第10話 闇夜の闘い
タリアに交易都市メロアの危機を伝えられたエイミーとロイド。
二人は街から避難せずにメロア東地区へ向かうと争乱で姿を現した敵の正体、
異端者と土偶ゴーレムの繋がりを知る事に。そして土偶ゴーレムを殲滅すべく
乗り出すエイミーとロイドであった。
メロアの領主の宮殿はサハール川沿岸に築かれ北は宮殿施設があり
南に広大な庭園が広がっていた。そしてそれらを囲む様に城壁がある。
近くまで飛んで来たロイドは宮殿の南にある門を塞ぐ形で展開する
数体の土偶ゴーレムを目標に定めるとそこへ舞い降りた。
門は既に破られ敵は中に侵入している様子であった。
「闇夜に散れ、『舞刀極断、極一踏斬』」
バトルモードに移行した執事の極みの斬撃が容易くゴーレムを一刀両断した。
そして華麗に舞うように一体また一体と続け様に倒していくロイドであった。
突如数体の土偶ゴーレムを失い驚いている敵兵達が謎の敵に気付くと
襲い掛かって来た。
「何奴!我らに歯向かうとは、この神敵めっ」
「・・・」
斬り掛かって来る敵兵を憐れむ様に見詰めるロイド。
「『念動掌』、あなた方は寝ていなさい私が土偶共を始末するまで」
『ウグッ、ウグッ、ウグッ・・・』と次々に倒れていく敵兵達。
この場にいた全ての敵兵の意識を『念動掌』で刈り取ると宮殿の城壁を左手に
見ながら周囲に展開する土偶ゴーレムを殲滅すべく駆け出すロイド。
敵が異変に気付きこちらに迫っている様だ。
「これは好都合、飛んで火にいる夏の虫とはこの事ですな」
『キュイ、キュイ、キュイーン』と首を左右に回転させロイドに反応しゴーレムが
ビームを放つがそれを細剣で受け飛ばし『極一踏斬』で撃破する執事。
それでも次から次に襲い掛かるゴーレムたち。
『グイーンッ』とパンチが伸びてくるが舞う様に躱し生温いとばかりに切り落とし
ゴーレムを始末して行くロイドであった。
「数だけあっても彼我の差は埋められぬものよ」と呟く執事。
宮殿内は今も戦闘が続いてる様だ。ゴーレムのビームの発射音と兵士の
悲鳴が中から聞こえてくる。そしてこちらにも迫る敵。
ビームがロイド目掛けてあちこちから飛んで来るが無駄とばかりに
華麗に躱し敵ゴーレムを次々と仕留めていく。すると一旦距離を取る敵。
土偶ゴーレムが作戦を変えたのかロイドの周囲を囲むように展開し
『ウイーンッ』とシールドの様なものを展開し始めた。
「何をするつもりですかな?」
全身にパワーを漲らせるロイド。
「薙ぎ払え、『極一踏扇』」
『ウィウィウイーンッ』と何かを狙うゴーレムたちは執事の放つ円を描く様に
舞った横一閃の斬撃によりすべて斬り伏せられていた。
その瞬間『ズドーン』とロイドを飲み込まんとゴーレムたちは爆発した。
ただ前回とは違い小規模な爆発を数だけ用意した感じの爆発だった。
「最期は捨て身の自爆ですか・・・」
念動飛行で上空へと脱出した執事は憐れむ様に見下ろしていた。
「宮殿周囲の土偶共の駆除は終わりましたな」
上空を吹き抜ける風がロイドを労う様に撫でていた。
エイミーは大聖堂の上空で辺りを見回していた。既に戦闘は終わった後の様だが
大聖堂前の大広場には土偶ゴーレムが集結していた。
「これは好都合だね。3条防壁2面展開、15条は攻性光子砲、3条は攻性雷光刃を
展開殲滅!」
一辺1メートルの正三角形のシールドが左右に展開し、大広場に舞い降りた
エイミーは『雷光刃』にて周囲にいた数体を斬り伏せる。
『キュイ、キュイ、キュイーン』敵ゴーレムがエイミーに反応し攻撃してくる。
ビームを放とうとするが15条の『光子砲』がいち早く反応し空中を縦横無尽に
動き回りながらビームを放ちゴーレムを次々と沈めていく。
「数だけは居るからね、もっとド派手に行く手もあるかな」
大広場を高速移動しながらエイミーはそんな事を考えていた。
「何が起きてる。これは何だ・・・」
混乱振りが窺える敵兵の声が遠くから聞こえてくる。
近くにやって来た敵兵は『念動』でサハール川へ投げ込んでいくエイミー。
『うわーっ・・・ドボン!』と敵兵の悲鳴が聞こえている。
その間もゴーレムの攻撃は止む事はなく『グイーンッ』と飛んで来たパンチを
時には躱し時にはシールドで弾き敵を光の剣で斬り刻みながら進んで行く。
それにも屈する事なくエイミーに迫ろうという土偶ゴーレムたち。
「15条の『攻性光子砲』よ我が周囲に環状展開し連続一斉攻撃!」
『ビュイーーーン、ビュイーーーン、ビュイーーーン・・・』と
15条の『光子砲』がエイミーの周りを回転しながら連続一斉攻撃により
次々と辺りのゴーレムを沈めていった。
大広場に吹く風がゴーレムの残骸から立ち込める煙をたなびかせていた。
エイミーは頃合いと見て瞬時に上空へ念動飛行により舞い上がる。
