3人兄妹とひとりっ子
王宮に手紙を出してから1週間。
彼と初めて出会ってから、1ヶ月が経つ頃、王宮から早馬で返事がきた。
返事の内容は、軍事練習と戦争を起こしかねない行為に正式に抗議すること。
情勢が落ち着くまで王宮に戻ってきて欲しいこと。
侵略が行われる可能性があるので、この土地の領主へも使者を派遣して警戒態勢をとること。
その他周辺近隣国民への対応は、あちらの返事を待ってから決めるなどが記載されていた。
それから少し遅れて、私専用の馬車と、正式な護衛が10数人派遣されてきた。 王宮に戻るまでの護衛だ。彼らはそれぞれ私に挨拶をすると、研究所の敷地内に野営地をかまえた。
「うわ、なんだよモノモノしい」
レオは門の中まで入ってきた馬車と護衛兵をみてそう呟いた。
「パティ、コレどういうこと?」
そう、レオはまだ、私がこの国の第1王女だと言うことを知らない。
出来れば知られないままでいたかった。
「うん、どういうことだろうね」
「イヤイヤ、アンタが知らないわけないっしょ?」
「うん。実は知ってる」
「何?言いづらいこと?」
「……」
「あーあー、わかったわかった。言いたくないなら俺も聞かん。だからそんな顔しないで欲しーんだわ」
「うん。ありがと」
「はあぁ……。ダメだぁ。素直なパティカワイイ。俺の庇護欲メッチャ煽ってくる」
「は?」
「あー、もうなんでもないですー。ほんじゃ俺はいつもの仕事に戻りますー」
と、ちょっとむくれていた。
「レオ、一つだけ聞いて欲しいの」
と言えば、ピンと背筋を伸ばして、嬉しそうに駆け戻ってきた。
「あのね、私は所長の他にも肩書きを持っていて、それを最大限に活かすために、この馬車でアチコチ行くとこになると思うの」
「そうか……」
「うん。でもね、必ずココに、レオの場所に戻ってくるから。だから安心して待っていて」
「そんなことゆーかね」
「言うよ!大事な事だから」
「あっそ。じゃあ、俺の居るココがあんたの居場所ってことだな?」
「そう!まさに私が言いたかったのはそう言うこと!」
「おーけー。パティの旦那ポジション、有難く頂戴するわ」
「旦那って。もー、また軽々しくそういうことを言うし」
「軽々しくないんだけどね。俺の惚れた女がクソほど鈍感なせいで、ガンガン攻めても通じないから、俺はいつでも空回りなんよ」
「そうなんだ。レオモテるのに、恋愛苦労してるんだ。大変だね?」
「うん。苦労してんの。だから、早く気付けよ鈍感所長」
「所長が鈍感でどうするのよ」
「はいはい。鈍感がドッカーンってね」
「……?まさかの親父ギャグ……?」
「……」
「……」
「……んじゃ俺は、いつも通りの作業に戻るわ。んで、散歩しながらついでにあっちの状況も覗いとく」
「うん、くれぐれも気をつけて。レオに何かあったら、私……」
「はいはい。そーゆーふーに可愛く煽るのホントやめて。もー、いっぱいいっぱいだから」
「煽ってないし、心配してるの!」
「それが煽ってるんだっつーの。そうじゃなくても手の届く距離、1つ屋根の下に若い男女がいる危険性は、護衛さんのが理解してそうだけどな」
「なんのこと?」
「あー、伝わらない伝わらない。へいへい。俺も気をつけるから、パティも気を付けてな。くれぐれも、浮気だけはするなよハニー」
と、後ろをむいたまま手をヒラヒラとさせて、スタスタと歩いて行った。
まったくなんなんだもう。
最近のレオは、両極端なのだ。
気がつけば、食われんばかりに熱い視線で見つめてきたり、一方で視界にすら入れないように丸々無視してきたり。
私の何が悪いのか。
聞いてもはぐらかされたり茶化されたり。
でも、緊迫した空気の中、そのおちゃらけた空気が和ませてくれて、嬉しかったりもする。
レオは本当に不思議な存在だ。
よし、レオとの会話で元気が出たぞ!まずは領主と王宮の使者との立ち会いだ。
それと、王宮にはまだ戻らないと手紙を書いて、抵抗するための傭兵と、それから王国からも兵士の要請と、近隣の国民の避難の受け入れ先の確保……。やることはいっぱいだ。頑張ろう!
