国家間の戦いと、個人間の闘い。
やはりレオが見たものは、間違いなく軍事演習だった。
山の麓から山を越えた向こうの森まで、かなりの距離があるはず。だけどモグラのモグちゃんは2時間程で貫通してくれた。それも、馬に乗って走れるくらいの巨大なトンネルを。
入口はともかく、出口は分かりづらくするために少し小さくし、カモフラージュした。
もっとも密偵が帰ってくる時に、あちら側の入口を1mほど崩してきたので誰もトンネルには気が付かないと思う。また使う時には穴を掘ればいい。
この作業を行い、偵察をして帰宅するのに、わずか2日しかかからないなんて、誰が思うだろうか。
早速得た情報を国王に届けて貰い、返事を待つことにした。
どうも軍事練習をしていたけど、今日明日で攻めてくることはなさそうだ。
とはいえ、攻め込まれるとすれば、1番に襲われるのはこの町と、国境にもう少し近い小さな集落からだろう。となるとこちらも襲撃に備えなければならない。
せっかく妊娠ラッシュの波が来て、国力を持ち返そうとしているのに、戦争なんてたまったものじゃない。
私たちの代で、戦争なんて起こしたくない。
気がつけばガクガクと体が震えていた。
「大丈夫か?」
と、不安そうにレオが覗き込んでくる。
「ええ、大丈夫よ……ちょっとだけね、怖いだけ……」
「ん……」
と、レオが隣に腰掛け、擦り寄ってきた。
「あのさ、本当は穴掘ったらご褒美貰おうと思ってたんだ」
「ご褒美?」
「そう。だけど、パティからしたら、それどころじゃねぇよな」
「……」
「大丈夫、パティの事は俺が守る。だから、そんな不安そうな顔、すんなよな」
と、オデコをこっつんこしてきた。
私は目をつぶり、素直にレオの体温を感じていた。
「あのね、普通は宣戦布告もなしに攻め入って来たりなんてしないの」
「そうなんだ」
「ええ。戦いとは言っても、戦争になるのであればそれなりの儀式とかやり取りがあってね」
「ふぅん?」
「北西国の考えが分からない今、下手に動くことも出来ずに対策も練れない。だからより不安なのよ」
「うん」
「取り越し苦労で済めばいい。そう思っていたのに、まさか本当に攻め入って来ようとしてたなんて……」
「俺なら、先手必勝!喧嘩上等!なんだけどな」
「ふふ。レオは血の気が多いね」
「あ、笑ったな?やっとパティの笑顔が見られた。」
って、レオはにっこりとした。
あぁ、誰かが近くに居るって、それだけでイイな。心が安らぐ。少なくとも今、私はこの年下の男の子に救われてる。
レオは、密偵が潜入している2日間の間、ずっと私のそばから離れず、暑い日差しからまもり、冷え込む夜は私を暖め、甲斐甲斐しくお世話してくれていた。
「パティはさ、どうしたいの?」
「どうって?」
「王国研究所所長って立場の人からしたらさ、おいそれと逃げられないのかもだけどさ?それでもいち国民じゃん?」
「いち国民……」
「ましてやその細腕じゃん?あんま性別とかで言いたくねぇけど、非力な女性じゃんかさ」
「……うん」
「俺はこっちの世界にきてまだ日が浅いから、『国のためにー』とかなんか言えるほど愛着ないし、そもそもこの国もよく知らねぇし」
「なにが言いたいの?」
「いやだからさ、パティはイザとなったらどうしたいの?逃げたいの?戦いたいの?」
「逃げるか戦うか……考えもしてなかったよ」
「じゃあ考えようぜ」
「考えて、どうするの?」
「パティにとっての最善を決めとけば、俺だって動きやすくなるじゃん」
「レオが?」
「そ」
「どうして?」
「あのね、アンタを守るために決まってるだろ?」
「わたし、を?」
「そ」
「どうして?」
本当に分からない。レオが何を言いたいのか。
どうして私なんかを守りたいのか。
「どうしてもなにも、俺の人生の中で、1番大切だからに決まってるだろ」
レオの瞳は揺らめいていた。
今までにないほどの真剣な眼差しで私を見つめているその瞳には、確かに私が、私だけが映りこんでいた。
それでも。
私にだけは愛の言葉を言ってくれないレオ。
だから、『大切』というのはきっと家族とか、母親とか、そういった類いのものなのだろう。
「私はね、レオ。この国を守る義務があるの」
「義務?そりゃ大きく出たね」
「うん。私が私として、この国に生まれた義務なのよ。だから、国民の誰1人危ない目にあわせることなく守りたい。だから、私は逃げたくない」
