重なるからだ。繋がる心。
翌朝、寒さで目を覚ますと全裸で驚いた。
布団がスルリとずり落ち、我ながら豊かな胸がぷるるんと震えた。
その横で、眠そうなレオが
「おはようパティ」
とおでこにキスをしてきた。
「ちょ、あなたも全裸なんだけど!?」
「そりゃ裸だよね。あのまま2人で寝ちゃったし。パティ、めっちゃ可愛かった……。くうぅ〜」
「な、な……!」
「覚えてねぇの?」
「覚えて………………る!」
レオに組み敷かれて、繋がった幸せの夜を思い出す。レオはオスの顔で、夢中で私を貪った。ヒリヒリと痛いお腹は、幸せの残滓で……。
ぎゃーぎゃー恥ずかしい!
「見て、パティ」
と指さされた先をみれば血痕がついていた。
「ほら。こっちも!」
と、嬉しそうに布団の赤黒いシミを探す。
「ああぁ、俺はパティの初めての男になった!」
とガッツポーズをする。
「やめて!?恥ずかしいから言わないで!?」
「なんでだよ。他に聞いてるやつも居ないのに」
「でも、恥ずかしいよね?!よく覚えてないし」
「ふーん。あんなに俺を求めて抱き合ったのに、パティさんは覚えてないんだ。ふーん」
と、じとっとした目で私をみる。
気の所為か、レオのレオも、ムクムクと上を仰ぎはじめた。
「う。だってお酒が……」
「お酒かー。酔ったパティも可愛かったけど、酒のせいで覚えてないんじゃ仕方ないよねー」
「そう、仕方ない」
「うんうん、仕方ないから、もう一度やるしかないよね」
「なんで!?」
「惚れた女がアラレもない姿で煽って来るからじゃん」
と、力づくで押し倒されて、朝から再び2人きりの世界へと落ちていった。
体のあちこちが痛くて全身疲労困憊の私と、逆にまだまだ元気なレオ。
年の差を見せつけられる思いだ。いや、純粋に体力差かもしれない……。化け物級フィジカルめ。
レオはグッタリとする私をみて、ウズウズと落ち着かない仕草をしたと思えば、全裸のまま外に飛び出し、すっかり積もった雪の上に飛び込んだ。
「うおおおぉー!!パティ好きだあぁ!!愛してるーー!!! パティサイコおおおぉー!!ひゃー。雪冷てぇ!!冷える〜!縮こまる〜!!!」
ってバタバタ暴れてた。
騒ぎを聞きつけた護衛兵たちが、なんだなんだと寮から顔をだし、色々悟ったらしく、ニヤニヤと笑った。
「は、恥ずかしすぎて死ぬかもしれない……」
雪の上で暴れて落ち着いたらしいレオは、お風呂を準備してくれた。
以前は牛乳を入れて花を散らしたオシャレなお風呂だったのに、今回は透き通った普通のお湯だ。浴槽の脇には小さな雪だるまが居た。
全裸のまま布団にくるまって運ばれた私は、されるがままお湯に浸からせて貰う。
熱めのお湯は、冷えた私の体をジンジンと温めた。
「ふぅ……」
とため息をもらせば
「お風呂ってため息ついちゃうよな」
って、レオが全裸で隠しもせず入ってきた。
「ちょ、レオ、見えっ……!?」
「散々見ただろ?」
と、苦笑いしてヨイショとお湯に浸かった。
レオの指先は冷えていたけど、あれほど雪の上で暴れてた体は、ものすごく熱かった。
「体、洗ってやるから」
と、私の後ろに回り込み、お湯の中で丹念に身体中を擦りながら、
「ゴメンな、俺、浮かれて調子にのってやりすぎた。こんなにパティが疲れるだなんて、思いもしなかった」
と申し訳なさそうに謝られた。
「んーん。私も初めてだから、こんなにアチコチ痛くなるなんて知らなかったもの」
「そか……。いや正確にはもう2回目だけど」
「何を持って1回とするのか……」
「日をまたいだら、かな?細かく数えたら両手の指超えたよね?」
「何を持って1回と数えたの!?やめて?!カウントしないで?そんな嬉しそうにニコニコしないで!?」
と慌ててレオの口を塞ぐ。
その塞いだ指を、ペロリと舐められた。
「ひゃっ!?」