と、その時、護衛兵の1人が声を掛けてきた。
「あの、姫。あの御仁とは、いつもあのように甘い会話を?彼とはそう言ったご関係なのですか?」
と。
夕刻。長いこと馬車に揺られて疲れて帰宅した私を、慌ててレオが抱きとめた。
「おかえりパティ。お疲れ様」
「ただいま、レオ。疲れたぁ」
「さ、飯作っといたから、早く食って寝ようぜ」
「うん。でもその、ひとりで歩けるよ」
「ちっ。そうかよ」
と、お姫様抱っこされかけてたので慌てておりる。
周りで見ていた護衛兵も、目をそらしたり、ニヤニヤしたりと様々だ。
恥ずかしい……。
それにしても、レオは包丁さばきから料理まで、上手くなったもんだなと関心する。作ってくれたのは、スープに肉料理に、保存してあるパンだけど、レオ曰く
「疲れた時には肉!コレ一択だろ!」
との事だ。
せっかく作ってくれた料理だ。出来れば全部食べたかった。が、たいして空いてない胃袋には半分も収納スペースがなかった。
それでも、やっと出来た2人の大切な時間だ。
いつまでも会話は止まらない。
「散歩時には隣国の情勢には気をつけて見てたんだけどよ、軍事練習どころかなんの動きもなく静かなものだったべ」
「そか。それなら良かった」
「あぁでも、四六時中見張ってる訳じゃねぇからさ、参考程度にしといて。下手に油断するわけにゃいかねぇよな」
「うん。わかった」
「それからさ、モグちゃんがもっと穴掘りたいって言ってたけど、なんか穴掘って欲しい所ある?」
「うーん、私は参謀長官とかじゃないから思いつかないかな」
「そうだよな。じゃあ、偉い人に会ったら、モグちゃんの出番を作って欲しいって言えるといいなぁ」
「わかった」
「そういやさ、今日肉を買うために町に降りたんだけどさ。なんかやたら妊婦が増えてるらしいぜ。みんなすげぇな」
胸が、チクっと痛んだ。
私は、その妊娠ラッシュに、レオが関わっているということを知っている。
逆に何故軽々しくそんなことを言うのか。産まれてきたら、みんな父親そっくりだったらビックリだろう。
「なんだよ?俺の顔になんかついてる?」
「うん。目と鼻がついてるかな」
「ぷっ。なんだそれ。じゃあ、どんな目の形してるか、よーくみてくれよ」
って、顔を近づけてきた。長いまつ毛も、瞳も真っ黒だ。
初めて会った時は、眼光鋭い目つきだったのに、今や切れ長のタレ目は、トロンと甘く私を見つめていた。その瞳に、私だけを映して。
「うん、整った顔立ちでいらっしゃいますね」
「俺の顔が整ってる?そりゃパティのことだろ。この美女が」
「はいはい。レオの眉毛って黒いんだね。瞳の色と同じだ」
「あー。眉は脱色してねぇから」
「脱色?そういえば、髪の毛の生え際は黒いね」
「あんま鏡見てないから気が付かなかったわ。マジか。もうプリン頭になっちまったか」
と、レオは髪の毛をワシャワシャとした。
「なぁ、パティ。俺の髪の毛って、本当は黒毛なの。アンタの好みって、金髪?黒毛?それとも他の色?」
「え、急に聞かれても」
「教えてよパティ。俺、アンタの好みの男に近づきたいんだよ」
「私の好み?」
「ほら。そーやってすぐ笑って誤魔化す。本当は俺のキモチ、知ってておちょくってたりしねぇ?」
「レオの気持ち?私のことを家族のように大切に思ってくれてるんでしょ?」
「正解!」
「それが姉とかなら良いんだけど。お母さんとかだとちょっと嫌だなぁ」
レオはガクッと倒れた。
「なんで姉や母親なんだっちゅーの」
「それ以外に何かある?」
「……あるよ」
ボソリと呟くレオ。私はそれを丸々無視した。
「姉、なんだよね、私」