「ん」
「それが私のしたいことよ。本当は戦争を回避出来れば1番なんだけどね」
と苦笑いをした。
「わかった。パティはマジカッコイイぜ。惚れ直したわ」
「へ?」
「うん。じゃあ俺は、全力でパティを守るとするかね」
「う、うん」
「約束する。パティには怪我ひとつ負わせない。てか、髪の毛1本、他の男にゃ触れさせねーから」
「またそういう紛らわしい事を言う……。さすが最強ナンパ師」
「なんとでも言え、鈍感女」
「ちょっと!私は敏感な方ですー。機微を読むのが得意ですー」
「へぇ。敏感なんだ。ふーん」
「なによ。その疑いの目。パティさんは人生経験が長い分、そういうのは得意なの!」
「へー」
「もぅ。絶対信じてませんって顔しないでよ」
「だって信じてないもん」
「信じてよ!敏感で観察力のある大人の女なの!」
「ほほぅ。じゃあどれどれ」
と、脇腹をツンっと触られた
「ひゃっ」
「わ、マジで敏感だわ。反応えっろ。」
「エロくない!そういう『大人の女』って意味じゃない!」
「はいはい」
「レオ〜。信じてよ〜」
「はいはい。信じてますよー。ウソだけど」
「レーオー!」
「俺、子供だからワカリマセーン」
「こんな逞しい子供が居るか!ちょっとレオ!」
「ん?したらパティは俺を『大人の男』としてみてくれんの?」
「当たり前でしょ。いつも本当に頼りっぱなしで」
「そーかそーか」
「いつもいつも、本当に感謝してます。アリガトウゴザイマス」
「感謝とかいーからさ。じゃ、俺のコト、好き?」
「うん、もちろん!大好きよ」
「サイデスカ……」
そういうと、またレオはゆでダコのように真っ赤になり、また自室へと篭っていった。
まる2日間、ほとんど寝てなかったもんね。ゆっくり休んでください。
そうだ、久しぶりにお布団をかけてあげようと、レオの自室のドアの取手に手をかけた瞬間、ドアがうっすら開いてレオが片目だけ覗かせた。
「……今は入って来ないで」
「え?お布団かけてポンポンしてあげるよ?好きでしょ?」
「好きだけど。今は入って来ないで」
「なんでよ。そんな意地悪しないでよ」
「いや、コレ俺の優しさだから」
「優しさなわけないよ。入れてよー」
「ダメっ。絶対ダメ!」
「なんでー。絶対抗議します。いーれーろー!いーれーろー!」
「あーもう。どこに何を入れて欲しいのか、深読みするよ?マジで」
「ん?」
「試しに、可愛く言ってみて?『入れてv』って」
「入れてv」
「うわ、本当に言ったよ。煽ってる自覚あるのかね」
「レオが言えって言ったんじゃない」
「あのね、だから鈍感女って言われるんだろがよ。純粋なのもいい加減にして?」
「今またぶり返すの!?」
「ぶり返すようなコトをしてるの。アンタが」
「えー?」
「えー、じゃないよ。あーもーダメだ」
そういうとレオは一瞬扉を開け、右手で私の首の後ろに手を回し、唇に唇を寄せ軽く触れた。と同時に左手で私の右手首を掴み、取手から離させ、扉をバタンと閉めた。
「そーゆー事だから!!!もー今日はおしまい!!今は絶対入ってこないで!!!!」
と、言ったっきり本当に今日は部屋から出てこなかった。
私はと言えば、触れたか触れなかったか分からないような唇の感触にビックリし、そっと自分の唇に手をあてた。
ボーゼンと立ち尽くす中、レオの部屋から時々甘く切なく、私の名を呼ぶ声が聞こえてきて、急に恥ずかしくなって。私も自分の部屋にもどり、頭から布団を被った。
まさかこの歳になって、ファーストキスを奪われるとはと、地団駄を踏むかのように暴れた。
レオの事で頭がいっぱいになった私は、緊迫したこの状況を一時的にすっかり忘れ、久しぶりにぐっすり眠ることが出来たのだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
今回の話は、(R15指定とはいえ)許されるかどうか不安です汗
NGそうでしたら一言頂けると幸いです。そのついでにどの程度までOKなのかのご教授を頂けると本当に助かります。
それと、元ネタの方ではほとんど接触が無かったのに、レオがキスして驚きました。
心の底からレオを応援しています。
イイネを頂けたら喜びます。
感想なんて頂けたら飛び跳ねて喜びます。
ひとつ、応援よろしくお願い致しますm(_ _)m