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第14話 惑わしの森

 視界を白く埋め尽くす惑わしの霧に包まれる魔樹の森に囚われた

エイミーとロイド、そして冒険者達。今も悲鳴が森中に木霊していた。

惑わしの森と化し阿鼻叫喚の現場となった魔樹の森を覆う白いベールに

透ける影を警戒する二人に襲い掛かる魔の手。


「ロイド後ろから何か来る!」


二人の背後から襲って来た攻撃に反応して素早く細剣で打ち払う執事。


「蔓・・・でしたな今のは」


「トレント・・・でも異様・・・」


振り返ったエイミー達の前に現れたのはドス黒い色をした見た事もない

全長5メートルはあるトレントだった。


「『鑑定』、こんなの私の知識にない」



 ブルータルトレント

 種族: 魔樹(改変種)

 レベルーー

 スキル: 病原体、蔓延、蔓操術



エイミーの鑑定によって謎のトレントのステータスが露わになる。


「ブルータルトレント、改変種!?何これ・・・病原体って」


「病原体・・・お嬢様どう始末致しましょう」


「うーーーんっと。あれ使おう」


そう言ってアイテムボックスから錬金アイテム『森林用爆炎弾』の入った箱を

エイミーは取り出しロイドへ渡した。


「森林で気楽に爆炎魔法を使うためのロマン武器、1箱50セット入り3箱渡すね。

 止め差したら爆炎弾で病原体ごと始末ね。検体として蔓は確保でお願い。

 これ検体用の封印瓶だから」


「お任せあれ、これで汚染の心配も消えましたな。では」


 ブルータルトレントに向き合う執事が攻撃を仕掛けると

敵は蔓を縦横無尽に振るい攻撃してくる。それを細剣で打ち払い

左右に躱しながら上手に蔓を切り払っていく。そして魔樹へと迫るロイド。


「舞刀両断『一踏斬』、頼みましたよ『爆炎弾』」


 敵の急所である幹の顔を一撃で始末し爆炎弾を執事は炸裂させた。

『ブロォーーー・・・』と最期の雄叫びを魔樹は漏らすと

ブルータルトレントを包み込む様に結界が発生しその中を爆炎が埋め尽くす。

炎による消毒が終わった後に残ったの魔樹の消し炭だけだった。

そして確保した蔓先の検体を封印瓶に執事は念動で収めた。


「まず一体ね。他の冒険者達を救出しないといけないし病原体も何とかしないと。

 大変な事になるよね。私も戦闘準備、ロマン武器実戦運用試験第2弾!」


「装具召喚『流糸飾扇リッカ』、開扇『探リート』」


 エイミーは先端に流れる様に垂れる無数の糸飾の付いた扇子型の武器リッカを

手にすると扇を開き糸を霧に包まれる森へと四方八方に伸ばした。

そして次々と糸から伝わる情報をエイミーが精査していく。


「近い所から行くよ。ロイド私に掴まって。扇移『突ピート』閉扇」


『パンッ!』


 エイミーは執事が掴まったのを合図に『扇移』を発動し扇子を閉じると

二人は一瞬で目標とした糸の先へと移動した。

そこにはブルータルトレントに襲われる冒険者達がいた。

五人いるが二人が負傷しそれを守る様に三人が戦っていた。

霧の中では突然現れた事も気付かれる事なく二人は助けに入る。

ロイドは救援に入り、エイミーは救助に。


「助けに参った」


「どなたか存じませんが感謝いたします」


 執事は三人を守る様に前に立つと次々と襲い掛かる蔓を華麗に外へと弾き

『念動』を使い一瞬だけ縛ると一気に魔樹との距離を詰める。


