プロローグ
こんにちは!こんばんは!おはようございます!
星の数ほどある作品の中から、当小説にたどり着いていただきありがとうございます。
少年と、女性の恋を、ギャグテイストで書いています。
しばしお付き合い頂けましたら幸いです。
「ふ。パティ可愛い。ねぇ、聞こえる?俺の鼓動。これ、パティのせいだから。
俺がどれだけ好きか、伝わってる?パティは俺の事、好き?」
少しタレ目で甘い表情の彼は、私をゆっくりと押し倒し覆いかぶさった。根元だけ黒い彼の金髪が、私の緑髪にはらりと垂れ下がって触れた
体と同じく大きな彼の手が、優しく私の頬をなで、頷かせる。
「ん。したら、今日こそ俺の事、受け入れて。俺だけのものにならないなら……
『ブッコロス』!」
彼のドスの聞いた声で吐かれたその甘美な言葉が私の耳に入ると、脳天から足先まで電気が走ったかのような感覚が突き抜け、多幸感と快感に包まれた。
『ブッコロス』
それは極上の愛の言葉。
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私の名前はパティ。パトリシア・グレイス・マクスウェル。自分で立てた王立研究所の所長で、実はこの国の第一王女だ。
20年前、母が他界すると同時に母の妹と再婚した父。それから10年後、無事嫡男が生まれると同時に王宮を出た私。簡単に言えば『お家騒動』を回避するために王宮を出たのだ。妹と、弟の為に身を引いた、つもりなんだけど、逃げたと言えば逃げたのだ。
私のことはさておき、あんな物騒な言葉が最上の愛の言葉になった理由を、少しだけ語らせて欲しい。
我が国ではその昔、人食による弔いの風習があった。
尊敬、敬愛、愛情、馴染み、渇望、親近、懇親、交流などなど、そういった生前に『好意』を持っていた故人。その人の一部を取り込むことで自分の一部とし、その人を忘れずに、永遠の時間を一緒に生きて次へと繋いでいく。そういった想いでの行為だ。
ところがいつからか、愛しさのあまりに『殺して』『食す』という行為になってしまった。
我が国ではそれがあまりにも自然にシフトチェンジしてしまったのだ。結果、恋人を、親を、我が子を、憧れのあの人を手にかけ、そして……。
国中に蔓延した結果、我が国は国民の大多数を失った。国の存亡か危ぶまれるレベルまで落ちたのだ。
異常事態にやっと国は禁止令を出し、厳しく取り締まった。それが20年前の出来事だ。
けれど、習慣に近いレベルで浸透してしまったそれは、全て無くしてしまう事はできなかった。
相手を食べてしまいたいと思うほどの深い愛情は、この国の国民のDNAに刻み込まれた古い風習だから。
だから、どれだけ禁じられても人々はなんとかその風習を残そうとした。結果、『殺して』『食べたい』の意味を込めて
『ブッコロス』
という言葉に思いを込めて愛する人に伝える風習になった。
その言葉を言う者は、相手の全てを背負う覚悟で愛し、欲し、口から言葉が零れた瞬間になんとも言えないチカラが湧き出てくるという。
そして、その言葉を言われた者は、耳から伝わった瞬間、甘美な痺れに身を包まれ、相手の想いを受け取った瞬間に、全てがどうでも良くなるほど思考を放棄して相手に身を任せたくなるという。
まるで呪いのように激しい極上の愛の言葉なのだ。
そんな過去を持つ我が国に、ある日『異世界転移』してきた天才的テイマーの才能をもつ彼。あ、お気付きですね?冒頭の甘いセリフの彼です。その彼と私の恋物語がこのお話なのです。
ちょっと恥ずかしいのですが、お付き合いください。
そう、それは彼と会う前日の事。
いつもの通り仕事をする私の部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
返事と同時に、恐る恐る扉が開き、顔を覗かせたのはこの研究所の従業員たちだ。
「まぁ!今日もありがとう。ご苦労さまでした。疲れたでしょう?お茶でも入れましょうか?」
と、彼らを労うためにイソイソとお茶の準備をした。
「いえ、お茶は……」
「遠慮しなくていいのよ。さぁ、座って?」
「いや、俺たち話があって……」
「話?なにかしら」
「その……」
「「「俺たち、仕事辞めたいんです!!」」」
「そんな……。もっとお給金を上げますから、どうか続けて頂きたいです」
「金じゃねぇんです」
「俺たち、いつ魔獣に喰われるかと思うと怖くて」
「さっきも、俺、目があっちまって怖くて怖くてチビるかと……」
「給料良いから飛びついたけど、その金だって命があってこそです。頼むから、辞めさせてください!!」
と、ガクガク震えながらしゃがみこみ、私のスカートにしがみついてきた。
私は『ふぅ』と小さくため息をついた。
「わかりました。では今日の分までだけでも支払いを受け取ってください。お勤めご苦労様でした」
「「「ありがとうございますー!ひいぃ、さようならぁ!!!」」」
奪うようにお金を受け取ると、一目散で逃げ出していた。
本当に、あんなに可愛いコ達ばかりなのに、どうしてあんなに怯えるのかと、私は大きなため息をついた。
「次の人、雇わなくちゃだわ……」
ガッカリしながら扉を開けた。扉の外には視界いっぱいの草原と、この建物から放射状にのびた道。その先にいくつかの厩舎や温室。私の研究所で預かる魔獣たちの為の建物だ。
腕まくりをして、保護している彼らの元に向かった。
きっと今日の分のお世話は終わってない。彼らも生きているのだから、ちゃんと世話をしてあげなければ保護した意味が無い。
それでも、この敷地を私ひとりで管理するには広すぎる。
ひとり残された私はもう一度大きなため息をついた。
「明日は、気分転換に町に下りよう」
と。
ここまでたどり着いて頂き、本当にありがとうございます!
心からの感謝です。
この先もお付き合い頂けたら幸いです。
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どうぞよろしくお願い致します。