第16話 冒険者ギルドファイ支部
魔樹の森で異変に巻き込まれその元凶たるブルータルトレントマザーと闘い
多くの冒険者達を救ったエイミーとロイドはその後タッカール爺さん家で
一夜を過ごし爺さんと朝食を共にしていた。
「昨日は大変じゃったな。一晩寝て疲れは取れたかの」
「うん、ばっちり」
「それで今日はどうするつもりかの?ワシの感では忙しくなる気がするがの」
「採取した検体を調べてみるつもり」
「そうか、結果が出たらワシにも教えてくれんかの。それまではいつも通り
例の研究じゃな」
「空飛ぶ船ね!こっちの調査が終わったら見学行ってもいい?ここに来た
最大の目的がUFOなんだから」
「ええぞ、エイミーちゃんだけ特別にな。そのUFOが何かは知らんがの」
エイミーがタッカール爺さんに興味を持ちここにお邪魔してる最大の理由が
実は『UFO』だったのだ。爺さんの未確認飛行物体の目撃話を聞き、錬金術に
よってそれを再現しようというユニークな試みにインリーバ村に残された謎
ミステリーサークルを解くヒントがあるのではないかとエイミーは考えていた。
「ご馳走さまでした。部屋に戻って調査ね」
「また後でな」
エイミー達は部屋へ戻り早速魔樹の森で手に入れたブルータルトレントの検体と
冒険者達の血の検体の検査を始めた。
「ロイド一旦ベッドとかアイテムボックスに仕舞って空間の確保ね」
執事が言われた通りに片付けていくとエイミーはアイテムボックスから
錬金検査機器を取り出し並べていく。
「空間結界アイテム起動、清浄領域展開」
室内を隔離し空間内を清浄に保つ結界を張るとエイミーは検査機器に
ブルータルトレントマザーの検体を封印瓶ごとセットする。
「まずは成分解析陣起動っと、待ってる間に吸血検査器『ブラッドバットン』
の精密検査モード始動検体1番の検査開始」
待つ事10分で吸血検査器『ブラッドバットン』の方の結果が出た。
「ウィルス検出、過去に類似検出あり。えーと日付けは5日前・・・あの村だ!」
吸血検査器の示した結果は驚くべき結果だった。緑都ファイへの旅の途中に
立ち寄りタッカール爺さんと知り合った村の疫病の原因がブルータルトレントの
病原体だったのだ。
「まさかあの村の近くにブルータルトレントがいたの?それとも魔樹の森から
誰かが感染したまま村に・・・」
「ブルータルトレントが原因なら、それは由々しき事態ですな」
「あの村と同じなら緑都ファイにも静かに広がってるはず」
二人が話をしてる間に錬金検査機器の成分解析が終わる。
「こっちも終わったみたいね。結果はトレントの成分に3%の異物検出。
次は分離抽出陣起動、異物成分の抽出開始」
「3%の異物ですか。これが改変種の謎の正体ですな」
「そういう事ね、分離さえ出来れば『鑑定』で見れる」
そして待つ事15分で分離抽出が完了した。
「抽出物を封印瓶へと封入」
錬金検査機器から分離抽出され異物が封入された封印瓶をエイミーは取り出し
『鑑定』を掛ける。
樹呪毒
特性:呪伝物質の粘液。トレントの樹体に入ると遺伝子に呪因子を組み込み
変成させる。
「何これ樹呪毒・・・呪因子に遺伝子!テラでこんなワードなんて謎だよ」
「真に不可思議な結果ですな」
二人は謎過ぎる結果を示した調査を終えて爺さんの居る研究棟へと向かった。
「爺さんいる?エイミーだよ」
すると爺さんが研究棟の扉を開けて入れてくれた。ロイドは外で見張り番である。
エイミーが中に入ると真っ先に目に付くものがあった。小さな空飛ぶ円盤だった。
「爺さんそれって空飛ぶ船?」
「そうじゃの、ワシが見たままを再現したものじゃ。それよりもまず調査の結果を
教えてくれんかの」