「舞刀両断『一踏穿』、消毒の『爆炎弾』」


ロイド必殺の突きがブルータルトレントの顔面を貫き爆炎弾が炸裂すると

『ブロォロォーーー・・・』と最期の雄叫びを上げ魔樹は消し炭と化した。


「助かりました。本当にありがとうございました」


「スゴいのねオジさま、ほんと助かりました。生きた心地しませんでした。

 最後のあれは一体?」


「間に合って良かった。最後のは我が主人の取って置きですな」


 その頃エイミーは二人の手当てをしていた。傷口から血の検体を取る為に

吸血検査器『ブラッドバットン』を取り出し血を採取する。

簡易検査モードで異常を示す検体。


「大丈夫心配しないでね。血の検査の為の検体取っただけだから。

 あのトレントは特殊で病気持ってるかもしれないの」


「えっ!病気?」


「念の為の検査ね、周りに感染する病気かもしれないから。

 でも安心して私ね錬金術士で治す薬もあるから。これ飲んで」


出来るだけ心配させない様に言って万能薬を二人に与えるエイミーであった。

万能薬によって傷口は塞がったがあとは病気の状態次第であった。

しばらく待ってもう一度血の検体を取り簡易検査モードで見ると

検体の異常は消えていた。


「病原体は消えて治ったみたい。薬が効くと分かって安心したよ」


「本当にありがとうございます」


二人からお礼されているとロイドと他のメンバーがやって来る。


「こっちは無事終わったよ、ロイドもご苦労様」


五人の代表らしい女性が話し掛けて来た。


「負傷した二人まで助けて頂きありがとうございます。

 私達はファイのCランク冒険者パーティー『アマゾネス』と申します。

 私が代表のリンダです。後でお礼がしたいので連絡先とお名前を

 教えて頂けないかしら」


「私がエイミーでこっちがロイドね。今私達は錬金術師のタッカールさんに

 お世話になってるの、しばらくはそこに居るつもりだから。

 それと念の為三人もこの薬飲んでね。あの黒いトレントは病気になる

 可能性があるの」


「病気・・・」


そう言って顔を見合わせる三人にも万能薬を飲んでもらい

この場を後にするエイミーとロイド。


「『アマゾネス』の皆さんは霧が晴れるまでここを動かない様に。

 私達が元凶を叩くのでそれまで待ってて下さい。それとこの霧の

 注意点として前に影が見えたら本当は後ろに居ます。

 それじゃ私達は行きます」


「本当ありがとうございました。タッカールさんとこで会いましょう」


 エイミーとロイドは『アマゾネス』と別れると再び扇子リッカを使い

ブルータルトレントと冒険者を探しては『扇移』で救助に行く。

魔樹の森を跳ぶ事20回にして漸く冒険者の救助は終わった。

最後の救助でエイミーはかなり魔樹の森の奥深くへと来た感じがしていた。

そして『探リート』が伝えて来る最後の敵の気配、霧の発生源の

可能性の高い場所。


「ロイド、次の場所が最後にしてこの事件の核心だよ。

 準備いい?扇移『突ピート』閉扇」


 最後の糸の先へと瞬間移動した二人が見たものは直径100メートル程の

円形にドス黒く汚染され草木の枯れた森の中心に蠢めく一本の魔樹。

全長30メートルはあろうかという巨樹のブルータルトレントだった。

エイミー達は咄嗟に念動飛行で空中に舞い上がり様子を伺う。


「今まで倒したブルータルトレントとは違うね。『鑑定』」



 ブルータルトレントマザー

 種族: 魔樹(改変種)