土偶ゴーレムは敵を見失ったのか『キュイ、キュイ、キュイーン』と首を回転させ
エイミーを探している。
「集結せよオーベンカ、神装現界オーベンカ神性攻撃『雷光鞭トール』」
エイミーの手にあるオーベンカは神装の『雷光鞭トール』へと変わっていた。
真の姿を現したオーベンカを土偶ゴーレム目掛けて威力抑えめで振りかぶる。
「轟け雷光鞭トール『小天地爆雷』!」
『ズドドドドドッガーーーーン』と雷鳴が響き渡る。
巨大な稲妻の鞭が大広場を蹂躙するとそこにいたものは全て灰塵と化した。
その威力はメロア東地区が地響きを上げ揺れるほどであった。
稲妻が薙いだ後の大広場に土偶ゴーレムの姿は確認出来なかった。
「そう言えばこの争乱の起き始めから街を覆う様に結界張られてたっけ。
邪魔だから消えてね」
そう言って天に向かって雷光鞭トールを打ち放ったエイミー。
天を呑み尽くす様な雷が雷鳴と共に夜空に走ると『パリンッ!』と
何かが割れた様な音が街に響き渡り、異端者共が住民を閉じ込めるために
仕掛けた結界は脆くも崩れ去った。
「取り敢えずここは駆除終了っと。解装オーベンカ、散開せよオーベンカ。
3条防壁2面展開、15条は攻性光子砲、3条は攻性雷光刃にて待機」
そよ風を浴びながらエイミーは元の戦闘態勢に戻り上空から状況を確認していた。
そこへ宮殿の庭園内の土偶の処理を終えたロイドが帰って来た。
「お嬢様先程のは?流石にやり過ぎかと存じます・・・」
「そっちは終わったのね。あれはね・・・ロマンに負けちゃった。テヘッ」
舌を出し「今度から自重する」というエイミーであった。
メロア東地区上空に留まる二人はサハール川上流の方を見ていた。
「あれ何かな?」
「船ですかな。大きいのが3隻程かと」
「怪しいから確認しようか」
船の上空まで行くとそれははっきり見えた。全長80メートルの母艦と
その甲板上に整列する土偶ゴーレムの姿が見える。
「まだ居たのね。それに母艦まで用意してるなんて」
「これ程までの戦力を持つ異端者とは?」
「行くよロイド、1隻残して始末ね」
二人は土偶ゴーレムを積載した敵母艦へと急襲を掛ける。
ロイドは先頭を航行する母艦に乗り込むと静止してるゴーレムを一体また一体と
『極一踏斬』で斬り伏せていく。動き出すゴーレムもいるがお構いなしに
始末していく。突然の事態に母艦の水兵たちが甲板へと湧き出て来る。
「終わりましたな・・・ではさらば『極一踏扇』!」
水兵の存在など気に留める事なく置き土産のように放たれた強烈な一閃が
船の胴体を横薙ぎに切り裂き船は二つに分かれ沈んで行く。
慌てて川へ飛び込む敵水兵たちの姿を上空で見詰めながら次の獲物を目指し
飛んで行くロイドであった。
『ドカーン!』、『ビュイーーーン』、『スパーーン!』、『ガシャーーン』と
こちらの母艦ではエイミーが殴って撃って切り裂いて、蹴飛ばしては撃ちまくると
無双状態で暴れ回っていた。『念動』を込めた拳を最後の一体にブチ込むと
胴体を陥没させながら吹き飛び艦橋へとめり込んだ。
『パン、パン、パンッ』と手を叩くエイミー。
「たまにはこういうのも有りね。最後はこれでオシマイ『念動波』!」
掌を甲板につき気合一閃の波動を送り込むと母艦の胴体は『ポッキリ』と
折れ曲がり川に沈んでいく。そしてワラワラと逃げ出す水兵たちを眺めながら
次の母艦へと翔ぶエイミーであった。
最後に残った母艦で落ち合ったエイミーとロイドが甲板上の土偶ゴーレムを
片付けると突然拍手が聞こえて来た。
「ブラボー!実に素晴らしい。神に刃向かう愚か者共よ。まさかこの街に
Sランク冒険者がいたとは。実に計算違い、真に腹立たしい」
的外れな事を言う相手を見詰める二人。
『何者かしら・・・偉そうだから偉いのだろうけど』
『好きなだけ喋らせて情報を得るのがよろしいかと』
相手に分からないよう念話を使い様子を伺うエイミーたち。
プラチナのローブに身を包み右手に白い魔法状を構える男は二人を睨みつける。
「あなた方も私と出会ってしまったのは失敗でしたね。実に運がない。
真に人生の終わりとはこんなものですよ、いつもね」
そんな事を言う相手に警戒を強める二人。
「あなた一体何者?」
「これはこれは失礼しました。名乗りもせずに殺してしまうところでした。
実にいけませんね。私は正陽神教団が使徒メッターリエールに御座います」
突然現れ不敵に笑う正陽神教団の使徒と名乗るメッターリエール。
そんな使徒と甲板上で対峙する余裕の表情のエイミーとロイド。
月明かりが雲に呑まれ闇に閉ざされた三人の舞台は決戦の幕開けを
待つかの様に雲が晴れるのを待っていた。
これまでインリーバ村の謎を追っていたエイミーとロイドの前に
遂に姿を現した正陽神教団とその使徒。風雲急を告げる二人の冒険。
次回は「使徒メッターリエール」。