罪の意識は枷となって
怒れるレオは、3人がかりでも止められなかった。
3人とはいっても、非力な女の子である私の妹のエディと、まだまだ成長期の10歳のへルムフリートと、死にかけてた私では、合わせても1人分にすらならなかったかもしれない。
父が執務室に居ると聞き、ズンズンと歩いていくレオ。
途中で足がもつれたわたしは、レオを止めるどころか抱き抱えられた。
そしてたどり着いた執務室の扉を、蹴り上げて破壊して侵入した。
そんな私たちを、父は笑顔で迎えた。
「あぁパティ。ダメじゃないか。ちゃんとお仕置きを受けて反省をしないと」
と、ニコニコと笑いながら私の正面に立つと、思いっきり頬を叩かれた。
「お姉様!」
と駆け寄るエディには目もくれず、父はへルムフリートを突き飛ばすと、わたしをもう一度殴ろうとした。
「ホント、その笑顔には騙される。油断したわ。おい、親父さん、いくらアンタでも許さねぇ」
と、レオは父の胸ぐらを掴むと、捻りあげる。
「ふっ。下々のものごときが、私にこのような仕打ちをしてタダで済むと思うのか」
「あぁ?そんなん関係ねぇよ」
と、ジタバタと抵抗をする父をものともしない。
「なぁ、アンタ、俺のパティになにしてくれんの」
「ふはは!誰がお前のものか!娘も、妻も、私のモノだ!そうだろう、王妃よ」
「はい。あなたのおっしゃる通りです」
「この国のものは、全て私のモノ。私の為にある!それを好きにして何が悪い!」
そういうと、父はレオの腕から逃れ、私を捕まえるとバルコニーへと走った。
「来るな!誰も近寄るでない!私は今度こそアリーと!」
「お父様、私は母様ではありません。パティです。あなたの娘のパトリシアです!」
どんなに叫んでも、父の耳には届かない。
愛おしさのあまり、母を食べた人。それを受け入れられずに狂った人。自分だけが狂って楽になって、周りを地獄へと引きずり込んだひと。
それでも、この世でたった1人の父親。
出来れば正気に戻って、立ち直って、国王という責務を生涯背負って生きて欲しかった。
その願いは叶わないのだろうか。
「ああ、愛してるよアリー。今度こそ、永遠にひとつになろう」
と、私に縋り付く父。
その時レオは、ギュッと握りしめていた拳を開いて、手のひらをふーっと吹いた。
すると、無数の妖精たちが風に乗って舞い現れた。
妖精たちはうふふ、クスクスと笑いながら父を覆うと、それは影となり、母の姿へと変えた。
『アナタ』
バルコニーの外へと1歩あゆみ、宙に浮く母の幻影。微笑みながら、父に向かって手を伸ばす。
父はフラフラと、恍惚の表情で母へと両手をのばす。
『アナタ、キテ』
「あぁ、行くよ。まって、アリー。あぁ、アリー!」
と、手摺を越えてバランスを崩す父。
その瞬間、義母が飛び出し父に飛びついた。
「アナタ!私をおいていかないで!」
そして2人は、バルコニーから姿を消した。
悲鳴をあげるエディ。
バルコニーに飛び出すへルムフリート。
「そんな……こんな高所から落ちたら……」
「……」
「母上!父上!」
「そんな簡単に逃がすかよ。俺はまだ殴ってねぇ」
「え?」
「やられたら2倍にして返さないと気が済まねぇんだよ。俺のパティをこんなにしやがって」
と、レオは叩かれた私の頬を優しく撫でた。
「それに、パティにとっては父親だから、死んで欲しくはなかったろ?」
そういうと、窓の外にグリフォンが見えた。
その背中には父と義母を乗せて。
2人は気絶していたけれど、しっかりと手を握りあっていた。
あんな扱いを受けて、心を失っても、義母は父を愛していたのだ。
……ご都合主義かなぁ…。




