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第6話 王女様の依頼-1

「王女様、エル・ヘルムートが参りました」


 イルとのマナチャージが終わると王女様の部屋に行くようにと言われる。

 俺はドアをノックして名前を述べる。相手は王女様だ。礼儀正しくいくべきだろう。


「エル、私の泥棒になってくれる?」


 しかし、ドアを開けるなり、彼女が開口一番に言ったのがこれだ。

 いきなりすぎてマナーもへったくれもない。王女様のくせにどういうご了見だ。


「私のどろぼうになってくれ?なんすかそれ」


「ふふ、ようはあなたに依頼を出すっていってるの!」


 彼女の切れ長の瞳は真正面に俺を見つめていて嘘偽りはないように思える。

 本気で盗みの依頼をしたいと考えているようだ。


「俺も復帰したてなんすよねぇ……。当分の間は盗みよりも鍵開け係でいいかなぁなんて」


 王女様の自信満々な態度に気圧されがちだが、俺にもポリシーはある。いくら腕が動くとはいえ、王女様の依頼を受けられる自信は毛頭ない。

 どう考えてもやばい仕事だろう。

 俺はヘタレのつもりはないけど蛮勇を誇って死ぬタイプでもない。


「何よそれ、泥棒失格じゃない!しっかり窃盗(しごと)しなさいよ!」


「王女様のくせに犯罪行為を勧めてこないでくださいよ……。そもそも、俺たちは義賊なんで、仕事を受けるかどうかは内容次第ですし」


 この王女様は壮大な勘違いをしているらしい。

俺たちのジョブの盗賊というのはあくまでも神様から授かった「盗む」技を磨いてきた存在でしかないのだ。

 盗賊だからってむやみやたらにものを盗み出す悪者ってわけじゃない。


「あのね、この依頼は普通のコソ泥の依頼じゃないの。この国の、いや、世界の未来がかかってるのよ?あなた、ヘルヴェノムという魔物を知ってるわよね?」


「ヘルヴェノム……って、あのおとぎ話のやつですか?」


「ヘルヴェノムっていうのはおとぎ話じゃないの。猛烈な毒を吐き、大地も川も毒地へと変える災厄の一つでしょ!」


 彼女は形のいい眉毛を寄せて、真剣な表情で話し始める。


「帝国を滅ぼしかけて、このあたりも甚大な被害を被ったのよ?私たちの王家の先祖、銀狐様がゾゾイの森に封印したのは有名なお話よね?」


「……そうでしたっけか?」


 自慢じゃないが、俺は歴史には非常に疎い。

 大昔の伝説よりも今をエンジョイするタイプなのだ。自分のご先祖様にも関心はないし、当然、銀狐様の伝説についても詳しくない。


「ほらほら、歌にもなってるでしょ?いーまーだ、ぎぃんぎぃーつねーのぉ、やぁくぅそぉ、どっかどっか。みぃずをどぉばどぉば。さぁくれぇぇつだぁ……ってやつ」


 サービス精神が過剰なのか王女様は童謡みたいなのを歌いだす。

 だが、見かけに反して歌は上手じゃない。100点満点なら53点という感じだな、うん。


「……うっすら、ぼんやりなら思い出せたかもっすね、うん」


 これ以上知らないと言い続けると気まずいので、俺は知っているふりをする。



 しかし、わけがわからない。


 その化け物と王女様の泥棒依頼とが、どう関係するのだろうか。

 不思議そうな顔をする俺のことなどかまうことなく、王女様は話を続ける。


「銀狐様はヘルヴェノムを2つに分けて封印したの。一つはゾゾイの森の祠に、もう一つは青い宝石に。そのうちの一つの青い宝石は王家が肌身離さず保管しているのよ」


「ふぅん、そうなんですね……」


 宝石にも歴史の話にもあんまり関心がないので、話半分で聞く俺である。


「青の宝石は私が受け継いで身に着けていたんだけど……」


 王女様は小さくおいでおいでをする。

 よっぽど秘密にしておきたい話題のようだが、かなりかわいらしいしぐさだ。

 俺はその姿に見惚れながらも身を乗り出して、耳を傾ける。


「盗まれちゃった」


「盗まれたぁ!?」


「しぃいっ!声が大きい!責任の一端はあなたにもあるんだから」


「俺に!?なにゆえっすか!?」


 俺にも責任があるなんて完全に濡れ衣だと思う。

 そもそもほとんど初対面ではないか。


「きっと奴隷商人に盗られちゃったのよ。縄で縛られてたから、その時に落としたのかもしれないけど……。それだったら、あなたのせいでしょ?」


「そんなこと言われても不可抗力じゃないですか……」


「言い訳がましいわね。この左手の中指も指輪がなくてサビシイヨォーって言ってるわ」


 王女様は俺の責任をやたらと強調してくる。

 左手の中指を裏声で擬人化するのはやめて欲しいが、けっこうかわいい。


「ていうか、その化け物が復活したらどうなるんですか?」


「災厄の一つだから、魔物の討伐レベルから言うとSS級かそれ以上ね。つまり、魔王の一歩手前。国一つの存続と天秤にかけるレベルの魔物なのよ。シルビアは平和な国だから、最悪、ゾゾイの森含めて王国は終わるかもしれないわね」


「SS級って、あんた、そんな魔物がこんな田舎にいるはずないじゃん……」


 確かに村の外にはたくさんのモンスターがいて、強さや凶悪さを踏まえてランク分けがされている。怪物の強度はF級から始まりA級までさかのぼると、S級、SS級、はてにはSSS級という具合に上がっていく。


 しかし、はっきり言ってSS級なんていうのはおとぎ話の世界だ。

 鉄壁の城を焼くドラゴンでさえA級と言われているぐらいなのだから。


「いるのよ!だ・か・ら、その魔石を取り返してほしいの! 泥棒、好きでしょ?」


「好きでしょとか言われてもなぁ……。俺は別に好きだから盗んでるわけじゃないですよ?」


「……嘘でしょ? この間、敵の武器を盗んだ時に笑ってたじゃない? にまーってものすごく嬉しそうだったわ。私、わかったわ。あ、こいつヤバい奴だって」


「なんすかそれ!?王女様だって機嫌よさそうに笑ってたじゃないですか!?」


「そりゃそうでしょ、助けてくれたのが快楽窃盗鬼だったなんて大笑いするしかないでしょ?」


「快楽殺人鬼みたいな言い方しないでください!」


「つべこべうるさいわね。あ、窃盗中毒者ならどうかしら?」


「もっとダメです! 久しぶりに仕事できたから嬉しかっただけですってば!」


 あぁ、この王女様、めっちゃわがままだ。

 俺はなすすべもなく彼女のペースにツッコミ役として取り込まれていくのを感じる。


「とにかく、あなたにも責任の一端はあるんだし、一蓮托生、死なばもろともでしょ? 人はいつか死ぬものだし死ぬ前に協力しなさい!」


「なんで死ぬ前提で話を進めるんですか。絶対に死にたくないんですけど……」


「大丈夫、絶対、あなたを殺させはしないわ。あなたが死なない限りね!」


「んん!? 意味不明なことを自信満々に言わないでください!」


 王女様は自信満々だが言ってることは詭弁に近い。

 かわいらしい耳に銀色の髪、見目は麗しい外見なのに、この王女様、だいぶ、変な人だぞ。


 しかし、その瞳は明らかに冗談や出まかせを言っている素振りでもない。

 ここは一発、信じてみるのもありなのだろうか。

お読みいただきありがとうございました!


「まぁまぁ面白かった!」


「続きが気になる!」


「作者、もっと頑張れ」


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