第11話 使徒メッターリエール
メロアの争乱に現れた土偶ゴーレムを殲滅するエイミー達の前に
突如として現れた正陽神教団の使徒を名乗るメッターリエール。
新たな敵の登場にエイミーとロイドは大きな予兆を感じていた。
「正陽神教団なんて聞いた事ないんだけど」
探りを入れてみるエイミー。
「今知らなくとも恥じる事はありません。偽りの神はいずれ世界から消え
我が正陽神教が世界に遍く広がり人々は正しき神に導かれる。正陽神教団は
その先駆けなのですから」
使徒メッターリエールはそう言うと魔法状を前に構えた。
月を翳していた雲が晴れ月光が三人を照らしている。
「跪け!・・・」
エイミーとロイドに『圧』の様なものが掛かるが『念動』で軽くはね除け
何食わぬ顔で立っていた。
「・・・神の威圧が効かぬとは流石はSランク。良き勉強となりました。
実に甘い、真に不愉快。ゆえに天罰を与える。聖霊よ我に力を!」
二人は呆れたように使徒を見ていたが、白い魔法状は使徒の呼び掛けに
応える様に光に包まれると空間に漂う様な液体に変異していた。
「聖霊アメータル、敵を喰らい尽くせ」
二人を呑み込まんと謎の液体が口を開けるように広がり襲い掛かってくる。
それを素早く躱し上空へと舞い上がるエイミーとロイド。
二人の立っていた甲板はパクリと呑み込まれ穴が空いていた。
「あれが聖霊?・・・しかもアメーバ型の聖霊、何か液体金属ぽいかな。
だとすると変幻自在の攻撃に要注意ね。ロイドやれる?」
「お任せ下さい。聖霊と言えど斬り伏せて見せましょう」
ロイドは再び甲板に降り立つと細剣を構え聖霊の様子を見ていた。
アメータルはウネウネと体を畝らせながら今にも襲い掛らんとしている。
「今度は逃しませんよ。喰らい尽くせ『津波喰い』」
聖霊アメータルが大きく広がり津波の様なうねりでロイドに迫る。
高くて上から呑み込む様な波の攻撃が執事に迫るが『念動掌』にて
波を押さえ付け時間を稼ぐ執事。
「念刀極断『極裂細剣』」
ロイドの不可視の力を帯びた斬撃が津波と化した聖霊アメータルを切り開いていき
その隙間を抜ける様に脱出すると続け様に剣技を放った。
「切り刻め『極滅細剣』」
横薙ぎに振るわれた一閃の後を追う様に聖霊津波が細切れにされていくが
そこから逃れる様に何かが分離しメッターリエールの元へと飛び去った。
その様子を逃す事なく遠くから観察しているエイミー。
聖霊を追うようにロイドは使徒へと間合いを詰めると斬撃を繰り出す。
「散れ!『極一踏斬』」
「我を守れ『疾喰い』」
舞い戻った聖霊が使徒を丸呑みすると執事の斬撃を躱し素早く間合いを取る。
聖霊から吐き出される様に現れたメッターリエールは渋い顔をしていた。
「実に忌々しい、Sランク冒険者が聖霊にこれほど抗えるとは・・・
が、しかし倒す事は叶いませんよ。我が聖霊は不滅、あなた方を待つのは死滅。
精々抗うがいい最期の時まで。喰らい尽くせ!『捕み喰い』」
聖霊アメータルは体から何本もの触手を生やしタコの様に襲い掛かる。
ロイドを捕まえようと『グニョーーン、グニョーーン』と次から次へと伸びて
絡みついてくる触手を細剣で打ち払い、『念動掌』で払い除け躱し続ける執事。
さらに触手を増やし絡め取ろうとしてくるアメータル。時折触手による刺突を
織り交ぜ喰わんと攻撃してくる聖霊。それに更なる瞬足の舞で応えるロイド。
一進一退の攻防が続いていた。
「中々に手強く、楽しめますな。邪魔な触手には一旦お引き取り願いましょう。
『極滅細剣』!」
アメータルの触手を払う様に放たれた一閃で執事を絡め取ろう蠢いていた触手は
全て細切れにされ消えた。そこへそれまで静観していたエイミーが一条のビームを
聖霊に向けて撃ち放つ。そして敵の動きを『透視』により観察していた。
『そういうことね・・・』
『どういう事ですかなお嬢様』
『今までの戦いで気付いた事を確かめて見たの。聖霊には核があって
液体状の体の中を動き回ってる。さっきの攻撃も躱された』
『という事はその核を仕止めれば良いのですな』
二人がそんな念話をしてる時、使徒は怪訝な顔をしていた。
「まさか聖霊核の存在を見破られたか、それとも偶然か実に不可解、真に不愉快」
そんな事を呟き不敵に笑みを浮かべるメッターリエール。
「どうでもいいですねそんな事。時は満ちた、喰らい尽くせ『共喰い』!」
使徒が聖霊アメータルに命じるとアメーバ状の体が次第に人型へと形を
変えていき最後には驚く事にロイドそっくりな姿へと変わった。
「オーっ、漫画やアニメでありがちだけど生で見ると新鮮!」
「いやはや中々に愉しませてくれる」
そんな事を呟いてるエイミーと楽しそうなロイドであった。
「さぁ自分に喰われる恐怖をその身で味わうがいい」
使徒の掛け声を受け偽ロイドが偽細剣を構えロイドに迫る。
//極裂細剣//
執事は『念動』を込めた細剣で受け流してみると敵の細剣からは
『念動』の様なものは感じられず『威圧』伴う剣撃に変わっていた。
「完全なコピーは無理な様ですね。ですがこれはこれで侮れませんが」
