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彼はテイマー

「パティ!パティ!!」

「お姉様!!」

「姉上!」


 ゆさゆさと揺さぶられる感覚に目を開けると、そこにはレオが居た。


「〜……」

「無理に喋らなくていい!あぁ、クソッ」


 と、レオは泣いていた。その隣には、エディとへルムフリートがいて、やはり大泣きしていた。


「酷すぎますわ。なんてことを……。」

「脱水症状ってやつ起こしてる。なんか飲み物を」

「大至急飲み物を用意させます!」

「出来れば紅茶よりも白湯やポスカがよいですわ!」

「白湯に塩入れて持ってこい!」

「はい!!」


 みんなが、何かを言っている。

 それを聞き取れない。

 あぁ、レオの顔だ。随分グズグズに濡れてるけど、相変わらずかっこいいな。

 最後にもう一度、会えてよかったな。

 と、顔が緩む。

 あのね、レオ。私は一生誰とも恋愛なんてしないと思ってたけど、あなたのことをこんなにも大好きになってたよ。

 私と出逢ってくれてありがとう。

 瞼が重いの。もう揺さぶらないで。

 もう、意識が落ちるから……。


 レオに握られた手が、スルリと落ちる。


 その手をレオは落下する前に掴み、もう一度強く握った。


「ダメだ。俺を置いていくな。死ぬなんて許さねぇ!」

「そうですわ!私も許しませんことよ!」

「兄上様!飲み物を!」

「あぁ!」


 レオは飲み物を受け取ると、私の口に流しこもうとした。


「ダメですわ!そのままじゃ気管に入ってしまいます!」

「くそっ!」


 というと、ガブッと1口含んで、口移しで私に飲ませた。


「よし。いいぞ。もう一口。ほら、パティ!」


 レオが、遠くから呼んでる。でもごめんね。返事を返すことが出来ないの。

 全身がヒリヒリ痛くて、からだが、動かないの。

 だから、もう、私のために何かしなくても良いのよ。

 と、私は私を放棄しようとしていた。


「ダメだ、ダメだよパティ。もし俺を置いて行こうとするなら、俺はアンタを全力で」


 ワナワナと震えた振動が伝わってくる。

 抱きしめるチカラが強くて、熱い。


「パティ、好きだ。愛してる。だから、俺を置いて死ぬとかいうのなら 『ブッコロス』!!!」


 その瞬間、カッと瞳が開いた。

 不規則に動いていた心臓が、力強くドクンドクンと脈打ち、全身が硬直して痺れた。


「ぁ……ぁあ……!」

「パティ!」

「……レオ」

「あぁ、パティ!!!」


 と、めいっぱい抱きしめられた。

 恋のチカラって凄いんだな。なんの感覚もなかったのに、その一言で、体にチカラが戻ってくる。

 レオの頬に手をあてた。暖かい。


「あのね、レオ……」

「……ん。」

「私も、レオの事が好き。愛してる」

「……!」


 ぐしゃぐしゃになっていたレオは、眉根に大きなシワをつくり、頬を染めて甘く切なく苦しそうな顔をした。

 そんなレオを私も抱きしめ返すと、レオは私に深く深く唇を重ね続けたた。


「兄上様……!」


 へルムフリートは、手に持っていたお盆を落とし、真っ赤になってプルプルと膝を震わせていたのも私は見落とさなかったけど、気が付かないフリをした。




 意識がハッキリするまで、そう時間はかからなかった。

 やっと束縛から開放された手足は、筋肉が硬直していて動かしづらかった。

 父と母のベッド脇に腰掛けると、レオが『ベッドって背もたれないじゃん』と言って私の真後ろに座り、まるでバックハグするかのように、背もたれ役となり、カップを持つ手を支えてくれた、。

 エディとへルムフリートは近くにあった椅子を持ってきて、4人で膝を付き合わせながら話を始めた。

 

