別視点:ウララとシルフォード大臣
◇◆◇ ウララ・シルビア視点
……どうしよう、無くなっている。
盗賊に助け出されたものの、ウララは焦っていた。いつも肌身離さず身に着けていた指輪が見つからないのだ。おそらくは誘拐された時に賊に抜き取られてしまったのだろう。
命は助かったが、あの指輪を見つけないと国家存亡の危機が起こりかねない。
どうにかして取り戻さないといけない。
だけど、どうやって自分一人で?
あぁ、こんな時にご先祖様の銀狐様はどうするんだろう?
ウララはすがる思いで胸元のペンダントを覗き込む。それは王家に伝わる魔法道具であり、小さい穴の中には魔法絵画が浮かび上がる仕掛けになっていた。
そこには初代の女王である伝説的な冒険者の薬師のシルビア、通称、銀狐が描かれていた。
銀狐は美しい銀色の髪の毛をたたえた獣人でウララに似た姿をしており、その隣には彼女と一緒に冒険したという英雄たちが描かれている。
――これって……!
ウララはその魔法絵画の中に、目の前にいる少年とよく似た人物が描かれていることを発見する。
それは頬に傷のある青年で数百年前の英雄の一人だった。
伝説の盗賊として世界を駆け巡った稀代の大泥棒、名前はヘルムート。全ての盗賊職の流派を作った男だと言われている。
そして、もっと驚いたことにはこの伝説の盗賊の腕もまた光っているのだ。
運命とか、天佑とか、そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
どくん、どくんと、何かを察知した彼女の心臓は激しく動き出す。
ウララは心に決める。
目の前の盗賊職の少年に王国の未来を賭けることに。
◇◆◇ 奴隷商人と悪徳大臣シルフォード
「ウララを逃がしただと!?せっかく罠にはめたというのに何をやっておる!愚か者めが!」
「も、申し訳ございません!ヘルムートの盗賊どもが現れたようでして」
奴隷商人は平謝りに謝る。その相手はシルビア王国の大臣でシルフォードという男だった。
「ヘルムートだと!?くそっ、悪職の分際で義賊気取りの忌々しい奴らだ」
ヘルムートの名前を聞いたシルフォードの顔は少しだけ強張る。
ヘルムートとはシルビア郊外に根城を持つ大陸有数の盗賊一家だ。依頼された仕事のほとんどを完遂させてしまうことで有名だが、義賊として仕事を選ぶと言われている。
「しかも、腕の光る若い盗賊がいたそうです!」
「腕が光るだと?くだらん!大昔の英雄なんぞ気取りおって。……それで指輪は奪えたのか?」
「は、はいっ、こちらになります」
そういって奴隷商人の頭目が差し出したのは青い宝石のついた指輪だった。
「シルフォード様!ついに指輪を手に入れたのですね!これで私もお妃さまになれるのかしら」
「もちろんだ、テオドラよ。万の宝石でお前を飾ってやるぞ」
シルフォードの後ろから露出の多い服装をした美女が現れる。
テオドラと呼ばれた彼女はシルフォードの首に抱き着き、シルフォードは上機嫌で彼女の頬をなでる。
「ヘルムートなど、何するものぞ!この指輪さえあれば王位はわしのものだ。ふははははは!」
シルフォードは宝石を眺めながら口元をゆがめて笑う。
魔石のランプが、彼の邪悪な笑みを照らしていた。
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