緒にリークして姫をさらわせたのよ!今度こそ姫を連れてってってね!!今頃北西国のジジイの餌食よ!!」


 と、高笑いを始めた。

 ジジイの餌食?

 その時、パティが親父さんに拉致られた時の事を思い出して血の気が引いた。

 あの時の再来……、いや、下手したら本気でパティが……?

 俺以外の男に……?

 おぞましい想像が簡単に頭に浮かぶ。

 目の前がクラクラとする程の怒りに包まれ、一旦引いた血の気が、冷たく身体中を駆け巡った。

『あぁ、余計な仏心なんぞ捨てて潰しときゃあよかったよ。俺のパティに触れるやつは……そうだな、簡単にはコロサネェ。心胆寒からしめて、生き地獄を見せてやる……』

 俺の怒りを悟って、近くにいた野生動物達もザワザワと異様な行動をし始めた。

 その中で1番早く飛べる鳥に、グリちゃんへの伝言を頼んだ。

『迎えに来てくれ』

 と。

 そして、領主はそこいらの布で適当にグルグル縛り、馬車へと投げつけ護衛兵らに、王城に速攻で送り届けろと指示を出した。


「そ、それではレオ殿は?」

「あぁ?決まってんだろ。奪われたんなら取り返す!北西国は、国ごとぶっ潰す!」


 直ぐに迎えに来てくれたグリちゃんの背中にのって、大空へと高く舞い上がった俺は、荷馬車が付けたであろう車輪の跡を見つけ、後を追った。

 道すがら、俺の怒りに同調したあらゆる生き物たちを引き連れて。

 飛び立ったグリフォンの背の上で、風に吹かれて少し冷えた頭で、一人考えた。


(あぁ、なんで惚れた女を他人に任せた)

(そもそも、パティから俺が離れなければ)

(可能性が無いわけじゃないことを、知ってただろ、俺)

(護衛兵のやつらには、ただの八つ当たりだ。悪いのは俺だ)

(惚れた女のを他人に委ねた、テメェの甘さ、迂闊さにはらわた煮えくり返る)

(けど、どう考えても誘拐するヤツが1番悪い。俺のパティに怪我の1つでもさせてたら許さねぇ)

(俺が、俺自身が必ず落とし前つけてやる)

(待ってろパティ。必ず取り戻すからな!)

(だからどうか、この世界のカミサマ、パティのお袋さん!ご先祖さん!俺が着くまでパティを守ってくれ……!!)

俺は人生で初めて、カミサマとやらに願った。

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