第15話 レンカと錬金術師
今回はレンカの冒険です。
レンカがスリーデンの街に来てから1週間が過ぎようとしていた。
今では薬草採取にも慣れスキルのお陰もあり1日の宿代に困る事のない
稼ぎを得られるようになっている。
あの後ノーラさんの付き添いで魔の森の浅い場所での採取と
ゴブリン討伐の実地訓練も経験させてもらい活動範囲が広がっていた。
そしてその時にノーラさんの前で初めて魔法を使って見せたのだが
驚かれたのと同時に褒められたのをレンカは今でも覚えているのだった。
レンカは今日も朝から魔の森へ採取に来ていた。まずは森周辺の
採取ポイントから回っていく。
「育ってる、育ってる。いつもありがとう」
感謝の気持ちで彼女が育てた採取地のポイ草やマリ草を採取していく。
採取後はそこへ聖水と聖土を撒いていく。いつものローテーションだった。
「今日は順調。たまに他の冒険者に取られるのはアレだけど」
レンカは薬草の採取地をいくつも用意していた。薬草を移植したりして
いろんな場所に少しずつ分かりにくい場所などにも採取地を作り
一定の採取量を確保する戦略だった。その後も採取地をいくつも回り
予定の採取量に達する。
「薬草のポイントはこれくらいでいいかな。次は」
レンカはスリーデンに来て薬草採取中に発見した新たなポイントに向かっていた。
今度は薬草とは違い用心深く音を立てない様にして近付いて行く。
そして様子を伺いながらレンカが見守っていると『カサカサッ、カサッ』と
音が聞こえて来る。『ハムハムハムッ』咀嚼音まで。
『やった!食べに来てる』
心の中で呟いたレンカは獲物を目標に定める。
『聖土弾』
レンカの放った輝く土の弾丸が見事に獲物を撃ち抜いた。
「やったー!ホーンラビット捕まえた」
倒した獲物を捕まえ森の浅い部分で手に入れた大きな葉っぱに包んで仕舞う。
レンカは偶然ホーンラビットが草を食べているのを見つけ、その草を
ラビット草と呼んで聖水と聖土を撒いてホーンラビットの餌場にしたのだった。
餌場にいつもの様に水と土を撒き次の餌場に向かうレンカだった。
その後もレンカの餌場のせいで肥えたホーンラビットを2匹確保した。
「今日は3匹獲れた。しかも大きい」
ニコニコのレンカは森の中へ採取に向かうのだった。
魔の森の外縁部は日が差し込み明るいので比較的容易に採取が出来て
周辺の草原と比べても少し効率良く採取出来る場所なのだが
レンカにとってはポイ草やマリ草は周辺部に採取地があるので
お目当ての薬草は毒消しや麻痺回復の素材であった。
こちらの方はまだ採取地が少なく時間を掛けて探索中であった。
「ドケック草もピレイト草も中々見つからない・・・」
森の中をあっちを探しこっちを探しと下草を選りながらレンカは見て回る。
「あっ、ギザギザの葉っぱに紫の葉脈。ドケック草だ」
以前冒険者ギルドの2階でドケック草を調べて森の中で採取した物を
ノーラさんに確認してもらっていたレンカだった。
ドケック草をナイフで刈り取り聖水と聖土を撒いていく。
「ここも良い採取地になります様に」
お祈りを終えたレンカはここからほど近い場所にあるこの前見つけて
水と土を撒いたドケック草の場所へと向かった。
「うーんと、この辺りだったはずだけど・・・ない。先越されたかな?
それともまだ生えてない・・・明日また来よう。そう言えばこの近くに
大きい葉っぱの取れるバッショの木があったよね」
そう呟いてバッショの木を探すレンカだった。
「えーと・・・あっ、あった。使った分の3枚貰うね」
バッショの木に断りを入れるレンカは葉っぱが高い所にあり
手が届かないので魔法を使って落とす事にした。
「『聖風刃』じゃなくて『風刃』試そうかな。
スキルでイメージすると出来そうな気がするんだよね。
聖四属性じゃない普通の四属性魔法としても使えるんじゃないかって」
大きい葉っぱの付け根に的を絞りレンカは呪文を唱えた。
『風刃』
するといつもの魔法より弱めで遅めの風の刃が翔んで行き見事に葉っぱを
切り落としたのだった。
「やれた!いつもはこっちを使って聖四属性魔法は隠れて使おう」
その後『風刃』で大きい葉っぱ2枚を採取したレンカは
昼休憩を取る為に一旦森の縁へ移動していい場所を見つけ腰掛ける。
マジックバッグからミルクコーヒーとカツサンドを取り出し食べるレンカ。
「美味しい!もうエイミーったらどんだけご飯入れてんだろ。ありがとね・・・
今どこいるんだろうな・・・なんかヒントになるもの探さないとね」
そよ風の吹き抜ける草原の見える場所でしばらく寛いだレンカは
午後の採取へと森の中へ戻って行く。
またドケック草とピレイト草を探して回るレンカだったが2時間程掛けて
見つかったのはドケック草2株だけだった。見つけた場所にはやはり
水と土を撒いておいたのだった。
「やっぱ森の浅い場所だと効率悪いな。ドケック草とピレイト草は
もっと森の奥にありそう。そうなるとレベル上げ必要だよね。
ダンジョン行ってみるのもありかな。今度ノーラさんに聞いてみよう。
よしっ帰ろう」
レンカは今日の採取を終えて冒険者ギルドへと向かう。
街へ帰りギルドへ入るといつもの様に人はまばらで直ぐに受付へと向かった。
