最後にしようと僕は言う。
人伝に聞いた式の日は、もう既に過ぎ去った後だった。
なんだか来てほしいとか、二次会はとか言われていた記憶もあるのだけれど、そのどれもが僕には無意味な言葉でしかなかった。
楽しかった日々も、
嬉しかった記憶も、
悲しかった後悔もあったけれど、
今は何も残らない唯の残像でしかない。
君を好きになったのはいつだっけ。
もう思い出せはしない。
それでも僕が言わなきゃいけない言葉があるのだとすれば、言えなかったこの言葉だろうか。
高い高い、どこかの屋上に立って。
見上げる豆粒みたいな人たちが僕を指差すのを嘲笑って。
その中に彼女がいないか探す僕は、きっともう重症なんだろう。
どうか誰にも当たりませんように。
そして誰かが、これを覚えててくれますように。
「待って!ねぇ待って!」
何処にもいない彼女の声。
可笑しいな、君はもういないのに。
だから最後に伝えたいのに。
それすらも君は許してくれないんだろうか。
嗚呼神様。
どうすれば伝えてくれますか。
式に行けなくてごめん。
声かけてくれたのに無視してごめん。
君に何も伝えていなくてごめん。
そのどれもが、今では色褪せてしまって虚しい。
後ろから騒がしく駆けつけた人たちに手を振って、僕はにこやかに舞い出した。
翔べない僕は、君のいる空とは離れていって。
僕は君に、最後の言葉を伝えにいく。