冤罪ですわ!
「へルムフリート?あなた顔色が悪いわ」
「ごごご、ごめんなさい。僕、僕……!」
「おい、落ち着け。ここには妹ちゃん居ねぇから!」
呼吸困難をおこしかけ、青ざめた表情のへルムフリートは、ハッと我に返った。
「そうですよね、僕、何を勘違いして」
と、苦しそうに笑った。
「へルムフリート。あなた、何か言いたいことがあるのね?」
「……」
「大丈夫よ。決して怒らないと誓うから、何を言いたいのか教えてちょうだい」
「おう。他言無用だぜ」
「……はい。はい……!」
「その……、僕が生まれてきて、ごめんなさい」
と、へルムフリートはポロポロと涙を流し始めた。
「僕が生まれさえしなければ、お姉様が出ていくことはなかったって、だから僕、いらない子だったって……だから、僕、ごめんなさい。生まれてきて……」
唖然とした。
まさかエディが幼いへルムフリートをここまで追い込むほど嫌っていたとは。
私も、レオも、言葉が出なかった。
だから、へルムフリートは、更に大粒の涙を零してボロボロと泣いた。
「ごめんなさい、お姉様、ごめんなさい。僕、もう消えるから、だからどうかお姉様は王宮にお戻りください!」
と、悲痛な悲鳴をあげた。
その時、レオが机を蹴り飛ばした。
「おい、弟ちゃんよ。それをパティが望んでると思うのかよ」
と、へルムフリートの顔を覗き込んだ。
「だって、僕……」
「だってじゃねぇ。お前はどう思ってんだよ。あぁ?」
「ひっ」
「テメェの姉ちゃんに怒られた位で、せっかく男としてこの世に生を受けたんだろ。見返してやるくらい思わねぇのかよ!」
「だ、だって……」
「だってもかってもあるかよ。お前にもチンチンついてるんだろ!男がそんな簡単に泣くんじゃねぇ!!!」
レオの怒鳴り声は、ビリビリと部屋中に響いた。
その声は、へルムフリートの心に、確かに届いたように見えた。
「いいか、弟ちゃん。パティはな、『この世に私が私として生まれたから、国民を守る義務がある』なんてかっこいい心意気を持って毎日暮らしているんだわ。それが、お前はどうよ?毎日シクシクベソかいて、『生まれなきゃよかったー』っつってるのか?お前、将来王様になるんだろ?なら親父さんのように堂々としてろよ!パティみたいに、『我が愛する国民』って言ってみろ!外の世界を見やがれ!!」
「外の……世界……」
「あぁそうだ。この城がどんなに広くても、ここは世界の1部だろ。もっとデカイ世界を見てみろよ。そしたらお前が生まれた理由も、おまえの『存在意義』ってやつも見えてくらぁ!」
「……僕に、見えるでしょうか?」
「見えねぇなら、俺が目を開いてやるよ」
「……ありがとう、ございます!」
「いいか、今度からねーちゃんになんか言われたくらいでピーピー泣くんじゃねぇぞ?」
「はい!」
「堂々と胸張って生きろや。俺みてぇな底辺の人間だって、頑張って生きてるんだからよ」
「はい!いえ!お兄様は底辺なんかじゃありません。」
「バッカ。俺は本当に底辺なんだよ。な、パティ」
と、苦々しく笑いながら私の方をみた。
「レオは、底辺なんかじゃないと思う。だって今、私の弟に、救いを与えたのだから」
「ほら!お兄様!」
「えぇ〜。パティには俺の生い立ちを話したじゃんか」
「うん、知ってる。過去の生活がどうであれ、一生懸命生きてきた人は、底辺なんかじゃないと思う」
「ハッ。そうかよ。俺の努力を認めてくれてどーも」
と、バツが悪そうな顔をした。
「そんじゃ、早速だけど弟ちゃん、空の旅に行ってみようぜ。男同士の話、してやる」
「はい!」
「えぇ?結局今から行くの?せめて厚着してってね。上空は驚くほど寒いから」
「おぅ!じゃ、いってくらぁ」
レオとへルムフリートは、窓からグリフォンを呼んで、背中に飛び乗り、大空へと舞い上がった。それを渋々見送った。
それにしても。
エディは4年も前に降嫁して王宮を出て以来、ほとんど王宮に戻っていないはずだ。それなのにへルムフリートのあの怯えようは、尋常ではないと、少し引っかかるものを感じた。