花嫁は人柱
「ふわぁあーあ」
研究所の草っ原に大の字に寝転がる。
あーー……。空っ広いなーって、ぼーーっと考える。
やっぱりパティが居ないと、何にもすることなくてつまんねぇなぁ……。
早く会いたいなーーー。
弟くんと空の旅を思いっきり楽しんだ。
『兄様!』なんて俺の事呼ぶもんだから、調子にのって遠出しちゃったのは俺が悪い。
空の旅から戻りパティの部屋にいくと、そこでは親父さんが待ち構えていた。
誰彼構わず噛み付いてきた俺だけど、この人にはなんか噛み付けねぇ。パティを初めて見た時と同じような間隔がする。いや、なんちゅーか、男がオトコに惚れるっちゅーか、違ぇな、なんだろこの間隔。
親父さんは一緒にいた弟くんのへルムフリートには目もくれず、人のいい笑顔を浮かべていた。
「やぁ、おかえりれおん君。おかげでパティと久しぶりの会話が出来たよ。だがね、うっかり呑ませ過ぎてしまってだね。もう寝てしまったんだ」
とか言うから
「あ、じゃあ俺迎えに行くッス」
「おいおいれおん君。まさか、未婚の娘と同室で寝るつもりじゃないだろうね。父親としてそれは許さんなぁ」
とギロリと睨まれた。
流石の俺でも、パティの父親にケンカを売るつもりはねぇ。
それに『未婚の娘』なんて言われたらそりゃ確かにって納得したし。
明日んなりゃ会えるだろと気軽に構えていたら
「それで、パティはもう少しこちらに留まる事にしたから、悪いのだが君は早朝に下城してもらえるかな?」
「俺1人ッスか?」
「ああ。君は酒はイケルクチかい?」
「いや、俺はまだ呑めねぇッス」
「そうか。それじゃ想像しずらいかもしれないね。パティは酒に弱い癖に沢山呑んでしまったからね、明日は二日酔いに襲われて起きれないと思うんだ。君が一緒だと、空を飛んで帰るのだろ?酷い頭痛の中、可哀想だと思わないか?」
「そうッスか。わかりました。じゃあ、俺は明日の早朝先に帰宅します。パティをよろしくお願いします」
「ふむ。キミに言われるまでもないよ。可愛い娘のことだからね」
「はは、そうッスね」
と、翌朝早朝に、ホントにひとりで追い出された。
とはいえ親子水入らずっつーのも悪いもんじゃないんだろうなーと、俺は1人グリちゃんの背中に乗って帰宅した。
急に護衛対象を失った護衛兵たちは、それを聞くと一瞬ザワついた。
俺はすぐ帰ってくると思っていたから気軽なもんだけど、護衛兵たちは、王宮に確認をとるまで待機って、研究所の片隅で訓練を始めた。
それから3日。もう3日会ってない。
よく考えりゃ、ここから王宮まで馬車で3日かかるって話だから、今日あたりパティが帰ってくるのかな。だったらグリちゃんで迎えに行けばよかったと今更だけど気がついた。
俺は俺の毎日の日課をこなし、気分転換にと、今日の晩飯の食材を買うのと、久しぶりにいつものお食事処のおっちゃんの店で昼飯を食うことにした。
グリちゃんにつれてって貰えば、5分もかからないけど、一応上空からパティの馬車が帰ってきてないか確認した。全然近くまで帰ってきてる気配はなかった。
(こりゃきっと夕方になるなぁ)
と、諦めておっちゃんの食事処に向かった。
「おっちゃーん、席空いてる?」
「おぉ、レオ久しぶりだな。今この席片付けるからちょっと待ってろ」
「ありがとう、腹ペコペコだよ。今日のオススメ頼む〜」
「あいよ!トビキリ美味いの作ってやるよ!」
「おっちゃんにパティより美味い飯作れるのかよ」
「お。こいつ言うねぇ。もっともパティちゃんの料理を美味いって言うのもお前だけだけどね」
「みんな味覚オカシイよな」
「……。ほれ、いいから食え」
「いただきまーす!」
出てきたのは、この店で最初に食ったスープ、しょうが焼きみたいなやつ、煮込みっぽいやつがそれぞれ2人前だった。
「あれ?今日はパティちゃんは?」
「んー。ちょっとね」
「そうか……。今大変なことになってるもんなぁ」
「おっちゃん!なんか知ってるのかよ!?」
慌てて立ち上がり、おっちゃんの胸倉を掴んだ。
「落ち着けレオ!胸倉を掴むな苦しいわ!!」
「ご、ごめん!」
と、パッと手を離して両手のひらを見せて、『敵意無し』の意思表示をした。
「おっちゃん、頼む、なにか知ってることがあるなら教えてくれよ!」
「そんな必死な顔で頼まれても、町の飯屋のオヤジには噂話程度しか知らないけどな。隣国がイチャモンつけてきて、どうやら戦争になりそうだとか」
「あぁ、それは俺も知ってる。パティはそのせいで毎日奮闘してた。でもそれとパティが、どんな関係があるんだよ」
「なんだ、レオ知らないのか?」
「んー、パティがお姫さんだったつー話ならこの間知った」
「そうか」
「この町での暗黙の了解と言うか、みんな知ってることだから、悪く思わないでくれ」
「了解」
「それじゃ、これも知ってるか?北西国が、パティちゃんの研究所にイチャモンつけてきていて、取り壊すか、さもなきゃパティちゃんを嫁に寄越せって言ってきてるらしいぞ」
「……は?」
「そんな要求、マクスウェル王国がのむわけないのに、北西国は何を考えてるんだかな」
「……」
「お、おい、レオ、どうした?」
「……わりぃおっちゃん、俺用事思い出したから帰るわ」
「お、おう、またな、レオ」
俺は、静かに店から出ると、怒りのままにその辺のモノに八つ当たりした。
妹ちゃんのとこで、パティの様子が変だったのは、ひとりで城に帰ろうとしてたのは、そう言う事だったのかよ。だから、俺と『両思いなんて言ってない』って否定したのかよ、と、まだ見たこともねぇ北西国のオーサマーに、激しい殺意を抱いた。
この時の俺は、今の本当の敵は北西国王じゃないなんて思いもしなかった。