第3話 大河サハール
「遠くに川が見えて来ましたな、あれが大河サハールでありましょうか。
大河殿お初にお目に掛かる」
砂丘から遠くに見える大河サハールを眺めるエイミーと執事ロイド。
ここに辿り着くまでどれだけのスナサソリを相手にして来ただろうか。
今もまた二人の前に性懲りもなくスナサソリが現れる。
「もういったいどんだけいるのよスナサソリ
素材としてはそこそこ使えるから許しはするけど
私はもういいや、ロイドやっちゃって」
「お嬢様お任せ下さい」
ロイドは一礼すると素早くエイミーを守るようスナサソリの前に立ちはだかった。
何処からともなく細剣を取り出し構える執事。
「我が秘剣術とくとご覧あれ」
「執事流細剣術『舞刀両断』」
華麗な足捌きでスナサソリの攻撃を躱し敵の懐に潜り込むロイド。
「一踏斬」
ロイドの華麗な斬撃が決まるとスナサソリは真っ二つになり倒れた。
「お見事!もうすぐお昼だし先を急ぎましょう」
エイミーは一声掛けると執事と共にサハール川へと向かった。
砂漠を越え大河に近づいて行くと景色は一変する。これまでの乾燥した
砂漠地帯からぼちぼち草が生え始め先へ進めば進むほどに植生豊かになっていく。
ぽつぽつと樹々が生えるその先へ進むと道幅10メートル程の街道に出た。
二人は街道を横切り草むらをさらに進むと眼前に大河サハールが姿を現した。
河幅は悠に1キロメートルは超えるであろう雄大な大河であった。
「やっと着いたよサハール川」
「実に見事な大河ですな、改めて挨拶致そう大河殿。
お嬢様、時間もいい頃合いですし河岸でランチと参りましょう」
これにエイミーが頷くと二人はサハール川河畔で開けた場所を探し出し
ロイドはランチの準備を始めた。日除けのパラソルを設置しテーブル、
椅子をアイテムボックスから取り出しセットしていく。
準備を終えた執事はエイミーをテーブルへと招いた。
「お嬢様、ランチメニューは如何致しましょう」
「今の気分は冷し中華かな、飲み物は冷えた炭酸オレンジジュース
デザートはバニラアイスで決まりだよね、バニラ」
「畏まりました」
ロイドは手際良く準備を進める。進めると言っても調理する訳ではなく
コンビニなどで買えるものを並べているだけなのだが。
もちろんロイドが料理出来ない訳ではなくあくまで主人の好みに
従っているだけなのだ。料理の腕は一級品であるとだけ言っておこう。
ただ時間停止機能付きのアイテムボックス内には地球産の食品が
山ほど買い込んであり主人の気が変わらない限り執事が腕を振るう
機会は当分の間訪れる事がないであろう。
「お嬢様用意出来ました、それではお召し上がり下さい」
「砂漠越えの後の冷し中華は堪らないわね、堪んないもう」
エイミーは美味しいそうに麺をすすり炭酸ジュースを飲み最後に
バニラアイスを食べ満足なひと時を過ごした。
「あー美味しかった、しばらくは腹休めかな。
今頃レンカどこで何してるんだろう・・・」
サハール川河畔で友を思い浮かべ優雅に川を眺め過ごしていると
遠くからこちらへ近付いて来る人の姿にロイドが気付いた。
「何やらこちらへ近付いて来る者がおりますな、お嬢様はそのままに。
あの者の相手は私めが致します」
「そうね、でも第1テラ人発見!」
エイミーがとある番組のノリではしゃいでいる間にも向こうから
近付いて来る人影の輪郭が徐々にはっきり見えてくるようになる。
どうやら冒険者風な格好をした女性のようだった。
さらに女が足早にこちらに近付いて来ると執事は動いた。
「そこの者これ以上我らが憩いの場へ近付けば賊と見なすが
我らに何用か?理由があるなら申せ!」
「ハーハーッ・・・どうか助けてください」
息を切らしながらこちらへ近付いて来た女はパラソルにテーブルという
可笑しな光景に戸惑いながら応えた。
「助けてくれとはどういう事ですかな?」
「私の仲間がモンスターに襲われているの」
執事は女から詳しい話を聴く事にした。それによると彼女の名はレキシー。
彼女の所属するBランクの冒険者パーティー『砂漠の牙』はここより
