密偵を見ってい。
悪い方の勘というのは良く当たるもので、北西国に出した密偵が消息不明だという報告が上がってきた。
隣接する3つの国の中で、武闘派民族の北西国だけはどうしてもソリが合わず、国力の低下している我が国の、唯一の不安要素であった。
先日のレオの話を聞いて、どうしても北西国の情勢を手に入れたかった。
それに、消息不明の密偵の安否も気になった。
とはいえ、まだ3日しか経ってないのだから、うまく潜りこんでいると信じたい。
レオは今日もいつもの日課をこなし、キラキラと汗を光らせながら作業を続けていた。
いっそレオに頼んだ方が早いかもしれない。
でも、やっと町に馴染んだだけで、国同士の軋轢なんて彼は知らない。そもそも地形や国境なんて把握もしてるはずがない。なにより、15歳の少年に、そんな危険な事はさせたくない。
レオに、危ないことをして欲しくないのだ。
「まーた難しい顔してら」
と、クワを抱えたレオが、首に掛けたサラシで汗を拭きながらこっちを見ていた。
「なぁ、パティ。俺になんか隠し事してね?俺、そーゆーのヤなんだけど」
と、ギラッとした顔で私を見た。
「隠し事なんて……」
「いーや、してるね」
「してな」
「絶対してる」
「どうして?」
「俺がさ、どれだけアンタの事見てると思ってんの」
と、スタスタと私のところに歩いてきて、覆い被さるように囲いこんだ。
「俺、いつも言ってるじゃん?パティの役に立ちたいんだって」
「うん」
「言ってみろよ。俺が出来ることなら、なんでもするからよ」
「……」
「頼むよ。なぁ、パティ」
と、何も言えずに俯いている私の顎をクイッと上へむかさせた。
(顎クイだー!!!)
とトキメキかけた自分を諌め、レオをじーっと見つめる。
「あんまり見んなよ。恥ずかしいから」
「恥ずっ!?」
「あー、じゃあ、このシチュエーションなら、キスしてもOK?」
「なっ!違っ」
「パティは怒ってない、困ってない、俺に頼み事もない。なら、この体勢でこの状況。すんだろ、キス」
「あああ、あなたは手慣れてるからキスキス軽く言うけど、私はしたことないから無理よ無理無理、無理無理無理無理無理!!」
と、レオの顔を両手でぐいっと押しのける
「ちょっと。傷つくんだけど」
「いや、そんな変なことを急に言う方が悪い!」
「えー?悪いのは俺なの?」
「そうよ!」
「うーん、じゃあ、悪いのは俺でいいか」
「そ、そうして」
「オーケー。そうするわ。それにしても、パティさんは、キスしたことないのね」
どこか安堵したような嬉しそうな顔をして、ニヤニヤと笑われる。
「な、なによ。悪い?」
「いーや。ほら、俺悪者だからさ。名誉あるパティさんの初キッスを強奪したっていいよな?」
「ダメに決まってるでしょ?!」
「うーーーん。ダメかー。ダメなのかー。じゃあ、どうしたらキスしてもいい?」
「1回、キスから離れよう!」
「ヤダ」
「駄々っ子か」
「駄々っ子になればしていいなら、いくらでも駄々こねるぜ!」
「わけわからーーん!」
あのね、さっきからね、ドキドキしっぱなしなのよ。レオがより逞しくなって、よく分からない色気を出しながら迫って来ることに、目がグルグルして限界なのよ。本当に心臓に悪いのよ。助けて欲しいのよ。
「……いいじゃん、お互いファーストキスなんだから。好きな女としたいじゃん」
「ファ!?」
レオは私の横にドスンと座ると、両膝の上に両肘を置いて、顔を隠した。
「毎日毎日さ、目の前に居るんだぜ?どんだけでも尽くしたいと思う女がさ」
「女……」
「ソイツが困ってるのに、何一つ助けられない、俺の力を必要としてくれないんだぜ。情けねぇよな」
と、上目遣いでちらりととこちらをみる。
