第9話 街を覆う闇
大聖堂で異端者と言う新たな情報を得たエイミーとロイドは今レキシーと共に
事情聴取と言う面倒な事に巻き込まれていた。
あの後あの場所に立ち止まっていたのが失敗だった。ナオミご一行様が
ゾロゾロと戻って来てそのまま連行される形で今に至っている。
「本当にこれをインリーバ村で見たのだな」
「はい・・・」
目の前にいるのは陽神教のメロア大聖堂守護騎士団の副団長らしい。
同じ事の繰り返しがずっと続いている。もう昼くらいかなと感じる
エイミーだった。だがそれは突然幕を閉じる事に。
一人の騎士が入って来て副団長に耳打ちした。
「お前達帰っていいぞ、協力感謝する」
突然の変わりように驚く三人だったがやっと解放されると思うと
嬉しくて仕方なかった。言いたい事はあったがそれは言わずに
黙って大聖堂をあとにした。
「レキシーさんこんな事になるなんて本当にごめんなさい」
「私も何が何だか分からなくて・・・でも解放されたし気にしてないわ。
元気出してエイミーちゃん、にしてもあのシンボル相当やばいものみたいね」
「インリーバ村に関係ある事だから調べたけど関わらない方が良さそうね」
「あなた達はそうしなさいね、私達はまた関わるかもだけど注意するわ」
エイミーは暫く死んだふりを演じるつもりだった。ただ他人を巻き込むのは
要注意だと思っていた。
ロンド巨神橋を渡り西地区へ戻るとお昼はレキシーさんお勧めのお店で
ご一緒する事になった。港大通りを進み途中の小路に入っていく彼女の後を
二人でついて行くとその店に着いた。
「ここよ、入って」
そこは『サハールカリン』という食堂だった。
「いらっしゃいませ、あらレキシーじゃないの。
お友達連れてきてくれたの、いつもありがとう」
お店の店長さんだろうか、レキシーは常連さんらしい。
店の中に入るとエスニックな感じのお店だった。
「エイミーちゃんここはカリンが美味しいお店なの
お勧めはグリンカリンね。一皿銀貨1枚よ」
「それじゃ私グリンカリンで、ロイドは?」
「ではお嬢様と同じものを」
「グリンカリン3つね店長」
注文が済んで待っていると店員さんが料理を持ってきた。
テーブルに並べられた料理を見てエイミーは思った。
『これはあれだ・・・』
レキシーが食べてみてと勧めてくる。
『やはりあれだった。地球のグリーンカレーだ』
声に出さずに味わっているエイミー。これはあれだ。
「美味しいね、これ」
「でしょう!ここのは最高なのよ」
まるで待ってましたとばかりに反応するレキシーだった。これで正解だ。
その間ロイドは黙々と味わっていた。気楽なものである。
食事をしながら取り留めもない会話を楽しんだ三人はこの後
別行動する事になった。慌てて帰っていくレキシーに
何があったのだろうと思う二人だった。
「昼からはヒイロンの情報集めね。商人ギルドへ行って聞いてみよう」
「参りましょうお嬢様」
早速商人ギルドへ向かう二人。到着すると中に入り受付へと向かうと
閑散としていたので待つ事なくシャルラのいるところへ向かった。
「ようこそエイミー様。今日はどういうご用件でしょうか」
「シャルラさん情報が欲しいのだけど。例えば交易関係で取引出来そうな街や
村、そこまでの道行なんかの情報など」
「それでしたらここ商人ギルドの2階の図書室をご利用されると簡単な情報が
手に入りますね。図書室の利用料として一人1時間銀貨3枚頂いております。
延長は1時間追加毎に銀貨1枚となります」
「よしっ!じゃ2時間、二人分で」
「図書室利用料として銀貨8枚となります。時間前にお声掛けしますので」
エイミーとロイドは利用料を支払うと2階の図書室へと向かった。
ドアを開け中に入ると図書室は2階の3分の2を占める広さであり
書架が並び本が棚狭しと並んでいた。
「やる気出して2時間で終わらせよう。地理や地誌に博物誌、冒険記なんか
あるといいけど。時間あれば歴史。ただ現王朝史は優先かな」
「お任せ下さいお嬢様」
二人で何があるか分からない書架を探していく。色々それっぽい物を
取り出しては内容を確認するが外れだった。するとエイミーは
思い掛けない本との出会いを果たす。
「『マリハロール環海案内記』・・・マリハロールってまさか」
『マリハロール環海案内記』の内容を確認するとやはりそうだった。
「ロイド、この本凄いよ。タリアのご先祖様の書いた商人の旅の記録だよ。
ここメロアからサハール川を下って環海に出て環海の諸都市を巡る貿易の旅の
記録。凡そ100年前の記録だけど参考になるはず」
「こちらにも御座いました。『マリハロール遠征記』という50年程前の
戦争の商人の随行記ですな。これもご先祖様の記録でしょう」
エイミーはパラパラと本を捲ってみた。
「やっぱそうか・・・ヒイロンはもう無いんだ。ヒロイーズに代わってる」
二人が読んだ本から分かった事はサハール川をここメロアから下ると
緑都ファイ、旧都ジェド、主都ヒロイーズが有りそこから環海を東周りに