 レベルーー

 スキル: 病原母体、蔓延、蔓操術、果実弾、魔樹分体、幻惑霧



「これがマザー・・・惑わしの霧の元凶、病気の母にして改変種の母」


「この魔樹が大元ですな」


「ロイドがメインの攻撃、私は支援攻撃で行くよ。

 リッカ開扇『絡ミート』」


 ロイドは飛行しながらマザーへと迫るがそれに気付いた魔樹は

無数の蔓を使って攻撃してくる。それを邪魔する様にエイミーの放った

糸が絡み付き執事への攻撃を妨害する。

マザーはさらに蔓を増やしロイドに攻撃を浴びせてくる。

それを細剣で払い除け、念動で捻じ曲げ敵の懐へ潜り込んだ執事。


「これでどうですかな『千踏斬』」


 ロイドの斬撃がマザーを襲うが顔を守る様に幾重にも蔓が覆い紙一重で躱した

 魔樹は反撃の果実弾を放った。


「リッカ開扇『粘リート』」


 エイミーの放ったネバネバの糸が果実弾に粘り付き敵の攻撃を緩和する。

 その隙に残りの果実弾を切り払って抜け出すロイド。


「中々に厄介ですな」


「連携で決めるよ」


「分かりました」


ブルータルトレントマザーは3体の分体を産み出し守りを固めてくる。


「うわー厄介ね。まず分体を始末しないと。開扇『縛リート』」


まず一体を糸で縛り上げ自由を奪うエイミー。


「開扇『斬リート』からの『爆炎弾』」


 自由を奪ったブルータルトレントに鋭利な刃と化した糸で急所の顔を

斬り刻んだあと爆炎により始末したのだった。

ロイドも一体の始末を終えたところだった。残り一体となった分体を

守る様に果実弾による支援攻撃をマザーが仕掛けてくる。

マザーの眼は怒りに燃えている様だった。

それに合わせる様に分体も蔓による攻撃を激しくする。

ロイドは上手く躱し反撃のチャンスを狙っている様だ。


「ほんと面倒な敵。あの果実弾を何とかしないと。

 開扇『粘リート』よ『()ミート』となりて敵を捕らえよ」


 エイミーはネバネバの糸を網状に広げマザーの枝葉を覆うと

マザーの果実弾の攻撃が止んだのだった。必死にネバネバの網を

振り払おうと巨体を揺らす魔樹。

その隙にロイドが残り一体のブルータルトレントを始末するとそれを見て

網を振り払えぬと知ったマザーは顔面を蔓で覆い尽くし幻惑霧を吐き出す。

より濃い霧に包まれ一帯の視界が閉ざされるとどこからともなく蔓が

二人に襲い掛かる。四方八方から来る魔樹の攻撃を上に下に縦横無尽な

動きで躱していくエイミーとロイドであった。

そして蔓の後を追ってみてもそこには何もなくマザー本体は完全に霧の中に

隠れてしまっていた。霧に惑わされ考えるエイミー。


「早く終わりにしよう、もうっ!開扇『探リート』、ロイドこの一回で

 決めるよ。捕まって扇移『突ピート』閉扇」


「お任せ下さい」


『パンッ!』


 エイミーは『探リート』でマザーの場所を探り当て二人でそこへ跳んだ。

突然の目の前に現れた二人に驚いた様なマザー。


「リッカ開扇『絡ミート』突き破れ『気扇弾』5連射ーーっ」


 マザーの蔓を絡み付く糸が妨害しエイミーの扇子5振りにより

リッカから産み出された圧縮空気弾5発が魔樹の急所へ爆速で跳んでいく。

そしてその5発の後を追う様にロイドが飛んで行く。

マザーの蔓による防御も『気扇弾』により切り開かれ幹を守る蔓も削られる。


「魔樹よ散れ、念刀両断『裂細剣』」


『ブリョリョォーーーーーーーブロォッ・・・』


蔓による防御を砕かれ不可視の力で顔面を引き裂かれたマザーの最期の叫びが

魔樹の森に響き渡った。マザーの終わりと共に惑わしの霧が次第に晴れていく。


「やっと終わったーーーっ。マザーの検体採取して後は焼却消毒」


 エイミーは検体採取を終えるとロイドと共に巨木を小さく切り刻み

何回かに分けて『爆炎弾』で焼却していくのだった。

穢れたドス黒い森を見渡すエイミーはアイテムボックスから浄化水を

放出し撒いていく。


「取り敢えずこれで処置は完了かな。後でまた見に来よう。

 ロイドお疲れ様、帰ろうか」


「はい、お嬢様。丁度夕食の頃合いかと」


 エイミーとロイドは安堵の表情で魔樹の森を出て帰路につくと

惑わしの森から解放されて続々と出てくる冒険者達の姿があった。

静けさを取り戻した魔樹の森と無事帰還を果たし歓喜に包まれる

冒険者達と二人の姿を夕陽が照らしていた。

魔樹の森で謎のトレントと戦ったエイミーとロイドは

改変種という新たな謎に出会したが二人の冒険は小休止です。

次回は「レンカと錬金術師」です。レンカの冒険になります。

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