「そうだった。結果はね魔樹の森の魔樹の病気があの村の疫病と同じ物だったの」
「なんじゃと!バチック村に続きファイが大変な事になるやも知れん」
「爺さんもそう思う?これは知らせないとマズイよね」
タッカール爺さんが調査の結果に驚き今後について話をしていると扉が開いて
サリアが入って来た。
「サリアどうしたんじゃ?」
「エイミーにお客さんよ。昨日助けてもらったって言うリンダって人」
エイミーとロイドはサリアの後を付いて研究棟から店舗へ移動すると
そこには『アマゾネス』の皆さんがいた。
「昨日はありがとうございました。今日はお礼に来たの」
リンダが金貨30枚をお礼として渡してきたのでエイミーは素直に
受け取る事にした。
「あの後特に何か変わった事はなかった?」
「いいえ、というか以前より調子良くなったと感じるわ。それより魔樹の森に
ギルドの調査が入るらしく結果が出るまでは森に入れそうにないわ」
「そうなんだ。それで皆さんはどうするの?」
「ここから南にある遺跡ダンジョンで暫く稼ぐつもりよ」
「遺跡ダンジョン・・・そんなのあるのね」
その後少しばかり話をして『アマゾネス』のメンバーを見送ると
昨日助けた冒険者達が次々と訪ねて来てはお礼を受け取る事になった。
そんな中突然緑都ファイのAランク冒険者パーティ『緑の守人』が
訪ねて来た。
「エイミーとロイドという者に会いたいのだが取次をお願いしたい」
「エイミーなら私だけど、Aランクパーティが私達に何の用なの?」
「ロイドなら私ですな」
「おー、それなら話が早い。俺はAランク冒険者パーティ『緑の守人』の
リーダーを務めるガンダルーだ。俺達は今からギルドの依頼を受けて
魔樹の森の調査に向かうのだが、もう一つ依頼があってなそれがギルドから
君達への伝言だ。出来るだけ早く冒険者ギルドファイ支部に出向いて
今回の魔樹の森の異変について君達の得た情報を報告してほしい。
それと今回の冒険者救助についても報奨金が出るそうだ。俺達も仲間達を
救ってくれて感謝している。ありがとな」
「分かったわ、伝言ありがとう。あなた方も気を付けね」
『緑の守人』のメンバーはそう言って魔樹の森へ向かった。
そして、いつの間にか後ろで聞いていたらしい爺さんが私達を緑都ファイにある
冒険者ギルドへ案内してくれる事になった。
「ワシの方の準備は終わったから行くとするかの」
「じゃー出発っ!」
ファイの街は爺さんの家からだと距離にして8キロメートルくらいあり
街の西門まで歩く事1時間弱でエイミー達は辿り着いた。
門には守衛が居り身分証の提示を求められた三人はそれぞれ身分証を出した。
爺さんは市民証、エイミー達は商人ギルドのカードを出し入場税銀貨1枚を
支払い街へ入る事が出来たのだった。
「ワシの側を離れるでないぞ。冒険者ギルドは旧市街にあって西門から近い。
この街は西から東へと発展していったのじゃ。古くからあるギルドは西の
旧市街にあるという訳じゃ」
そう言って案内されたエイミー達はすぐに冒険者ギルドへと到着した。
旧市街というだけあって古い建物が並んでいる。西門から大通りを歩いて
ほどない所にある西門広場の北側に大きなギルドの建物があった。
「ここじゃの、ワシは新市街にある錬金術師ギルドへ用事があるからの。
二人は用が済んだら先に帰ってくれて構わんぞ」
二人は爺さんと別れ冒険者ギルドへと入って行った。ギルドの中へ入ると
広いラウンジがあり壁に依頼票が貼り出されていた。そこを通り受付へと
向かうエイミー。今の時間は昼も近い事もあり人が少なくすぐに対応して
もらえた。
「いらっしゃいませ。どういうご用件でしょう」
美人な犬獣人のお姉さんの受付に聞かれる。