「あー、ほらもうこっち向くから全身見えちゃうし……。俺も必死で我慢してるんだから、そーやって誘うのやめてくれない?」
「さ、誘ってないもん」
「ふーん。誘ってないなら煽ってんのか。なんなら、風呂で、もう1回……」
「しません!絶対しません!というか、しばらくしません!!絶対に!!!」
「えぇ〜。そんな無理言う〜?」
「甘えた顔してもダメ!!これ以上されたら私死んじゃうから!」
「腹上死ってヤツか。パティが死ぬなら俺も一緒に死ぬから別にいいぜ」
「真顔で怖いこと言わないで!?」
「だって本気だもん。なぁ、パティ。俺、パティのこと本気で好きで、愛してるって思ってたんだけどさ」
「うん」
「パティを抱いたら、もっともっと好きになった。『愛してる』って、想いが深くなった。深くなった分、表面は落ち着いてるけど、内面じゃメラメラ燃えてるんだ。ねぇパティ。どこまで俺を魅了するの?」
って、私を抱きしめながらコテンと胸に顔を埋めると、上目遣いで私を見つめた。思わずキュンとしてしまう。
愛情が深まるって本当だ。
「……。どこまでも、どれほどでも魅了されて。深く愛してくれてありがとう」
「ん」
「私も、前よりもっと、ずっと好き」
「ん……。やべぇ幸せすぎて俺が先に死にそう。あのさ、昨日は俺の誕生日で、どんな卑怯な手を使ってでも、絶対パティを貰うってキメてたんだ」
「あー……。うん」
「けどさ、日付け跨いだ今日はもう、俺の誕生日じゃないじゃん?プレゼントとかの名目じゃないじゃん?それなのに朝からヤラセてくれてさ」
「(力技だったじゃん)」
「あ、恋人だからやらせてくれて当然なんだ。俺たちマジの恋人なんだって、嬉しかった……。俺も初めてだったから、下手くそでごめんな?」
「んーん。大丈夫。私もレオを好きだから全然耐えられたよ。レオが必死に求めてくれるのが幸せだった……」
と、レオに優しくキスをして、真っ赤な自分を誤魔化した。
「私からも一言いいかな?」
「ん。怒られる覚悟は出来てます」
「怒らないよ。あのね?」
「はい」
「私、もう、レオを元の世界に返したくない……。ごめんなさい」
「パティ……それ逆にご褒美」
「?」
「俺は、もうとっくに帰りたくねぇよ 」
「いいの?」
「ん。愛してるよ、パティ」
「私も」
と、抱きしめあった。複雑だけど、レオが『帰りたくない』って言ってくれて嬉しかった。心から安心した。気がつけばお風呂のお湯はすっかり冷めてた。
シンシンと外は冷え、時々吹雪いたりもしたけれど、私とレオは穏やかな日々を過ごした。
時に暖炉の前で一緒に毛布にくるまったり、文字を覚えたり、一応テーブルマナーを教えたり。
レオは勉強を嫌がったけど、(私と結婚するために)必要なことだと悟ってからは、張り切り頑張って覚えようと努力している。
寒い冬は、魔獣ですら活動が鈍くなる。
餌やりも散歩も、ほぼ必要としない。冬眠に入るからだ。
それでもレオは、毎日必ず厩舎に行き、声を掛けて回った。
私が一緒について行くと、魔獣たちは私の匂いを嗅いで不思議そうな顔をした。
「俺の匂い、染み付いてた?」
って、レオが嬉しそうに笑った。
穏やかだと感じたのは、レオは私が嫌がることは絶対しなかったからかもしれない。
少し強引なことはあっても、
「襲う時は、相手の合意をとれって言ってたじゃん」
だって。それから
「恋することは俺1人でも出来るけど、恋愛は2人じゃないと、出来ないじゃん。嫌われたくねぇし」
って、拗ねた。
「あと、『家庭』ってやつも、2人じゃなきゃ無理じゃん?」
って、真剣な顔で言われた。
(本当に、レオは私のことが好きなんだね。真面目に私との将来を考えてるんだ)
と、レオの思いに侵食されていく。
多分このままでは、押し切られる日も近い。
私もレオとの将来をうっすらと描くようになった頃、王宮から手紙が届いた。
それは弟の、戴冠式への招待状だった。
ノーコメントで……。