「いやだから、俺はパティを姉とは思ってねぇっちゅーの」
「うん、それは分かったけど、そうじゃなくって。本当に妹と、弟がいるんだ」
「……へぇ。初耳」
「うん、家族の話、そういえば初めてだね」
「確かに」
「レオは?兄弟は?」
「俺は……。多分一人っ子」
「多分なんだ?」
「そう。俺、父親の顔知らねーから」
「そうなんだ」
「うん。こっちに来る前には、もう既にばーちゃんと二人暮しだったしな」
「お祖母様と?」
「あぁ。俺が小さい頃はさ、コレでも母親と一緒に住んでたんだ。面倒なんて一つも見てくれてなかったって、今の俺から見ればそう思う」
「……」
「そんでさ、『自称父親』つーのは、指の数以上いるワケだ。これが」
「お父様がいっぱい……」
「あぁ、ごめん、こんな話つまらねぇよな」
と、レオは自分を嘲笑うかのような寂しい笑顔をした。
「そんな事ないよ。レオの事、知ることが出来て嬉しい」
「そか……」
レオの泣きそうな笑顔に、いてもたってもいられなくて、思わずギュッと抱きしめた。
いつものレオなら、『バカ、やめろ』とか『俺も色々限界なの!』とか言って突き放すくせに、今日は大人しく私に身を預けるようにすりよってきた。
「ねぇ、レオ。もっと聞かせて」
「ん……。パティが聞きたいのなら」
「うん。聞きたい」
それから、レオはポツリポツリと話始めた。
お爺様は、既に他界なされていること。そのお爺様とお祖母様は大恋愛で結ばれたこと。若くして産んだ母親は、奔放な方で、たくさんの恋愛をされたこと。そんな母親に愛されたいと頑張ってきたこと。いつでも空腹で、学校での給食が空腹を満たす唯一のものだったこと。
頑張って、頑張ったけど、振り向いて貰えなくて、お祖母様に引き取られたこと。とても大切に育ててくれたけど、お祖母様は、レオにお爺様の面影を求められていたことに気が付いてしまったこと。
少しグレて、元の世界では無敵と呼ばれるほど喧嘩してきたこと。
……誰にも愛されなかったこと。
たった15年しか生きていない彼の人生は、なんて辛いものだったのだろうと、気がつけば私の方が泣いていた。涙が、とめどなく溢れて次から次へと流れていった。
「パティ?なんでパティが泣くのさ」
「だって、レオが……」
「俺が?お可哀想ってか?」
「そんな言い方しないでよ」
「……ごめん」
「わたしだって、涙が勝手に出ちゃうんだもん。止まらないんだよ」
「そか」
「辛いのは、レオなのに。レオが辛かったのに。私がこんなでごめんね」
「ん」
「うぅっ。レオ、私はレオのこと、大切にするからね」
「……うん。もう充分大切にしてもらってる」
「私はレオの事、大好きだよ」
「……そか。俺もパティのコト、大好きだよ。多分、アンタの『好き』とは違う意味で」
「え?」
「だからさ、利用出来るものは全部利用させてもらうから」
「うんうん。利用していいよ。私を踏み台にして幸せになって」
「……そうじゃないんだけど」
「?」
「落ちて欲しいんだよ。恋に」
そういうと、レオは私の胸に埋めていた顔をこちらに向けて、私の涙を舐めとった。
そして、私の後ろに手を回し、そのままお姫様抱っこをして私の部屋のベットにドスンと落とした。なるほど、これが落ちる感覚か。
「ねぇパティ。俺、母親の愛情を知らない、可哀想な男じゃん?」
「……うん……」
「だから、『添い寝』ってやつに憧れがあるんだけど。可哀想な俺に添い寝してくれない?」
と、甘える仕草を見せた。
そか、レオはお母様と一緒に寝たかったんだね。そんなことでいいなら、喜んでするよ!
