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別視点:イルージュと魔女

「エル兄、ごめんなさい! ごめんなさい!」


 2年前のあの日のことを、イルージュは鮮明に覚えている。

 村の近くのゾゾイの森の奥深くでモンスターに襲われた自分を、義理の兄のエルがかばってくれたのだ。

 手術の後、兄が意識を取り戻したことを告げられると、イルは真っ先に駆け込んだ。

 そこには包帯だらけになった兄がぼんやりと天井を見て横たわっていた。


 ――私のせいだ。


 自分の軽はずみな行動によってエルに大けがを負わせてしまったのだ。

 申し訳ない気持ち、情けない気持ちでいっぱいになり、彼女の嗚咽は部屋中に響いた。


「……イル。お前が生きてたんならそれでいい。左手はほら……少し動くし……泣くな」


 ベッド際で泣き叫ぶイルの頬をエルは優しくなでる。それでも涙はとめどなく流れ落ちる。

 イルはしばらくの間、兄の傍らで泣き続けた。


「あら、お嬢ちゃん、かわいいのね」


 ぞくりとした。

 

 イルの背筋に冷たい氷のようなものが突き刺さる感覚が走ったのだ。

 振り返るとエルの手術を行った魔女が荷造りをしていた。

 真っ白い肌に黒い髪。目だけは赤っぽく、まるでルビーのように真っ赤だった。

 イルはその瞳をおとぎ話に出てくる湖の魔女のようだと思う。


「魔女のお姉さん、助けてくれてありがとう」


 イルはぺこりと魔女にお辞儀をする。


「ふふ、どういたしまして」


 魔女は笑いながら、手術に使用した道具を整理する。


「お、お兄ちゃんの腕は使えるようになるの?」


 半分泣き出しそうになりながらも、イルは勇気を出して尋ねる。


「……使えるようになるわ、大丈夫よ」


「そうなんだ!使えるようになるんだね!ありがとう!」


 魔女の言葉にイルは思わず跳ね上がり、自然と声もうわずる。

 絶望の沼の中に落ちた自分の心を引き上げてくれたような気分だった。


「エルの腕を使えるようにするためには彼の体にマナをたくさんあげてちょうだい」


「マナを?マナって魔法のもとでしょ?どこから出せるの?」


 イルは魔女の赤い瞳に引き込まれるようにして尋ねる。


「どこからでも出せるわ。でも、人間の心臓に近い位置が一番たくさんだせるのよ」


「私にもできる?」


「できるわ。あなたは生まれつきマナがたくさんあるから。ほら、見ててごらんなさい」


 魔女はそういってエルの右手を持つと、自分の胸の中央に当てる。

 刹那、魔女の胸に光が現れ、エルの右腕全体が光り始める。マナを注入されたエルは気持ちよさそうな顔をしているようだ。


「きれい……」


 イルにはその光景は一種の奇跡のように映っていた。

 魔女は驚きの表情を見せるイルを見てクスッと笑う。


「彼はとても食いしん坊だから注意してね」


「ふふふ、食いしん坊なの?」


「そうよ、成長したらあなた一人じゃ賄いきれないぐらい、たくさんのマナがいるかもしれないわ。でも、きっと動くようになるから続けてあげて」


 そう言うと魔女はイルの額に手を置いた。冷たくてひんやりした真っ白い手のひらだった。


 次の瞬間、直接、エルの右腕についての情報が彼女の頭に入ってくる。

 光り輝く腕の中に魔力が吸い込まれて動き出すイメージ。

 光り輝く腕が様々な武器を奪い取っては消し去るイメージ。

 暗闇の中に腕だけが浮かび上がる不気味なビジョンだが、イルにはエルの未来の姿に思えた。


「な、なにこれ!?これって魔法なの?」


「ふふっ、違うわ。もっといいものよ。あなたに私を少し分けてあげたの」


「……よくわかんない」


「いつかわかるわ。それじゃ、さようなら。また、会いましょう、二人とも」


 魔女は音もなく立ち上がり、まるで流れる水のように部屋を出ていく。

 エルの腕は動くようになるんだ!

 彼女はその言葉を信じようと決意した。

 そして、完全に動くようになるまで絶対に自分がマナを入れてあげるのだと心に誓う。

 何日、何か月、何年かかっても、絶対にかならず。


こちらは過去回想となりました。

本日はもう一話、アップします!


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「作者、もっと頑張れ」


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