下流へ下った所にある交易都市メロアの冒険者ギルドで依頼を受け
上流にあるインリーバ村の調査に行った帰りに魔物に襲われたそうだ。
魔物は見た事もないタイプのゴーレムで余りの強さにパーティー全滅より
彼女だけでも逃し情報をギルドへ持ち帰る事を決めたそうだ。
ここで執事はエイミーの方へ振り返り主人の意向を確認する。
「助ける助けないは時の運だから保障は出来ないけど
私はそのゴーレムに興味あるわ、私も見てみたい。
となれば早く行った方がいいわね」
「レキシー殿そういうことだ。我が主人に感謝するがよい。
であれば早速案内せよ。ところで何故我らに助けを求めた?」
「このような場所で二人旅なんて余程の実力の持ち主か世間知らずの
どちらかしか考えられませんわ。きっと前者なのでしょう」
エイミーは自分達の行動が他者からそう見えているのかと少し驚いている間に
執事は手早く片付けを済ませた。そしてレキシーと共に現場へ向かった。
サハール川上流へ向かって三人が速足で移動して15分くらい経っただろうか。
ようやく河岸の戦闘現場に近付いて来た。まだ戦闘は続いているようだが
状況はかなり苦しそうだ。それを見たレキシーが駆け出す。
「みんなー!」
「何でお前がここに」
「何故帰って来たんだよー」
「そいつら何者だ」
「あんたねー・・・」
パーティーのメンバーがそれぞれ苦虫を噛み潰した様に応えた。
戦闘中のメンバーは剣士に魔法剣士、盾士と魔法使いのようだ。
敵の魔物は縄文土偶の形をした体長3メートルはありそうなゴーレムだった。
不気味に首を左右に回転させ腕を伸縮させて攻撃してくる。奇妙な音を
立てながら体が止まったと思うと頭部からビームを放っていた。
「土偶?・・・何でこんな物がテラに」
縄文土偶がゴーレムしてる現実に驚くエイミーだったが気を取り直すと
ロイドに指示を飛ばす。
「ロイド時間稼ぎしてくんない」
「お任せあれ、各々方助太刀申す」
「オッサン何もんだ!だが助かる」
戦陣へ颯爽と飛び込んでいくロイドを見送るとエイミーは誰にも聞こえない声で
召喚呪文を唱えた。
「魔像召喚、出でよ貴械精霊マーラ」
『お呼びですかーお姉ちゃま』と不可視の精霊マーラが現れた。
身長15センチメートルくらいのピンク髪のかわいい女の子であった。
その間も戦闘は続いている。ロイドが加わった事で敵の攻勢を凌げている。
ゴーレムの攻撃を華麗に受け流し、たまに撃ち出すビームを細剣にて受け飛ばす。
まるで某SF映画の騎士のようであった。時間稼ぎの役目を見事に果たしていた。
エイミーはマーラに状況を説明し指示を出していく。
簡単に言えば味方にバフを敵にはデバフをである。
だから適役であるマーラを喚んだのだ。
『お姉ちゃまの言う通りにするのー』とマーラが上空に舞い上がる。
『天地守護の陣、セカイハアナタノミカタなのー』
『天地呪縛の陣、セカイハアナタノテキなのー』
次々に魔方陣が展開し味方に体力自動回復、魔力自動回復、
攻撃力超上昇、防御力超上昇、素早さ上昇を掛けていく。
一方で敵ゴーレムには疲労増進、魔力漏出、攻撃力超減少、
防御力超減少、行動遅延を掛けていく。
仕事を終えたマーラがエイミーの肩へと舞い戻ると戦況は一変する。
「なんなんだ一体」
「疲れが吹き飛んで力がみなぎる」
『砂漠の牙』のメンバーがそれぞれ驚きを口にすると戸惑うゴーレムを他所に
今度はこちらの番と一気に攻勢を仕掛けた。そこからは早かった。
これまで通らなかった攻撃は敵にダメージを与え、敵の攻撃は簡単に防げる。
土偶ゴーレムはダメージを溜め込み、遂には耐え切れずバラバラと崩れ去った。
「終わったみたいね、マーラちゃんありがと」
『どーって事ないのー、また呼んでねお姉ちゃま』
エイミーは名残惜しそうなマーラを帰すとみんなの所へ駆け寄った。
そこには強敵を倒し緊張感から解放され気が抜けたように座り込む
『砂漠の牙』のメンバーとそれを称える執事ロイドの姿があった。
エイミー達がテラに来て初めて人に出会いました。
二人の冒険に何か影響を与えるのでしょうか?
次回は「インリーバ村」お楽しみに。