「添い寝?もちろんいいよ!おいでおいで」
とレオをベットに招き入れる。
「……(チョロすぎて不安すぎんだろ)」
「え?なにか言った?」
「同情からでいいからさ。俺に心も体も許してくれ」
「え?なに?」
「なんでもねぇ」
と言いながら、レオは私の横に潜り込み、また顔をグリグリと胸に押し当てた。
「ふふ。レオ、くすぐったいってば」
「こんな時に笑うとか、反則」
「反則ってなによ。レオがくすぐったいことするからでしょ」
「はいはい。俺はパティの泣き顔とかもう限界だったから、笑顔が見られて嬉しいよ」
「嬉しいんだ?」
と、いいながらまたレオの頭をぎゅっと抱きしめる。きっと、母親の暖かさを求めているのだと思ったから。
「うぉ。パティやわらけぇ。ってか天国か」
「天国って。ここはマクスウェル王国の最北西端の僻地よ」
「いや、間違いなく天国」
と、レオも私をギュッと抱きしめてきた。
「なんかさ、泣くらしいんだよ」
「えっ。誰が?」
「誰がっつうか、その、やる時?」
「殺される時は泣くだろうねぇ」
「殺さねぇよ!ヤル違い」
「やる、やる……」
「まぁいいや。だから、初めての時、なんでか知らんけど、女は泣くらしいんだよな」
「ふーん?」
「大人なパティさんはとっくに経験済みだろうから、泣かないんだろうなって毎回妄想したけど。でもさ、さっきの泣き顔見てて、俺おかしくなりそうで」
「やだな、笑っちゃうほど不細工な顔してた?」
「……」
「え、そんなに?!やだ、恥ずかしい」
「……逆。メッチャ綺麗だったよ」
「綺麗?」
「俺の為に流れる女神の涙。ちょっとしょっぱくて美味かった」
「め、女神?」
「うん。手の届く俺の月の女神。俺の太陽」
「さっきから、レオは大袈裟すぎ」
「なぁ、俺手、繋ぎたい」
「うん、いいよ。はい」
「うん……」
ギュッと繋がれた手をレオは自分の顔に引き寄せ、キスをした。
「ふふ。そんな紳士の挨拶、どこで覚えたの?」
「紳士?」
「ええそうよ。貴族男性はそうやって手の指や甲にキスするの」
「へぇ。そうなんだ。ふーん」
「ちょっと、痛いっ」
「他の男にキスされたバツです」
と、レオは私の脇腹を思いっきりつねった。
「バツもなにも、そういうものなんだってば」
「ふーーーーーん。じゃあ、そういうもんつーことで、俺はもう少しこの柔らかさを堪能しとくわ」
と、胸の谷間で顔をブルブルと震わせた。
「や、やめて!くすぐったいよぉ」
「やめませーん!」
と、繋いでいない方の手で、背中をサワサワとしてくる。
「ひゃっ。れ、レオ!やめて本当にくすぐったいの!アハハ!」
「あー、何その反応。絆されるわー」
「絆されたのなら良かったけど、くすぐった、アハハ」
「うん。俺たちはまだこれくらいの関係でいいよな」
「これくらいの関係って?」
「うっせ。察しろ」
「いつもそれ」
「あー、じゃあさ、俺がパティに母親を求めてるとしたら、母乳飲ませてくれる?」
「母乳?いいけど出るかな?」
「ばっ!やめろ!ポロリとか出すな!見えた!見ちゃった!!見えちゃった!!!またオカズが増えちゃっただろバカ!!パティのバカ!バカ!!痴女!!!」
「レオが言ったから〜」
「俺が言ったらなんでもするのかよ!?」
「今日はレオの為に何でもしてあげたい気分なの!」
「そもそも、俺はパティに『母親』なんて求めてねぇからな!?」
「私じゃやっぱりお母様替わりにならなかった……」
「あぁもう、しゅんとすんな!」
「……ん。じゃあ、私で出来ることなら何でも言ってね?」
「っ!そーかよ!じゃあ俺はこのまま寝る!いいか、パティは絶対動くなよ!おやすみ!」
「えぇー?寝返りまでは責任持てないよ?」
「なんでもいいよ!俺がアンタを離さないから!一生!」
「またそんな大袈裟な……」
「うっせ!ベタ惚れなんだから仕方が無いだろバカ!早く気がつけ!俺の気持ちを理解してくれ。この生殺し女。童貞殺しパティ!」
「どーゆーこ」
「早く寝ろ!」
「えぇ〜」
「俺に襲われる前に、寝ろ!!!」
「はぁい」
「はぁ。もー頭おかしくなる……」
「え?今なんて?」
「寝ろ!!!」
「はぁい」
そして、疲れていた私は結局すやすやと眠りについたのだが、レオは私が眠ると同時にむくりと起きて、食べっぱなしだった食器を片付けてくれたようだ。
翌朝起きた時には、同じように片手で手を繋ぎ、抱きしめ合いながら同じ布団で目を覚ました私は、深い眠りについていた間にされた、2度目のキスは濃厚だったことなど全く知らなかったのだ。
お読み頂きありがとうございます。
R15とはいえ、これは許されるのか、許されないのか!?と、ドキドキしながら書いてます。
短編だった時は、こんなに接触がなかったのに、何故こんなに危ういのかとハラハラハラハラしてます。
あと、時々出る寒い親父ギャグは、私のせいじゃないと言いたい……。
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