「リリアンさん買取お願いします」
「あらっ、いらっしゃいレンカちゃん」
レンカは今日の採取物を並べていく。
「今日も頑張ったわね。それでまずはポイ草20束ね・・・全部良品。
次はマリ草5束で・・・これも全部良品と、凄いわねレンカちゃん。
ドケック草が3株ね、こちらは普通と。最後はホーンラビット3匹ね。
えーと・・・これ今話題のラッキーラビットかしら」
「ラッキーラビット?・・・」
「そうラッキーラビット。今ね魔の森周辺で偶に獲れる肥えて肉の美味さが
上等と話題のホーンラビットの事をそう言うのよ。肥えてるのと角の艶の
良さで判別してるの。料理人注目の食材ね。買取額も高くなってるわよ」
「そうなんですね・・・」
そう言って平静を装うレンカだったが予想外の結果に本当は動揺していた。
「それで買取額はポイ草の良品20束で金貨2枚、マリ草の良品5束で金貨1枚、
ドケック草の普通3株で銀貨1枚と青銅貨5枚。ホーンラビットは3匹とも
ラッキーラビットで金貨1枚と銀貨5枚ね。どうかしら」
「買取でお願いします」
買取を了承しお金を受け取ったレンカだったがリリアンさんがまだ話があると
言うので聞く事にした。
「話っていうのはね、実はレンカちゃんに指名依頼が来てるの」
「指名依頼?・・・」
突然の指名依頼に驚くレンカだった。
「レンカちゃんの薬草採取の腕を見込んでこの街の錬金術師から
指名依頼が来たって事。ギルドに卸すより高額の買取が約束された
指名依頼だけどどうする、受けてみる?」
『高額買取に錬金術師!エイミーも確か錬金術師だって言ってた・・・』
心の中で呟いたレンカははやる気持ちを抑えて返事をした。
「私受けます、その指名依頼。やらせて下さい」
「それじゃ依頼成立ね。これが依頼状よ、依頼主とその住所が
載ってるから訪ねてね」
依頼状を受け取ったレンカは早速錬金術師の元を訪ねる事にした。
載っている住所を確認しギルドのある円形広場から東門へとレンカは歩いて行く。
「広場から歩いて3番目の十字路を南北に走る東3番通りを南ね。
えーと南3番街区の北側角の店『クリスタル』はと・・・あれかな」
それらしい錬金術師の店を見つけ入ってみるレンカ。
「ごめん下さい」
「いらっしゃいませ、『クリスタル』へようこそ」
そう言って出迎えてくれたのは10代に見える赤毛の少女だった。
「私はレンカって言います。冒険者ギルドの依頼を受けて来たのだけど
錬金術師のアメリアさんはどちらに」
「あっそれ私!」
その返事を聞いて驚くレンカだった。
「意外そうな顔してるわね。ここは私のお婆ちゃんのお店なの。
いずれ継ぐんだけどね。今は錬金術師の学校を卒業してこの店で
修行中なの」
その後も色々話してくれたアメリアの話によると、彼女のお婆ちゃんは
かなり有名な錬金術師らしくその元で修行中のアメリアは自分でも
薬草の採取に行ったりするそうなのだが良い薬草は中々手に入らない
そうでレンカの存在を知り依頼を出したのだそうだ。
秘伝のレシピを受け継ぐには品質の良い素材でないと上手くいかない
ものも多く素材集めに苦労してるらしい。
「私のレベルだと森深くには行けないしね良い冒険者に依頼するのが
安全で確実だから依頼受けて貰えて嬉しい。でも意外だったわ。
あなたみたいな子だったなんて。でもよろしくね」
「私の方こそよろしくお願いします」
二人で今後の納入量と買取額の確認と納入期間を話しあった。
納入量はポイ草の良品20束、マリ草の良品5束を5日間納品する事になった。
試用期間みたいなものである。問題なければ継続取引だそうだ。
価格は冒険者ギルドの買取額の2割増しとなった。
「じゃ5日間よろしくね。他に質問あれば聞くよ」
「はい、関係ない話であれなんだけど錬金術師の学校ってどんな所なの?」
「へぇー、そんな事に興味あるんだ。一言で言えば凄い所よ。私も初めて
見た時はひっくり返るかと思ったわ。海の上に浮かぶ巨大な船に築かれた
都市ね。最初島かと思ったけど海に浮かぶ人工島、移動可能な巨大な船。
その名を『錬金都市ロンド・ノア』って言うの。その都市の中に錬金術師の
学校『錬金学園ノアズガーデナ』があるの」
「ロンド・ノアにノアズガーデナ・・・それってどこにあるの?」
「行ってみたいの?まぁあそこは観光地でもあるからね、ロンド神所縁の。
ここからだとずっと南に行くと環海という海に出るの。船で行くんだけど
環海にあるロード島のロドスギールという街から出てる定期船に乗らないと
渡れないから、まずはそこに行くのよ。懐かしいわね・・・」
『錬金都市ロンド・ノア・・・ロドスギール・・・エイミーの手掛かりが』
レンカは心の中で呟くと、ついに得たエイミーに繋がる情報に喜んでいた。
冒険者ギルドで錬金術師の指名依頼を受け訪れた店『クリスタル』で
『錬金学園ノアズガーデナ』の卒業生アメリアと知り合い
『錬金都市ロンド・ノア』というレンカの目指すべき地、
異世界冒険の目標が定まったのだった。
遂にエイミーに繋がるかも知れない情報を得て
異世界冒険の目標が出来たレンカ。
そして二人の相対位置が・・・
次回は「冒険者ギルドファイ支部」です。エイミーの冒険に戻ります。