2度あることは何度でも
旅行に出てから2日目。
想像以上にゆっくり進めた馬車は、町を見つける度に停車し、いまだに領地からすら出ていなかった。
急ぐ旅では無いとはいえ、このペースで間に合うのかと若干不安になったけど、レオが嬉しそうだったから、まっいっかって流した。
「いつだったかさ、パティずっと馬車で出掛けっぱなしだったことあったじゃん?」
「うん。情勢やら父との手紙を早く受けるとために中間地点まで行ったりしてたからね。」
「そんな事してたんか。まぁ、その時はさ、我慢してたんだよね。」
「なにを?」
「……ずっと一緒に行きたかったの。俺。」
レオはプクっとほっぺを膨らませた。
「でもさ、パティの邪魔したくないじゃん?それに、アイツらの世話しないわけにも行かないじゃん?だから、必死で我慢してたんだぜ。俺」
「そっか。寂しい思いをさせてごめんね?」
「ん。まぁぐったり帰ってきたパティを抱けるご褒美が待ってたからな。役得もあったんだけど」
「えぇ!?そんな風に思ってたんだ?」
「ふっふっふ。紳士対応してただろ?」
「うん。安心して抱っこされてたよ」
「まぁ、そうかなって思ったから、信頼を裏切らないように頑張ってたわけ。健気な俺にもっと惚れて」
なんて言うから笑ってしまった。
これ以上好きにさせてどうするのよ。
「しかし、俺たちの町はやっぱ田舎だね。ここまできたら山とか遠くに見えるなぁ」
「うん。途中林は突っ切ったけど、大きな山はあんまりないね」
「どっかでさ、まだ知り合ってねぇ魔獣とかいるかな?」
「どうだろう。都市部に近づくほど魔獣は退治されてるだろうけど。この辺りならまだいるかもしれないね」
「そっか。会えたらいいな」
「うん。会えたらいいね。もっとも、今は冬眠してるかもだけど」
「あーね。したら、また雪が溶けたら来ような」
「うん。来よう来よう」
「やった!約束だぜ。約束破ったら、おしおきだからな」
「えぇ〜。おしおきヤダ〜」
「守ってくれれば良いだけじゃん?俺はおしおきもしてみたいけど」
って、おでこに『ちゅっ』ってされた。
護衛兵もいるのに、こういう不意打ちほんと、困る。何度されても、恥ずかしいのよ……。
「ねぇパティ。今日はどこら辺まで進むんだっけ?俺、あの森のあたり少し見てきたいんだけど」
「そしたら、ここで少し休憩しようか。馬車から馬を一頭外して、遠乗りしてきていいよ」
「おー!馬で遠乗り!そういややった事ねぇな」
「雪道滑るから、充分気をつけてね。」
「ん。パティは浮気しないで待っててね」
「するかっ。というか、私なんて誰も相手にしてくれないよ」
「……」
「何その目」
「いや……。王都からのお土産、鏡にしようぜ。でっかい鏡。毎日自分の顔、よく見た方がいいぜ」
「毎日見てるよ」
「じゃあ、あれだ。メガネがあってないんだ。メガネも新しく作ろうぜ」
「ちゃんと見えてるし、これ気に入ってるもん。いらないよ」
「まぁいいや。ちゃんとそこで待っててね、ハニー」
「もう!」
「護衛兵のおっちゃんら!俺ちょっと離れるからパティのこと頼んだ!」
と言うと、レオは馬で駆けていった。森の中の何が気になったんだろ。レオが自分から離れるなんて珍しいなって分かってたのに。
レオの姿が見えなくなった途端、私はさらわれた。
今頃きっとレオは、護衛兵に『アンタらなにやってんの!それが仕事だろ!』って怒ってるに違いない。
それとも『俺がパティの傍から離れなければ』って、なにかに八つ当たりしてるかもしれないね。
小説に登場してませんが、幼い頃に何度か誘拐経験があるようです。
王配になりたい貴族とか、街の悪者とかに。