そう言って返す刀で敵の横合いから斬撃を繰り出すと華麗に躱す偽者であった。
「面白い。私の防御を私の剣技で破れるか」
「Sランク冒険者とはやはり変わっていますね。いずれ力尽き喰われる
運命だというのに。実に面白い、真に愚か。聖霊よ喰らい尽くせ!」
使徒が命じると今度はロイドを喰らわんと偽ロイドは腕が左右に2本づつ増え
6本腕になり6本の細剣で攻撃を仕掛けてくる。
//極滅細剣//
6本の細剣を使い回転斬りの様に繰り出された一閃がロイドに襲い掛かり
執事はその剣圧を押さえきれず川へと吹き飛んで行った。
「ロイドーーーーーッ!」
叫ぶエイミーだったが執事は何食わぬ顔で水上へと浮き上がり水面に立つと
偽ロイドを見詰めていた。
「久しぶりで御座いますな、この様な一撃は。お嬢様心配ご無用にて
これで準備運動は終わりと致しましょう」
「強がっても無駄ですよ。あなたはもう終わりです。さっさと喰らって
次はあの女の番です。実に愉快、真に最高!聖霊よさらに喰らい尽くせ」
メッターリエールはこれ以上ない笑みで聖霊に呼び掛けるとそれに応える様に
偽ロイドは身長4メートル程の巨人へと巨大化した。
ロイドは剣を鞘に納めると母艦上の聖霊に攻撃すべく超速で跳躍する。
執事が超速で接近する間も聖霊は巨体を利用した苛烈な斬撃を放ってくる。
//極一踏斬//
偽ロイドの6本腕から次々と繰り出される飛ぶ斬撃を紙一重で躱していく執事。
余りの剣圧に傷が刻まれるが自動で修復されいく体。
そして遂に敵の間合いへ飛び込み斬撃の間を縫う様に渾身の一撃を浴びせる。
「成心一踏『極千踏閃』」
執事の居合いの一閃が偽ロイドに襲い掛かる。それを敵は6本の剣で
防ごうとするが押さえ切れずに吹き飛んでいく巨体。それを横目にしつつ
ロイドはメッターリエールに再び迫る。時を同じく偽ロイドの巨体から
何かが抜け出し使徒の元へ戻ろうとしていた。
それを待っていたかの様に執事は振り向き樣にその何かへと渾身の一撃を放った。
「聖霊よこれで終わりです。『極滅細剣』!」
『キョエェエェエェーーーー・・・』
ロイドの見事に聖霊核を捕らえた一撃により聖霊は最後の雄叫びを上げ
金色に舞い輝く塵を残し消えたのだった。
「あり得ぬ・・・実に非現実、真に許されざる・・・」
そんな事を呟いているメッターリエールに向けて最後の一撃を見舞う。
「使徒よさらば!『極一踏斬』」
ロイドの必殺の斬撃を受けたメッターリエールは血飛沫を上げ倒れたのだった。
倒れた使徒はまだ息があるのか何かを呟いていた。
「まさ・・か・・・か・・みよ・・おゆ・・・・・い。わ・・がみ・・・・・・。
『三位一体』」
使徒メッターリエールは最後の力を振り絞り神へ祈ったのだった。
彼の肉体が薄っすらと光を帯び始める。
「うん、これは駄目な奴だ・・・ロイド!今からそいつを『念動掌』で
街の外の出来るだけ遠くへぶっ飛ばすから力貸して!」
危険な兆候を捉えたエイミーに従いロイドが力を合わせ思い切りの念を込める。
『「『念動掌!』ォーーーーーーーッ」ーーーーーッ』
『ヂュドゥオーーーオォーーーーーーーーーーーーンッ・・・・』と爆音を立て
遠く西の彼方へと飛んで行く使徒メッターリエール。それを追う様に空を駆ける
金色のサラサラとした物体。
「行くわよロイド」
「はいお嬢様」
エイミーはロイドを伴い使徒の後を追いメロアから遠く離れた西の砂漠の砂丘へと
激突していたメッターリエールを見つけ事態を見守っていた。
使徒を追う様に舞っていたサラサラの金色の物体が彼の肉体に吸い込まれていく。
「これは悠長に構えてられないわね。集結せよオーベンカ。
神装現界オーベンカ神性攻撃『雷光鞭トール』」
エイミーは来たる事態に備え雷光鞭トールを構えていた。そして今も様子を
変えていく使徒を見守っていた。
「あの金色のサラサラした物体は聖霊の霊体みたいなものかしら」
「不滅とはこういう意味でしたか・・・」
メッターリエールに聖霊の霊体が入り込むと肉体は銀白色のオーラに包まれ
人間らしさは消え液体金属の様に波打ち体色も銀白色へと変わっていく。
そして変化が収まりスーッと立ち上がった姿はまるで銀白色の彫像であった。
「人からローマ彫刻へ変身するなんて面白過ぎる展開ね。しかもこの感じ
2000年振りかしら。意外な展開で出くわすなんて」
立ち上がりこちらを見ている銀白色の彫像が語り掛けてくる。
「私は遂に神の御前に仕える栄誉を賜りました。
これから神の御使いとして世界を導く存在。
我が名は『天使アメータリエール』。今より其方らに神罰を与える」
砂漠に彫像の様に立つ天使アメータリエールとして甦ったメッターリエール。
その只ならぬ雰囲気に戦意を高めるエイミーとロイド。
月夜の砂漠はかつて神と呼ばれた者と天使との闘いに緊張してるかのように
サラサラと砂を震わせていた。
今週の投稿はこれで終わりです。読んで下さった方々ありがとうございます。
使徒と聖霊アメータルを倒したロイドたちであったが
エイミーたちの前に新たに立ちはだかる天使アメータリエール。
次回は「神と呼ばれし者」です。お楽しみに!