船で出航して中継都市ウガリッサ、ここまでが今居る国ギュークス王国だった。
「私たちギュークス王国に居たんだね。聞くに聞けない事だから分かって
良かったよ」
「そうで御座いますな、聞けば怪しまれます」
そして50年前の戦争で手に入れたウガリッサより船で東へ湾奥に進むと
アッサカサムー帝国の旧都アッサカサムーがある。
またウガリッサから船で北東へ進むと大陸から突き出た半島があり
その先にベニエス王国の港湾都市ブロスバイナ、陸沿いに北へ進むと
陸を割るように海峡がありそこにベニエス王国の首都ロスールがある。
そして更に北上すると港湾都市ジトリュートが有り、そこから西北西へ
環海を横断すると案内記の最終地ロード島のロドスギールに到着する。
そこまでがベニエス王国の領土であった。
「環海沿いの南と東の状況が分かったのは大きな収穫だね。私の2000年前の
記憶との相違も整理がつくしこれからの旅の予定も立つね」
残りの書架も探して行くと最近のメロアの貿易相手について記された資料も
見つかった。
「ふーん、取引相手にベニエスやアッサカサムー。国は続いてるようね。
情報としての不安材料は消えたね」
「それでこれから如何なさいますか」
ロイドがそう言った時『バタンッ、スタスタスタスタスタッ』と誰かが
図書室へ入って来た。
「タリア・・・どうしたの?」
「エイミーいた・・・探したのよ」
「ホントどうしたの?」
タリアは大きく息を吐くと驚くような事を伝えて来る。
「今から大事な事を話すから聞いてね。急な事だけど私達家族は今日メロアを出て
北の街へ向かうわ。名目は家族旅行も兼ねた出張ね。でも本当は違うの。
大きな声じゃ言えないから、よく聞いてね。近いうちにメロアで良く無い事が
起きるらしいと情報が入ったの。だからあなたたちも出来るだけ早く街から
出た方がいいわ。私からの忠告よ。それとこれ渡すわ」
「何?一体どう言う事・・・」
「兎に角そう言う事だから早く街を出るのよ。分かったわね!」
タリアはそう言うと助けて貰ったお礼だからと旅の軍資金として金貨200枚を
置いて急いで帰って行った。
「お嬢様どうなされますか」
「そうね・・・」
考え込んでるエイミー、それを静かに見守る執事。
「メロアがどうなるか見てから逃げよう。私たちなら簡単だから。
何が起きたか分かればこれからどう動けばいいかも最善の手が打てる」
「流石はお嬢様」
「今から臨戦態勢ね。帰るよロイド」
二人は急いで宿屋『水蓮』に戻ると受付で夕食の予約を済ませ部屋へと向かった。
そして今日も豪華なディナーを美味しく頂いたエイミーは追加のデザートに
日本のスイーツを執事に用意させていた。
「このモンブラン美味しい!栗に拘ってるだけあるよね」
嵐の前の静けさの中、某有名店の味を堪能しているエイミー。
既に日は暮れメロアは闇に包まれていた。
そんな中、リビングルームからテラスへ出て街を眺める二人。
「今日はもう何も起きないのかな?」
「お嬢様それはフラグで御座います・・・」
「フラグは必要でしょ、フフフッ」
「・・・」
その時だった。『ドーンッ・・・ズドーン!』まるでフラグを待っていたかの様に
遠くから爆発音が聞こえてきた。
『水蓮』のテラスから川の向こうに見える東地区が真っ赤に燃えている。
「タリアの言ってた事が始まったね。ロイド行くよ」
二人は闇夜に紛れるように念動飛行で夜空へ舞い上がり飛び立った。
「橋は封鎖されてるようね。それに街を覆う結界」
「街から人を出さぬつもりかと・・・」
更に空を進んで行く二人の眼下に大聖堂の様子も見えてくる。ここは既に
占拠されてる様だ。大聖堂前広場に軍隊らしき物が展開し旗が掲げられていた。
東地区北側でも火の手が上がっている。
「向こうは領主の宮殿かな・・・それよりもあれだよあれ」
エイミーは広場に並び、はためくものを睨み付ける。
「なんで土偶ゴーレム・・・なんでインリーバ村にあった紋章・・・
それが一緒なのかなっ!」
大聖堂前の大広場には異端者の旗と数多くの土偶ゴーレムが並んでいた。
そして東地区各所で土偶ゴーレムが戦闘していた。
「ロイドはバトルモードへ移行ね。土偶ゴーレムは殲滅するから」
「はい、お嬢様」
エイミーはチェンジアイテムを使い戦闘タイプのセーラ服へと変身する。
ロイドもバトルモードへ移行すると戦闘タイプのタキシードへと服が変異する。
執事の手には既に細剣が握られていた。
「装具召喚『節状鞭オーベンカ』、散開せよオーベンカ。
ロイドは宮殿の方をお願い!」
「お任せ下さい」
「戦闘開始ーッ!」
戦火に赤く染まるメロア東地区に主役登場とばかりに舞い降りた二人。
闇夜に動き出した敵を討たんとするエイミーとロイドの決意は
真っ赤に燃えていた。
そして月の光がまるでスポットライトのようにそんな二人を照らしていた。
メロアの争乱に殴り込むエイミーとロイド。
土偶ゴーレムとの決戦の舞台へ。
次回は「闇夜の闘い」です。