「由々しき事態ですわ……。」

「姉上、アザを冷やしましょう。」

「ありがとう。派手にやられたからね。そんなに酷いアザになってる?」

「……くんくん。ぷはー。」


 いや、全然話し合いになってないわコレ。


「ちょっとアナタ!お姉様がこんな時に何をなさっているのです!」

「いや、頭にきすぎてて、冷静になるためにパティ成分吸収してた。これが両思いの香りか〜。って幸せ堪能してる」

「兄上は、独特な感性をお持ちですね」

「バカじゃないですの!お姉様がこんにボロボロにされているのに、幸せ感じてるとか、バカじゃありませんこと!?」

「まぁまぁ、私は大丈夫だから、落ち着いてエディ」

「あーーー……。パティの汗臭い香り〜。パティの髪の毛〜」

「あ、あの、僕はお2人を見ていてもいいのでしょうか」

「目を隠してらっしゃい!レオンさん!あなた何時までちゅっちゅかちゅっちゅかしてるの!」

「うっせ。俺は今マーキング中なの!」

「うん、レオ、今は違うかな〜。せめて人前ではやめようね〜」

「……人の目が無いとこでこんなことしてたら、俺止まらなくなるけど……」

「キーーっ!!ちょっと一発殴りたいってこういうことですのねー!!!」

「あ、あのエディ姉様、あまり大きな声を出されると、外にバレてしまいます」

「クッソ。パティ〜。好きすぎてもう爆発しそう、俺」

「うんうん。レオは変なとこ触るのやめようね」


 まぁ、なんだかんだみんな元気で安心したわ。


「よし!チャージ完了!」

「それじゃあ、今後のことを相談しましょう」

「お姉様に、知能が戻ってきましたわ……!」

「心の栄養は補給できるんですね。勉強になります」

「私の話からいいかしら。多分みんな察していると思うのだけれど、コレは父の仕業よ。父はもう、正気を無くされているわ」

「薄々感じていました」

「父をどうにか正気に戻すか、世代交代をした方がいいと思う。へルムフリート。幼いあなたには、苦労をかけてしまうけれど……」

「僕が、王位を継ぐということですね。姉上はどうするのですか?」

「私は……。この国の唯一の懸念である北西国との同盟の橋渡しになるわ」

「「えっ!」」

「今はこの国に、妊娠ラッシュがきてるから、あと15年、なんとか頑張って欲しいの。そうすれば元通りの国力まで回復できるから、北西国なんて目じゃないわ」

「お姉様が王位を継ぐのではダメですの?」

「そうすると、北西国との戦争は避けられないわ。今の弱体化したこの国で、戦闘民族の北西国と戦争になったら痛手だわ」

「……」

「それに、私が王位を継ぐとなると、また王配を決めるために貴族同士で揉め事が起きるでしょう。内戦なんて起きたらたまらない」

「王配は、その男ではダメですの?」

「俺?」

「エディ。レオが王配で納得してくれる?」

「……3万歩譲れば。」

「へルムフリートに譲った方が利点が多いわよね?」

「……おっしゃる通りですわ……ですがお姉様、やはりその男を王配にしてお姉様が王位を継がれても、利点がありますわ」

「エディ。その話を詳しく聞かせて貰える?」

「はい。お姉様がその男を手懐けている間は、我が国は大きな戦力を手に入れることになりますわ。その男の能力で、北西国と堂々と渡り合えます。なんなら北西国と戦争しても勝てると思います。それにお姉様には国を治める実践経験が、ヘルムフリートより長いでしょう?」

「エディはレオを大きくかってくれるのね。嬉しいわ。でも、15歳の少年に、戦争をさせるのは間違ってるわ。彼1人にその責任を負わせることになるのは、私の望みではないの。レオには好きなことをして、のびのび生きて欲しいのよ」

「……俺は、パティの為ならイイけど」

「レオ、メッ!」

「兄上はほっといても殴り込みに行きそうに見えます」

「それでもダメ。私は彼の身元引受人として、それを許可しません」


私が断固としてレオを『戦力』として認めなかったのを、3人は渋々承知してくれた。


「それと、義母様も、お救いしたいの。あなた達が辛い思いをしたのも、多分それが原因だから」

「母様が?」

「そう。お父様は、お母様を愛しすぎて、お義母様を蔑ろにし続け、お母様はお心を無くしてしまわれたのだわ」

「母上も……。それで僕には目も向けてくれなかったのでしょうか」

「そうよ。あなたを愛したくても、愛せる心を無くしていたのよ」

「……母上……」

「それともうひとつ。父は、深い愛情故に私の母を……」

「「……!」」

「禁止法が出来て厳しく取り締まるようになったのは、ちょうどその直後だから、間違いないわ」

「……納得ですわ。逆に、それまで取り締まりがなかったことにも納得ですわ」

「そして、私は母と同じ歳になった。母の生き写しのような私を見て、完全に壊れたのだわ……」

「お父様……」

「そんな人に、国を任せてはおけない」

「……。姉上の判断は正しいと思います」

「では、話は決まったわね」

「「はい!」」

「お?難しい話は終わったか?」

「ふふ。うん。終わったわ」

「オーケー。そんじゃ、ちょいと親父さんぶん殴って来るわ」

「は?」

「そいで、北西国もついでにぶっ潰してくるから待ってろ」

「ちょっとレオ!私たちの話を聞いてた?」

「聞いてたよ。パティが他の男の嫁になるなんて、認める訳ないだろ?こう見えても腸煮えくり返るくらい怒ってるんだぜ」

「脳筋もここまでくると、いっそ清々しいですわね……。よろしくてよ!やっておしまいなさい!」

「おぅよ。北西国のクソジジイはぶちのめす。で、後継者がいたら、そいつは下僕にする。で、国ごと支配国にする。拒否るようなら国ごと滅ぼしてやる。」

「レオ、不穏すぎるわ!」

「さすが兄上です!」

「へルムフリート!短絡思考に傾かないで!そんな無茶なこと、出来るわけがないわ」

「いえお姉様、レオンさんは、恐らくそれが出来ましてよ」

「おぅ。有言実行だぜ!」

「まさか。どうやって?」

「お姉様、彼は恐らく『テイマー』ですわ。それも、生き物全ての」

「テイマーですって?あの生き物と契約を結んで使役する?」

「……はっ。だから兄上の言葉は心に響くのですね!」

「人類まで!?」

「そのようですわ。彼は言葉の壁を超えて意思疎通が出来るのです。そして、命令を下して意のままに操れる、超上級のテイマーなのでしょう」


 思い当たることは多々あった。

魔獣たちに自然と慕われること。

 どう見ても会話してること。

『ブッコロス』という最上級の愛の言葉が、言霊となって相手を強く破壊すること。


 それじゃあ、それじゃあ私の気持ちは?

 レオに支配されて、作られた偽物の感情なの?

終わり方が不穏だ……。


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感想なんて頂けたら喜び上がって喜びます。

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