「昨日の魔樹の森の件で呼ばれて来ましたエイミーです」
「その件でしたら伺っております。ギルドマスターがすぐお会いになるので
私の後を付いて来て下さい」
受付のお姉さんの後を付いて行き3階にあるギルマスの部屋へと案内された。
「ギルドマスター、例の方たちをお連れしました」
「そうか、先ずは座ってくれ給え」
ギルドマスターに促され応接テーブルの椅子へ座る二人に受付のお姉さんが
飲み物とお菓子を出していく。
「まずは挨拶だな。私が当ギルドのギルドマスターを務めるウィリアムだ。
今回の魔樹の森の異変に於いて君達の活躍に深く感謝する処である。
そしてギルドから報奨金として金貨200枚が与えられる。また情報提供に
関しては別途金貨100枚の情報提供料が与えられる予定だ。でだ、
今回森で起きた事を出来るだけ詳細に教えてもらいたいのだが」
「分かったわ。魔樹の森の異変の発端は幻惑霧の発生ね」
エイミーは魔樹の森で起きた事を詳細に説明していった。
惑わしの霧の正体の幻惑霧の発生からブルータルトレントが襲って来た事。
そのトレントの持つ病原体、冒険者の感染と万能薬により治療した事。
そして二十数体ものトレントを倒した事。その元凶たるマザーの存在と
それと闘って勝利した事で森を覆っていた霧が晴れた事。
最後に魔樹の森の病原体とバチック村の疫病の病原体が同じだった事。
ブルータルトレントが樹呪毒によって呪われたトレントである事。
樹呪毒については分かりやすく呪いとだけエイミーは説明した。
「いやー事態は思ったより深刻だな。情報提供感謝する。ギルドとしては
引き続き何かあれば協力してもらえるとありがたい」
「それは構わないわ。錬金術師のタッカール爺さん家に居るからそこに
連絡くれればいいから」
「そうか協力感謝する。因みに君達はそれだけの実力が有りながら冒険者では
ないとか。勿体ないなギルドとしては。私の権限でCランクの冒険者として
今なら登録出来るがなる気はないかな?」
「それは考えさせてね。こっちにも都合があるから」
エイミーとロイドはギルドマスターから報奨金と情報提供料の金貨300枚を
受け取りギルドを後にした。人通りの多い西門広場には露店が並んでいた。
二人はそこで昼食を取ることにし見て回った。
「これ美味しそうね。これにしよう!」
エイミーはフォレストボアの肉を米生地の薄い皮で野菜と一緒に包んだ物を
買って食べたのだった。
「うん、美味しい。帰ろうかロイド、今度はゆっくり街を見て回ろう」
「はい、お嬢様」
二人は爺さんより先に帰る事にしたのだった。来た道を戻り爺さんの家に
着いたエイミー達はサリアの居る店舗へ向かい、そこで一緒に店番をしながら
閉店時間まで過ごし夕食の準備を手伝った。
「爺さん遅いね、まだ帰って来ないなんて」
「仕方ないので先に頂きましょう」
そう言って3人で先に夕食を済ませる事にした。今日の夕食はエイミー達が
狩ってきたフォレストボアの肉を使ったビーフシチューであった。
「美味しい!サリアの作る料理は全部美味しいね」
「実家で修行させられましたもの、いずれ嫁ぐ身として色々な事を」
こんな会話をしながら夜が更けていくがいつまで経っても爺さんが
帰って来ることはなかった。結局その日爺さんは帰って来なかったのだ。
不安そうなサリアに事態を前向きに捉えようとするエイミー達。
月の隠れた夜の闇が爺さんの行方を暗示するかの様に三人の居る家を覆っていた。
今週の投稿はこれで終わりです。読んで下さった方々ありがとうございます。
結局帰って来なかったタッカール爺さんに何が起きたのか。
エイミー達はどうするのか。
次回は「錬金術師ギルド」です。