アナタは大きなワンコか。
逞しいのか可愛いのか、どっちかにして……。うぅ、可愛い。
こんないくつも年下の男の子に、籠絡されまくってるなんて、死んでも言えない。
必要としてます。アナタは私の生活の一部です。出来れば一生そばにいて欲しいくらいなんですよ。なんて、本当に言えない、バレたくない。だって、いつかレオをレオの世界に還してあげたいから。
だからもう、私の負けでいいからそんな目で見ないでください。キュンキュンが止まらないんです。動悸がヤバいのです。
「うぅ、分かりました。じゃあ言います、頼ります」
「よっしゃ!」
「実は……」
と、私は北西国との生い立ちと情勢、近況を簡単にレオに説明し、なんとかして潜り込んで情勢を知りたいのだと伝えた。
「なんだ、そんなコトか。簡単じゃん」
「簡単?!とんでもないよ。あの高い山を越えて、バレないように国境を越えて忍び込むんだよ?」
「うん、だから、地下に穴掘って行けば良くね?」
「へ?」
「グリちゃんに仲間紹介してもらって、空を飛んでけばもっと速いけどさ。俺以外乗りこなせるヤツなんて居ないだろ?それに目立つし」
「そうだね」
「まぁ、グリちゃんめっちゃ速いから、移動手段としては最高だし、乗りこなしたかったら特訓すりゃいいと思うけど、訓練するにも時間掛かっちゃうだろ?」
「うん、そうだね」
「だから、モグちゃんに穴掘って貰って、トンネル開通させれば良くね?行きも帰りも楽チンだぜ」
「そんなこと……」
「出来るぜ?頼めばやってくれるべ。俺、モグちゃんともマブダチになったから」
「は、はぁ……。そうですか」
「したら、善は急げだろ?早速どこからどこまで掘るか、誰に行かせるか決めようぜ」
「え、レオは?」
「俺は行かないよ?パティから離れたくないもん」
「さいですか……」
「さいです。俺が居ない間に、変な男と浮気されても困るからな」
「うわき!?ちょちょちょ、何言って……」
「あーもー、これだから無自覚美女は」
「無自覚美女!?いったい誰のことよ」
「ホント、自覚ねぇのな。ならついでに言ってやるよ。細身のくせにグラマーで、抜群のプロポーションの上にメガネの才女、かつ、童顔で優しい気品まで漂わせる魅惑の無自覚美女」
「〜〜〜っ!?」
え、私の事?褒められてるのコレ!?
いや、絶対おちょくられてるわ、そうに違いない。
「あー、あと、こんなこと言われて真っ赤になっちゃうカワイイ人ってことも追加で」
「や、やめて。からかうにしても恥ずかしすぎるよ」
「はい、カワイイ」
「う、うぅ〜」
「さて、ちょっと満足したから俺門兵呼んでくるわ。だからパティはその顔やめて普通に戻っとけよな。その顔、他の男に見せたくねーから」
と、急に真顔になって走っていった。
まったく、最近の15歳って生意気なのね……。こんなに年上の女をおちょくりおって。
いや、異世界の人間が生意気なのかもしれない。
こちらの世界では、15歳なら全然結婚して落ち着いてる年だわよ。
そう、彼もこちらの世界なら『結婚』していてもいいのだ。この世界のどこかで、出逢った誰かと。愛した人と。
私では無い、他所の誰とでも。
お読み頂きありがとうございます!
サブタイトル悩んだのに滑りました。
なにか良いサブタイありましたら提供ください。m(_ _)m
レオはキスしたくって必死ですね〜。
思春期の男の子の感じが出てますでしょうか?
男性の方、男性心理に詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教授頂けると幸いです。
イイネ頂けると喜びます。
感想なんて頂けたら飛び跳ねて喜びます。
どうぞひとつ、よろしくお願い致しますm(_ _)m




